2024年東大地理(第3問B)入試問題の解答(答案例)・解説

はじめに

いよいよ最終問題です。
本問は、あまり類題を見かけたことがない東京大学オリジナルの新作問題だと言って良いかもしれません。
教科書や資料集にも、ここまで「地下鉄」にフォーカスをあてた説明はありませんでした。
では、単なる知識問題なのかというと、そこはさすが東大です。
随所に地理的思考で推論できる工夫を垣間見ることができました。
本問を単なる知識問題だと考えている方は、ぜひこの解説記事を通じて思考を改めていただけると幸いです。

一見すると見慣れない問題かもしれませんが、まず、設問(1)から(4)までざっと斜め読みしてみてください。

すると、「密度」「1990年代」「アジアの大都市」「地下鉄を建設する必要が生じた」「地下鉄の建設が可能になった要因」といった具合に、キーワードを拾い読みするだけでも、答案骨格を思い浮かべることができることにお気づきになられたでしょうか。

さらにはリード文もきちんと読み込まなくてはいけません。
本問で取り上げられている都市は「都市圏人口が500万人を超える都市」だとされています。
これは極めて巨大な都市だという感覚を持っていただきたいです。
ものすごく人がたくさんいるわけですね。
このイメージを持っていただいたところで、早速、設問解説に移りたいと思います。

実際の入試問題入手先

なお、本解説記事を読むにあたっては、事前に入試問題をご入手いただけると幸いです。

東京大学HP
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

設問(1)

問題

表3ー2は,地下鉄が開業した時期が,世界ではロンドンがもっとも早く, アジアでは東京と大阪がもっとも早いことを示している。当時の東京や大阪では, どのような都市交通の問題から、地下鉄の建設に踏み切ったと考えられるか,以下の語句をすべて用いて2行以内で説明せよ。 語句は繰り返し用いてもよいが, 使用した箇所には下線を引くこと。

路面電車     密度

解説

まず、設問(1)については指定語句がヒントになっていますね。
東京や大阪という人口が集中する地域(人口密度の高い地域)で路面電車をちんたら走らせたところで、輸送力が十分だとは言えません。
だからこそ、地下鉄網を巡らす必要性に迫られたわけです。
必要性に迫られなければ、わざわざ高い建設費をかけて地下に穴を掘って鉄道網を敷こうとはしないはずです。
当たり前ですが、地上に電車を通すのと、地下鉄を通すのでは建設費が違いますので。

本問は地下鉄の話に見せかけて、実は単なる都市問題について考えさせているに過ぎません。
今年の1Aであれば乳糖耐性の話に見せかけて、実は世界の自然地理と食文化の関係を問うていたに過ぎない話しと似ています。

さらには、必要性という点でも1Aと似ています。
必須アミノ酸を乳から摂取する必要がなければ、わざわざ腹痛で苦しみながらも家畜の乳を飲む必要がないわけです。
これと同様に、地下鉄を開通させるなんていう何か大掛かりなことをするからには、止むに止まれぬ必要性が生じたからです。

受験生の中には1927年当時の東京や1933年当時の大阪の事情なんて知らないと思われた方もいらっしゃることでしょう。
だからこそ、東大教授は指定語句に「路面電車」とヒントを与えてくださっているわけですね。
路面電車では人口500万人規模の通勤・通学客を輸送するだけのキャパシティがないわけです。

また、人口密度が高まれば、住宅不足に陥り地価が高騰します。
そんななか、地上の鉄道網の拡充や複々線化といった線路の線路の増設を図ることは至難の技です。
用地買収の莫大なお金がかかりますし、そもそも用地すら物理的に確保できない可能性もあります。
地上がダメなら上空か地下に目が行くのは当然です。

その他、交通渋滞という視点も重要です。
1920〜1930年当時は自動車がちょっとずつ普及していた頃ですが、人力車や馬車も同じ道路を利用していました。
交通渋滞が常態化し、路面電車は定刻通りに走れなかったでしょうし、交通事故も増えていたはずです。
こうした事情も地下鉄開通を促す契機になりました。

http://www.jametro.or.jp/100/001.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E6%9C%80%E5%88%9D%E3%81%AE%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E9%89%84,%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%84%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

以上より、

解答例

都市化の進展で人口密度が高まり路面電車の輸送力では不十分となり、交通渋滞も深刻化し、鉄道網拡充用地の確保も困難だった。(59字)

設問(2)

問題

表3-3の都市のうち,ロサンゼルスだけが欧米の都市である。 それ以外の欧米の大都市では, より早い時期に地下鉄が開業している。なぜロサンゼルスで開業が遅かったのか。 2行以内で説明せよ。

解説

次に、(2)については、シンプルに考えられたかどうかが鍵です。
地震があるからなどと深く考えすぎないようにしてください。
地震が理由なら日本には地下鉄なんて作れなくなります。
地下鉄を建設する必要がないということは、地下鉄以外の交通手段(輸送手段)がロサンゼルス市民にはあったということです。

となれば、自ずと自動車というワードが出てくるのではないでしょうか。
今年の1Aの設問(4)と似た問題だと言えます。
自動車と言われたら、「モータリゼーション」というキーワードも反射的に思いつきたいところです。
もっとも字数がキツければ「自動車の普及が進み」と書いても構いません。

モータリゼーションが進めば車でどこででも移動が可能になりますから都市の郊外化が進みます。
つまり、都市機能が分散していきます。
すると、都心部に人口が過集中することもなくなりますから、設問(1)とは逆の状況が生まれてしまいます。
そんなところに地下鉄を莫大な予算を投じて通しても採算が合わない可能性が高く、わざわざつくろうとは思えなくなるはずです。
ちなみに、都市機能の郊外化の真逆を目指したのが、2022年東大地理3A(4)でも問われたスマートシティやコンパクトシティの考えです。

2022年東大地理(第三問A)入試問題の解答(答案例)と解説

富山や宇都宮のライトレールの話がここ数年話題になっていますね。
富山県の富山市は、「平成大合併」で周辺市町村と合併し、県の約3分の1の面積を占めています。
市街地が外延化したことで、全国の県庁所在地の中で最も人口密度が低くなりました。
このように住民が広い市域に分散して居住しているばかりか、少子高齢化や過疎化も進んでいました。

そのほか、全国2位の自動車依存都市でもありました。
自動車に依存するお年寄りが多いということは、もしも車の運転ができなった途端に交通弱者になるということでもあります(子供や孫が同居していなければ尚更)。
こうした実情を前に、富山市はコ ンパクトシティの都市計画を2003年頃に立ち上げることとなったのです。
ライトレールの周辺への移住を促進し(補助金を出しています)、行政機能を中心部に集約するなどして、人口集積が高密度なまちを形成しようとしたのです。

街づくりの核になるのがライトレールだと言われています。
もっとも、コンパクトシティにつ いては、秋田や青森では失敗していると言われますので、どんな都市にも万能ではありません。
賛美するだけでなく、失敗事例やデメリットについても考えられるようにしましょう。

https://messe.nikkei.co.jp/js/column/cat454/129406.html

少し話が脱線しましたが、解答例を示したいと思います。

解答例

モータリゼーションの進展を背景に、道路網の整備が行われ都市の郊外化が進むなか、都心部に地下鉄建設の必要性がなかったから。(60字)

設問(3)

問題

表3-3から分かるように, 1990年代以降, アジアの大都市で地下鉄を建設する動きが目立っている。 これらの都市で地下鉄を建設する必要が生じた背景にはどのような都市問題があるか。 1行で答えよ。

解説

続けて(3)ですが、これは敬天塾の映像授業で中論述ドリルを解いた方にはサービス問題だったと言えましょう。
インドネシアが首都移転をする話は重要なトピック(テーマ)ですが、その理由の一つに深刻な大気汚染があったはずです。 https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2024/01/18/32850.html

そのことに着想できれば、地下鉄のメリットが見えてくるのではないでしょうか。
1990年以降、工業化に成功し経済発展を遂げたアジア各国では、中心都市に人々が集中し、深刻な交通渋滞や大気汚染や騒音問題などが生じるようになりました。
このあたりをコンパクトにまとめれば良いでしょう。

解答例

都市への人口過集中で深刻な大気汚染や交通渋滞が生じた。(27字)

設問(4)

問題

1990年代以降, 表3-3に現れるアジアの大都市で地下鉄の建設が可能になった要因には様々なものがある。 主な要因を二つとりあげて, 合わせて2行以内で説明せよ。

解説

そして、ラストの設問(4)ですが、これはカネ(資金)の話だと気づいて欲しいところではあります。

設問(3)でも見たように、1990年前後からアジア各国は工業化が進展し、豊かになっていきました。
地下鉄建設には莫大な費用がかかりますから、貧しい国には到底つくれません。
建設資金を捻出できるくらい経済発展を遂げたと考えるべきでしょう。

表3ー3で挙げられているデリー(インド)、バンコク(タイ)、クアラルンプール(マレーシア)、ジャカルタ(インドネシア)あたりは、大いに経済成長を遂げた国ばかりです。

ただ、要因を「2つ」書けと要求してきているので、ここでつまづいた受験生は多そうです。
私が受験生なら、この(4)は、要素を一つ書いて、二つ目は捨てるかもしれません。

では、もう一つの要因には何があるでしょうか。
地下鉄の建設というのはかなり高度な技術が必要です。
いくら経済発展を遂げたからと言って、タイやインドネシアが自前で全部つくるのは技術的にも困難なはずです。
誰かが支援してくれていると考えるのが自然ではないでしょうか。
そうです、日本など外国が技術面や資金面で支援してくれているのです。
途上国支援でODAというキーワードが出てくると良かったですね。
ご参考までJICAの記事をご紹介いたします。
https://www.jica.go.jp/oda/project/TXXII-3/index.html

(補足)

地理探究の教科書を確認すると、
二宮書店2024地理探究p221では「日本は政府開発援助(ODA)などによって、 東南アジア諸国の交通インフラや公共施設の整備などに深くかかわってきた。」とし、
東京書籍2024地理探究 p239には「日本の援助を受けて建設されたインドのデリーメトロ」と地下鉄の写真を載せ、
帝国書院2024地理探 究p165では「東南アジアの都市鉄道などで、車両をはじめ沿線開発まで含めた日本の鉄道運行の知識や技能が評価されている。」と明記しています。
このことからも、本問では日本のODAや援助についての言及をなすべきだと考えられます。

以上より、

解答例

工業化による経済成長で建設資金の一部を負担できるようになった他、日本のODAを中心とした外国による開発援助が充実した。(59字)

⚠︎アジア各国が経済成長を遂げたのは事実ですが、建設資金を自前で全部負担したわけではないことに注意しましょう。
主に日本を中心とした円借款やODAによる資金的な支援や技術支援があって初めて地下鉄建設が実現しています。
それもあって、解答例では、「建設資金の一部」と記しています。
また、開発援助自体は1990年以前にもありましたが、日本のアジア方面への援助額が1990年代以降急増していることを答えさせようとしているのかなと思い、解答では「充実」と表現しました。
もう少し、スタイリッシュな解答例を考えてみたいとも思います。

 

長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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