東大英語 第2問B(和文英訳)2022年実況中継

2022年東大英語2B和文英訳 問題

 旅人は遠い町にたどりつき, 街路樹や家並み, ショーウィンドウの中の商品や市場に並べられた野菜や美術館に飾られた絵画を眺めて歩き, 驚き,感心し,時には不安を覚える。旅人は, その町に長年住んでいる人たちよりもずっとたくさんのものを意識的に見るだろう。しかし,いくら大量の情報を目で吸収しても旅人はあくまで「よそ者」,あるいは「お客様」のままだ。外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから, それはそれでいいのだが, わたしなどは, もし自分が旅人ではなく現地人だったらこの町はどんな風に見えるのだろう,と考えることも多い。

(多和田葉子『溶ける街  透ける路』)

総括

2018年に20年ぶりに復活した和文英訳問題ですが、本年度も2Bで登場しました。

皆さんは、和文英訳と聞いた時に、どのようなスキルが求められるとお考えですか。
基本構文の駆使、正確な文法力、豊富な語彙力、スペルミスや句読点の付け忘れなどへの注意力といったものが、とっさに思い浮かぶでしょう。

また、中学高校で和文英訳の授業は自由英作文に比べれば頻繁に実施されていますから馴染みのある出題形式ですし、並べ替えや穴埋め問題と並んでオーソドックスな問題形式として和文英訳は知られています。

ですが、なぜか東大2B和文英訳では全然点数が取れないと嘆かれる方が毎年多くいらっしゃいます
学校や塾の和文英訳では、いつも満点を取る子でもです。
なぜに同じ和文英訳なのに、こうも違うのでしょうか。

それは、英訳目的が異なるからです。
学校でやる和文英訳は、基礎構文力を身につけることに重きが置かれ、扱われる題材も学習効果を高める観点から作られた短文ですから非常に取り組みやすいのです。

その一方、東大入試で課される和文は、受験生を選抜することを目的とし、一般書から一部抜粋したもので英訳されることを前提とした文ではありませんから分かりづらく、逐語訳でもしようものなら文意が崩れてしまう特性があります。

東大教授は、受験生に構文力を身につけてもらうために出題しているわけではないということですね。
東大側がどのような点を受験生に問うているかというと、
① 基礎構文力(文法力)
② 語彙力
③ 言い換え力(文意把握力)
の3点だと私は考えます。

多くの受験生は①と②に主眼を置きますが、実のところ、この③が東大英作文で求められる最重要項目だと言っても過言ではありません。
たとえば、「猫の手も借りたい」を英訳する時に、字義通りにI want to borrow a cat’s hand.と訳しても意味不明ですよね。
そうではなく、ここで伝えたいニュアンスは助けが欲しいということですからI need your help.と訳さなくてはいけないわけです。
これに似た問題を東大は2003年2Bで問うています。以下、問題文を掲載します。

これは自由英作文の問題ではありましたが、言葉を字義通りに捉えても適切に英訳はできないことを示す好例です。

次の文章は、あるアマチュア・スポーツチームの監督の訓話の一部である。この中の、「雨降って地固まる」という表現について、それが字義通りにはどういう意味か、諺としては一般的にどのような意味で用いられるか、さらにこの特定の文脈の中でどのような状況を言い表しているのかの3点を盛り込んだ形で、60語程度の英語で説明しなさい。

昨年は、マネージャーを採用すべきであるとかないとか、補欠にも出場の機会を与えるべきだとか、いやあくまで実力主義で行くべきであるとか、チームの運営の仕方をめぐってずいぶん色々とやり合いましたけれども、「雨降って地固まる」と申しまして、それで逆にチームの結束が固まったと思います。今年もみんなで力を合わせて頑張りましょう。

(東大2003年)

皆さんは、東大2B英文和訳の解答例を参考書などで確認すると思います。
プロの先生方が時間無制限で調べながら書き上げた英文ですから、非常に優れた英文ばかりですよね。
私が受験生だった頃は、こんなの一生書ける気がしないと思ったものです(笑)。
もちろん、こういったプロの解答例がスラスラ書けたら、こんなにも素敵なことはありませんが、大多数の東大受験生は塾講師のようには書き上げることはできません。
ルノワールやピカソの名画を芸術鑑賞したところで、巨匠と同じような絵を描けないのと同様に、模範答案を呆然と眺めるだけで、ある日目覚めたら、突然にすらすらと英文が書けるようになることはないのです。

では、諦めるしかないのかというと、決してそんなことはありません。
本稿では、エレガントな解答例を示すというより、満点でなくとも、泥臭く点数を取る思考プロセスを詳述していきたいと思います。
2Bに苦手意識のある方にこそ、是非熟読していただきたいと思います。
きっと、表現することが楽しくなってくるでしょう。

思考プロセス

問題文を再掲します。

 旅人は遠い町にたどりつき, 街路樹や家並み, ショーウィンドウの中の商品や市場に並べられた野菜や美術館に飾られた絵画を眺めて歩き, 驚き,感心し,時には不安を覚える。旅人は, その町に長年住んでいる人たちよりもずっとたくさんのものを意識的に見るだろう。しかし,いくら大量の情報を目で吸収しても旅人はあくまで「よそ者」,あるいは「お客様」のままだ。外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから, それはそれでいいのだが, わたしなどは, もし自分が旅人ではなく現地人だったらこの町はどんな風に見えるのだろう,と考えることも多い。

(多和田葉子『溶ける街  透ける路』)

下線部を句読点ごとに区切ってみますと、5つのパートに分けられます。

① 外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから

② それはそれでいいのだが

③ わたしなどは〜と考えることも多い

④ もし自分が旅人ではなく現地人だったら

⑤ この町はどんな風に見えるのだろう

とあります。多くの受験生は下線部だけ読んで英訳を試みるわけですが、なぜに東大側が下線部前後の文章を載せているのか考えてみてください
それは、訳しづらい箇所が出てきた時にヒントにして欲しいという思いを込めているからです。

4A正誤でも、4B英文和訳でも、5の物語文でも下線の所だけ拾い読みする受験生が多くいますが、東大教授も作問にあたり、そうした受験生の存在を想定してワナを仕掛けています

2Bについては、確かに下線部だけ読めば何とかなることも多いのですが、2020年2Bの「まゆつばもの」のように、下線部以外のワードから適切な訳語を類推しなければならない設問も出されますので臨機応変に問題文を活用しましょう。

なお、東大や京大の2Bでは堅い文体で旅や人生訓などありがたいお話がよく出されますので、文意を正確に把握するためにも日本語の語彙力を磨くことも忘れないようにしましょう。
東大入試では、全教科的に国語力が高度に求められているからです。

また、人生訓の英訳訓練を京大や阪大あたりの過去問も使いながら訓練しましょう。
それでは、①〜の順に見て行くとします。

外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから、の英訳を泥くさく考察してみた

まず、「外部に立っている」をそのまま英訳するなら、stand outsidestand on the outside あたりとなりましょうか。
主語は、ここでの話が一般論を語ったものだと考えるならyouweあたりが良さそうですが、全て筆者の体験を語っていると考え、主語を I で統一するのもありかもしれません。
下線部の直前にある「よそ者」という言葉から、outsiderを連想してみるのもアリかもしれません。その場合、because you are an outsideroutsiders can seeといった表現も可能になってきます。
ただ、outsideの語法に不安を覚えた受験生もいたでしょうし、outsiderがすんなり出てこなかった受験生も多くいたことと思います。

このように困った時には、やはり文脈把握が鉄則です。
下線部直前の内容から、下線部でいう「外部に立っている」は、

  • その町に住んでいないからこそ(例 〜because I don’t live in this town)
  • 旅人として、その町を訪れているからこそ(例〜only when I visit this town as a traveler
  • 旅人としてこの町を見る時に(例〜only when you see this town as a traveler)
  • この町に住んでいる人ではない場合に(例〜only when I am not the person who lives in this town)

のように換言することもできそうです。
もちろん、下線部にいう「外部に立っている」は、旅に限定することなく一般論を述べているとも考えられますが、上述した通り、outsideoutsiderをサクッと思いつかない時のことも想定しなければいけません。
うまくいかない時にも白紙で出すことなく、文脈から解釈したことを泥臭く表現する姿勢を忘れないでください。
そうして得られた1点が、合否の分水嶺になることもあります。

さらには、「外部に立っているからこそ」を「外部の視点から」「第三者の視点から」と言い換えてfrom an outside perspective
from the perspective of an outsider
from the third person perspective
through outsiders’ eyesと表現したり、
「客観的に見る」と捉えてwith an objective eye
when I look at this town objectivelyと言い表したりすることもできると思います。

もっとシンプルに攻めるなら、「旅行者だからこそ」と捉えI am a travelerとしてしまうのもアリかもしれません。
いかがでしょうか。かなり表現の幅が広まってきましたね!

なお、「旅人」の訳語としてtravelerの他にtouristを思いつかれた方も多いことでしょう。本稿ではtravelerを解答に採用しておりますが、その理由はtouristはツアー客のようなイメージの強い単語(ガイドさんの後についていき、名所を効率的にまわる人)であり、travelerは現地の人と触れ合ったりする旅慣れた人のことを指す言葉だからです。
本問の文章を見通す限り、明らかに後者のtravelerを筆者は目指しているように思えましたのでtravelerを訳語として選択はしましたが、試験会場でtouristしか思いつけずとも、まったく問題ありません。
そんなことで大幅に減点を喰らうこともないでしょうし、そんな細かな語法を気にしていたら、何も文を書けなくなってしまいます。

次に、「見えるものがある」については、関係代名詞を用いてthere are things(that) you can seeと思いついた受験生も多いことでしょう。もちろん、それでもOKですが、ここでいう「見える」は「気付く」の意味に近いと捉えてrealizenoticeを用いることもできました。
また、仮に関係代名詞を使って表現することを思いつけなければ、You can see (notice) somethingと表現してしまうのもアリかもしれません。
あるいは、この町の一面と考えて、you can see one aspect of this town only through outsiders’ eyes(外部の人間の視点でしか見ることができない、この町の一つの姿を見ることができる)と大胆に下線部を書き換えることも考えられます。

最後に、少し思案せねばならないのが、二つの「から」を如何に訳出するのかという問題です。
「外部に立っているからこそ」と「見えるものがあるのだから」のように、「〜から」が両者に盛り込まれていますので英訳に際してbecauseを単純に2回使うのか、
はたまた文脈を考え、別の表現に言い換えるべきなのか思案のしどころです。

becauseを2回連続で用いるのなら、〜because there are things you can see because you stand outsideとでもなるのでしょうが、あまり見たことがない形ですし、このようなbecauseの連用は不自然にも思えます。

そこで、英訳しやすいように設問文を加工する「和作文」の登場です。
「外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから」は、
「外部に立っている時にはじめて見えるものがあるのだから」や
「外部に立つことによって見えるものがあるのだから」と換言しても文意に変わりはなさそうです。
ともなれば、there are things you can notice only when you stand outside /
you can see something only when you see this town as a traveler /
there is something you can see by standing on the outside
といった表現を思いつくことができそうですね。
あるいは、いっそのこと、「外からでなければ見えない町の姿がある」と下線部を大幅に修正してyou can’t see some aspects of the town unless you are standing on the outsideと表現することもありえると思いました。

いかがでしたでしょうか。
正直、あまりエレガントではない表現もあったかと思います。
ですが、試験会場でパニックを起こしている時に何も思いつかないのであれば、中学レベルの英単語を組み合わせてみたり、下線部を思いっきり意訳して、もっとも主張したい「核」のところだけ端的かつ明瞭に書いて1点でも多く稼ぐスタンスは重要です。

これまで模範答案を眺めて「すごいね!こんなの書けたらいいね!」という感想だけで学習を終えられていた方は、ぜひ、頭の中に入っている知識を駆使できるように、与えられた日本語文を英訳しやすいように別の日本語に言い換える和作文を実践してください。
今回の「外部に立っているからこそ」であれば、
「外部の視点から見たならば」
「客観的に見たならば」
「その町に住んでいないからこそ」
といった具合に、どんどんパラフレーズ(言い換え)してみましょう。

言い換えに際しては、小難しく考えるのではなく、5歳児に説明するくらいの気持ちで、日本語の語彙レベルを落として言い換えてみると良いでしょう。
我々の脳内にストックされている日本語の語彙数に比べ、英語の語彙数は微々たるものなわけですから、ストレートに英訳できないことは多々あります。

そうした問題を解決するのが、与えられた日本語文を英訳しやすいように加工する技術なのです。
和文英訳というと、日本語→英語にダイレクトに訳されることをイメージされる方が多いと思いますが、日本語→日本語→英語というプロセスを経ることで難易度の高い英文にも怖気つくことなく冷静に英訳を試みる勇気が芽生えてきます。
この手法は、第一線でご活躍されている翻訳家や同時通訳者の方も多用されているようです。ぜひお試しください。

それはそれでいいのだが、の英訳を泥くさく考察してみた

このパートこそ、和作文の本髄を発揮すべきでしょう。
「それはそれでいいのだが」などという表現は単語帳にも熟語帳にも載っていません。
「それ」をitと考えて、it is itなどとやってはもちろんいけません。
英語の先生は、「それはそれでいいのだが」は「それでいい」を意味するものであるから、That’s OK / That’s fine / That’s all rightと訳出するよう御指導されることでしょう。

さらには、「そのことに問題はない」と捉えて、it is no problem (at all) という慣用表現を用いてみるのもアリです。
このように解答例を示されますと、「確かに!」と思われた方も多いかもしれませんが、試験中にはなんらのヒントもなく自分の頭で答えを紡ぎださねばならないわけですから、That’s fineなどを気付けなかった場合にどうしたら良いのか徹底考察せねばなりません。

そこで、与えられた課題文をまず読み込んでみます。
すると、下線部直前にある【旅人はあくまで「よそ者」,あるいは「お客様」のままだ】のゾーンを下線部の「それ」が指していることがわかります。
ともなれば、敢えて、この部分を訳出してみるのも一手だと思いました。

たとえば、「自分があくまでゲストとみなされているのは問題がない」と言い換えて、
it doesn’t matter whether I am treated as a guestと訳してみたり、
「私はそんなこと気にしない」と考えて、
I don’t care it. / I don’t mind it.とシンプルにまとめてしまうのもアリでしょう。

次に、「それはそれでいいのだが」の「だが」の部分について、逆接表現を用いるにしても、どこにButやらHoweverを書くのか、答案構成によって変わってくると思います
(ちなみに、純粋な逆接とは違うと評価することも可能です。その場合は、On the other handAt the same timeあたりを用いることも考えられると思います)。

下線部が下記の5つのパートに分かれるところ、

① 外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから

② それはそれでいいのだが

③ わたしなどは〜と考えることも多い

④ もし自分が旅人ではなく現地人だったら

⑤ この町はどんな風に見えるのだろう

設問文と同様に、答えも一文で書き表す必要があるかどうかは検討が必要です。
一文が長くなりすぎると、どこがどこを修飾しているのかが不明瞭になり、採点官に誤認を与えかねません。
ともなれば、たとえ日本語文が1文だったとしても、英訳に際しては2〜3文に分けた方が、すっきりとした答案になることはよくあります。
本問であれば、私なら①②グループと③④⑤グループに分けて、2文構成で書くと思います。

ともなれば、 ①② But(However/On the other hand) ③④⑤のような形になるかと思います。

また、①②を一文にまとめるにしても、②の指す内容が下線部直前であることに鑑みますと、②①の順番で書いた方が、文脈の流れには沿っているように思えました。
下記のように問題文を以下のように順番も含め読み替えたのです。

 旅人は遠い町にたどりつき, 街路樹や家並み, ショーウィンドウの中の商品や市場に並べられた野菜や美術館に飾られた絵画を眺めて歩き, 驚き,感心し,時には不安を覚える。旅人は, その町に長年住んでいる人たちよりもずっとたくさんのものを意識的に見るだろう。しかし,いくら大量の情報を目で吸収しても旅人はあくまで「よそ者」,あるいは「お客様」のままだ。それはそれでいいのだ,外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから,その一方で わたしなどは考えることも多い この町はどんな風に見えるのだろうかともし自分が旅人ではなく現地人だったなら。

(多和田葉子『溶ける街  透ける路』)

※下線部の順番を筆者が改変

 

このようにして、私は②→①を以下のように訳出してみました。

  • I don’t care it. That’s because there are things I can notice only when I see this town with an objective eye.
  • It doesn’t matter whether I am treated only as a guest. That’s because I can see one aspect of this town only through outsiders’ eyes.

多少のニュアンスは変わるかもしれませんが、本筋からはズレていないと思います。
ここで大切なことは、与えられた課題文を読み込み、試験会場で思い出せる英語表現でなんとか答えを紡ぎ出す姿勢です。
パッと見て分からなくても、わかるように下線部分を加工する工夫こそ、東大和文英訳制覇の極意なのです。

わたしなどは〜と考えることも多い、の英訳を泥くさく考察してみた

下線部のなかでは、最も訳しやすいパートだと思われますが、意外に生真面目な方ほど、逐語訳を試みようとして苦戦されたようです。
たとえば、「わたしなど」の「など」には何か特別な意味が込められているかというとNOですよね。
「わたしなんていうのは」も同様です。
Iとだけ訳出すれば良いわけです。
東大の和文英訳は、受験生の構文力向上を意図してつくられたような教育学的配慮がなされた問題なのではなく、英訳されることを想定していない一般書籍から抜粋した入試選抜問題です。
ですので、上手く訳せないと感じる言葉は必ず1つや2つはあります
そうした時には、本当にその言葉が文全体の核心を突いたもの、つまり無理してでも訳出しなくてはならない語句なのかを考えるようにしましょう。たとえば、

  • 「じゃぶじゃぶと」汚れたシャツをしっかり洗った
  • 俺「っち」はなんとしても東大に行きたいんだ!
  • 「えっと」僕には到底理解できない

上記の「」内の言葉に何か意味があるのかというと、たいして英訳する価値はないはずです。仮に、それを訳さなかったことにより減点を喰らうなんていう馬鹿げたことがあったとしても、その表現を考える時間と天秤にかけた場合、私なら1点減点の方が遥かに良いとさえ思えます。
書きたいことをなんでも書くというより、確実に書けることをミスなく短時間で書き上げるチカラの方が、東大英語では重要なのです。

さて、本問に話を戻しましょう。
今回、「わたしなどは」を、文末の「と考えることも多い」とセットにし、まとめて考察を試みようとしていますが、逐語訳ばかりに目が行きがちな受験生のなかには、こうした日本語文の構造把握すらできていなかったケースも散見されました。
一つの文を訳出しようとする以上、文全体を通してみて、主語と述語がなんなのかは把握しなければなりません。
そうした確認を怠ると、修飾被修飾関係を大きく取り違える危険性も観念されます。

その上で、「と考えることも多い」についてみていくとしましょう。
「多い」という言葉だけをみて、manyやらmuchやらa lot ofを性急に考えてはいけません。
「考えること」が「多い」のですから、これは高い頻度を表しているといえ、oftenという訳語を思い出したいところです。
受験生の中には、「考える傾向がある」と言い換えてtend toとしたり、「〜する傾向が高い」と考えてhave a high tendency to〜とした方もおられるようですが、シンプルに書けるものは極力シンプルに答えられると語法やスペルのミスを防ぐことができます。
仮に難しい表現を思いついて添削でマルをもらえたしても、もっとシンプルに書くとどうなるだろうか・・と考察を深めることは非常に有意義です。

次に、「考える」の訳語としてthinkを最初に思い浮かべられた方も多いと思います。
もちろん、thinkでも問題はないのですが、本下線部では、筆者がもやもやした気持ちで色々と思索を巡らしている様を見て取れますのでwonderでも良いかなと思うところはあります。
ですが、think aboutでも問題はないと思います。

以上より、「わたしなどは〜と考えることも多い」を訳しますと、

I often wonder〜/ I often think aboutといった表現あたりが無難なように思えました。

もし自分が旅人ではなく現地人だったら、の英訳を泥くさく考察してみた

「もし」と書かれていることから仮定法を使うんだろうな、「●●ではなく▲▲」という書き方からnot ●● but ▲▲というフレーズをもちいるのだろうな、という全体方針はすぐに定まると思います。
ちなみに、仮定法については和文英訳や英文和訳でも頻出ですので、必ず周辺知識を固めておきましょう
起こりえないこと、ありえない話を敢えて過去形や過去完了で表すことによって、過ぎ去りし日々と同様に、もうどうすることもできない、手が届かない世界の話をしているんだと読み手に伝えようとしているのが仮定法でしたね。
この辺りは学校の中間期末テストレベルの話ですから、それほど苦もなく理解できた(実際に答案を書けた)人も多かったようです。

ただ、問題は「現地人」の訳出です。
「旅人」は、travelerなりtouristといった名詞を書けば良いわけですが、ここで名詞を使ってしまうと「現地人」の名詞を書くことが必然的に求められてしまいます。
a locala local residentという訳をさらっと思い出せた方には本解説は不要かもしれませんが、実際にはlocalを思い出せなかった方が相当数いるように思います。
そうした時に、「それは単語の勉強をちゃんとやってこなかった、お前の責任だ」と言うのではあまりに残酷です。
ここで、いくつか発想の転換をしてみましょう。

そもそもですが、エレガントに1単語で「現地人」を訳出せよと東京大学は条件指定していません。
であるならば、関係代名詞というツールを私達は持っているのですから、「この町に住んでいる人」と捉え直してpeople who live in the townなりpeople who live thereなりと訳せば良いのではないでしょうか。
あるいは、「旅人」という名詞を用いてしまったから「現地人」という名詞の訳出に苦心しているのなら、片っぽなり両方なりを動詞で表現することを考えても良いかもしれません。
たとえば、

if I lived in this town, not as a traveler

if I did not travel the town but lived there 

といった具合にです。
市販参考書の解答例は実にエレガントではありますが、合格点を叩き出すのにエレガントさは必要ないということを強くお伝えしたいと思います。
がめつく点数を1点でも多くもぎとってください。

この町はどんな風に見えるのだろう、の英訳を泥くさく考察してみた

いよいよラストのパートです。
まず「どんな風に見える」の英訳は典型パターンです。

how〜look(like)を用いるかwhat〜look (like)あたりを用いるのが定石ではあります。「〜だろう」とありますから、wouldを入れるのもお忘れなく。
あとは、パート③で定めたI often wonderI often think aboutと繋げて

  • I often wonder how this town would look like
  • I often think about what this town would look like

といった具合に訳せば完成です。
ですが、もしも、試験会場で頭が真っ白になって、こうした定石を思い出せなかった場合はどうしたら良いのでしょうか。

たとえば、「町がどのように違って見えるのか」と捉え直し、
how different the town seemsと訳してみたり、
「町が違って見えるのかどうか」と意訳して
whether I see the town differently
whether the town seems different
whether my view on the town would change
whether I can see the town with a new perspectiveといった案も考えられるでしょう。

また、「外部に立っているからこそ見えるものがあるのだから」を仮に、
That’s because I can see one aspect of this town only through outsiders’ eyesと訳したならば、
それと対をなす形で、「新たな町の一面が見えるのかどうか」と捉え直して
whether I can find new aspects of the townと記述することもできるでしょうし、
「どんな一面をこの町に見出せるようになるのか」と解釈して
what aspects of this town I can findと表すこともできるでしょう。

いかがでしょうか。もちろん、looklook likeが使えると気づいた方が圧倒的に早く答案作成ができますので、強く推奨したいところではありますが、緊張や焦りでド忘れしたとしても、泥くさく考察することで別の切り口から答案を紡ぎ出すこともできることを実感していただけたのではないでしょうか。

英作文は数学に似ていると映像授業のなかで申し上げましたが、試行錯誤のなかで格闘する過程は、まさに数学そのものだと私は感じております。

 

さて、以上、5つのパートに分けて分析考察を重ねてきましたが、各パートで申し上げた表現を組み合わせれば答案骨格は出来上がります。その上で、英作文7つの大罪(https://exam-strategy.jp/archives/10835)や映像授業のなかでもお伝えしたように、時制や三単現のsなどに注意しつつ、スペルミスやピリオド付け忘れといったポカミスを犯さないように最後の仕上げを細心の注意を払ってしていきましょう。
決して最後の最後まで油断はしないでください。人はミスを犯す動物だという認識のもと、何度も何度も見返しましょう。

それでは、ここで、いくつかの答案例を示したいと思います。

【これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例】

  • That’s OK because there is something I can see only when I am not the person who lives in this town. I often think about how this town would look like if I lived in this town, not as a traveler.
  • I don’t care it. That’s because there are things I can notice only when I am a traveler. I often think about how different the town would seem to me if I did not travel the town but lived there.

【こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例】

  • That’s not a problem because you can’t see some aspects of the town unless you are standing on the outside. At the same time, I often wonder how this town would look like if I were a local resident, not a traveler.
  • It doesn’t matter whether I am treated only as an outsider. That’s because there are some things I can notice only when I am standing outside. On the other hand, I often think about how different the town would seem if I were not a traveler but a local.

【2022年度高得点合格者の再現答案】

  • Since there is something you can see when you are an outsider, it is OK. However, I often wonder how this town would look like if I were a resident, not a traveler.
  • Since there is something that can only be seen from the outside, it’s fine. However, I wonder if I were not a local but a traveler, how could this town look?

【いま話題のchatGTPが考えた答案例】

  • There are things that can only be seen because I am standing outside. That’s fine as it is, but I often how this town would look if I were a local resident rather than a traveler.
  • There are things that can be seen precisely because I am standing on the outside. It’s fine as it is, but I often find myself pondering what this town would look like if I were a local resident instead of a traveler.

なお、chatGTPに関しては、以下の記事もよろしければご覧ください。

いま話題のAI学習システム chatGTPは東大対策に有効!?

【解きっぱなしで終わらせない。2022東大英語2Bの復習用重要表現集】

今年度の問題で、「旅」が取り上げられたこともあり、せっかくですから有益な表現を皆様に吸収していただければと願っております。

世界史ではお馴染みのアウグスティヌスは、かつて
The world is a book, and those who don’t travel read only a page.(世界は1冊の本のようなものだ。旅をしない人は、その本の1ページしか読んでいないのだ。)という名言をのこしました。
旅(trip / travel)は、私達に新たな視点を与え(give us a fresh perspective)、私達に新しい考え方(new ways of thinking)を示し、心をひらく機会(the opportunity to open our minds)すら与えてくれます。

旅の目的は、人それぞれです。美しい景色(beautiful view / magnificent scenaryなど)をみるため、見知らぬ場所(an unfamiliar place)を旅することで自分の視野を広げるため(broaden one’s view)、修学旅行(a school trip/a school excursion)で同級生(classmates)とワイワイするため、といろいろです。
異なる文化や風習に触れることで(get in touch with different cultures or customs)、多様性(diversity)を認識(recognize)できるでしょうし、新たな出会いを期待できるかも(look forward to new beginnings / look forward to meeting new people)しれません。

旅に限らず、物事を多面的に捉えることは(see things from different angles / view things from various aspectsなど)、人生を豊かにしてくれます(enrich your life)。その場に立ち止まっていると気づかないようなことでも、外から眺めてみると、「そういうことだったのか!」と思いがけない発見(unexpected discovery)をすることもあるでしょう。
英語圏には、One must stand outside the circle to see that it is round.という慣用句があります。円の中にいては、自分を取り囲んでいるものが本当に真ん丸の円なのかなんてわかりはしない。つまり、円の外に出て鳥瞰して見ようという意味です。これは、何か困った状況に置かれたとき、少し違った立ち位置から物事を見通すのが良いと理解できそうですね。ちなみに、最近話題のchat-GTPに、この慣用句の意味を問うたところ、以下のような解答がありましたのでご紹介いたします。

This phrase is a metaphor that suggests that in order to fully understand something, one must have a perspective that is detached from it or is removed from it. Being ” outside the circle” means being removed from the situation, and by doing so, one can see the whole picture and understand the true nature of something. In this context, the roundness of the circle is a metaphor for the completeness or wholeness of something.
(訳:このフレーズは比喩であり、何かを完全に理解するには、あえてそのものから離れて見つめることが大事なのだと示しています。「円の外に」というのは、置かれている状況から離れることを意味しており、そうすることで、人は物事の本質を理解し全体像を見通すとことができるのです。この文脈での、円の丸さというのは物事の全体像を示したいと喩えです。)

いかがでしたでしょうか。人生を旅だ(life is a journey)と、おっしゃる方が多いのも、なんとなく理解できますね。人生は1度だけ(you only live once)ですから、殻に閉じこもる(build a wall around yourself / withdraw into your shellなど)ことなく、自分の可能性を信じて(believe in yourself / believe in your potentialなど)、行動を起こし(take an action)続けてください。これからも、皆さんの旅は続いていきます(your travels will continue)。最後に、好きなセリフを二つご紹介いたします。

Love the life you live. Live the life you love. (自分の生きる人生を愛せ。自らが愛する人生を生きよ)

Live as if you were to die tomorrow. Lean as if you were to live forever.(明日死ぬかのように生きなさい。永遠に生き続けるかのように学びなさい)

【東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜】

本稿の冒頭でも申し上げた通り、世の中には和文英訳の問題は腐るほどあるも、東大の和文英訳に類似した問題はなかなか入手できません。そこで、東大受験生の皆様が少しでも和作文の訓練ができるよう、他大学の過去問をピックアップしてご紹介したいと思います。

次の文章を英訳しなさい。

数ある旅の楽しみのなかで, 車窓からの眺めというのもまた捨てがたい。 そこに美しい自然が広がっていれば, ただただ目の保養になる。でも,ありふれた田舎や街並みを眺めているのも悪くない。そこに見かける, きっとこの先出会うこともなさそうな人々は, みなそれぞれにその人なりの喜びや悲しみとともに暮らしている。そう思うと,自分の悩み事もどこか遠くに感じられて, 心がふっと軽くなる気がするのだ。

京都大学2022

(敬天塾コメント)

東大と同様に、京大でも旅をテーマにした和文英訳が出題されるとは驚きです。
「ただただ目の保養になる」や「心がふっと軽くなる気がする」といった表現は、まさに和作文しなければ英訳できないですね。
京大はリスニングや物語文や正誤問題といった問題がない分、一題一題がとてつもなく歯ごたえのある問題で構成されており、その分、学びも多いと言えます。
ちなみに、東京大学が自由英作文の出題数を減らして20年ぶりに和文英訳を復活させた2018年に、京都大学はその反対に和文英訳の代わりに自由英作文をいきなり2題構成で出題しました(翌2019年には早々に和文英訳を復活させましたが)。
両大学は入試問題づくりにおいても実に興味ふかい共通点や相違点がありますので、時間が許す限り5年分くらいは各教科で目を通しても良いと思います。
なお、東大2023実況中継のなかでも、良質な類題をご紹介しておりますので、併せてご参照ください。

次の文章を英訳しなさい。

最近久しぶりに旅行して実感したのですが,田舎の夜空には星が驚くほどたくさん見えます。科学的に考えれば,汚染がなく空気がきれいだからでしょうが,風景はそれを見る者の心を映すとよく言われます。雑事に追われて忙しいだけの生活からしばしの逃避行を敢行したあの時の私は,もしかしたら,めずらしく無邪気な子供のように心が澄んでいたのかもしれません。

京都大学2007

(敬天塾コメント)

京大は本当に旅に関する問題をよく問うてきます。
きっと、教授もいろいろと人生を達観なさっているのでしょうね。
本問は少し古い問題ではありますが、和作文の練習には好材料です。
「心を映す」「心が澄んでいた」を訳すには、工夫が必要ですね。

次の文章を英訳しなさい。

子供のころには列車での旅行というのは心踊るものであった。年に一度,夏休みに祖父母の家に行くときには,何時間も列車に乗ると考えただけでわくわくした。今では長距離列車を見ても,子供のころのように気分が高まることはないが,大きな駅のホームに日本各地に向かうさまざまな列車が並んでいる光景は鮮明に覚えているし,発車の瞬間の独特の高揚感を思い出すこともある。

京都大学2010

(敬天塾コメント)

またまた京大からです。よほど旅好きな教授が作問なさっているのかもしれません。
ひょっとしたら、京大の熱意に東大教授も感化されたのかもしれませんね(笑)。
東大や京大の入試問題は、多くの学校や塾関係者に注目されますから、変哲な問題をつくれないというプレッシャーが重くのしかかります。時に、心労から血尿が出ることもあるのだそうです。
旅ネタや人生ネタは、老若男女問わずに共感される題材ですし、最高学府の品位を下げることもありません。おじさん臭いテーマかもしれませんが、ぜひ関連語句や周辺知識を固めてみてください。
ひょっとしたら、皆さんが受験される年に、再び「旅」をテーマにした問題が出されるかもしれませんよ(^^)

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東大英語 第2問B(和文英訳)制覇の極意(2023年実況中継)

2022年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の解答(答案例)・解説

2021年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の研究

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