2026年(令和8年)東大国語を当日解いたので、所感を書いてみた。
目次
【科目全体の所感】
総合難易度 (検討中)
第一問 標準
去年、こう書きました。
「東大の国語第1問は毎年マイナーチェンジされていて、少しずつ傾向変化があります。細かい部分で、過去問だけでは対策できないことがありました。」
これがまた当てはまる問題だったと思います。
表面的には、同じような問題文の量、形式ではありますが、中身をよく見てみると異なる解法、異なる読解、異なる記述方法を求められるようにマイナーチェンジされています。
文章としては、ここ数年続いていたテーマとは違って精神分析がテーマ。
実験とか調査を題材にせずに、正統派の論文という感じで、伝統的な現代文の問題という感じでした。
第二問 やや容
読みやすい文章でした。
一昨年2023年の『沙石集』「耳売りたる事」ほどの容易さではないけれど、
2021年『落窪物語』、2022年『浜松中納言物語』、2024年『讃岐典侍日記』よりはかなり解きやすく、
昨年2025年『撰集抄』よりも解きやすかったかと思います。
問3の状況説明で「狭衣大将の夢の中に女君が出てきたこと」を指摘する必要があります。
「らうたげ」で女性だとわかればすぐに状況がわかるのですが、古文常識で主語を把握するトレーニングをしていない方は混乱したかもしれません。
第三問 検討中
検討中
第四問 難
もうガッツリ心情説明の問題じゃん!
というのが始めの感想。2021年の東菊の時には、心情説明の問題が出てビックリしましたが、今となっては驚きません。今後のトレンドになる可能性が高くなってきたので、注意しましょう。
答案のヒントも少ないし、根拠となる部分も明確に書かれていないため難しいと思います。
第一問(現代文)松本卓也『斜め論 空間の病理学』
難易度 標準
2023年の仮面、2024年のタンザニアの行商人、2025年の鏡像認知と来て、今年は精神分析。テーマとしては、昔からよく見るものですね。そういう意味で東大「らしい」問題でした。
本文全体で2つのテーマについて説明していますが、その2つを比較するのかと思ったら、並列して終わってしまいます。つまり、本文全体が前半と後半で完全に2分割されているという、非常に珍しい構成です。小さい第1問が2つ存在するような感覚で、世界史の第1問の大論述が分割されたみたいだなと思いました。
また、2023~2025年と非常に読みやすく、論理がキレイに通っている文章でしたが、それに比べると読みづらく分かりづらい文章だと感じました。「何言っているのかわからない」という場所もチラホラ登場します。
こういう場合の対処法も問われますね。
総合難易度は、やや難化したと思います。
設問一 易
設問一までは、非常に分かりやすい文章でした。内容としても困ることはないでしょう。
傍線部一まで読んでいれば答案も書けそうなので、書いてみようとすると、恐らく字数が短すぎて戸惑うのでは?50字くらいでも答案が書けそうです。
ここ最近、傍線部の後ろの方まで読まないといけない文章が出たので、後ろの方を読んでみると、内容として大きく展開しないので、使おうと思えば使えます。
但し、設問(二)との棲み分けをどうするかも検討しなければならず、この点に関しては受験生の中でかなり判断が分かれたと思われます。
なお、傍線部のあとの方まで読まないといけないのは、ここ最近のトレンドです。「東大現代文は傍線部の前後を読めば解ける」という安易なテクニックを習う方もいるようですが、そういう受験生こそふるい落とされかねないので、気を付けましょう。
傍線部の言葉が平易なので、「人間どうし」や「ごくふつう」は言い換えに困らないですし、内容も深いものではない。簡単です。「水平的関係」も対等などがすぐ思いつくでしょう。
やや難しいのが「人工的」で、もっと困るのが「垂直的関係」でしょう。これをどう説明するかが、この問題の肝です。
即席の評価
本文の読解3
傍線部の構造2
表現力2
字数制限1
総合難易度2
設問二 やや易~標準
傍線部の直後から「オープンダイアローグ」についての段落になるので、傍線部より前から「なぜか」の問いに答える理由を探します。
すると直前の段落に、核となる理由が書かれているので、それを書けばまずはOK。
要するに「超自我と同一視された分析家が患者に対して解釈を施すことで、患者が抱いている過去の抑圧的な超自我のイメージを、徐々に抑圧的でない方向に緩和していく」というようなことでしょう。
ただし「超自我」はそのまま答案に使えないので、自分で説明する必要があることがまず1点目。
次に、なぜ「分析家が患者に解釈を施すと、患者が根底から変化するのか」というロジックが良く分からないのが2点目として難しいです。
本文に説明されていないので、もうそういうものとして受け取るしかないのかもしれませんが、本文の解釈が不十分になってしまうので、(特に去年までのロジックがキレイな問題とは違って)納得して理由を説明するのも難しいです。
即席の評価
本文の読解3
傍線部の構造2
表現力3
字数制限2
総合難易度2
設問三 標準~やや難
スタッフと話していたのですが、このくらい抽象的な傍線部じゃないと面白くないですね。
最近の東大の問題は、分かりやすくて解くやすく、抽象度も低くて、私のような「舌の肥えた」人からすると、少し物足りません(笑)
まずモノフォニーとポリフォニーで「なんじゃこれ」となると思います。注釈もありませんし。
シンフォニー(symphony)とは「交響曲」ですが、(すごく雑に説明すると)「sym」の部分が調和で、「phony」の部分が音をあらわすそうです。
「モノ(mono)」と「ポリ(poly)」はそれぞれ数をあらわします。モノは1つで、ポリはたくさん(複数)です。理系の受験生は、化学で登場するので、ほんのちょっとだけ有利でしたね。
ということで、モノフォニーは「1つの音」、ポリフォニーは「複数の音」という意味でした。
さて、このように「和訳」しただけでは解答になるはずもなく、本文の文脈における「ポリフォニー」とは何かを説明しなければなりません。表面的には「患者を含め、患者に関わる重要人物たちが、対等な関係で行われる会議のこと」ですが、これでは不十分です。
例えば、本文の最後から2段落目には、患者が父親のことを話題にしたとき、他のメンバーの心の内部にも父親をめぐる連想が生じて、それを「水平のポリフォニー」と称しています。また、個人の内部で「内なる声」との対話がポリフォニックな仕方で可能になるとも。
つまりポリフォニーにはなにやら深い意味があるため、これを解明することが難しい問題です。
即席の評価
本文の読解4
傍線部の構造3
表現力4
字数制限3
総合難易度3
設問四 標準
「さあそろそろ設問四だ。
最後、精神分析との共通点とか相違点とか出てくるのかな。」
という「内なる声」に応えずに、交わることなく終わってしまいました。
傍線部は「ふたつの対話の協同」についてですが、これは直前に書かれている「水平のダイアローグ」と「垂直のダイアローグ」です。
つまり、水平のダイアローグと垂直のダイアローグを両方行うことが大事だよ、という内容なのですが、ここで疑問。
「個人の内部での垂直のダイアローグとは?」
ここで登場する「垂直」は、設問一で登場した「垂直的関係」とは意味が違います。では、どんな意味なのかというと、書かれていません。
そこで、周辺の文章から推測しなければならないのですが、周辺も書いてあることが良く分かりません。ちょっとでも手がかりが欲しいと思って、丁寧に読み、何とか理解するしかなく、少し時間がかかるでしょう。
また、「本文全体の趣旨を踏まえて」の条件にも注意。
「この条件が出たら、本文全体を要約すれば点数になるんだ!」とか「ここまでの設問に全部触れるんだ」みたいな指導をされると聞いたことがありますが、そんなことをしたら、内容が滅茶苦茶になります。なぜなら、傍線部エはあくまで「オープンダイアローグ」についてのことであって、精神分析の話ではないから。
ここも、安易な考えをしている受験生をふるい落とそうとしているのかと疑ってしまうような設問でした。
即席の評価
本文の読解3
傍線部の構造2
表現力4
字数制限3
総合難易度3
設問五(漢字の書き取り)
漢字は、「変貌」「親戚」「幻覚」の3つが問われました。例年より難しい気がします。「変貌」や「親戚」は書けない受験生も多かったのではないでしょうか。
今後、漢字のレベルが上がるかもしれないので、要注意です。
第二問(古文)『狭衣物語(さごろもものがたり)』
難易度 やや易
読みやすい文章でした。
主語把握に迷う箇所もほとんどなかったかと思います。
設問も(四)以外はほとんど難しくなかったですね。
設問一 標準
傍線部ア・イ・エを現代語訳せよ。
ア なべてならずせさせ給ふ 易
「せさせ」が「サ変+使役」であることを迷う受験生がわずかにいるかもしれませんが、多くの受験生が迷わない設問だったかと思います。
但し、「並々でなく」に”立派に”や”手厚く”などを補足できるとさらに良いです。
補足できている受験生がある程度いれば、相対評価で補足していない受験生を減点させる可能性はあります。
※「わかりやすく現代語訳せよ」という設問ではなくシンプルに「現代語訳せよ」なので、補足無しでも減点は無いかと思いますが。
イ 袖濡らさぬ人もありがたげなる 易
「涙」を書けない受験生はほとんどいないかと思います。
エ えまねばぬは、なかなかかひなし やや難
古文単語「まねぶ」にある「(見聞きした事実を)そのまま伝える」の意味を知っているかどうかという知識面と、たまに古文の物語文で見かける作者が「すごすぎて書き尽くせない!」というのを知っているかという多読量?深い古文常識?が問われた問題でした。
なお、「まねぶ」はメジャーな古文単語帳2つを比べますと、
『古文単語315』(桐原書店)ではイラスト付きの見出し語で、
『古文単語330』(いいずな書店)では関連語でした。
300語レベルの単語帳では必ず関連語も習得する必要があります。
(さらに、古文単語315と古文単語330を比較して、片方の見出し語で他方には掲載が無い単語もできれば覚えてもらいたいです。詳細はこちらにございます。)
設問二 やや易
「げに口借しかりける命のほどかな」(傍線部ウ)とはどのような心情か、説明せよ。
傍線部を正しく訳す力と、
前文の「いとかばかり思されたり」に注目して、大将の深い愛情(あるいは嘆き)を説明する力が求められています。
設問三 標準
「ただありしさまにて、かたはらに居て」(傍線部カ)とはどういうことか、状況がわかるように説明せよ。
前後の「まどろみ」や「ふと目覚めて」から、夢の中の状況だと気付く必要があります。
「らうたげ」で女性だとわかればすぐに女君だとわかるのですが、古文常識で主語を把握するトレーニングをしていない方は少し混乱したかもしれません。
設問四 難
「とふにぞかかる光をも見る」(傍線部力)とはどういうことか、説明せよ。
かなり難しい設問なので、これは取れなくても気にしないで良いと思われます。
設問五 標準
「経を読み給ふ」(傍線部キ)とあるが、それはなぜか、直前の和歌の内容をふまえて説明せよ。
古文常識として、極楽往生を求める考えを知らないと難しかったかもしれません。
第三問(漢文)白居易(はくきょい)『白氏文集(はくしもんじゅう)』
難易度 検討中
分析中です。
第四問(現代文)中谷美織「宿雨のあとで」
難易度 やや難~難
去年、久しぶりに小説だ!となったのですが、2年連続でしたので明らかに狙ってますね。敬天塾では心情説明の問題について、今後のトレンドになるのではないかと思って教材作成などをしてきましたが、当たりました。なお出典は新潮社の「小説新潮」の一作品だそうです。
初読の印象としては「難しい!!」でしたが、冷静になってみると去年ほどの難易度ではないですね。去年の方が答案の方針に困りました。
全体的に答案のヒントや根拠となる部分が少なく明確に書かれていません。心情説明の問題では、登場人物の設定(プロフィールや出来事)が非常に重要です。これを見逃さないようにして、全体のテーマを掴めれば、答案の方針が思いつきやすいと思います。
設問一 やや難
難しい問題ですが、今年の4つの中では解きやすい方です。
翔子(子ども)の心情を説明するのですが、翔子に関する情報が少ない!
近くにヒントとして「つまらなそう」や「やる瀬なさ」などがありますが、これだけでは足りないので、なぜつまらないのか、なぜやる瀬ないのかを書き足さなければなりません。
引っ越しで友達と引き離され、新しい環境では好奇の目に晒されています。それがやる瀬なくなり、新しい環境の全てが嫌になるのでしょう。だから、一見クリスマスツリーのような楽しそうなものでも、踏みつぶしてしまうのです。
設問二 やや難
実は一番難しいかもしれない問題。
謎の女、弥生さんのちょっとした仕草についての心情説明です。
心情はパーソナリティからかなり推測できます。しかし弥生さんの個人情報についてまとまって書いている場所がありません。
そこで、断片的な情報をかき集めてみると、年齢は主人公の亡き母と同じくらいで、恐らく旦那さんに先立たれている(最後に、「夫がね、そういうひとだったの」と言っている)。目は胡桃色で声が小さいです。
なお、弥生さんはどこに住んでいるのか。
冒頭で主人公と翔子は、いつのまにか住宅街を外れて牛舎の近くまで散歩してきて、そこで弥生と出会います。しかし傍線部ウのすぐ後ろでは、弥生に会うために斜向かいに向かっています。住宅街の外なのか、斜向かいなのか。もしかすると両立する立地があるのか。
もし何かわかる方法があったら、教えてください。
弥生の心理については詳しく書かれていませんが、悪戯っぽく微笑んだということは、子どもを誘って遊んであげようという童心や、子どもの冒険心をくすぐろうとする意図がありそうです。このあたりを書くのがスタンダードな答案かなと思います。
最後に、設問の条件が少し捻られています。「ここからは弥生のどのような気持ちが読み取れるか」とありますが、これはストレートに心情を聞くより、幅広く答案を受け付けるとか、弥生のセリフそのものの心理より、もう少し奥に潜む心理を聞き取ろうという意味かなと思いました。
設問三、やや難
今度は母親です。これも、4つのうちでは読み取りやすいでしょうか。
まず注目すべきは、直前の「祥子のための提案ではあったが」の部分。ココがヒントになっていて、「実は母自身の気持ちに従っている」ということが分かります。
では母自身の本音とは何かというと、この傍線部は娘に「弥生さんに会おう」と提案するセリフを言っている場面の心理ですから、弥生さんに会いに行こうと思うきっかけを探れば良いです。
これは傍線部より少し前に色々書かれています。授業参観をサボる原因として、お知らせが明朝体で書かれているとか(明朝体はかしこまった印象や無機質な印象を与えるフォントです)、翔子が母に来てほしくないと思っていること、虚ろな目、夫の無関心などなど、
そういったものが全てばかばかしくなったと書かれています。
つまり、このような状況から解放されたいという心理が働いたのでしょう。
設問四、とても難
これも難しいですが、ヒントは分かりやすい。
「あんまりこっちへ、こっちへとやりすぎると、なんだかうまくいなかったりもして」という弥生のセリフがあって、思わず翔子を見ます。その翔子は笑っている。しかし引っ越す前では今の何倍も笑っていたことを思い出します。
つまり、母親として祥子にたいし「こっちへこっちへ」とやりすぎてしまったという後悔や反省があるのでしょう。今は笑っているけど、その笑い声は小さくなっている。そのことに思わず気づかされてしまったということでしょう。
では「こっちへこっちへ」の正体とは何かというと、「引っ越し」に他なりません。そのような親の心が反映されている仕草でしょう。

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厳格ではなく幻覚ですかね
はずかしい。
直しておきます。ご指摘ありがとうございます。