2021年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

世界と日本における女性の労働に関する出題でした。
近年関心が高まっている女性の労働格差問題というテーマを通して各国の社会的背景や日本の状況を考えさせる問題形式には、推論や最近の社会問題を重視する東大らしさが詰まっているように思えますね。

設問A

世界における女性の労働力率から考えさせる問題でした。イスラエルやフィリピンの社会状況を把握していた受験生は少なかったのではないでしょうか。
様々な答案が予想される問題でしたので、得られる学びも大きいと思います!

設問(1)

共通テストレベルの問題でした。
スウェーデンなどの北欧諸国は社会福祉制度が充実し、育児休暇制度託児所整備などもしっかりしているため、働きながら子育てする環境が整っていることは有名ですね。

よって、まず全体的に女性の社会進出が進んでいることが読み取れるAがスウェーデンに該当します。

つぎに、トルコはイスラム教国です。イスラム教では女性の社会進出に制約を課している国が多く、そのため女性の社会的地位が低く、社会進出が進んでいないと考えられます。よって、Aとは対照的にどちらの割合も低くなっているBがトルコに該当するでしょう。

残った日本がCですね。

設問(2)

イスラエルが周辺国よりも女性の労働力率が高くなっている理由について問われています。

まず、イスラエルはユダヤ教国であるのに対し、周辺国はイスラム教国です。上述の通り、イスラム教国では女性の労働力率が低くなるので、相対的にイスラエルが高くなります。

また、イスラエルは男女平等が宣言され、公的に男女の同等な権利や義務を有することが保障されるなど、女性の社会参加が進んでいる国でもあります。

設問(3)

フィリピンにおいて管理職に占める女性の割合の高さ女性の労働力率の低さの違いが生じる理由について答える問題です。一見矛盾することが同時に起きているため、考えづらい問題だったかもしれません。

まずフィリピンの都市部に居住している女性は大学進学率が高く、高学歴を背景に管理職に就く人が多いことが上がられます。

一方で、農村部の女性は早めに結婚して専業主婦となるか、高等教育を受けられずに収入が不安定なインフォーマルセクターに従事する人が多いようです。インフォーマルセクターとは、統計に計上されないような仕事のことです。専業主婦もそうですが、スラムで靴磨きなどをして日銭を稼ぐような仕事も該当します。こうした人々は労働力率に換算されないため、労働力率を下げている一因となります。

また、フィリピンの女性若年層は海外に出稼ぎに行く人が多く、これも労働力率には換算されません。
本年度の東大地理第2問設問Bでは留学がテーマでしたが、外国で仕事をすることによって専門技術を身につけ、帰国した後に管理職で活躍するという考えられます。

答案比較

設問(2)

Aさん
周辺国はイスラム国家であり、女性の社会的地位が低いが、イスラエルはユダヤ人国家であり、比較的女性の地位が高いから。

Bさん
イスラエルはユダヤ教の信者が多いが周辺のアラブ諸国は女性の立場が弱いイスラム教の信者が多いから。

両名とも宗教による女性の社会的地位の違いについて考えられていますね。

Aさんは非常に分かりやすい文章構成になっていて良いと思います。しかし、後半のユダヤ人国家であることで女性の地位が高くなるというのは理由としてはパンチが弱いと思います。直接的に「女性の社会進出が進んでいる」で良いでしょう。また「比較的」という副詞は形容詞の前に置く方がわかりやすいので、「女性の地位が比較的高いから」とすると読みやすいです。

Bさんは対比で書こうとしていますが、イスラエルでの女性の社会的地位が高くなる理由が無く、周辺国で女性の社会的地位が低いということしか伝わらないため、内容的に薄くなってしまっていますね。

設問(3)

Aさん
高等教育を受けた中産階級以上の女性が高い役職に着くものの、非都市部の女性は貧困層が多く、インフォーマルセクターに従事するため。

Bさん
高等教育を受けた女性や海外就労により専門技術を習得した女性が管理職に多く登用される一方で、貧富の差が大きいために家事労働やインフォーマルセクターに従事する貧困層の女性も多いから。

Aさんから見ていくと、やや断定しすぎているところが目立つ答案だと思います。

中産階級以上の女性に限定する必要はないですし、「高い役職」というのがおそらく管理職のことを指しているのでしょうが何が高いのかもよく分からないので曖昧に書くよりは管理職と具体化してあげると良かったでしょう。
「着く」は「就く」の方が正しいです。

また、非都市部の貧困層の女性が全員インフォーマルセクターに従事するわけではないので、ここは「従事することが多い」くらいにぼやかした方が良いです。

Bさんは端的にいくつかの要素をまとめられていて読みやすい答案でしたので、合格答案として良いかと思われます!

 

設問B

日本の女性の労働人口と労働従事者の割合に関する問題でした。
東大では頻出のテーマですのでよく学ばれてください!

設問(1)

日本の地方別に2010~15年における女性の職業別就業者数の増減を表した表3-2のアイウに農林漁業、生産工程、サービス職業のいずれが該当するか答える問題です。
産業ごとのイメージがあればわりと解きやすい問題だったかと思います。

アは北海道を除く地域でおおむね増加しているため、女性でも就業しやすいサービス職業が該当します。
また、イとウでは、全体的にウの方が減少幅が大きいことに注目し、産業の安定性を比べるとよいでしょう。そうすると、景気の変動や円高・円安、東日本大震災などの影響を受けやすい生産工程の方が不安定で、生活に直結する農林漁業は安定しているため、イが農林漁業で、ウが生産工程となります。

農林漁業に従事する人が減少している印象から、イとウを逆にする人も多くいたようですが、農林漁業は食に関わる産業です。景気の変動や天災が起きようと、人間が食べる量は変わりません。人口が減少したり、輸入量が増えれば下がりますが、一定の需要は常に担保されていますから、大幅には下がらないだろうと予想することも可能でしょう。

設問(2)

ウの生産工程と同様に販売従事者がどこでも減少している理由を生産工程での減少の理由と比較しながら答えさせる問題です。

まず、ウの生産工程の女性従事者数の減少を考えていきましょう。そもそも、生産工程の仕事が必要とされる工場の数が減っていることは有名だと思います。製造工場の海外移転によって男女関係なく従事者が減少したのでしょう。また、ロボットやAIの導入により製造工程の自動化が進んでいることも理由として挙げられます。

東北地方では高速道路沿いに半導体工場が多く存在していて、そこでも作業や管理の自動化による、作業ミスの防止とコストの低減、各種データの見える化による製品品質の分析時間の短縮、品質向上などなど様々な企業努力が行われています。

同様に、販売従事者に関しても自動化が進んでいることが減少理由として挙げられるでしょう。セルフ形式のレジが増加したことなどはいたるところで見かけるのでわかりやすいと思います。

さらに、インターネット販売の増加も販売従事者を減少させています。携帯やパソコンでワンクリックすれば購入手続きが終わってしまうのですから、非常に便利です。普及するのも当然です。

答案の構成としては生産工程では工場の海外移転、販売従事者ではインターネット販売の増加、2つに共通して自動化が進んだことを書いてあげると分かりやすく比較できるのではないでしょうか。

設問(3)

管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者、事務従事者の合計が全国的に増加しているが、特に首都圏で増加している理由について「オフィス」「若年層」を使って答える問題です。

まず、3つの合計された職業のうち、管理的職業従事者は少ないと思われます。なぜなら、設問Aで示されているように日本で管理職に就く女性の割合は非常に低いからです。
指定語句から推論すると、首都圏では企業の中枢管理機能が集積していて、「オフィス」が立ち並ぶため、事務従事者や管理職従事者が多くなるのではないかと考えられます。

また、「若年層」を考えましょう。大学などの高等教育を受けた後に首都圏で就職する学生が多いことは、首都圏に住む方だったらより想像がつきやすいかもしれませんね。高等教育を受けた若年層なら専門的・技術的職業も就きやすいですしデジタル化の進む世の中で、首都圏に進学・就職してきた、デジタルネイティブと呼ばれる若年層はデジタル化した事務作業もスムーズに行えるのではないでしょうか。首都圏に大学数が多いことや中枢管理機能が集積するという知識はよく問われますので教科書などでも確認しといてくださいね。

答案の構成としては、首都圏に中枢管理機能が集積してオフィスや大学が多く、女性若年層が事務職業や専門的・技術的職業に就きやすい環境が整っているようなことを書けると良いでしょう。

設問(4)

1960年代後半から1970年にかけて合計特殊出生率が全国的に高かったのに、1970年代以降から現在まで、首都圏の合計特殊出生率が他の地方と比べて低い水準となってしまった理由について問うてる問題です。
つまり合計特殊出生率が昔は全国規模でも首都圏では高く、現在は全国規模で言うと低いという特徴の理由を答えればいいわけです。

一般的に、女性若年層が多い方が合計特殊出生率は上がりやすいと考えられますが、1960年代といえば高度経済成長期にあたり、地方の農村から三大都市圏や太平洋ベルトに若年層が流入していたことは有名ですね。
当然女性若年層も首都圏に集まってきたわけで、合計特殊出生率が高まることは想像しやすいと思います。

また、当時の女性はキャリアアップを目指すよりも結婚後に専業主婦になる傾向が強かったことも一因と言えるでしょう。これは逆に地方に住む受験生の方が想像がつきやすかったかもしれませんね。筆者は地方出身なので「男は仕事に出て女は家庭を守れ」みたいな古い価値観が根強いように感じます。

現在においては、女性の社会進出が進み、非婚化・晩婚化も進んで合計特殊出生率は低い水準となっています。また、育児休暇制度や託児所の設置などの育児支援策が十分ではなく、働きながら子育てをすることは難しい環境にあるため、特に首都圏でキャリアアップを目指す女性は出産は難しい決断になると思います。

答案の構成は、高度経済成長期の人口流入と女性の専業主婦を選ぶ傾向などを書き、現在の女性の社会進出や非婚化・晩婚化、育児支援策の不足などから合計特殊出生率が下がっていったというふうに過去から現在までの順番で書けるとわかりやすいと思います。

答案比較

設問(2)

Aさん
ウでは生産工程の機械化や工場移転が進み、販売業ではインターネットの普及により通信販売が拡大したから。

Bさん
インターネットなどの技術発達により、通信販売が以前より一般的になった事や、セルフレジ並びに各種キャッシュレス決済が普及し始めたため。

Aさんから見ていきましょう。
まず、「ウでは生産工程の機械化」とありますがらウ=生産工程であるため、同義反復になります。「生産工程の機械化 」というよりは自動化が進んだくらいで書いていいと思います。
減点対象ではないですが、通信販売の拡大だけでなく販売業でも自動化が進んだことを言えると対比が分かりやすくて良かったでしょう。

Bさんは販売業に関する言及しかできていないですね。問題文では比較しながら答えるように言われているので、問いに答えられてないということで減点されるでしょう。
通信販売が普及した理由などは書けていて良かったと思います!

設問(3)

Aさん
高等教育を受けた、デジタルネイティブ世代の若年層が多く集まるエリアで、デジタル化した様々なオフィスワークの雇用需要があるため。

Bさん
首都圏には大企業の本社のオフィスが集中しており、また大学も多いため専門知識を学んだ若年層が集まりやすいから。

Aさんから見ていきます。
おそらく若年層という指定語句を中心に考えて、大学が集積することやデジタル化への対応がしやすいことを理由として書こうとしてるのでしょうが、構成としてデジタル化への対応だけが強調される形になってしまっています。
しかし、デジタル化だけで言うと全国的にデジタル化は進んでいるため、首都圏で若年層の女性が多い理由としては弱い気がします。あくまで中枢管理機能の集積や大学が集中していることを基本に、エッセンスとしてデジタルネイティブなどのことを書けると良かったと思います。

続いてBさんは、すっきりしていて良かったと思います。ただ、「大企業の本社」と限定する必要はないと思うので、これも中枢管理機能の集積を指摘してあげると良かったでしょう。
減点対象ではありませんが、ただ「若年層」と書くよりは「若年層の女性」と入れてあげた方が、設問の要求に従っているかと思われます。

設問(4)

Aさん
高度経済成長期に地方から若年層が流入し家庭を築いたが、近年に女性の社会進出が都市部で顕著な一方、核家族化の進展で親を頼りづらくなるなど、仕事と育児の両立が困難となっているため。

Bさん
オイルショックにより首都圏の企業は大打撃を受け、多くの労働者が出身地や他の都市圏へと移住する事になった。加えて、失業による家庭財政の、共働きの需要から女性の社会進出が促され、出産や育児の機会が減少した事が拍車をかけていため。

Aさんは、高度経済成長期の記述を短く済ませ、近年の状況に重点を置いていますね。
高度経済成長期に地方から若年層が流入しただけでは少し理由としては弱いので、たくさん移動したニュアンスを出せると良いでしょう。
また、後半を短くすると女性の社会進出が都市部で顕著に進んでいる一方で、仕事と育児の両立が困難となっているというようになります。しかし、どちらも女性が育児をしにくくなっている理由ですので、「一方」と逆接の意味を持たせる必要はないと思います。核家族化による弊害に目をつけた点は素晴らしかったです!
非婚化・晩婚化が1番大きな原因であるとされているため、言及できると良かったですね。

Bさんは、オイルショックによる影響に着眼したのは面白いですが、多くの労働者が他地域に流出したと言うだけでは問いに答えられていないと思います。

また、女性が社会進出した背景まで説明している点は良いですが、「家庭財政の悪化」や「共働きの需要」などは不適切だと思います。「家庭財政の悪化」に関して、Bさんの答案では、その原因が失業だと指摘しています。ということであれば「失業率の悪化」と言い換えても良いと思いますが、日本の失業率は非常に低い時期が多く、長期的な出生率の低下の理由としては適切ではないと思います。
「共働きの需要」は、恐らく景気悪化によって、夫婦で働かないと収入が担保できなくなった状況を示唆しようとしているのではないかと思います。「景気悪化によって、共働きをする家庭が増え」など平易な日本語で書けると良いと思います。

文末の「拍車をかけている」という表現も何に拍車をかけているのか分かりづらいですし、口語的ですので答案としては好ましくありません。「助長している」などと書き換えられます。

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