2023年(令和5年)東大英語を当日解いたので、所感を書いてみた。

敬天塾の講師が東大の二次試験当日(2023年の2月25日・26日)に入試問題を解いて、所感を記した記事です。他の科目については、こちらのページにリンクがございます。

【科目全体の所感】

総合難易度 標準〜やや易

今年度の英語は、1Bの空所の選択肢の増加のような細かい変化はあったものの、大きな形式の変化はほとんどなく、オーソドックスな形式でした。

全体的な難易度は昨年並み、もしくは易化しているという印象です。

特に2Aの英作文は、近年の傾向通りシンプルな問題であったうえに、過去の東大入試の問題に酷似した問題が出されたため、しっかりと過去問の分析を行った上で臨んだ受験生にとってはかなり解きやすい問題だったのではないでしょうか。

また、捨て問とされがちな4Aの文法問題についても、基礎的な文法事項について問うている問題が多く、捨てずにきちんと問題を解いた受験生はここでしっかり得点することができたものと思います。

1Aの要約問題においても、要約すること自体は少し難しかった一方で、題材は受験生でも最近どこかで聞いたことがあるような話題が取り上げられており、内容を理解しやすく、取り組みやすかったと思われます。

全体を通して、解きやすい、取り組みやすい問題が増えていたことで、事前にしっかり過去問演習などで準備していた受験生や、各設問に一通り目を通して、解きやすいものを確実に解く、というスタンスで臨んだ受験生にとっては、かなり高得点を狙える難易度であったように思います。

逆に、受験前から解く順番や飛ばす問題をガッチリ決めていたというような受験生にとっては、得点源となったはずの問題を取り逃がしてしまうといった、もったいない失点をしてしまいかねない難易度でした。

問題が解きやすかったがゆえに、事前の過去問研究や、本番での柔軟な対応などの、知識以外の部分の重要性が感じられる問題でした。

第1問A 英文要約

難易度 標準

第一問の要約は、現代人の時間の使い方について述べた文章でした。

難しい単語もそれほどなく、題材自体も最近よくニュースや情報番組でも取り上げられているような身近な題材であるため、内容は比較的理解しやすい文章だったと思います。

「テレビを見ながらTwitterをざっと見る」というような具体例も分かりやすく、共感しやすい内容だったのではないでしょうか。

一方で、”contaminated time””time famine”など、日本語訳に困る熟語がところどころ登場しています。

周辺の文章を読めば意味は分かると思いますが、これらの熟語を回答で扱う場合はどのように表現するかが難しいように思います。

また、段落が細かく分かれており、それぞれの内容をどの程度盛り込めば良いか、そしていかにしてこれらの内容を綺麗にまとめるかが難しいところです。

総合的な難易度としては、標準的であったと言えるでしょう。

第1問B 文挿入問題

難易度 標準

まずはこちらをご覧ください。

上図は2021年の合格者分析データです。ここから、いくつかの事実が浮かび上がってきます。

まず見落としてはいけないポイントは、高得点合格者は客観式問題をほとんど落としていないということです。

客観式の配点がどれくらいかは予測の域が出ませんが、ここで大切なのは客観式で落としてはいけない以上、この1B文挿入でも高得点奪取を目指すべきだということです。

そして、東大入試と東大模試とでは、問題のつくりも選択肢のつくりもかなり違うことにも留意せねばなりません。実際、過去の合格者の方も、過去問では得点できても、模試では失点しがちでした。この逆のケースは最悪ですが、それだけ似て非なるものなのです。

なぜに、このような違いが生じるのか、そこを意識して過去問探究をしてみると良いでしょう。

その上で、2023年度1Bに話をうつします。
本年度は文章量は昨年並みで、空所の数も変わらず5つ、そして並べ替え問題が1問ありました。昨年と異なる点は、空所の選択肢が1つ増え7つになったことです。つまりダミーの選択肢が2つに増えたわけですが、2021年度はダミーが3つでしたから、2022年度より増えたとはいえ標準的だとも言えます。文中に隠されたヒントの数も例年と大差ありませんでした。

なお、長文が少し長くなっただけで拒否反応を示す方は、読解スタミナをつけるべく多読訓練を行うとともに、z会の名著『ディスコースマーカー英文読解』を読み込むなどして、要所要所で英文を深く読むかさらっと読むかのリズムを掴めるようにしましょう。

加えて、復習するに際して、一文一文を精読しようとしている受験生も一定数いるようですが、本問は構文解釈の題材ではありません。そこを勘違いして、一文一文を完璧に理解しようと試みると泥沼にハマることになります。東京大学がなぜに文挿入の問題を第4問ではなく第1問に配しているのかを考えてみると糸口が見えてくるでしょう、

この1B文挿入(段落整序)ほど戦略が有効な大問はありません。宣伝にはなりますが、過去問分析の方法や着眼点などを効率的に学ばれたい方は、ぜひ敬天塾の映像授業もご検討ください。その上で、この2023年の1Bに再挑戦したとき、きっと、これまでとは比べものにならない視野の広がりを実感できることでしょう。

第2問A 自由英作文

難易度 易

今から30年後, 移動(例えば, 通勤や通学, 旅行) の手段はどうなっていると考えるか。 理由を添えて、60〜80語の英語で述べよ。

昨年とは打って変わって、実にシンプルな問題でした。

東大は近年、2018年(抽象的テーマ)→2019年(日常的テーマ)→2020年(抽象的テーマ)→2021年(日常的テーマ)→2022年(抽象的テーマ)→2023年(日常的テーマ)といった具合に、奇数年に日常的なテーマを取り上げるる傾向にありますが、そうしたセオリー通りの出題となりました。

しかも、東大過去問を探究された方なら、この設問は2分以内に片付けることもできたでしょう。なぜなら、2008年2Bと瓜二つだからです。あまりに類似していて、一瞬目を疑いました。ご参考まで、2008年の問題をご紹介いたします。

今から50年の間に起こる交通手段の変化と、それが人々の生活に与える影響を想像し、50〜60語の英語で具体的に記せ。(東大2008年2B)

また、東京大学は2022年9月に教養学部1〜2年生が使う教科書を大刷新いたしましたが、先生方は常に最新のトピックを取り上げていらっしゃいます。そうした観点に照らせば、近年、多くの難関大学で出題されている自動運転車関連のネタストックを事前にしっかりと行うべきでした。戦略や事前準備の「差」が、合否の「差」になりうることを試験会場で感じ取った受験生の方も多いことでしょう。

なお、昨年度は芸術の意義を問う問題を東大は出題しましたが、過去にTOEFLのライティング試験においても出題されています。東大は2019に祝日ネタを、2021年に住み良い街の条件を出題していますが、これらもTOEFLで出題済みです。
さらには、本年出題された交通手段の変化と人々の生活というテーマはTOEFLの頻出トピックであり、敬天塾でもプレミアムコースの生徒にはネタストックに努めてもらっています。
東大進学後に役立つ資格でもありますので、英語を得点源とされたい方は、ぜひTOEFLにも貪欲にチャレンジなさってください。

第2問B 和文英訳

難易度 標準

2018年に20年ぶりの復活を遂げた和文英訳ですが、2023年度も変わらず出題されました。一昔前の出題パターンもしっかりと確認することが東大英語制覇の極意だと言えます。

なぜ歴史を学ぶようになったのか、理由はいろいろあるのだが, いまの自分たちの住む世界について, それがどのように出来上がってきたのか, なぜいまのような形になったのか, ということにぼんやりとした関心があったことは確かだろう。さらにもう少し掘り下げてみると, 日本の近代化がヨーロッパの影響を受けながら辿ってきた道筋を考えるには, そのヨーロッパのことをもっと知らなければならない, といったことも感じていたのだった。 高校時代はアメリカにあこがれていた。 当時流行っていたフォークソングに惹かれていたし, 西部劇や東部の有名大学の学生たちのファッションにも夢中になっていた。 それが大学に入ってからヨーロッパ, 最初はドイツ, やがて英国に関心が移っていったのは自分でもはっきりと説明することは出来ない。

  (草光俊雄 『歴史の工房 英国で学んだこと』)

上記の下線部分を英訳させる問題です。

これといって難しい表現はなく、2A自由英作文と共に非常にマイルドになった印象です。

2023年度の京都大学の和文英訳と比べると、レベル差は一目瞭然です。

人間、損得勘定で動くとろくなことがない。あとで見返りがあるだろうと便宜を図っても、恩恵を受けた方はコロッと忘れているものだ。その一方で、善意で助けた相手がずっと感謝していて、こちらが本当に困ったときに恩に報いてくれることもある。「情けは人のためならず」というが、まさに人の世の真理を突いた言葉である。

京都大学は、リスニングがない分、英作文や英文和訳をじっくり時間をかけて考察させるタイプの問題構成となっています。その一方、東京大学は、要約・文挿入・自由英作文・和文英訳・リスニング・正誤・英文和訳・物語文といった具合に、多種多様な問題を短時間で処理させる事務処理能力テストとなっています。毛色が全く異なる以上、立てる受験戦略も自ずと変わってきます。

さて、東大2023に話を戻しますと、和文英訳の極意は、一字一句バカ正直に訳そうとしないことにあります。今回であれば、「掘り下げてみると」を逐語的(機械的に)に訳出しようとしても訳のわからない英文が出来上がってしまいます。この文では何を言いたいのかを考え、「和作文」することが求められます。

第3問 リスニング

難易度 標準(今後スクリプト公表で変更する可能性があります)

リスニングは2022年度入試と変わらず、(A)(B)(C)3つのパートに分かれており、それぞれが独立した内容となりました。設問数は例年通り15問となっており、選択肢の数も5つで変わりはありませんでした。音声の中身については、

A) 伝書鳩が特定のルートを通って帰巣する特性についての研究紹介

B) 大気中の二酸化炭素を減らす取り組みについての説明

C) 脱成長に関する本を書いたJason Hickelをゲストに迎えたラジオ番組での対談

となっています。

気になる点としては、いずれのパートでも補注が付されたこと、昨年と同じbuoyの単語が注意書きになっていたことが挙げられます。流れてくる音声自体は確認できておりませんが、2021年度入試のようなインド訛りの音声ではなく、比較的クリアーな発音だったようです。

ただ、相変わらず、試験教室によっては音量が小さい、スピーカーの音割れが激しいといった感想も聞かれており、気になる方は昼休みの試験放送の際に挙手をするなどすべきだったように思われます。大きい教室ならハズレかというと必ずしもそうではなく、小さい教室だからといって当たりというわけでもなさそうです。東進さんの東大レベル別模試では雑音入りリスニングが一昨年流れたことで話題になりましたが、それとはまた違った種類の雑音が東大入試では起こりえます。とはいえ、雑音のある教室でも高得点を取っている人もいる以上、クリアーな音声ばかりではなく、音割れのような状況下でも聴き取れる訓練を早い段階から行うべきででしょう。

スピードについては、それほど早いと感じた人はいなかったようで、東大模試や過去問CDくらいのスピードだとお考えいただければ良さそうです。

第4問A 英文法正誤

難易度 やや易

正誤問題は多くの東大受験生が捨て問にしていることで知られています。年々、文章量が増え、昨年度の問題に至っては難解な設問まで含まれていました。ただ、2023年度の問題をみる限り、三単現のsや、形容詞と副詞の違い、基本的な熟語知識、過去分詞形と受動態に着目させる基礎的な設問ばかりであり満点を取ってもおかしくはない難易度でした。東大4Aの過去問を分析する限り、分詞、語法(前置詞や熟語など)、自動詞と他動詞、三単現、関係詞といった特定の内容に出題が偏っている傾向にあり、速読速解のチカラを付けつつ、きちんと対策を取れば高得点を取ることが容易にできる大問でもあります。高得点合格者は総じて4Aでも点数をきっちり取っていますので、年々合否の分水嶺となりつつある東大英語を制覇するためにも、安易に捨て問にしないことが合格ポイントだと言えます。

第4問B 英文和訳

難易度 標準

多くの学校や塾では、この4B英文和訳の授業を得意としています。

理由は教えやすいからです。
低学年のうちから学んできた英文法の授業との接続が容易で、学生にとっても構文の取り違えなどのミスを把握するのが容易で、かつ、指導するのにも労力がかからず莫大な時間もかからないので50分授業にはちょうど良い量だからというのが理由として挙げられます。

それゆえ、4Bには自信のある東大受験生はかなり多い印象です。

そうした受験生に良い気持ちで問題を解いて欲しくない予備校は、東大模試の4Bを東大入試以上に難解なものにしがちです。そこでタイムロスさせることで、焦って問題を解かせることが一つの狙いになっています。

このような性質の英文和訳ではありますが、大学教授の出題意図はどこにあるのでしょうか。

英文和訳の問題を作成するにあたって、出題者は主に4つの切り口を考えます。

1つ目は、受験生の構文解析能力(文法力)。

2つ目に、語彙力(多義語力・熟語力)。

3つ目は、前後の文脈把握能力(傍線前後の文章をしっかり読み解いた上で、複雑な下線部で言わんとすることを合理的に推定する力)。

そして、4つ目は、日本語能力です。

この4つの要素のいずれに力点を置くかを問題作成者は吟味検討します。そうして、問題がつくられていくわけですが、大学ごとに比重を置く項目が異なり、それに合わせて問題のクオリティも変わってきます。

この点、東大の問題は基本的には読みやすく、特段難しい構文解釈を求められる設問はここ20年出題されてはいません。

ただし、平易な単語を使っているからといって、容易に訳せるわけではありません。ここが東大4Bの難しさであり、文法や単語を機械的に覚えているだけでは突破できない壁でもあります。

また、処理量の多い東大英語にあって、ゆったりと解いている時間はありません。スピーディーに4Bを仕上げることは必須であり、できれば10分以内に、可能であれば7分程度で解き終わりたいところです。15分以上かけている受験生がそこそこいますが、他の大問に影響が出ますので、なるべく早くに解けるよう、過去問を用いて訓練をしていきましょう。

構文が弱いのであれば、構文解釈系の本をサクッと仕上げるのも良いでしょう。ただし、あまり難解なものを投じる必要はないと思います。

なお、演習に際しては、できましたら模試の問題ではなく、過去問をお使いください。
東大模試が役立つのは、3と(4A)と5くらいだと思います。

もちろん、どんな問題でもすらすら解ける真の実力が身につけば良いでしょうが、限られた時間で他科目もやらねばならないなか、あれもこれもと手を出すのはリスキーです。
東大に受かりたいわけですから、まずは東大の先生がご作成された過去問を重視しましょう!

さて、2023年度は以下のような問題が出されました。

下線部(ア)

Right from the start food becomes a way to satisfy our feelings, and throughout life feelings influence when, what and how much we eat.

下線部(イ)

The power of sugar to soothe appears to be present to from the very beginning with effects demonstrated in those as young as one day old.

下線部(ウ)

the choice of comfort food depends on unique memories of both good and bad times and the foods associated with them ; what’s comforting to me, might not be to you.

例年より少し英文量が長いかなという印象はありましたが、高級な知識や難解な文法把握能力を求めているようには思えませんでした。ただ、こなれた日本語に訳出するのは難しかったでしょう。

簡単な単語が使われているからといって、簡単に読めるわけではないんだよと東大は受験生に問うています。難解な単語で受験生をこけおどしする私大との決定的な違いがここにあります。

第5問 エッセイ(物語読解)

難易度 標準(昨年比でやや易化)

出題形式は昨年度と同様、記述式2問、並べ替え1問、空所補充と下線の説明問題の計11問構成でした。

出典は、ニューヨークタイムズの特集を受験生向けに東大教授がリライトしたもの。

昨年度のジェンダーをテーマにした物語文に引き続き、今年は刑務所の必要性について子供たちと対話するというメッセージの強い内容となっていました。

東大第5問あるあるですが、冒頭で何言っているのかわからずとも、中盤以降で論旨が見えて来ることが多いですから、細部にこだわらず全体像を早くに掴み取ることを意識するようにしましょう。取れるところをきっちり取りに行くことが東大英語制覇の極意です。

最後に(宣伝)

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