2026年東大国語 第1問 松本卓也『斜め論 空間の病理学』解答(答案例)・解説

ここ数年出題されていた論理的な文章から変わって、いかにも文系チックな文章でした。評論文ですから論理的ではあるのですが、題材が精神分析なのでザ文系です。
また、長い文章に見えて前編と後編に分かれていて、それらが並列関係というのも珍しいです。並列ですから、最後に交わらずに本文が終わります。普通なら、2者を比較して最後に共通点なり相違点なりを交えて、まとめて終わるものですが、まとめず終わる。伏線を回収「しない」文でした。これは現代文の題材の文として、もしかして初めて読んだかも。
世界史の第1問が数年前に600字の大論述を廃止して2問に分かれたのを思い出しました。この現代文第1問も、2問ずつの文章を2つ読まされた感じに近いかもしれませんね。

毎回書いていますが、現代文は回答者によって解釈のブレ、答案の表現のブレなどが激しい科目であるため、賛否両論が発生することは承知していますし、闊達な議論を奨励しています。
お気づきの点がありましたら、遠慮なくコメントをお願いします。

敬天塾作成の答案例

敬天塾の答案例だけ見たいという方もいるでしょうから、はじめに掲載しておきます。
受験生の学習はもちろん、先生方の授業にお役に立てるのであれば、どうぞお使いください。
断りなしに授業時にコピペして生徒に配布するなども許可していますが、その際「敬天塾の答案である」ということを必ず明記していただくようお願いします。
ただし、無断で転売することは禁止しております。何卒ご了承ください。

【平井基之のサンプル答案】

設問(一)
治療者と患者が対面する形式から患者が横たわり治療者が傍らに座ることにより、一般的な対等関係から、権威がある治療者と服従する患者という不自然な上下関係へ改変するということ。

設問(二)
幼少期に「超自我」に抑圧された患者を横たわらせ、分析家が頭上に位置すると、患者が超自我を分析家に投影しやすくなる。このまま分析家が解釈を行うと超自我の抑圧的な印象を和らげられるから。

設問(三)
患者に関わる重要人物たちが患者と治療に関して対等に行う対話の声や、専門家同士のみで行われる会話を聞くことで患者の胸中に呼び起された抑圧的な存在との対話の声の重なりのこと。
別答案

患者に関わる重要人物たちが患者と対等に行う治療に関する対話の声や、その声を聴いて参加者たちの胸中に呼び起された抑圧的な存在との対話の声との重なりのこと。

設問(四)
患者と関係人物たちが行う対等な対話と、その声により患者に発生する胸中の存在との対話との両方が同時に発生することで、患者の精神を脅かす抑圧的な存在が権威を持ち過ぎないように緩和され徐々に抑圧的ではなくなり治療されていくということ。

※多少、字数が多めの答案になっていますが、短くまとめきれない私の力量不足以外の何物でもありません。あくまで、答案サンプルの一つであり、皆さんの考察の材料となることを願って作成したものですので、寛大な心でご覧いただけると幸いです。

設問(一) 人間どうしのふつうの水平的関係を人工的な垂直的関係へと作りかえている

レーダーチャートは作成中

総合難易度1
本文の読解1
傍線部の構造2
表現力1
字数制限2

採点は5段階評価で標準を3とし、
難しいポイント1つにつき+1、
簡単なポイント1つにつき-1としています。
「傍線部の構造」は答案骨格の作りにくさです。
「表現力」は自分の言葉に言い換える難しさです。

過去1番簡単かも。。。

難易度判定のレーダーチャートを作ったら、総合難易度が1になってしまいました。滅多に付けないはずなので、過去に存在したかと検索してみたら、去年の第1問の設問1も総合難易度1でした(笑)。2年連続で設問1が超簡単に。

骨格はシンプル、対比もシンプル

ではいつもとおり、問いから確認しましょう。今回は「どういうことか」という問いです。
傍線部が結構長いのですが、骨格はシンプルですね。「AをBに作りかえている」というもので、Aに該当するのが「人間どうしのごくふつうの水平的関係」、Bに該当するのが「人工的な垂直的関係」です。
ということは、答えの骨格も決まりです。可能な限り「AをBに作り替えている」という骨格で書きましょう。

また、AとB自体が対比構造になっていますね。
ごくふつう VS 人工的
水平的関係 VS 垂直的関係
という2種類の対比があり、「AをBに作り替えている」ということは、「AからBに変わった」ということです。つまり変化を表す骨格ということで、これもアルアルですね。ここまで非常にシンプルでよくある問題です。

抽象的な語を、具体的に言い換えよう

次に、AとBの中身を見ていきましょう。

Aは「人間どうしのごくふつうの水平的関係」ですね。「人間どうし」と「ごくふつう」は一般的な日本語の意味と同じなので、単純な言葉遊びの言い換えでOKです。例えば「対等なありふれた」など。Bの人工的な垂直的関係」も同様です。「人工的な」は一般的な日本語と同じ意味なのでただの言い換えでOKです。

一方で、「水平的関係」と「垂直的関係」は筆者の個人言語であり、比喩であり、抽象語です。こういうのは、ガッツリ自分で説明を加えながら言い換えなければなりません。本文に何も書いてなかったら、本文の文脈のそってある程度想像して書くしかないですが、今回は本文に説明があります。

該当部分を探すと、3段落目。
「汝と我という、それなりに対等なーー空間的に表現すれば「水平的な」ーー関係ではなく」「<他者>と主体という権威とそれに対する服従ないし反抗が生じやすい「垂直的」な関係」
ですね。しかしこれでもかなり抽象的です。
ということで、さらに探します。
3段落目の冒頭が「このことは」ですから、2段落目の内容を指示語として受けていることが分かるので、2段落目を見ると、ここに発見!
対面法から、患者を寝椅子に横たわらせ治療者が傍らに座るという配置に変えた、ということが書かれています。確かに、対面法は水平の位置関係だし、寝ている人と座っている人では垂直と言えるでしょう。(元理系の私は、垂直じゃなくて鉛直だろ!とか思ったし、寝てる人と座っている人って垂直の関係なのか?斜めにズレてないか?とか思いましたが、国語の文章でそういうことを考えてはいけません!)

つまり、
対面 = 対等 = 水平的
寝ている&座っている = 権威or反抗 = 垂直的
という構図が頭の中で作れればOKです。

他のアプローチ

傍線部の直後に「のである」がありますね。これ、最近の東大現代文で非常によく見る気がするんですが、、、。

「のである」は、前の文の説明をしてるよっていう表現です。つまり、傍線部の直前の1文の補足説明をしているのが、傍線部の文です。
ということは、前のぶんを見なければなりません。ここには「横になる」とか「頭上にいる」とかいった位置関係について説明されています。こうして位置関係を探してもOK。

また、傍線部の文の冒頭には「言い換えれば」があります。これも前の文の説明をしたり、内容を発展させたりする合図です。こうして「言い換えれば」に注目して前の文にさかのぼってもOKでしょう。

そんなこんなやっていると、結局傍線部の前の部分は全部が解答の根拠になっちゃいますね。僕は、「傍線部の射程」と言っていますが、冒頭から傍線部アまで全部射程圏内です。全部射程圏内に入ってしまうと、「ああ結局全部か。どれをまとめれば良いんだ。」みたいになりますから、やはり文法的に説明するのは、限界があります。

ということで、ここまでなるべく文法的に、そして文や段落の構造的に理屈っぽく説明しようとしていましたが、このレベルの文章で、この短さなら、わざわざこんな作業をしなくても内容がつかめてしまう人も多いと思います。文法だの、論理だのは読むための補助輪にすぎませんので、補助輪ナシで読める人は読んでください。

平井答案の解説

治療者と患者が対面する形式から患者が横たわり治療者が傍らに座ることにより、一般的な対等関係から、権威がある治療者と服従する患者という不自然な上下関係へ改変するということ。

・「AをBに作り替える」という骨格ですが、AとBがどちらも長いし、座っているとか寝ているとかの物理的な位置関係に加えて、〇〇で△△な関係と修飾語を複数くっつけなければなりません。よって、まず初めに姿勢の話(対面→寝ている&座っている)を書いて、修飾語(人間どうしのごくふつう、人工的)を書くというようにしました。
・また、対等関係が自然なのは良いとして、「垂直関係が人工的だ」と書くだけでは説明不十分な気がしたので、「不自然な」を入れました。
・「人工的」の言い換えが案外難しかったです。頑張って思いついて「改変」としました。これなら人工的なニュアンスも出るし、作り替えるニュアンスも出るかと思いました。(これは、発想が出るか出ないかの問題です)

設問(二) 分析家を、垂直方向における・・・可能性を得る

レーダーチャートは作成中

総合難易度2
本文の読解2
傍線部の構造2
表現力3
字数制限4

骨格が複雑で、中身も複雑

問いは「なぜか」なので、傍線部アとは解法が異なります。
「なぜか」の問題は、純粋にロジックを追いかけて答える問題です。傍線部の骨格を保存したり、傍線部の言葉を言い換えたりする必要はありません。

骨格を保存する必要はありませんが、骨格を見ないわけではありませんよ。
「Aを、Bとして同定することによってはじめて、Cする可能性を得る。」ということで、設問一よりかなり複雑ですね。この傍線部で大切なのは「はじめて」です。「AをしてはじめてBになる」と書いてあれば、Aが条件でBが結果です。また、これに関連しているのが「Cする可能性を得る」の部分。Aの条件を満たしても、Cになる「可能性を得る」だけで、必ずそうなるとは言えないわけですね。この辺りのニュアンスも大事にしましょう。

傍線部についてはまだ色々あるんですが、細かいことはちょっと脇においておいて、俯瞰してみてください。傍線部イって、抽象的な言葉が多くないですか?
垂直方向、「上」に存在する、超自我、根底的に変化などなど。もし傍線部イだけを(本文を読まずに)いきなり読まされたら、全然意味が分からないでしょう。

こういうときは、必ず本文中に説明があるものです。説明がないと誰にも読めませんからね。そこで、似たような内容や表現がないか探してみましょう。

また「のである」

そして、再登場した「のである」にも注目です。
傍線部イの直後に、またもや「のである」があります。先ほど説明したとおり、「のである」は前の文の説明をしていることを示しています。
そこで、前の文を読んでみることになります。

すると、精神分析家のジェームズ・ストレイチーの主張が書かれていますね。
(余談ですが、ジェームズ・ストレイチーっていう名前って、精神分析家っぽすぎないですか?)

ジェームズ曰く、
「患者が精神分析家を超自我として体験することに始まり、超自我と同一視された分析家が患者に対して解釈を行うことによって、患者が徐々に過去に形作られた超自我のイメージをより抑圧的でないものへと更新することによって、精神分析の治療が終わる。」と。

この文の意味をよく読むと、実は傍線部イとほぼ同じことを言っているのが分かります。まあ「のである」があるので当たり前ではあるんですが、それにしても内容が似ているのです。

傍線部とジェームズを整理してみよう

ジェームズが言っていることを、まとめてみます。

①患者が分析家を超自我として体験する(同一視する)

②分析家が患者に対して解釈を行う

③患者がもつ超自我の抑圧的なイメージが緩和される

と3段階に分けられるのではないでしょうか。

これに対し、傍線部イは

①分析家を「上」における他者として同定す

③自らが根底的に変化する

という内容だと捉えました。
比べると、傍線部イではとなっていて、を飛ばしているんですね。

どう答える?

ここまで理解した上で、どう答えれば良いでしょう。
さらに単純化して、考えてみましょう。
「本来は①→②→③となります。①になって初めて③になる可能性があるのはなぜでしょう。」問われているのは、こういうことです。

さて、ここから先の答え方については、恐らく個人差が出てくると思います。
傍線部やジェームズのロジックは単純なのですが、「なぜか」に対する答え方は1通りに定まらないと思います。

以下に私はこう考えたという答案を載せますが、思考の題材にして、皆さんで考えてみてください。

平井答案の解説

幼少期に「超自我」に抑圧された患者を横たわらせ、分析家が頭上に位置すると、患者が超自我を分析家に投影しやすくなる。このまま分析家が解釈を行うと超自我の抑圧的な印象を和らげられるから。

・答案のロジックは「①の状態で、②をすると、③が起こるから」というようなものです。つまりジェームズの主張の方向性を簡潔になぞった形になります。
・工夫ポイントとしては、①で一度文章を区切って、「このまま②をすると」と②を条件のように扱ったところです。これで傍線部の「はじめて」や「可能性を得る」などのニュアンスを出そうと工夫しました。
・細かい表現の工夫としては「投影」や「印象を和らげる」です。白状するとうちの塾の今年の合格者が再現答案に書いていたものをパクっています。ありがとうSさん!
・本来は「超自我」のような説明が必要な言葉を答案に書きたくなかったのですが、字数がどうしてもオーバーしすぎてしまうので、泣く泣くそのまま入れました。元々は「患者が幼少期に抑圧されていた権威のある養育者である「超自我」」などと表現していました。(長い!)

 

以下、執筆中・・・

設問(三)多数の声が響きあうポリフォニー

レーダーチャートは作成中

総合難易度5
本文の読解6
傍線部の構造2
表現力3
字数制限4

簡単なのか、難しいのか

本問、非常に悩みました。
普通に読むと、傍線部ウの答えは、傍線部イの次段落からウまでの内容をまとめれば良いだけです。しかし、これでは簡単すぎるし、字数も余ります。
当日所感の記事でも書きましたが、本文最後の方で「ポリフォニー」が再登場します。ということは、後半部分も含めるべきなのか。

どちらを採用するかでとても悩んだのですが、結論、難しい方(後半を含む方)だと判断しました。そして、東大現代文における新傾向の問題だというのも分かりました。
その理由は以下へ。では解説を開始します。

ポリフォニーとは?

問いは「どういうことか」で、傍線部が抽象的。「多数の声が響き合うポリフォニー」とな。ガッツリ比喩表現です。
「そうそう、こうでないと!」。この入試問題を入手した当日、現代文のスタッフと話していたのですが、このくらい抽象的な傍線部じゃないと面白くないですね。私のような「こってり好き」にはたまらない問題です。

傍線部の骨格は「Aになる」なので、非常に簡単。
この問題は「ポリフォニーとは何か」を解明するのが9割以上です。そもそも「ポリフォニー」が聞き馴染みのない単語だと思います。本文の解釈なんか放っておいて、傍線部の語彙の特定の方が圧倒的に優先です。

似ている単語を探すと、シンフォニーが思いつきます。シンフォニー(symphony)とは「交響曲」ですが、(すごく雑に説明すると)「sym」の部分が調和で、「phony」の部分が音をあらわすそうです。
「モノ(mono)」と「ポリ(poly)」はそれぞれ個数をあらわします。モノは1つで、ポリはたくさん(複数)です。理系の受験生は、化学で登場するので、お馴染みですね。
文系で化学が苦手な人でも、ポリ袋とか、ポリエステルとか聞いたことはありませんか?ポリというのは、ある物質がものすごい数くっついている、という意味です。例えば、ペットボトルはポリエチレンテレフタラート(PET、Polyethylene terephthalate)という意味です。エチレンテレフタラートという物質がたくさんくっついたものがPETです。
余談ですが、東大はリベラルアーツを重視しています。理系でも文系科目を、文系科目でも理系科目をできないといけません。「「ポリ」の意味くらい知っておけよ。」という東大教授からの声なき声が聞こえない人は、感度が鈍いですよ。

「ポリ」は多数、「フォニー」は音という意味なので、ポリフォニーは「複数の音」という意味でした。ちなみに「モノ」は単数なので、モノフォニーは「1つの音」という意味ですね。もちろん、このように「和訳」しただけでは解答になるはずもないので、今度は本文の解釈を進めていきます。

具体例をまとめる問題・・・なのか

傍線部イの直後から、オープンダイアローグの話に切り替わります。
そこで何が書かれているかというと、電話があるとすぐに治療チームが組まれるだとか、誰でも参加できるだとか、全員で決定するだとか・・・要するに、オープンダイアローグの具体的な方法が書かれています。別に難しいところはありません。ただただ、具体的な方法が書かれているだけで、解釈のブレはありません。

そのまま「患者の独語的モノフォニーではなく、多数の声が響き合うポリフォニーになる。」と、突然抽象度の高い言葉が登場するのです。傍線部ウの直前には「こうして」がありますから素直に考えれば傍線部ウの前の部分をまとめる問題です。

ここで思いついてほしいのは、2024年第1問です。
これの設問一は、タンザニアの行商人が行っている「掛け売り」のメリットについて具体的に書かれている箇所を端的にまとめる問題でした。解釈などは関係なく、具体的な内容を短くまとめるという「要約」のような問題だったのです。

このような問題の出題例があったので、2年ぶりに「要約」させる問題が出たのかなと思いました。
※他予備校さんの答案例などを拝見したところ、「要約」の方針の答案ばかりでした。

しかし、タンザニアの問題に比べて、要約が簡単すぎます。
2024年の問題の要約は、字数制限もかなり厳しく、2行以内にまとめようとすると、要素の脱落が必ず起きてしまうような問題でした。

これに比べて、本問は要約が簡単すぎます。こんな簡単なはずがない、という気持ちになってしまいます。
こういう「メタ視点」の考察はあまり良くないですが、、、。

しかし、さらに考察したところ、「要約するだけ」の方針ではないだろうと考えるようになりました。

オープンダイアローグの重要な部分はどこ?

「重要なことを言うよ」の合図を追いかけていく

まず傍線部ウの直後の段落の冒頭に「ポイントは」とあります。
これは予備校や塾の先生が、生徒に教えるときの「ポイント」と同じ意味ですね(笑)。大事なところですよ、の合図です。その大事なポイントは何かというと、垂直ではなくて、水平方向に展開されるとか、多数の関係へと拡張されていると書いてあります。

そして、その次。
「ただし」とありますね。これが重要です。
「ただし」は例外を表す表現です。「ただし」の後には本当に些細な例外を書く場合もある一方で、一番大事なことを書く場合もあります。
読んでみると、「水平的な他者関係のなかだけでなされる治療法であるということを意味しない」と書いてあります。水平「だけ」ではないということは、垂直が混ざるということなのです。

更に進めると、「たしかに」があり譲歩構文が来ます。
「たしかに」をつかった構文の基本は、「たしかに(重要じゃない部分)、逆説、(重要な部分)」ですよね。この文章も、キレイに従っています。「たしかに」の直後には、「垂直的な関係を排除して、水平的な関係によって治療を進めようとすることから始まったことは間違いない」と書かれています。つまり「垂直ではなく、水平で治療しようと始めた」ということ。

そして「しかし」が登場します。もちろんこの直後だ重要なところ。
書いてあるのは、「垂直的な関係が弱毒化されて再導入されている」という内容です。(リフレクティングという)。
しかも、ご丁寧に「きわめて重要なのだ」とまで強調されています。ということはよほど重要なのでしょう。

なお、ここで明確に書かれているとおり、この文の筆者はリフレクティングをおススメしている人だという認識で読み進めると、この後が分かりやすいと思います。簡単に言えば、リフレクティングを用いれば、治療がめっちゃ上手くいくかも!という話です。

傍線部エまで踏み込む

このあと、リフレクティングの具体的な内容が続きます。
原則としては水平的な関係の中で決定していくのですが、この空間に若干の垂直的な関係を盛り込むのがリフレクティングだそうです。具体的には、患者から目を背けた状態で、医師などの専門家だけで話し合う様子を、患者が観察するというもの。これにより、患者の心の中で垂直的な対話が生まれるとのことです。

このあとはもう、傍線部エが登場してしまいますが、関係ありません。理解するのが大切なので、読み進めます。
オープンダイアローグは、専門家も家族も患者も関係なく対等に対話するので水平です。しかし、専門家が治療に関することを話し合い、それを眺めていることで、専門家たちのことを自然と「上」に見てしまう。これにより、患者の心の中に、専門家が上で自分が下だという「垂直的な関係」が生まれ、心の中で対話する、ということなのです。

傍線部エより先まで進んで読む

さらに進みます。
「たとえば」ときて、患者が父親のことを話題にした場合にどうなるかが書かれています。
患者が父親のことを話すと、聞いているメンバーの心の中に各々の父親(上の存在)が登場し、その父親と「垂直的な会話」をすることになるのです。

この段落で「ポリフォニー」と、「ポリフォニック」が登場します。
「そのような水平のポリフォニー」の解釈は、やや難しかったのですが、恐らくこれは「患者が周囲の人に対して父親のことを話題にしたこと」を表すのでしょう。水平のポリフォニーですから、垂直関係が登場してはいけません。あくまで父親のことを話題にしたということを表現していると思ってください。(私の解釈ですが)

一方、段落末の辺りに登場する「ポリフォニック」は、患者の発した父親の話題を聞いた参加者たちが、心の中にいる父親とも垂直的な対話を行うことになります。患者からの声と、父親との対話とで、たくさんの声が響き渡る。この様子を「ポリフォニック」と表現しているのではないかと考えました。

もう、最後まで行っちゃう

最後の段落です。
「このような技法」とありますから、リフレクティングを含んだオープンダイアローグのことです。水平だけでなく、リフレクティングによって垂直方向の対話も生み出す方法です。
これにより、「内なる声」のモデルを更新するだろうと書かれていますが、残念ながらどのように更新するか、などは書かれていません。

続いて「「内なる声」が超越的な権威として作用しないようにするための「抑え」として水平方向のダイアローグを用いる」と書かれています。「内なる声」と書かれていますから、これは、オープンダイアローグ中に行う「リフレクティング」のことでしょう。専門家の会話をきいているうちに、自然発生的に自分のなかに「内なる声」が生じ、垂直方向の対話が生まれるのです。しかし、専門家は決して患者本人に向かって話しているわけではありません。目を背けているし、患者に何かを強要しているわけでもありません。あくまで専門家同士の会話を聞いているだけなので、水平的な関係なのです。よって、「内なる声」が発生しても、超越的な権威にはならずに「抑え」ていられるのでしょう。

そして、次の文。
「そうすることによって、個人における変容を引き起こす」。この文を解釈するためには、設問二を思い出さなければなりません。

設問二に戻って、内容を振り返ろう

設問二の内容では、患者が横たわり分析家が近くに座ることで、分析家=超自我とみなしやすくなり、わざと垂直的な関係を作るという内容でした。こうして分析家が患者に対して解釈を行うことで、超自我のイメージが抑圧的ではなくなっていって、治療されていき、自らが根底的に変化する可能性を得るのです。

これを踏まえて、もう一度、最後の段落を読みましょう。
リフレクティングにより「内なる声」が発生するものの、超越的な権威にまでは発展せず、「抑え」が聞いています。こうすることで、「個人における変容を引き起こす」と書いてある。ということは、設問二と同じように、垂直方向の関係を利用することで、治療ができるというこのなのです。

過去最高に難しい問題

なお、設問三を解説するのに、傍線部エを飛び越えて深く考察し、さらに設問二の部分とも絡めてしまいました。こんなことは初めてです。
この作業を必要とするという時点で、過去の第1問の中でもトップクラスの難易度だと言えるとおもいます。
昨年も書きましたが、傍線部の近くをまとめれば答えになるなんていうのは、周回遅れです。東大現代文は毎年進化しています。

精神分析とオープンダイアローグの違い

本文前半で論じられていた精神分析は、患者を寝させて分析家が座るというように、露骨に垂直関係をつくって治療をしていました。しかし、(本文に書かれていませんが、推測するに)この方法では、分析家=超自我とみなした患者にとって、超自我が超越的な権威に思えてしまい、うまく精神分析ができなかったということなのだろうと思います。

そこで、オープンダイアローグを取り入れることになります。
オープンダイアローグは、全員が対等な関係だという建前があり、患者は専門家どうしの対話を目を合わさずに傍から眺めるだけです。しかし、見ているだけでも専門家の口から飛び出る言葉によって、患者の心のなかに「内なる声」が発生します。その「内なる声」は(またまた本文に書いていませんが)父親など権威を持つ人を想像させるので、垂直的な関係を心の中で発生させてしまうのです。
しかし現実には父親はいませんし、「上」と認識している専門家も、自分に何か強制するわけではありません。別の人と会話しているだけなのです。この水平方向の関係が「内なる声」が権威的になりすぎるストッパーになり、治療に役立つちょうどよい垂直方向を保つバランサーになっているということなのだと思います。

では、「ポリフォニー」とは?

もう最後まで解説してしまいましたが、設問三に戻りましょう。
「多数の声が響き合うポリフォニー」とは、オープンダイアローグで行われる対話のことです。これは、ミーティング参加者の声が重なり合っているだけではありません。参加者が発言したことによって、他の参加者の中で生じる垂直方向の対話もポリフォニーの一部ですし、リフレクティングによって専門家の対話を聞いているだけの患者の心の中に生じる「内なる声」との対話もポリフォニーの一部だと考えられます。

非常に長くなりましたが、このように考え、私の答案は以下のようになりました。

平井答案の解説

患者に関わる重要人物たちが患者と治療に関して対等に行う対話の声や、専門家同士のみで行われる会話を聞くことで患者の胸中に呼び起された抑圧的な存在との対話の声の重なりのこと。

別答案
患者に関わる重要人物たちが患者と対等に行う治療に関する対話の声や、その声を聴いて参加者たちの胸中に呼び起された抑圧的な存在との対話の声との重なりのこと。

・書く内容が分かってしまえば、まとめるのはそれほど苦労しませんでした。表現の工夫をしなければならないところもなく、「ポリフォニー」を「Aの声や、Bの声の重なり」としたことくらいです。まとめる作業自体は過去問とそれほど変わらない難度でした。しかし、書くべき内容が決まるまでが非常に難しい。
・傍線部エの1つ前の段落では、リフレクティングによって、患者は専門家の会話を聞き、自然発生的に心の中に垂直的な関係が生まれるとのことでした。しかし、傍線部エの段落とその次の段落では、患者や参加者の声によって、他の参加者の心に垂直方向の対話が生まれると書いてあります。専門家の会話で生まれるのか、参加者の声で生まれるのか、その両方なのか。イマイチ分かりませんでした。書いてないので仕方ありません。仕方がないので、答案を2つ作りました。

設問(四) このふたつの対話の協同こそが重要なのである

レーダーチャートは作成中

総合難易度
本文の読解
傍線部の構造
表現力
字数制限

もう解説してしまった

設問三が、本文を最後まで理解しなければならない問題で、ついでに設問二の部分までしっかり理解して利用しないといけないという、鬼難易度だったせいで、
設問四の解説は書くことがほとんどありません(笑)。
短いですが、最後までお付き合いください。

ふたつの対話とは?

傍線部は「このふたつの対話の協同こそが重要なのである」で、「どういうことか」と聞かれています。
まず行う作業は「このふたつの対話」という指示語の特定です。これは簡単で、直前に書いてある部分をみれば良いでしょう。「すべての参加者のあいだで行われる「水平のダイアローグ」」と、「それによって触発された個人の内部での「垂直のダイアローグ」です。

水平のダイアローグに関しては、傍線部ウより前に書いてあった部分のことでしょう。患者と関係人物たちが対等に対話するというものです。

「垂直のダイアローグ」に関しては、直前にはリフレクティングのことが書いてあります。専門家の声を傍から聞いた患者の心の中に垂直方向の対話が生まれるという内容です。しかし傍線部エの次段落には、患者の父親の話題に対して、参加者も父親のことを思い出す、と書いてあります。全然違う話のように聞こえますが、本文中には何も説明がありません。

傍線部エの直前の「垂直のダイアローグ」には「それによって触発された個人の内部での」と修飾があります。「それによって」とは「水平のダイアローグによって」という意味なので、参加者の声によって、他の参加者の心の中に垂直なダイアローグが生まれるということでしょう。

これで、ふたつの対話については特定できました。

協同と重要

傍線部エに戻って、続きです。
この二つの対話の「協同」こそが「重要」とあります。
「協同」の方は簡単です。水平方向のダイアローグと垂直方向のダイアローグの両方が作用するという意味ですが、これは最後の段落で解釈した通りです。

先ほど書いた部分を再記載すると

オープンダイアローグは、全員が対等な関係だという建前があり、患者は専門家どうしの対話を目を合わさずに傍から眺めるだけです。しかし、見ているだけでも専門家の口から飛び出る言葉によって、患者の心のなかに「内なる声」が発生します。その「内なる声」は(またまた本文に書いていませんが)父親など権威を持つ人を想像させるので、垂直的な関係を心の中で発生させてしまうのです。
しかし現実には父親はいませんし、「上」と認識している専門家も、自分に何か強制するわけではありません。別の人と会話しているだけなのです。この水平方向の関係が「内なる声」が権威的になりすぎるストッパーになり、治療に役立つちょうどよい垂直方向を保つバランサーになっているということなのだと思います。

垂直方向がないと治療にならない。でも、垂直方向だけだと抑圧的になりすぎても治療にならない。だから水平方向の要素も取り入れて、治療にちょうどよいバランスを保つということでした。

残った「重要」についても、もう分かるでしょう。両方が「協同」することで治療になるわけですから、重要なのです。

ということで、答案です。

平井答案の解説

患者と関係人物たちが行う対等な対話と、その声により患者に発生する胸中の存在との対話との両方が同時に発生することで、患者の精神を脅かす抑圧的な存在が権威を持ち過ぎないように緩和され徐々に抑圧的ではなくなり治療されていくということ。

・解説に書いた内容をコンパクトにまとめた、というような内容です。

まとめ・講評

読解が難しかった~。
後半の一文ずつの説明が足りずに、かなり文脈から補って解釈しなければならないため、非常に難しかったです。一応、全体的に辻褄が合うような解釈になったので、これで良いと思うのですが、試験中の時間内には難しいでしょう。
第4問も難しかったですから、受験生の得点はあまり高くなかったのではないでしょうか。もう少し解釈のブレが少なくなるような問題にしてくれるとありがたいのですが。

上の方にも書きましたけど、東大現代文は毎年新傾向の問題を出してくるので、固定観念を外して取り組みましょう。

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