1997年 東大国語 文科第3問(古文)『春雨物語』解答(答案例)と現代語訳
目次
はじめに
江戸時代に上田秋成が書いた『春雨物語』が出典です。
(この年の問題とはあまり関係がありませんが)
個人的にまずオススメしたいのは、
上田秋成の『雨月物語』!
図書館などに置いてあるマンガ日本の古典シリーズにも入っています。
怪談ものってこんなに面白いんだって大好きになりました。
解答例(答案例)とプチアドバイス
(一)傍線部ア・イを現代語訳せよ。【各1行】
ア あない見てこむ
答案例:道の様子を見て来よう
プチアドバイス:「様子を見て来よう」と訳してしまう方がいますが、「何の?」となるので、補足しましょう。
イ むなしくは通さじ
答案例:何も差し出さないならば、通すつもりはない。
プチアドバイス:追いはぎが脅迫する言葉です。「よこさない・渡さない・差し出さない」などの語を加えましょう。
(二)「『樊噌に会ひて物おくりし』というて過ぎよ」(傍線部ウ)を、人物関係が明らかになるように現代語訳せよ。【2行】
答案例:僧よ。私、樊噌の手下である若者二人に『自分は樊噌に会って物を渡した』と言って通り過ぎよ。
プチアドバイス:「人物を明らかに」ではなく、「人物関係を明らかに」であることを意識しましょう。
(三)「ただ心さむくなりて」(傍線部エ)について、なぜ樊噌はそう感じたのか、説明せよ。【2行】
答案例:わざわざ戻って来て隠していた金を渡した正直者の僧と出会い、親・兄を殺し、多くの人から強奪した自分の罪深さを思い知らされたから。
プチアドバイス:「僧との出会い→自分と比較→恥を知った(自覚した)」の流れです。
(四)「襟もとの虱、身につくまじ」(傍線部オ)とはどういう意味か、説明せよ。【2行】
答案例:仏道修行に励む決心をした樊噲にとって、自分につきまとう二人の手下は邪魔な存在なので、今後は側にいてはいけないという意味。
プチアドバイス: 一番注目すべきは直後の「また会ふまじきぞ」。「~まじ」の重なりもヒント。
本文と現代語訳の併記(JPEG)
本文と現代語訳の併記(PDF)
1997年『春雨物語』現代語訳現代語訳
下野の那須野の原に日が沈んだ。小猿・月夜が言う。「この野原は道が多く分かれていて、暗い夜には(道に)迷うことが、これまでにあった。ここで少しの間、お休みください。(道の)様子を見て来よう。」と言って、走っていく。殺生石といって、毒があるという石の垣が崩れている所で、(樊噌は)火を起こして盛んに焚き木を燃やして座っている。僧が一人来た。(座っている樊噌の方へ)視線も向けないで通り過ぎる様子は(樊噌にとって)憎らしい。(樊噌は)「法師よ、食べ物があるなら、(俺に)喰わせよ。旅費があるなら、置いていけ。何も差し出さないならば、通すつもりはない。」と言う。僧は立ち止まって、「ここに金が一分がある。くれてやろう。食べ物は持っていない」と言って、何にも包んでいないお金を樊噌の手に渡して、振り返りもせずに行く。(樊噌は)「この先に、若い者たちが二人立っているはずだ。『樊噌に会って物を渡した』と言って過ぎよ」と言う。(僧は)「おう」と答えて、足音静かに歩い(ていっ)た。「まだ一時間は経っていないだろう」と思う時刻に、僧が引き返してきて、「樊噌はいらっしゃるか。私は仏道に入ったころから嘘を言っていないのに、ふと物を惜しんで、もう一分残したままなのは、心が清らかでない。これをも与えるぞ」と言って、取り出して与える。(樊噌は自分の)手に置いたところ、ひたすら心が寒くなって、「このように真っ直ぐな法師がいる。(それに比べて)私は、親と兄を殺し、多くの人を傷つけ、盗みをして世の中で生きていること、ほとほと驚き呆れたことだ」と、強く思いを改めて、法師に向かって、「(あなた様の)恩徳に(触れて)心が改まり(ましたので)、いまは(あなた様の)弟子になり、仏道に入るつもりだ」と言う。僧は感心して、「大変良いことだ。来なさい」と言って、連れ立って行く。小猿と月夜が出できた。(樊噌は)「おまえらはどこにでも去り、どのようにでもなれ。私はこの僧の弟子となって、仏道修行をしよう。襟元の虱(のようなお前たち)は、(私の)身(の側)に付いてはいけない。もう会わないつもりだぞ」と言って、視線を送って別れていく。(僧は)「(仏道の)役に立たない子供たちは、捨てなさいよ。懺悔は道すがら聞こう」と言って、先に立ち去った。
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