東大英語 第4問B(英文和訳)制覇の極意(2023年実況中継)【後編】
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東大英語 第4問B(英文和訳)制覇の極意(2023年実況中継)【前編】
目次
2023年東大英語 4B英文和訳 下線部(イ)の紹介
構文レベル★★☆
語彙レベル★☆☆
訳出工夫度★★☆
まず、下線だけを挙げます。
(イ)The power of sugar to soothe appears to be present from the very beginning, with effects demonstrated in those as young as one day old.
いかがでしょうか。簡単に訳せそうですか。
それとも、これだけでは、よく分からないでしょうか。
では次に、下線部(イ)を含む第ニ段落と、直前の第一段落末尾の文、並びに第三段落冒頭の文の日本語訳をご紹介したいと思います。
しかし、お腹が空いていないけど何かを食べているときに、 the greatest insights into feelingsを得られる場合があります。
時には、食べ物そのものに、我々はその時々の感情や状況をwork backwardsして見出すことができます。たとえば、 シャンパンのボトルを開けることは、成功を祝している状況を(周囲に)知らせる意味合いが強いですし、フードライターのナイジェラ・ローソン氏は、自身のチョコレートケーキを、「恋人にふられた時に丸ごと食べたくなるようなケーキ」 だと形容しています。 (イ)The power of sugar to soothe appears to be present from the very beginning, with effects demonstrated in those as young as one day old.
さらに, ローソン氏の考えは、未だに多くの未解決の問題がある食品研究の一分野へと私たちをいざなってくれます。 それは, emotional or comfort eatingのことです。これは何かというと、身体がカロリーを欲して摂る食事ではなく、感情がtake overして摂る類の食事のことです。
comfort eatingやemotional eatingに関する研究では、しばしば矛盾した結果が示されることがあり、その結果、comfort foodという考えは神話でしかないと結論づける人もいるくらいです・・・
(敬天塾注)なるべく、英文の順番で訳しました。また、ところどころ、敢えて日本語訳にせず、原文のまま掲載し、実際の試験会場での下線部分析に近い条件を再現しています。
下線部(イ)ざっくり構文解析
まず、下線部(イ)全体のメインの動詞はappearsで、主語はThe power of sugar to sootheというカタマリとなります。
sootheも動詞ですが、to不定詞を通じてsugarを形容していると考えるべきです。
厄介なのは、with effects demonstrated in those as young as one day oldの部分でしょう。
まず、東大側がwithの前にカンマをつけてくれていますので、withより前のゾーンとは一旦切り離して構文解析して良さそうです。次に、with effects demonstrated(動詞の過去分詞形)の形から附帯状況のwith、わかりやすく言えばdemonstrated以下がeffectsを修飾していると言えます。
わかりづらかったのは、those as young as one day oldのところでしょうか。
まず、as young asという原級比較が使われていますから何かと何かを比べていることがわかります。
thoseが長文の中で不意に出てくるときは、
those involved in the accident(その事故の関係者)、
those around her(彼女の周りにいる人たち)といった具合に「人」を示すことが多いので、
人と人を比べているのでは?と見立てます。
その上で読み進めると、one day oldとあり「1日の歳」という表現に一瞬驚きますが、
人にone day oldと形容しているとすれば、
年齢(1年も生きていないので、この表現が妥当かはさておき)のことを表す他なく、
「生後1日」「生まれてから1日」の人のことを表しているのではないかと考えられそうです。
さらには、このthose as young as one day oldは結局のところ、強調表現であることまで気づけるとパーフェクトでした。
「生後1日の人と同じ若さの人」というのは、
要するに、「生後1日の人にも」といったように、
生まれたての赤ん坊にすら見られるんだよと強調すべく用いた表現だということです。
下線部(イ)語彙分析
次に、語彙分析です。
sootheは「(怒った人などを)なだめる、落ち着かせる」といった意味を持つ動詞です。
となれば、the power of sugar to sootheを直訳すると「なだめるための砂糖の力」となりそうですが、これだと日本語として不明瞭ですから加工が必要そうです。
詳しくは後述する和訳ポイントで申し上げます。
次に、present。
これは、和訳問題でよく出る単語です。
下線部(ア)の語彙分析でも申し上げたように、presentは名詞でもあり動詞でもあり形容詞でもあります。
名詞であれば、贈り物という意味でのプレゼントという意味が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、the presentとすることで「現在」を意味することもあります。
動詞であれば、レポート発表にいう「プレゼン」という意味もあれば、「(贈り物を)あげる」という名詞由来の意味もあります。
形容詞であれば、「存在している」という意味が思いつくところであり(そこから派生してabsentの反意語としての「出席している」という意味も生まれます)、「現在の」という意味を持つこともあります。
下線部(イ)のpresentには冠詞もついていませんし、be動詞の直後に来ていることから形容詞のpresentと考え、「存在している」と訳出するのが良いでしょう。
蛇足ではありますが、大学教授からすると、この1単語で受験生の様々な知識を測ることができますから、実に旨味のある単語(受験生からすると、いやらしい単語)なのです。
その他、下線部(イ)で訳出に苦心するであろう単語はdemonstratedのように思われます。
単語帳で「実演する」「披露する」と言葉通りに丸暗記した受験生は訳出に苦心したでしょう。
その一方、demonstrateがshowと近い関係にあるといった具合に、demonstrate の語義の核心を理解していた受験生は、文脈に合わせて臨機応変に訳出できたでしょう。
たとえば、Your study demonstrates how effective this drug is.という文であれば、
「あなたの研究は、この薬がいかに効果に富むかを示している(つまり、証明している)」となりましょうし、
Our teacher demonstrated the experiment in chemistry.なら、
「私達の先生は、化学の実験を示してくれた(つまり、やってみてくれた/実演してくれた)」となりましょう。
単語を暗記するに際して、核となる意味(core meaning)を理解して覚えると、実は多義語と呼ばれる英単語の日本語の意味を7つも8つも頭に詰め込む必要はないことに気付かされます。
そもそも、英語圏のネイティヴは日本語の訳語なんて覚えていないなか(日本語の訳語が何なのかすら知らない人が大半です)、多義語を子供でも使いこなしています。
それは、core meaningを捉えて語彙を文脈の中で習得しているからなんですね。
最後に、thoseですが、thoseが不意に出てくるときは「人」を意味するのではないかと疑ってください。
those involved in the accident(その事故の関係者)、
those around her(彼女の周りにいる人たち)といった具合に、よく登場します。
下線部(イ)の和訳ポイントと和訳の工夫
まず英文和訳の鉄則は、逐語訳です。
その上で、日本語として不自然な箇所を文構造を崩さずに部分的に意訳していくのが合格ポイントとなります。
それでは、早速、下線部(イ)を分析していくとしましょう。
下線部(ア)に比べると、訳しづらい箇所が多かった印象です。
たとえば、The power of sugar to sootheであれば、直訳すると「なだめるための砂糖の力」となりますが、正直これだけだと「?」となります。
この点、この4Bのメインテーマがコンフォート・フードなるものであることは明示されており、
下線部(ア)の前後では、食べ物が人の感情を満たしてくれると述べられていますから、
「なだめる」対象は人であることがわかります。
「人をなだめる砂糖の力」とすれば、まだわかりやすくはありますが、「人をなだめる」というのもちょっと違和感がありますね。
「人の心を落ち着かせる砂糖の力」や「砂糖が持つ癒しの力」とでも訳出できると、明瞭な日本語になるように思えました。
次に、appears to be present from the beginningです。まず、from the very beginningは直訳すると「まさに始めから」になります。
このままでも×ではありませんが、わざわざ「very」をつけていったい何を強調しようとしているのでしょうか。
その意味するところは、下線部後半のthose as young as one day oldの記述から「生まれた時から」を指すものと思われます。
下線部(ア)のright from the startに同じく、前後の文脈から意味の推測が求められました。
もっとも、「始めから」や「当初から」と逐語訳したとしても間違いとまでは言えないと思います。
その上で、appears to be presentを見ていくとします。語彙分析のところでも申し上げたように、presentの品詞には注意を払わねばなりません。
今回は形容詞のpresentと考えられますから「存在している」という意味になりそうです。
ここまでのThe power of sugar to soothe appears to be present from the very beginningを逐語訳してみると「なだめるための砂糖の力は、まさにはじめから存在しているように思われる」となりますが、正直、下手くそな日本語ですよね(笑)。
これをどのように意訳すべきかは、後半のwith effects demonstrated in those as young as one day oldの訳とのバランスも見なくてはいけませんので、一旦、後半の分析に移ります。
with effects demonstrated in those as young as one day oldは、附帯状況のwithを筆頭に、demonstrated以下がeffectsを修飾している文構造となっています。
直訳すると、「生後1日の若さの人の中に示される効果で」といったところでしょうか。
これを、下線部前半部の逐語訳とつなげると、「なだめるための砂糖の力は、はじめから存在しているように思われる。(生まれてから)1日の若さの人の中に示される効果で」となります。
正直わけがわからなくなりますが、まず、生まれてから1日の人ということは、「生後1日の赤ん坊」と訳した方がスッキリします。
次に、「効果」の意味するものは、
with以下がThe power of sugar to soothe〜from the very beginningを修飾している文構造から考えると、
the power of sugar to soothe関連の「効果」を意味しているとわかりますから、
そのことを意識した訳を心がけたいものです。
さて、下線部(イ)の逐語訳を如何に修正していくか考えるわけですが、言わんとしていることは、砂糖には人を癒す力があることが証明されているといったニュアンスですよね。
構文をわかっていますよアピールをしつつ、こなれた日本語にするに際しては、
要するに、この下線部で何を言いたいのかを文脈から合理的に推察していくプロセスが重要です。
なお、訳出に際して、with以下の句が長いこともあり、The power of sugar〜beginningと一緒に無理に1文にまとめようとせず、
下線部(イ)を敢えて2文に分けて訳出することも考えられます。
それでは、ここで、どのように筆者が逐語訳を微修正していったのかを示したいと思います。
The power of sugar to soothe appears to be present from the very beginning, with effects demonstrated in those as young as one day old.
①(逐語訳からスタート)なだめるための砂糖の力は、はじめから存在しているように思われる。生後1日の人と同様の若さの人の中に示される効果で(効果を伴い)(効果を持って)
↓
(心の声) 「はじめから存在している」というのがわかりづらい。
第一段落の第一文から、おそらく人の誕生を指すものと判断はしたものの、試験会場で焦っている時なら、無難に「当初」「はじめから」と逐語訳して答案を提出すると思います。
demonstrated in those〜については、直訳すると(〜の中で示された)となりますが、「〜にみられる」くらいに柔らかく表現しても文構造を大きく崩すことにはならないと判断しました。
↓
②(人を)なだめるための砂糖の力は、はじめから存在しているように思われる。生後1日の赤ん坊にもみられる効果で
(心の声)②の 「人をなだめる」に違和感を覚えたので、赤ん坊をあやすことや、comfort food(comfortする食べ物)という本文のテーマから、人の心に癒しを求めるということかなと考えました。
ただ、sootheという1単語に対して言葉を添え過ぎているようにも思え、これでは和訳問題ではなく説明問題に対する解答なのではないかとも思いました。
ひとまず、ここは一旦保留にして、with以下も含め一文にまとめ上げたのが③です。
↓
③人の心に癒しを与える砂糖の力は、人が生まれた時から存在しているようにも思われ、生後1日の赤ん坊にも効果が示されている。
↓
ここで悩んだのはeffectsを漠然と「効果」と訳して良いのかということです。
一文で繋げるからには、effectsとthe power of sugar to sootheとの関係性に触れた方がいいのではと思いました。
ただ、effectsに定冠詞theも付されていないなか、「その効果」として良いのか苦悩。
from the right beginning を「人が生まれた時」と意訳していますが、この部分とthose as young as one year oldが重複しているようにも思えるので、
敢えて前者は直訳調にして後者で詳しく補足するスタイルでも良いかなと考え書いたのが次の④です。
↓
④人に癒しを与える砂糖の力は、まさに最初から存在しているようであり、生後1日の赤ん坊にも効果が表れているのだ。
↓
(心の声)まず④は、かなり原文に忠実に書いた答案例です。
from the right beginningを敢えて直訳し、代わりにwith以下を一文でまとめることで、「まさに最初から」の中身にも触れようとしました。
↓
⑤人に癒しを与える砂糖の力は、人が生まれた時から存在しているように思われ、その効果は生後1日の赤ん坊でも示されている。
↓
(心の声)ですが、正直言って、「効果」が何の効果がわかりづらくなっていたので、the effectsといったように定冠詞theがついているわけでもないものの、「その効果」とでも書いた方が良いのではないか考えました。with effects以下が下線部(イ)の中で、The power of sugar to soothe〜from the very beginningを修飾している文構造から、何かしら、the power of sugar to sootheと絡めて訳出したいと思ったからです。
もっとも、「その効果」とまで指示語を明示することに躊躇いがあれば④⑥⑦のように原文通り指示語なしで行くほうが無難だと思います。
また、appears to be presentを「存在しているようにも思われ」と訳すのがなんとも下手に思えたので、力が生まれた時から存在しているとはどういうことかと考え、生まれたての人も癒されるということなのだから、「発揮」 や「みられる」という言葉を紡いでみたのが⑥⑦です。
↓
⑥砂糖の持つ癒しの力は人が生まれた瞬間から発揮されるようであり、生後1日の赤ん坊にさえも効果が表れている。
↓
(心の声)The power of sugar to sootheにおいて、sugarは sootheの意味上の主語ですから、SV構造で訳してみるのもアリだなと考えて紡ぎ出した答えが⑦です。
ただ、from the right beginningの訳を「当初から」とするのは、少しモヤっとしましたが嘘は書いていませんし原文に忠実に訳したわけですから許容解だとも思いました。
なお、powerがappears to be presentとはどういうことだろうかと考えた時に、
「力が存在する
→力が現れる
→力(威力)が発揮される
→人に影響を与える」とも言えるのではと思いましたが、
4Bに莫大な時間をかけられない以上、無難な答えにまとめました。
↓
⑦砂糖が持つ癒しの力は、当初からみられるものであり、生後1日の赤ん坊にさえも効き目が表れている。
下線部(イ)の解答例
- 砂糖がもつ人を癒やす力は、最初からみられるものであり、生後わずか1日の子どもにも効果が表れている。
- 砂糖が人を癒す力は、まさに(人生の)始まりの瞬間から人に影響を与えているようで、生後わずか1日の赤ちゃんにも効果があらわれている。
- 砂糖が人を落ち着かせる効力は、人が生まれた瞬間からみられるようであり、生後わずか1日の赤ちゃんにも効き目がある。
- 砂糖が持つ癒しの効力は、まさに始まりの瞬間から発揮されるようであり、生後1日の赤ん坊にも効果が現れる。
下線部(イ)を解くために下線部以外も読んでおくべきだったか
sootheの対象が人を指していることは、第1段落にまで目を向けられると理解しやすかったと思います。
下線部の前後を読むだけでは正直わかりづらかったと思います。
また、from the very beginningやthose as young as one day oldをいきなり見た人は「?」となったでしょうが、こちらも第1段落第1文のearly childhoodを読んでいた人には、意図を掴み取りやすかったように思えます。
また、本文の冒頭にある「コンフォード・フードについて説明した以下の英文」という注意書きや、第3段落の下線部(ウ)の前後で、
comfortの意味を読み取れた人は、
この下線部(イ)が伝えようとしていることを、よりクリアに理解できたように思えます。
構文自体はさほど難しくはありませんが、こなれた日本語にするためには、下線部の意味するところを文脈から合理的に推察する必要があったように思えますので、
この下線部(イ)は、下線部(ア)以上に文脈把握が必要だったように思えます。
下線部だけでも逐語訳はできますが、そこからナチュラルな日本語に仕立て直す過程では、やはり文脈把握が必要だったように思えました。
下線部(ウ)の紹介
構文レベル★☆☆
語彙レベル★☆☆
訳出工夫度★★☆
まず、下線だけを挙げます。
(ウ)the choice of comfort food depends on unique memories of both good and bad times and the foods associated with them; what’s comforting to me, might not be to you.
いかがでしょうか。簡単に訳せそうですか。
それとも、これだけでは、よく分からないでしょうか。
では次に、下線部(ウ)を含む第三段落の日本語訳をご紹介したいと思います。
comfort eatingやemotional eatingに関する研究では、しばしば矛盾した結果が示されることがあり、その結果、comfort foodという考えは神話でしかないと結論づける人もいるくらいです。たとえば、チキンスープはcomfort foodの最有力候補となることが多く、 参加者の半数近くの人が1位にしたという研究結果もあります。 しかしながら、別の研究では、チキンスープをcomfort foodだと考えている人だけが、チキンスープをcomfortingなものであるとしていることが判明しました。 このことは理にかなっていると言えます。どういうことかというと、
(ウ)the choice of comfort food depends on unique memories of both good and bad times and the foods associated with them; what’s comforting to me, might not be to you.
comfort foodは、年齢や性別、文化、食べ物そのものの種類、 そしてcomfort eatingをもたらす感情によって様々であることが示されてきました。それは巨大なmelting potなのですなのである。
(敬天塾注)なるべく、英文の順番で訳しました。また、ところどころ、敢えて日本語訳にせず、原文のまま掲載し、実際の試験会場での下線部分析に近い条件を再現しています。
下線部(ウ)ざっくり構文解析
セミコロンの前のゾーンにおけるメインの動詞はdependsであり、
主語はthe choice of comfort foodとなります。
そして、depends on の目的語がunique memories of both good and bad times and the foods associated with themです。
the foodsの後ろにあるassociated with themはthe foodsを修飾している過去分詞のカタマリです。
下線部(ウ)の前後の文の動詞が現在形なのに、
ここだけ過去形というのはおかしいですし、
associate withが自動詞だとすると「〜と付き合う/交際する」という意味になりますから、
意味から考えてもおかしなことになります。
以上を図式化すると
という構造になります。
なお、以下のようにthe foods associated with themが実はunique memoriesの一部を構成していると考えることもできそうです。
主語がthe choice of comfort foodだと言うことを考えると、
食べ物を選択するのに、
食べ物(the foods associated with them)にdepend onしていると捉えた方が良いのか、
それとも食べ物に関係する一人一人で異なる記憶にdepend onしていると考えるのが良いのかと考えた時に、
後者の方がナチュラルなような気がしましたが、
正直、associated withという語句の存在もあってどちらでも文意は通じそうです。
セミコロンについては様々な意味がありますが、ここでは大々的な解説を控えたいと思います。
ひとまずはセミコロンの前と後ろとで関係の深い内容のものが来るくらいに押さえておきましょう。
そして、後半部のwhat’s comforting to me, might not be to youについては、助動詞のmightに着目することで、その前に書かれているwhat’s comforting to meが主語だと判断できます。
to meとto youで対比構造になっていることに気付ければ、beの後にcomforting(または、what’s comforting)が省略されていることがわかります。
この下線部(ウ)では、depends onの目的語が「unique memories of both good and bad times」と「the foods associated them」の2つであることに気づいているか、
そして、might not beの後ろにcomfortingまたはwhat’s comfortingが省略されていることに気づけたかという2つの文構造上の視点が問われている点で、
下線部(ア)と下線部(イ)よりは評価基準が多いように思われます。
下線部(ウ)語彙分析
では、引き続き、語彙分析に入ります。
comfort foodについては、本文のはじめに「コンフォート・フード」と日本語で明示されているので、このまま訳してあげれば良いと思います。
なお、このような条件指定がなくとも、communicationやidentityやnuanceといった単語は、コミュニケーション、アイデンティティ、ニュアンスとカタカナ表記して問題ないと思います。
日本語でも普通に用いられていますので、無理に相互交流や自己同一性などと訳さなくても良いと思います。
nuanceはフランス語由来ですが、この語義をストレートに表現できる日本語はありません。
機微という言葉はありますが、これは心の動きなど内面にフォーカスをあてた言葉であるのに対して、ニュアンスは言葉や表現の微妙な意味合いにフォーカスをあてたものですから、少し毛色が異なります。
一方、characterをキャラと訳したり、democracyをデモクラシー、pictureをピクチャーと訳すのは×だと思います。
characterなんていうのは、文脈によって意味が変わりますから「キャラ」だけでは語感を説明したことにはなりませんし、
democracyは、大正デモクラシーとは確かに言いはしますが、それくらいでしか「デモクラシー」という言葉は使いませんから、あまり日常的に用いる言葉だとは言えません。
pictureにいたっては、日本語で「ピクチャーを撮ってください」だなんて言う人は聞いたことがありません。
ルー大柴さんくらいじゃないでしょうか(笑)。
さて、下線部(ウ)に戻ります。
訳出が難しい単語は、unique、comfortingの2つだと思いました。
特に、uniqueは大学入試の英文和訳で頻出単語の一つですので、辞書で用例を確かめておきましょう。
間違っても、「ユニーク」と訳さないようにしてください。
日本語の「ユニーク」は、「独特な」という意味に加えて、話の文脈によって「おもしろい」といった意味も加わってしまい、ふわっとした意味になってしまいますから、英文を正確に訳したことにはなりません。
本問のuniqueは、memories(記憶)を形容していますから「固有の」「特有の」 といったメジャーな意味で訳出すれば十分だと思います。
最後に、comfortingですが、受験生の多くはcomfortable(快適な)という単語は覚えているでしょうが、
comfortingという言葉自体は初めて知った人も多かったと思います
(もっとも、comfortableの派生語であることくらいは形から気づいて欲しいですが)。
たとえ、試験会場で緊張のあまり、そこまで頭が回らなかったとしても、下線部(ア)や下線部(イ)を通じて、食べ物が人を癒すことは把握できているわけですから、comfortが➕イメージの単語であることくらいは推測出来たはずです。
ただ、これを訳すとなると、「癒しを与える」「心地よいもの」「ほっとさせる」などのように幾つかのバリエーションは考えられるでしょう。
文脈上、大きく外れていなければ減点されることはないものと思いました。
なお、associateはassociate A with Bで「連想させる」と載っている熟語帳もあれば「関連づける」と載っている熟語帳もありますが、
いずれの訳でも核心部分は変わりません。
ただ、memoriesとの親和性を考えると、
「連想させる」の方がベターかなとは思いました。
下線部(ウ)の和訳ポイントと和訳の工夫
くどいかもしれませんが、英文和訳の鉄則は、逐語訳です。
その上で、日本語として不自然な箇所を文構造を崩さずに部分的に意訳していくのが合格ポイントとなります。
それでは、下線部(ウ)を見ていくとしましょう。
まず、セミコロンの前のゾーンに着目します。
the choice of comfort foodは、普通に、「コンフォート・フードの選択」と訳出すれば十分です。
問題は、depends on の2つの目的語です。
まず、1つ目の目的語であるunique memories of both good and bad timesは、直訳すると「良い時と悪い時の両方の特有の記憶」とでもなりましょうか。
言いたいことは、わかりますが、なんだか日本語としてぎこちないですよね。
まず、「良い時と悪い時」は、このままでも良いのかもしれませんが、第2段落で恋人にふられた話や、成功を祝うといった具体例も挙げられていたことから、「幸せに感じる時と辛い時」「楽しかった時と辛かった時」と意訳することもできそうです。
次に、unique memoriesは「特有の記憶」となるわけですが、セミコロンの後ろで、comfortingなものは人それぞれ異なると言及されていることから、
uniqueの訳語として「個々人で異なる」や「一人一人に固有の」と言葉を添えたとしても問題はないように思えました。
もっとも、無難に「特有の」「固有の」と訳しても全く問題はありません。
もう少し攻めるなら、(memories of good times) + (memories of bad times)=memories of both good and bad timesと考えて、
「良き思い出と悪い思い出」とまとめて訳すのもアリだと思いました。
ただ、この場合、uniqueの訳をどこに添えるべきか悩ましくなる欠点があります。
次に2つ目の目的語であるthe foods associated with themに実は悩ましい問題があります。
このthemが指すものはなんでしょうか。
themは複数形の代名詞でしょうから、前の方に辿って複数形の名詞を探してみると、the good and bad timesがすぐに見つかります。
ただ、unique memories of good and bad timesを指すようにも思えてなりません。
前者であれば、「良い時と悪い時を連想させる食べ物」となりますし、後者なら「良い時と悪い時の両方の固有の記憶を連想させる食べ物」(直訳調)となります。
まあ、ただ、themをいずれで解釈したとしても、
associated withという熟語をもセットで訳出する過程で、
結局は「思い出」「記憶」と結び付けられたthe foods(食べ物)というニュアンスは醸し出されると思います。
(連想すると言うからのは結局多かれ少なかれ記憶が絡んできますし、そもそもgood timesやbad timesそのものが既に記憶の塊だとも言えますね) 。
もっとも、themの指す内容を訳せとまでは条件指定されていませんから、無難に「それら」と訳しても良さそうです。
それでは、セミコロンの後ろのゾーンに視点を移すとしましょう。
what’s comforting to meは直訳すると「私にとってcomfortなもの」、つまり「私にとって心地よいもの」「私に安らぎを与えてくれるもの」となるでしょう。
その直後に、might not be to youと来るわけですが、
構造分析の際に申し上げたように、
ここではto meとto youを対比していますから、
might not beの後ろにはcomforting(またはwhat’s comforting)が省略されていることがわかります。
仮に、この対比構造がわからずとも、下線部(ウ)の直後に、comfort foods have been shown to vary by age, sex, culture...とありますから、comfortなものが何かなんて人それぞれだよねということは容易に掴めると思います。
ともなれば、what’s comforting to me, might not be to you.は、「私に安らぎを与えてくれるものは、あなたに安らぎを与えてくれるものではないかもしれない」となりそうですが、
原文ではbeのあとにcomfortingは書かれていませんから、
原文に忠実に「私にとって心地の良いものは、あなたにとってはそうではないかもしれない」とした方が無難かもしれません。
なお、本問では、訳出に際して文構造を崩さないように特に意識しました。下線部語句が長文化する時には、概して文構造が採点基準の一つになっているからです。どことどこが並列関係にあり、何と何が逆接関係にあるのか、どこが省略されているのかなどについて、ちゃんとわかっていますよ、と採点官にアピールすることが肝要となります。
以上より、解答例は、次のようになります。
下線部(ウ)の解答例
- どのようなコンフォート・フードを選択するかは、人それぞれで異なる良い時と悪い時両方の記憶と、そうした記憶に結び付けられた食べ物によって決まる。それは、私にとっては心が落ち着くような食べ物であっても、あなたにとってはそうではないかもしれない、ということである。
- 何をコンフォート・フードの選ぶかは、人それぞれで異なる良い思い出と悪い思い出の両方、そして、それらに関連した食べ物に関する人それぞれ固有の記憶によって決まっていくものである。私を癒してくれるものは、あなたにとってはそうではないかもしれない。
⚠️ 訳出に際して文構造を崩さないように特に意識しました。
下線部語句が長文化する時には、概して文構造が採点基準の一つになっているからです。
どことどこが並列関係にあり、何と何が逆接関係にあるのか、どこが省略されているのかなどについて、ちゃんとわかっていますよ、と採点官にアピールすることが肝要となります。
下線部(ウ)を解くために下線部以外も読んでおくべきだったか
下線部(ウ)については、下線部内の構造分析が主たるもので、下線部前後を読み込まずとも、答えは紡げたとは思います。
ただ、下線部直後のcomfort foods have been shown to vary..のくだりは、確認して損はないでしょうし、下線部前後だけ読んでもお釣りは来たように思えます。
2023年東大英語 4B英文和訳の出典とコンフォート・フード
2023年度の4B出典は Cupboard love-Unwrapping the comfort in foodからです。
https://www.bps.org.uk/psychologist/cupboard-love-unwrapping-comfort-food
コンフォートフードを初めて知った方もいらっしゃるかもしれませんが、その名の通り、口にすることでホッと一息つけるような食べ物を指します。
お袋の味といった家庭料理や、故郷の郷土料理を食べると、懐かしさや幸せを感じることってありますよね。
そうした食べ物のことをコンフォートフードと総称しているのです。
東大英語 英文和訳 記述答案 作成に際しての禁忌一例
①日本語がめちゃくちゃ(誤字脱字など)
これは、英文和訳に限らずですが、何言っているかわからない答案は文系理系問わず全教科で見られます。
主語と述語の関係が不明瞭、助詞の使い方がおかしい答案も散見されます。
日本語としておかしな文を書いた場合、それは「和訳」できたとは評価できません。
そして、漢字間違いについては、国語科の教員よりも他教科の教員の方が厳しい印象があります。
国語力は全教科の要ですから、漢字に不安を覚える方は今のうちから強化に努めましょう。
②文字が汚い
いくつかの例を示します。
「敬天塾で東大合格」を書いたものだそうですが、
続け字になっていたり、
象形文字のようになっていたりで、
採点官からすると文字として認識できないものは採点対象外としたくなる答案です。
汚い字でも構いませんが丁寧に書くことを心がけたいものです。
「いのしし」を書いたものだそうですが、
こうした脱力系の文字は誤読の原因にもなりかねません。
残り時間が少なく訂正する時間がない時に、減点覚悟で「緊急」でやるのならまだしも、普段からこのような答案を書く人が東大模試でも散見されます。
司法試験のようにボールペンで答案を書いているわけではないのですから御法度です。
達筆かもしれませんが、入試は書道大会ではありません。
ちなみに、「東京大学合格を果たす」と書いたつもりのようです。
理系受験生の答案に非常に多いのがこれです。
要は入れ替えて読んでくれというメッセージを矢印にこめているわけですが、試験終了1分前のように緊急状態でもない限りは、このような書き方はするべきではありません。
書いたところで点数がもらえるかは分かりません。
ちなみに、東大駒場の定期考査では教授によって対応が分かれました。
その他にも、英文和訳とは無関係ですがアルファベットに関しても注意喚起します。
いかがでしたでしょうか。
これをみて笑った方も、意外に癖字があったりするものです。
1点足りずに落ちる人が数十人いる年もあると言われているのが東大入試です。
文字が原因で不合格なんて、あまりに悲しすぎますよね?
③ 条件を読まない
本実況中継の冒頭で過去24年分の4B出題傾向分析一覧を載せましたが、そのなかに解答に際しての条件(たとえば、themの指すものを明確化せよetc)が付された年度がかなり多くあります。
しかし、教授によると、そうした指定条件に従わない(あるいは無視した?)答案が山ほどあるのだそうです。
1点2点を争う東大入試で、これはご法度ですね。
東大英語 4B英文和訳 実況中継に寄せて
市販の過去問解説の数倍以上のボリュームで実況中継をお送りして参りましたが、いかがでしたでしょうか。
このシリーズは、合格者の思考の軌跡を徹底的に言語化することで、試験会場で問題を解いているような感覚を味わっていただきたいとの想いから作成いたしました。
私は受験生だった頃、東大過去問を解いた後に、解答例だけサクッと読んで「うまくまとめられているなあ・・」と思って終わりにしていました。
それは、まるで芸術鑑賞したのと変わりなく、どのようにすれば同じような答案が書けるのかという視点が欠如していたのです。
そうした学習をいくら続けても、成績は伸びないことにある時気付いたのです。
どこに着眼し、どのような判断のもとで情報の取捨選択をしたのか「思考の軌跡」を再現できなければ、何も意味がないとわかったのです。
そうした気付きが私を東大合格まで引き上げてくれたことを思い起こし、東大を志す読者の皆様の合格力向上に繋がればと願い、本稿を執筆した次第です。
数学で教師が書いた答えだけ眺めれば自然と数学力が上がるわけではないのと同様に、英語においても解答例だけ眺めたところで同じ問題が出るわけではありませんから、たいして学力向上には繋がらないのです。
ただ、同じ問題は出ずとも、同じ考えや思考の軌跡で解ける問題は毎年のように出題されています。
そこに気付けると、上達速度が格段に上がります。
敬天塾の数学講義で、「レシピ化」という言葉が出て来ますが、それと同じことが東大英語にも言えるのです。
ぜひ、この実況中継シリーズや敬天塾の映像授業などを活用して、大問別の解法を徹底的にレシピ化なさってください。
敬天塾は東大受験生を心から応援しております。
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2023年東大英語(第4問B 英文和訳)入試問題の解答(答案例)・解説
2022年東大英語(第4問B 英文和訳)入試問題の解答(答案例)・解説