2023年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の解答(答案例)・解説

第2問B 和文英訳

(編集部注)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。

問題

なぜ歴史を学ぶようになったのか、理由はいろいろあるのだが, いまの自分たちの住む世界について, それがどのように出来上がってきたのか, なぜいまのような形になったのか,ということにぼんやりとした関心があったことは確かだろう。さらにもう少し掘り下げてみると, 日本の近代化がヨーロッパの影響を受けながら辿ってきた道筋を考えるには, そのヨーロッパのことをもっと知らなければならない,といったことも感じていたのだった。 高校時代はアメリカにあこがれていた。 当時流行っていたフォークソングに惹かれていたし, 西部劇や東部の有名大学の学生たちのファッションにも夢中になっていた。 それが大学に入ってからヨーロッパ, 最初はドイツ, やがて英国に関心が移っていったのは自分でもはっきりと説明することは出来ない。
(草光俊雄 『歴史の工房 英国で学んだこと』)

総括

2018年に20年ぶりに復活した和文英訳問題ですが、本年度も2Bで登場しました。
皆さんは、和文英訳と聞いた時に、どのようなスキルが求められるとお考えですか。

基本構文の駆使、正確な文法力、豊富な語彙力、スペルミスや句読点の付け忘れなどへの注意力といったものが、とっさに思い浮かぶでしょう。

また、中学高校で和文英訳の授業は自由英作文に比べれば頻繁に実施されていますから馴染みのある出題形式ですし、並べ替えや穴埋め問題と並んでオーソドックスな問題形式として和文英訳は知られています。

ですが、なぜか東大2B和文英訳では全然点数が取れないと嘆かれる方が毎年多くいらっしゃいます。
学校や塾の和文英訳では、いつも満点を取る子でもです。

なぜに同じ和文英訳なのに、こうも違うのでしょうか。

それは、英訳目的が異なるからです。
学校でやる和文英訳は、基礎構文力を身につけることに重きが置かれ、扱われる題材も学習効果を高める観点から作られた短文ですから非常に取り組みやすいのです。

その一方、東大入試で課される和文は、受験生を選抜することを目的とし、書籍から一部抜粋したもので英訳されることを前提とした文ではありませんから分かりづらく、逐語訳でもしようものなら文意が崩れてしまう特性があります。

東大教授は、受験生に構文力を身につけてもらうために出題しているわけではないということですね。

東大側がどのような点を受験生に問うているかというと、
① 基礎構文力(文法力)
② 語彙力
③ 言い換え力(文意把握力)

の3点だと私は考えます。

多くの受験生は①と②に主眼を置きますが、実のところ、この③が東大英作文で求められる最重要項目だと言っても過言ではありません。

たとえば、「猫の手も借りたい」を英訳する時に、字義通りにI want to borrow a cat’s hand.と訳しても意味不明ですよね。
そうではなく、ここで伝えたいニュアンスは助けが欲しいということですからI need your help.と訳さなくてはいけないわけです。

これに似た問題を東大は2003年2Bで問うています。
以下、問題文を掲載します。

次の文章は、あるアマチュア・スポーツチームの監督の訓話の一部である。この中の、「雨降って地固まる」という表現について、それが字義通りにはどういう意味か、諺としては一般的にどのような意味で用いられるか、さらにこの特定の文脈の中でどのような状況を言い表しているのかの3点を盛り込んだ形で、60語程度の英語で説明しなさい。

昨年は、マネージャーを採用すべきであるとかないとか、補欠にも出場の機会を与えるべきだとか、いやあくまで実力主義で行くべきであるとか、チームの運営の仕方をめぐってずいぶん色々とやり合いましたけれども、「雨降って地固まる」と申しまして、それで逆にチームの結束が固まったと思います。今年もみんなで力を合わせて頑張りましょう。
(東大2003年)

これは自由英作文の問題ではありましたが、言葉を字義通りに捉えても適切に英訳はできないことを示す好例です。

皆さんは、東大2B英文和訳の解答例を参考書などで確認すると思います。
プロの先生方が時間無制限で調べながら書き上げた英文ですから、非常に優れた英文ばかりですよね。
私が受験生だった頃は、こんなの一生書ける気がしないと思ったものです(笑)。
もちろん、こういったプロの解答例がスラスラ書けたら、こんなにも素敵なことはありませんが、大多数の東大受験生は塾講師のようには書き上げることはできません。
ルノワールやピカソの名画を芸術鑑賞したところで、巨匠と同じような絵を描けないのと同様に、模範答案を呆然と眺めるだけで、ある日目覚めたら、突然にすらすらと英文が書けるようになることはないのです。

では、諦めるしかないのかというと、決してそんなことはありません。
本稿では、エレガントな解答例を示すというより、満点でなくとも、泥臭く点数を取る思考プロセスを詳述していきたいと思います。

2Bに苦手意識のある方にこそ、是非熟読していただきたいと思います。
きっと、表現することが楽しくなってくるでしょう。

思考プロセス

問題文を再掲します。

なぜ歴史を学ぶようになったのか、理由はいろいろあるのだが, いまの自分たちの住む世界について, それがどのように出来上がってきたのか, なぜいまのような形になったのか,ということにぼんやりとした関心があったことは確かだろう。さらにもう少し掘り下げてみると, 日本の近代化がヨーロッパの影響を受けながら辿ってきた道筋を考えるには, そのヨーロッパのことをもっと知らなければならない,といったことも感じていたのだった。 高校時代はアメリカにあこがれていた。 当時流行っていたフォークソングに惹かれていたし, 西部劇や東部の有名大学の学生たちのファッションにも夢中になっていた。 それが大学に入ってからヨーロッパ, 最初はドイツ, やがて英国に関心が移っていったのは自分でもはっきりと説明することは出来ない。
(草光俊雄 『歴史の工房 英国で学んだこと』)

下線部を句読点ごとに区切ってみますと、4つのパートに分かれます。

① さらにもう少し掘り下げてみると

② 日本の近代化がヨーロッパの影響を受けながら辿ってきた道筋を考えるには

③ そのヨーロッパのことをもっと知らなければならない

④ といったことも感じていたのだった。

とあります。

多くの受験生は下線部だけ読んで英訳を試みるわけですが、なぜに東大側が下線部前後の文章を載せているのか考えてみてください

それは、訳しづらい箇所が出てきた時にヒントにして欲しいという思いを込めているからです。

4A正誤でも、4B英文和訳でも、5の物語文でも下線の所だけ拾い読みする受験生が多くいますが、東大教授も作問にあたり、そうした受験生の存在を想定してワナを仕掛けています。

2Bについては、確かに下線部だけ読めば何とかなることも多いのですが、2020年2Bの「まゆつばもの」のように、下線部以外のワードから適切な訳語を類推しなければならない設問も出されますので、臨機応変に問題文を活用しましょう。

なお、東大や京大の2Bでは堅い文体で人生訓などありがたいお話がよく出されますので、文意を正確に把握するためにも日本語の語彙力を磨くことも忘れないようにしましょう。

東大入試では、全教科的に国語力が高度に求められているからです。

また、人生訓の英訳訓練を京大や阪大あたりの過去問も使いながら訓練しましょう。それでは、①〜の順に見て行くとします。

「① さらにもう少し掘り下げてみると」の英訳を泥くさく考察してみた

英語の知識が豊富にある方なら、「掘り下げる」の訳語として、delvedigという訳語が思いつくかもしれません。

ですが、大多数の受験生は、delveなんて聞いたことないだろうし、「掘る」という日本語を逐語訳したdigなんて使えるのだろうかと試験会場で思われるはずです。

では、試験会場で気づける合格者の思考プロセスはなんでしょうか。

まず、課題文における下線部の位置に着目すると、文章の中盤に書かれており、その直前では、「なぜ歴史を学ぶようになったのか」を筆者が色々と考察している様が書かれています。
それを受けて、「さらにもう少し掘り下げてみると」と言っているわけです。
であるなら、「より深く分析してみると」と言い換えてanalyze the reason moreということも出来そうです。

でも、これでは、まだシンプルとは言えなさそうです。
ここで、「さらにもう少し掘り下げてみると」を5歳児にもわかるように言い換えてみましょう。
小さな子供に、「掘り下げる」なんて言葉を使ってもわからないしょうし、掘ると言われても土を掘るくらいしかイメージがわかないはずです。

ここでの「掘る」の目的語は、自分の考えをより深く掘り起こすことを意味しているのでしょうから、「より深く考える」と捉えてthink deeplyとすることも出来そうです。

でも、せっかくですから、ここで満足することなく、もう少し欲張ってみましょう。
「さらにもう少し掘り下げてみると」という一節に深い意味はありますでしょうか。
ハッキリ言って、何の情報価値もありませんし、強いて言うなら、「付け加えて」いるだけですよね。
であるならば、In additionFurthermoreといった高1でも知っているシンプルな表現で表しても十分のように思えます。

以上の考察をまとめてみます。

 

(試験会場で書きやすい超絶シンプルな表現)

In addition,

Furthermore,

Moreover,

といった情報追加の機能を持つ副詞

 

(ちょっと工夫が必要な表現)

think deeply

→実際に答案に書く時には、目的語を明示したいのでthink about the reasonitで受けてもOK) more deeplyにした方が良いでしょうし、後続の文との関係を考えるなら、分詞構文にしてthinking more deeply about the reasonsthinking deeply about itにしたり、If節を繋ぎ役にしてIf I think more deeply about the reason、あるいはもっとシンプルにwhen I think deeply about itなどとすることもできますが、ちょっと処理量が増えてしまうのがネックです。

分詞構文を利用して敢えて目的語を示さずThinking deeplyだけで書くことも出来なくはないと思います。

また、そもそもdeeplyという副詞が思いつかない場合は、シンプルにmoreだけでも良いと思います。

もちろん、deeplyやらdeepが思いつけばコロケーション的にも良いのですが、試験会場でパニックを起こしている時に何も思いつかないのであれば、中学レベルの英単語を組み合わせてみたり、下線部を思いっきり意訳して、もっとも主張したい「核」のところだけ端的かつ明瞭に書いて1点でも多く稼ぐスタンスは重要です。

 

(本番で気づくことは難しいが、こんなの書けたらイイネという表現)

When I delve a little deeper

If I dig into the reasons a little more

Digging a little deeper

when I dug deeper into it

On deeper reflection

 

いかがでしたでしょうか。
模範答案を眺めて「すごいね!こんなの書けたらいいね!」という感想だけで終わっていた方は、ぜひ、頭の中に入っている知識を駆使できるように、与えられた日本語文を英訳しやすいように別の日本語に言い換える和作文を実践してください。

今回の「さらにもう少し掘り下げてみる」であれば、
「もう少し深く考えてみると」
「もっと分析してみると」
「さらには」といった具合に、
どんどんパラフレーズ(言い換え)してみましょう

言い換えに際しては、小難しく考えるのではなく、5歳児に説明するくらいの気持ちで、日本語の語彙レベルを落として言い換えてみると良いでしょう。

我々の脳内にストックされている日本語の語彙数に比べ、英語の語彙数は微々たるものなわけですから、ストレートに英訳できないことは多々あります。

そうした問題を解決するのが、与えられた日本語文を英訳しやすいように加工する技術なのです。
和文英訳というと、日本語→英語にダイレクトに訳されることをイメージされる方が多いと思いますが、日本語→日本語→英語というプロセスを経ることで難易度の高い英文にも怖気つくことなく冷静に英訳を試みる勇気が芽生えてきます。

この手法は、第一線でご活躍されている翻訳家や同時通訳者の方も多用されているようです。ぜひお試しください。

「② 日本の近代化がヨーロッパの影響を受けながら辿ってきた道筋を考えるには」の英訳を泥くさく考察してみた

こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳に入れております。

「③ そのヨーロッパのことをもっと知らなければならない」の英訳を泥くさく考察してみた

こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳に入れております。

「④ といったことも感じていたのだった」の英訳を泥くさく考察してみた

こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳に入れております。

 

さて、以上のように4つのパートに分けて分析考察してきたわけですが、各パートの表現を組み合わせれば答案骨格は出来上がります。

その上で、英作文における7つの大罪でもお伝えしたように、時制や三単現のsなどに注意して、スペルミスやピリオドつけ忘れといった初歩的なミスを犯さないように最後の仕上げをしていきましょう。

最後まで油断しないことが合格ポイントです!

さて、ここで、いくつかの答案例を示したいと思います。

これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例

① In addition, I also felt that I had to learn more about Europe in order to think about how Europe helped Japan modernize.

② When I thought deeply, I realized I had to know Europe more to understand Japanese modernization which was influenced by Europe.

③ Furthermore, I also realized that I needed to know about Europe so that I could understand how Europe had an impact on Japan’s modernization.

④ In addition, I felt that I had to have more knowledge about Europe in order to think about the process of modernization in Japan which was influenced by Europe.

⑤ Moreover, I also felt that in order to understand the way Japan developed owing to Europe, I had to learn about it more.

こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例

① When I delved a little deeper, I also felt that I should know more about Europe to better understand how Japan had achieved modernization under the influence of Europe.

② On deeper reflection, I also realized keenly that in order to understand how Japan modernized under the influence of Europe, I needed to learn more about it.

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映像授業【東大英語第2問B 和文英訳
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