2026年東大地理(第2問A)入試問題の解答(答案例)・解説

(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。

(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
※入試直後は新聞社のページから入手できます。
 しばらくすると、新聞社からは入手できず、東大HPからは入手できるようになります。

・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20260226-7GXVJBPYIBC6TDSA7ZNXH27TQQ/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

はじめに

ASEANの貿易相手国との関係にフォーカスがあてられた問題です。

ブルーカーボン(1B)、マイクロプラスチック(1C)、グリーンインフラ(3B)といった旬な論点がオンパレードであった2026年東大地理にあって、この第2問は既視感のあるトピックでしたから、束の間のオアシスのように思えた受験生も多かったのではないでしょうか。

ただ、実のところ、各設問を精査してみますと、東大教授が仕掛けた「巧妙なワナ」も散見されました。
設問条件を精査せずに見切り発車で答えを書こうものなら、容赦ない減点を食らったことでしょう。
一見して簡単そうに見えるけれども実は奥が深い、この手の問題で実のところ一番差がつくと言えます。

さて、本問では、東大地理で頻出の「経済」が大々的に問われています。

敬天塾の東大地理鉄則集でも詳述しておりますように、利潤を最大化しようと企業や国家がどのような行動をとるのか(本年度の2A(2)参照)、需要と供給の変化に影響を与えるものは何か(本年度の3A(4)参照)、目先の利益ばかりに囚われず「損して得とれ」戦略を展開するケースにはどのようなものがあるのか(本年度の2A(3)参照)、などに着目して設問を読み解くことが重要です。

経済原理を意識した思考手順を踏まずして、ただ漫然と解答例を覚えるだけでは、東大過去問は雑多な知識の寄せ集めのように見えてしまいます。
それでは、過去問を何周したところで応用力は身につきません。
国家や企業、個人に至るまでの各プレーヤーの心理を経済的視点から読み解くことを心がけましょう。

なお、先にも申し上げた通り、今年度の東大地理では細かな設問条件が散見されました。
時間制約の厳しい東大地理にあっては、しばしば指定条件をド忘れしてしまい失点を食らうケースが後を絶ちません。
ざっと挙げるだけでも、

のように問われている内容が複数あったり、理由を限定して説明するように求められたりしています。

こうした設問条件を無視して、方向性の違うことをだらだら書いたところで点数はいただけません。
問いに答える姿勢を終始一貫するよう心がけましょう。

 

さて、それでは、個別の設問についてみていきたいと思います。

設問(1)

問題文

2010年と2024年を比べると、輸出・輸入ともに中国の存在感が増している。特に輸入において、シェア、金額のいずれにおいても中国が際立って高い伸びを示している主な理由を2行以内で説明せよ。

この手の問題を考える際に私が拠り所にするのは、2つあります。
1つ目は、年号。
もう一つは、貿易を活発化させる要因に関する解法レシピです。

まず、年号に関してですが、2010年〜2024年までの間で、教科書に載っているような大きな出来事が中国やASEANでなかったのかを書き出してみます。
すると、「一帯一路」「米中貿易摩擦」「RCEP」あたりが思い浮かびます。

次に、貿易を活発化させる要因についてですが、私は頭の中に以下のような解法レシピを入れています。

① 自由貿易協定

② 国際分業/多国籍企業の進出

③ 経済成長に伴う需要増(中国の食肉需要増に関しては東大地理2023年2B(3)解説記事を参照)

④ 共通通貨の導入(such as ユーロ)

⑤ 為替の変動

⑥ 輸入元の多様化を図る必要性が高まった政治経済的要因

⑦ 新たな資源が発見された

⑧ 地理的近接性/ 大型コンテナ船の開発で輸送コストが低減

あたりです。
これと、先に挙げた年号の話を組み合わせて、なぜ2010年〜2024年の間に中国からの輸入が急増したのか考えていくとしましょう。

入試当日に執筆した所感記事でも申し上げた通り、東大地理2025年2Aでチャイナプラスワンの論点が登場したことを元にすれば解答の方向性を定めやすかったでしょう。

チャイナプラスワンとは、中国に進出していた企業が、中国における人件費高騰や環境規制によって生産コストが高まることを敬遠し、東南アジアなど他国の工場を移転する企業の動きを総称したものです。
日本の産業の空洞化の論点でも出てくる話ですが、コストを抑えて利潤を最大化しようとして中国に進出するわけです。

それにもかかわらず、利潤をたいしてあげられないとなれば、わざわざ中国で生産する意味がなくなってしまいます。
いたって普通の経済行動ですね。

しかも、レアアースの恣意的な輸出規制や恫喝外交など、中国の対外姿勢には憂慮すべきことが数多くあります。
映像授業の実戦編でもご案内したチャイナリスクに関する話ですね。
こうした背景もあって、中国から東南アジアに生産移管(工場を移転すること)を行う動きが近年活発になっています。

敬天塾 映像授業 実戦編 配布資料『チャイナリスク』

また、中国企業にとっても、自国の環境規制や人件費高騰は憂慮すべき事態ですから、労働集約的な作業工程を
東南アジアに移し、中間財を中国から東南アジアに輸出して、東南アジアで加工組み立てを行う分業体制を確立することにはメリットがあります。

要は、中国を軸とするサプライチェーンに東南アジアを巻き込んでいるわけです。

さらには、中国が展開している一帯一路(海と陸とのシルクロード経済圏)のもと、積極的に東南アジアへ投資や融資を行い、影響力を強めようとしている中国側のしたたかな思惑もあります。
それに加え、アメリカのトランプ政権下で激化した米中貿易摩擦も大きく関係しています。
中国企業はアメリカに製品を売りたいわけですが、制裁関税を課されてしまうので、それだと利益があがらないわけです。

そこで、東南アジアを迂回してアメリカに輸出しようとする抜け穴戦略を中国企業はとりました。
内閣府のホームページでも「2018年に本格化した米中貿易摩擦を受けて、中国企業や在中国の外資企業が、ベトナムを始めとしたASEAN諸国に生産移管等を進めた」可能性について言及しています。
「可能性」と言っているのは、それらの企業が自らの脱法行為を認めるわけがないので、日本政府として表現に配慮をしているからです。
https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa22-02/s2_22_2_1.html

そのほか、中国とASEAN諸国の間では、ACFTA(ASAN-China Free Trade Agreement)と呼ばれる中国-ASEAN諸国間の自由貿易協定が結ばれています。
まさに本問で問われている「2010年」にです。
ACFTAを知っている受験生は皆無に近いと思いますが、貿易が活発化したとなれば、なんらかの関税障壁撤廃に向けた合意があったと推測するのが合理的ですから、答案に「自由貿易協定が結ばれた」ですとか「関税障壁が撤廃された」とでも書けば良いでしょう。

 

以上をまとめると、答案の完成となります。

解答例

自由貿易協定の発効もあり中国から中間財を輸入し加工する国際分業が進むほか、米中貿易摩擦を受けた迂回輸出に利用されたから。(60文字)

中国の人件費高騰や環境規制を受け、生産工程の一部をASEANに移管する国際分業が進み、中国から中間財輸入が急増したから。(60文字)

自由貿易協定や中国企業からの投資増で中国を軸とするサプライチェーンに組み込まれ、中国からの中間財輸入が急増したから。(58文字)

一帯一路政策を掲げる中国からの投融資や自由貿易協定を受け、中国の供給網に組み込まれ中間財の対中依存度が高まったから。(58文字)

市場拡大を目論む中国からの投融資や関税撤廃等を受け、価格競争力の高い中国製品が中間財や機械の最終財まで多く流入したから。(60文字)

生産コストの高まりで中国から生産移管や投融資を受けるなど、中国を中心とする垂直統合型サプライチェーンに組み込まれたから。(60文字)

市場開拓や米国の制裁関税回避を企む中国が、ASEAN地域への生産移管や投融資を加速し、水平分業や垂直統合を推進したから。(60文字)

ざっと思いつくところを書いてみました。

なお、一帯一路に関する論点も今後出題可能性が高いので、敬天塾オリジナル問題を1つご紹介したいと思います。

 

設問(2)

問題文

2010年と2024年を比べると、輸出・輸入のいずれにおいても日本は大幅にシェアを低下させている。特に輸入においては、ASEANの世界全体からの輸入額が倍増する中で、伸びがみられない。その理由として考えられることのうち、日本企業の行動に関わる理由を2行以内で説明せよ。

本問や次の設問(3)に込められているメッセージは、「表面的な事象に囚われることなく本質に目を向けよ」です。
大きく差がついた問題だったことでしょう。

設問文を読んで、「ああ、日本は中国に負け遅れているだな」「日本経済は衰退しているんだな」と思ってしまった方は、まんまと東大教授が仕掛けた「ワナ」に絡め取られています。

そもそも、日本経済が衰退している話と、ASEANへの輸出が伸び悩んでいる話がどのように関係しているのでしょうか。
中国に負け遅れているというのは、どの分野においてどういう意味ででしょうか。
きちんと説明できないのに、ふわっとした理解のもとで考察することは厳に慎まなければなりません。

近年の東大地理では、東南アジアの経済発展について繰り返し問われています2025年1B2024年3Bなど)。
経済が発展している地域には市場としての魅力がありますから、企業としては開拓したいと思うはずです。
先程申し上げた、貿易を活発化させる要因の③に絡んできます。

【貿易を活発化させる要因8選】
① 自由貿易協定
② 国際分業/多国籍企業の進出
③ 経済成長に伴う需要増(中国の食肉需要増に関しては東大地理2023年2B(3)解説記事を参照)
④ 共通通貨の導入(such as ユーロ)
⑤ 為替の変動
⑥ 輸入元の多様化を図る必要性が高まった政治経済的要因
⑦ 新たな資源が発見された
⑧ 地理的近接性/ 大型コンテナ船の開発で輸送コストが低減

日本はかつて、賃金の安さに魅了され東南アジア諸国に工場を移転しました。
ですが、今や魅力的なマーケット(市場)に化けようとしていますから、ここに商機を見出そうとする日本企業の行動は合理的です。

さらには、東南アジアの工業化が進んだおかげで製品の品質も向上していますから、日本から輸出していた中間財を現地で調達することも可能となりました。

このことから、「日本からの輸出」という経営戦略の転換を日本企業は図り始めたのです。
ご興味のある方は、2019年に経済産業省が作成したレポートをご参照ください。
(https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2019/pdf/02-03-03.pdf)

 

なお、学習効果の高い論述問題をいくつか敬天塾の論述問題集よりご紹介したいと思います。

それでは、解答例を示したいと思います。

解答例

生産工程の中国依存の脱却や新たな市場開拓を目論み、経済成長著しいASEANへの生産移管や中間財の現地調達を推進したから。(60文字)

経済成長著しく有望な消費市場とされるASEANに、生産移管を加速させ中間財も現地調達を行う経営戦略にシフトしたから。(58文字)

製造や部材調達等の対中依存を減らすリスク分散や、新たな市場開拓を目的として、ASEAN諸国への生産移管を推し進めたから。(60文字)

 

設問(3)

問題文

ASEANの貿易におけるオーストラリアのシェアは決して大きくないが、輸入額は2010〜2024年にかけて世界全体からの輸入額の伸びを上回る伸びを示している。ASEAN諸国とオーストラリア双方が参加する、経済協力枠組みを1つ挙げ、その名称(略称でもよい)を述べるとともに、オーストラリアからの輸入拡大がASEAN諸国の産業に与える影響をあわせて2行以内で述べよ。

本問では、まずASEAN諸国とオーストラリアの双方が参加する経済協力枠組みを1つ挙げねばなりません。
意外に答えられなかった方もいたのではないでしょうか。
教科書には、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)について、以下のように明示されています。

ASEANに、日本、中国、韓国を加えたASEAN+3、さらにオーストラリア、ニュージーランドも加えた地域的な包括的経済協力連携(RCEP)協定など、広域的経済連携の枠組みも構築されている。それに先行して、ASEANはそれら域外各国との間に個別にFTAやEPAを締結している。
(2024二宮地理探究p221)

なお、FTAやEPAの違いについては、敬天塾の論述問題集から良問をご紹介したいと思います。
日本でも、移民労働力に頼ろうとする動きが近年みられていますので、この論点はいつ出されてもおかしくはありません。

さて、本問の解説に戻ります。
RCEPがわかったとして、今度は、オーストラリアからの輸入拡大がASEAN諸国の「産業」に与える「影響」を考えなくてはいけません。

何の産業かを明確化するとともに、「影響」にはプラスのものもあればマイナスのものもあることに着眼したいものです。
本問はまさに「損して得とれ」の話がなされています。

たとえば、日本がTPPという多国間経済協定を結ぼうとしたとき、国際競争力のある自動車産業からは拍手が巻き起こりましたが、国際競争力の乏しい農業分野からは大反対の声が起こりました。
違う国同士が協定を結ぶ以上、お互いにとってメリットもあればデメリットもあります。
それらを天秤にかけて、「最終的に」プラスになるのであれば、「うまみ」があるわけです。

ここで「最終的に」と申し上げましたのは、短期的視点に立ってみると損のほうが目立つことだってありえるからです。
もし、国内世論や国内産業からの大反対にあえば、時の政権は経済協定締結を見送る判断をするでしょう。
高関税をかけて保護貿易政策をとることもありえます。
2025年2A設問(4)で、中古衣類の輸入規制を途上国が図った論点がありましたね。

なお、保護貿易に絡めては、以下のオリジナル問題も学習効果が高いのでご案内いたします。

少し脱線しましたので、設問解説に戻ります。
オーストラリアからの輸入産品にはどのようなものがあるでしょうか。
教科書レベルでは、石炭や鉄鉱石、農産物あたりが挙げられています。
このあたりをもとに答案を紡いでいけば良いでしょう。

その際、書き方としては、●●の輸入によるメリットとデメリットを書く切り口と、(●●の輸入によるメリット +▲▲の輸入によるデメリット)を書く切り口があります。いずれであっても評価はされると思いますので、解答例では両方の案を示したいと思います。

 

それでは、解答例です。

解答例

RCEPを通じて鉱物資源を安価かつ大量に調達でき国内製造業の国際競争力を高められる一方、国内鉱業は経営面で打撃を受ける。(60文字)

RCEPでエネルギー資源を安価に輸入でき重化学工業の発展を促せるが、安価な農産物の流入で競争力のない農家が打撃を受ける。(60文字)

 

毎日新聞2020/11/15記事より
https://mainichi.jp/articles/20201115/k00/00m/030/208000c

RCEPやTPPなどの加盟国を、ある程度ざっくりとでも、分類整理しておきましょう。

【さらに深く学びたい方のために】

敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。

上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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映像授業【東大地理】

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