2025年東大地理(第2問B)入試問題の解答(答案例)・解説
(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。
(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20250225-SS6KISNKS5BRTKNOCIBINS4GHI/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
はじめに
ついに来ました!出るぞ、出るぞ、と塾生に注意喚起をしていたオーバーツーリズムの論点が遂に登場しました。
近年の中学入試では頻出のテーマで、英作文でも今年度の東北大学と北海道大学で問われました。
もっとも、オーバーツーリズムという語句を知っているだけではダメで、どのような問題が生じていて、いかなる解決策が考えられるのかまで論点整理をしっかりしていないと、本年度の2Bには太刀打ちは出来なかったでしょう。
この点、入試直前期に敬天塾の東大対策問題集 地理 (特別編)最新ワード集2025をご購入された方は、入試会場でガッツポーズを決めることができたのではないでしょうか。
敬天塾の東大対策問題集 地理 (特別編)最新ワード集2025より抜粋
さらに、設問(3)にいたっては、本年度の3Aや3Bの論点に通ずるものもあり、経済問題に対する思考手順をしっかりと整理していた受験生にとってはサービス問題だったことでしょう。
設問(4)では自然保護区域における観光公害の論点が問われていますが、問題の解決策ばかりか、考えうる解決策に対する反対意見を考えさせる新傾向の問題が登場しています。
東大地理で好んで問われる「功罪の視点」が新たな形で登場しました。
これまで以上に、東大過去問を徹底探究しないと東大地理には太刀打ちできなくなりそうです。
敬天塾の東大対策問題集 地理(特別編)地理鉄則集 大原則1~4セットをなるべく早いうちから読み込んで、過去問探究を始めるように心がけましょう。
それでは、各設問について見ていきましょう。
設問(1)
問題
外国人延べ宿泊者数が多い都道府県を上から6つ挙げると,東京都と大阪府および以下の4つの道府県になる。
北海道 京都府 福岡県 沖縄県
図2ー2と図2ー3のA, B, C, Dは, これら4つの道府県のいずれかである。A,B,C,Dの道府県名を,Aー◯◯のように答えよ。
今年度入試では珍しくなった客観式の設問です。
塾長の着眼点については、当日の所感記事でご紹介しておりますので、併せてご参照ください。
様々なアプローチがあるのだなと実感することで、学習効果が格段に上がるのが地理の特徴です。
数学に近いものがあるのです。
さて、本問では外国人延べ宿泊者数が多い都道府県についてフォーカスがあてられています。
そもそもですが、外国人が遠路はるばる日本にやってくる理由はなんでしょうか。
教科書には次のように説明されています。
外国人には、奈良や京都、富士山のような観光地だけでなく、茶道や剣道などの体験やアニメーション聖地の訪問など、日本の伝統文化や新しい若者文化に触れる旅行も人気が高くなっている。初めての日本旅行には、ゴールデンルートと呼ばれる、東京・大阪間に富士山や京都を組み込んだコースが一番人気・・・
(二宮地理探究2024年版p141)
日本独特の自然環境や風景、和食などを求めることが多く、それらを体感できる観光周遊ルートがある地域に人気が集まっている。また、1回目の訪日では買い物目的が多く、2回目以降はスキーや温泉、茶道などの体験型の観光目的が増える傾向にある。
(帝国書院地理探究2024年版p157)
いかがでしょうか。要するに、「THE 日本」を感じさせるところに外国人は行きたいわけです。このことが設問(2)と大きく関わってきますので、頭の片隅に入れておいてください。さて、本問に話を戻すとしましょう。
このような問題を解く時には、「ぶっ飛んだもの」に着目することが合格ポイントです。
せっかくですから、図2ー2と図2ー3をもう少しシンプルにしてみましょう。
まず、図2ー2(日本人の延べ宿泊者数を図示したもの)をご覧いただきますと、Dの人口がABCに比べてだいぶ小さいことがわかります。
このことから、面積の小さい沖縄県がDにあてあまるのではないかと推測しました。
北海道や京都府や福岡県には政令指定都市がありますから、人口規模では沖縄だけが浮いているとも言えそうです。
なお、人口については、2024年2Aでも出題されました。
主要国や各国主要都市、日本であれば三大都市圏や政令指定都市の地図上の位置や人口規模について社会常識として知識整理をしておきましょう。
次に、図2ー3(外国人の延べ宿泊者数を図示したもの)をご覧いただきますと、トップはCで、最下位はDになっています。
東京や大阪に比べると、どんぐりの背比べのようでもありますが、Cが4つの中では頭1つ抜けていることに変わりはありません。
先程も申し上げた通り、外国人は「THE 日本」を感じさせてくれるところに行きたいわけです。
知名度という点からいうと、圧倒的に京都が有名ですから、Cは京都だと確定して良さそうです。
ちなみに、Dの沖縄への外国人観光客が少ない理由は、青い海ならハワイやグアムなど外国にもあるからです。
外国人観光客は日本にしかないものを求めてやってきているので、東京や大阪や京都や富士山方面に足を運ぶわけです。
皆さんも、わざわざ外国の日本人街にはいかないのではないでしょうか。
見慣れたものをみたところで新鮮さがないからです。
残るAとBに目を向けましょう。
図2ー3では、両者の判別は不可能です。
人口規模も外国人宿泊者数も酷似しているためです。
そこで、図2ー2に目を向けると、
人口規模ではAとBに違いはないものの、Aの方が日本人に人気なのがわかります。
残る選択肢は北海道と福岡県なわけですが、旅行とは普段と違った体験ができることに醍醐味があるところ、流氷や雪祭りや海鮮丼などがあって面積も半端なく広い北海道のほうが非日常を楽しめると考えるのが一般的のように思えます。
このことから、
Aを北海道と確定できそうです。
以上より、
解答例
Aー北海道 Bー福岡県 Cー京都府 Dー沖縄県
となります。
日本地理に関しては、難関中学受験生が小学生の時にかなりやり込んでいますから、47都道府県に対する知識貯金が一般の人よりかなり多くありますので有利です。
市販の参考書にもあまり論点が載っていませんので、敬天塾の映像授業をぜひご活用ください。
また、いまはGoogle earthやYoutubeでも世界中のいろんな地域をみることができます。
最寄駅の旅行会社で北海道旅行や沖縄旅行のパンフレットをもらってくるのもオススメです。
あらゆるところから学びを深めるように心がけましょう。
なお、本問の関連問題をいくつかご紹介したいと思います。ぜひ、周辺知識を広げてください。
台湾からの旅行者にとって、日本のどのような地域が観光地として人気が高いと考えらえるか。京都・奈良や以外に具体例を2つ挙げ、それぞれの理由を答えなさい。
(東京大学2010年2A問3改題)
大分県別府市は、海に面した温泉観光都市で、大型バス用の駐車場を持つ大型ホテルが建ち並んでいる。別府市の人口減少は、近年の観光行動の変化が理由になっていると考えられる。このような観光行動の変化を述べなさい。
(東京大学2000年3B問2改題)
設問(2)
問題
図2ー2と図2ー3を見ると,神奈川県,愛知県,兵庫県では,日本人延べ宿泊者数の規模は大きいが,外国人延べ宿泊者数の規模は突出して大きいわけではないことがわかる。どのような理由でこのような現象が生じるのか。3県の共通の特徴にもふれて,2行以内で説明せよ。
解説
ざっくりいうと、「日本人は来るのに外国人は来ないのは何故?」となります。
難しく思えましたか?
こういう時は、真っ先にリード文や設問文や指定語句のなかにヒントが隠されているのではないかと「宝探し」を始めねばなりませんでしたね?
すると、ありました!
設問Bのリード文の初っ端に、「観光や業務活動を目的とする旅行は、〜」と。
もうお分かりですね。
旅行目的は、遊びばかりではないんだよと冒頭でヒントを出してくれています。
さらには、観光って宿泊を必ずしなきゃいけないわけじゃないよね?、という視点にも気づけると本問の答案骨格はだいぶ仕上がってくるはずです。
則ち、日帰り旅行の論点も本問では援用できそうです。
先にご紹介した東大地理2000年3Bでも取り上げられていますし、教科書では
大都市から日帰りで訪れる形態が増えており、宿泊する観光客は減少しており、宿泊施設の閉鎖も多くなっている。
(二宮地理探究2024年版p141)
※赤字化は筆者
と明示されています。表にまとめてみると、
このようになります。
その上で、次に「神奈川県・愛知県・兵庫県」に共通する特徴について考えていくとしましょう。
あくまで、「共通の特徴」についてフォーカスをあてねばなりません。
外国人観光客が訪れない個別の理由を考えたらキリがないわけです。
それゆえに、あくまで、「共通」事項にフォーカスをあてさせているわけです。
まず、この3県の位置をしっかり把握できていなければなりません。
意外に47都道府県の位置関係を答えられない受験生が多いので、小学生向けの地図アプリや白地図プリントをネット印刷して覚えるようにしてましょう。
地理学の基本は、地理的位置関係の考察にあります。
一応、ここにも簡易地図を掲載いたします。
ここで気づいて欲しいのは、兵庫県と神奈川県の位置関係です。
前者は大阪に隣接し、後者は東京に隣接しています。
このことを頭に入れた上で、図2ー3を改めてご覧いただくとしましょう。
まず、東大地理で頻出の三大都市圏が東京・大阪・名古屋であり、日本の経済を担っています。
神奈川は東京圏に入っていますし、兵庫は大阪圏に入っています。
経済圏に入っているということは距離的にも近いわけです。
外国人の多くが東京や大阪に宿泊していることは、上図からも明らかですから、日帰りで神奈川や兵庫まで赴くことは容易です。
電車で1時間ちょっとで行けるわけですから。
また、神奈川で有名な横浜や、兵庫で有名な神戸は異国情緒が漂う都市として日本人には人気ですが、異国からやってきた外国人は「THE・日本」とでもいうべき日本の伝統文化や町並みに触れたいわけですから、わざわざ日本に来てまで中華街を見たいとは思わないわけです。
それなら台湾に行った方がいいわけですから。
なお、神奈川には鎌倉や江の島といった観光地もありますが、宿泊施設も整っていませんし、東京から1時間程度で行けますので日帰りで行けば十分だと考える人が多いのです
さて、残る1つが愛知です。
愛知は名古屋圏の中核をなしており、多くの企業の本社もありますし、政令指定都市(指定都市と略記も可能)でもあります。
要するに大都市の代表格なのです。
世界的な自動車メーカーであるトヨタの本社も愛知県にあります。
工業も発達していますから、出張で訪れる人も多くいます。
では、なぜに外国人には、あまり見向きされないのでしょうか。
東京や大阪から日帰りできるからか、わざわざ宿泊するほどの観光スポットがないからか、宿泊施設が整っていないからか、交通の便が悪いからか、そもそも知られていないからかなど検討する必要があります。
この点、交通の便ということで言えば、新幹線なら東京から90分、大阪から60分という好立地です。
この好立地性が、皮肉なことに東京や大阪からの日帰りを可能にしてくれてもいます。
JR東海よりhttps://company.jr-central.co.jp/company/about/area.html
そのほか、愛知県のホームページなどによると、外国人観光客の長期滞在を可能にする宿泊施設が不足していることや、知名度抜群の観光スポットが少ないといった問題点も挙げられています。
確かに、図2ー2や図2ー3は「延べ宿泊者数」を縦軸にとっているところ、1泊2日といった具合に短期滞在の人の割合が顕著に多い可能性も疑えそうです。
長期滞在して観に行くだけの観光スポットがない、あるいは長期滞在しようと思える宿泊施設が足りないとなれば、宿泊や連泊を躊躇するのもわかりますね。
なお、ジブリパークがつい最近できましたし、観光PRにも力を入れているようですので、今後は風向きが変わってくるかもしれません。
ただし、神奈川には横浜などに大型の宿泊施設がありますから、三県に共通する特徴を設問要求されている以上、特定の県だけにみられる事情を書いてしまっては減点対象になることは気をつけなくてはいけません。
かたや日本人にとっては、図2ー2のように、
確かに神奈川・愛知・兵庫における日本人宿泊者数が外国人よりも1000〜2000万人レベルで多いことが一目瞭然にわかります。
兵庫の神戸や、神奈川の横浜のように異国情緒あふれる都市に憧れを抱く日本人も多いですから人気だとも言えそうですし、三都市は政令指定都市で多様な産業が集積していますから官公庁関連業務やビジネス目的で出張宿泊する人も多そうです。
先にも述べた通り、リード文の「業務活動を目的とする旅行」なる文言を見落とした受験生は悔やんでも悔やみきれないでしょう。
困った時は、リード文や設問文や指定語句にヒントが隠されていないか「宝探し」を直ちに開始すべきことは、東大地理対策の王道です。
敬天塾の東大対策問題集 地理(特別編)地理鉄則集 大原則1~4セットでもご案内しているところなので、大いに差がついたことでしょう。
少し長くなりましたが、解答例を示したいと思います。
解答例
指定都市や多くの企業本社を抱え業務で宿泊する日本人は多いが、外国人には知名度が低く東京や大阪から日帰り観光もできるため。(60文字)
多様な産業が集積しており業務で出張宿泊する日本人も多い一方、外国人には知名度が低く東京や大阪から日帰り観光もできるため。(60文字)
なお、名古屋絡みでは
大阪大都市圏と名古屋大都市圏を比べると、中心市からの通勤者数と中心市外からの通勤者数の構成比に大きな違いがみられる。両大都市圏でこのような違いが生じた理由として考えられることを、以下の語句をすべて用い、2行以内で説明せよ。
中枢管理機能 住宅地開発
東京大学2015年3C
のような問題も出題されていますので、併せて復習をしておきましょう。
設問(3)
問題
観光客が急増している都市では,ホテルや民泊などの宿泊施設の新規開業に対する需要が著しく高まっている。いくつかの都市では,これにより都市住民の居住地選択が変わり,結果として都市内における住民の居住地が変化することが観察されている。どのような理由でどのように居住地が変化するのか,合わせて2行以内で説明せよ。
解説
本問では、いま話題のオーバーツーリズムの具体的な事例について述べられています。
設問では
① 都市住民が「どのような理由で」引っ越しをして
② 「どのように」「都市内」における住民の居住地が変化するのか
の2点が問われています。
①については、設問文に観光客が急増している都市で宿泊施設の需要が著しく高まっていると明示されていますので、さほど悩みはしなかったでしょう。
差がつくのは、②だと思います。
住民の居住地が変化するというのは、要はお引越しの話なわけですが、変化と言われたなら、⚫︎⚫︎から△△へ引っ越したといった具合にBefore & Afterを明確に示すのが作法です。
しかも、「都市内」での居住地の変化ですから、別の都市に移住することは本問では想定されていません。
安易に、どこか別の地方へ引っ越したとかと書かないように東大教授陣は牽制している訳です。
さて、本稿の冒頭でもご案内したオーバーツーリズムの定義が出題切り口について再度ご案内しましょう。
敬天塾の東大対策問題集 地理 (特別編)最新ワード集2025より抜粋
今回は、宿泊施設がどんどん新規開業している事例が取り上げられています。
要するにホテルがばんばん建設されているわけです。
ともなれば、用地を確保するために土地の買収もガンガンに行われますから、地価も高騰し、家賃も急騰することになります。
少し前に、地面師たち(不動産売買に絡む詐欺集団のこと)のドラマが一世を風靡しましたが、日本のどこかで暗躍していそうです。
話を戻しますと、需要が高まる、つまり、多くの人が欲しい欲しいと思えば値段が上がります。
これが経済の大原則です。
本問で言えば、家賃や土地の値段がどんどん値上がりすれば、それまで暮らしていた人たちは土地を売ったり借りた家を退去したりせざるを得なくなります。
ですが、勤務先や通学先は安易に変えられませんから、別の都市に移住することは簡単にはできません。
この論点に似た話を、どこかで聞いたことがありませんか?
ジェントリフィケーションやスプロール現象の話となんだか似ていますよね。
ピンと来ていない方は、しっかりと教科書や資料集で定義を確認しましょう。
定義をきちんと説明できますか?
映像授業の中でも申し上げましたが、⾔葉の定義がブレてしまうと思考までもがブレてしまい、ひいては答案の論理までもがブレてしまいます。
⽤語を丸暗記されている⽅は、「インフォーマルセクター」「モビリティディバイド」「地産地消」といった⾔葉そのものはご存知なのですが、語句の定義や、その語句にまつわる具体例の説明を求めると、途端に何も⾔えなくなってしまいます。
⽤語を知っていること自体は⽴派なことですが、そうした語句を使いこなせなければ東⼤地理では点数をいただけません。
地理に限らず、⾔葉の定義や⽤例を逐⼀確認できた⼈は東⼤⼊試で強いです。
英語であれば、単語帳で⽇本語の意味だけを覚えても、英作⽂で⾼得点を取ることはできませんよね。
語法やコロケーションも、しっかり押さえておかねばなりません。
世界史であれば、冊封体制という⾔葉を知っていても、それを説明できる受験⽣は意外に少ないものです。
そんななか、近代東アジア世界の国際秩序について問われた2020東⼤世界史⼤論述の題意を正確に把握することは困難だと⾔えましょう。
数学でも、同値記号をむやみやたらに使う⼈がいますが、意味がよく分からずに雰囲気で使うと減点されてしまいます。
このように、⾔葉の定義をしっかりと理解せずして、「なんとなく、こんな感じで使うのかな〜」と雰囲気だけで⽤いようとすると、記述問題が主体の東⼤⼊試では痛い⽬に遭うことになるのです。
共通テストや私⼤⼊試のようにマーク式主体のテストでは、ふわっとした理解でも意外に得点できるのですが、やはり記述ですと誤魔化しがききません。
特に、東⼤地理では字数制約が極めて厳しいですから、トンチンカンなことを書こうものなら、あっという間に字数が⾜りなくなってしまいます。
東⼤教授は教科書や資料集を書き上げたプロですから、誤魔化して書こうとしても、すぐに⾒破られてしまいます。
⾔葉の定義をしっかりと確認することが合格ポイントだと⾔えましょう。
さて、話を戻しますと、ジェントリフィケーションとは、
荒廃したインナーシティが再開発され、建物がリニューアルされることによって、比較的裕福な人が流入する現象のこと。地価や家賃が上昇して、以前から住んでいた人が出て行かざるをえなくなり、従来のコミュニティが失われる例もみられる。
(帝国書院地理探究2024年版p190)
と教科書にあります。
要は、地価や家賃が高騰して居住者が裕福な人に置き換わる現象のことです。
さらに、スプロール現象は、
都市が拡大していく過程で、住宅や工場などが、以前からあった農地のなかに無秩序に広がっていく現象のこと、地価が安い都市周辺部で急速に都市化が進んだ場合に起こり、農地のなかに住宅や工場が虫食い状に混在する。
(帝国書院地理探究2024年版p192)
のように定義されています。
両者に通ずるものは、都市の中心部における地価や家賃の高騰で、従来の居住者がお引越しをせざるをえなくなっている点です。
ちなみに、スプロール現象については、東大過去問で定義が問われています。
スプロール現象は、都市の発展にとって望ましくないものとされている。その理由を、以下の語句をすべて用 いて3行以内で説明せよ。
道路 公共投資 利便性
東京大学1997年3B
さて、せっかくですから、地価高騰の要因をいくつかご紹介するとしましょう。
このあたりが真っ先に思いつきます。
職を求めて多くの人が流入するという点に関しては、東京一極集中の論点は超頻出事項です。
過去問では、
九州地方の3つの県における、東京圏で就職する高等学校卒業者の割合が1980年代に増加した理由を答えよ。
東京大学2006年3B改題
上記の問題 敬天塾解答例
官民の中枢管理機能や金融機能が集積する恩恵、並びに雇用吸収力の高い第三次産業の急速な発展や高賃金が人々を魅了したから。(59文字)
の問題に始まり、
三大都市圏とは, 東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県), 名古屋圏 (岐阜県 愛知県 三重県) および大阪圏 (京都府・大阪府・兵庫県・奈良県)である。
(1)1960年代前半をピークに, 人口が三大都市圏に集まってきた理由を, 産業構造の変化と産業の立地の観点から, 2行以内で述べなさい。
(2) 三大都市圏における転入超過人口の動向が, 1980 年代以降, 都市圏間でどのように異なっているか,その理由として考えられることとあわせて, 3行以内で述べなさい。
東京大学2020年3B改題
のように多くの年度で出題されていますので、要チェックです。
話を戻します。
地価が高騰したのち、もともと住んでいた人々はどこに移住するのかというと、郊外です。
ですが、郊外ならどこでもいいわけではありません。
都市中心部に勤務先や進学先があるのであれば、都市中心部から交通の便が良いところでなくてはいけませんね。
この話は、ズバリ今年の東大地理第3問Aの論点そのものですよね。
人口がいかなる理由で移動するのかという人口動態の論点は東大地理で頻出です。
今年の3Bコロナパンデミックの問題でも問われていました。
つまり、2B・3A・3Bの3つの大問で人の移動について問われている訳です。
過去問探究をしっかりしていた受験生にとってはラッキーに思えたでしょう。
ちなみにですが、今年の東大英語2B和文英訳でも家絡みの話が問われました。
郊外にお引越しした人たちが高齢化していったら、どうなるでしょうか。
再開発も行われずに少子高齢化が進もうものなら、シャッター商店街や空き家問題が生じてきます。
過去問では、2015年第3問のほか、
日本において, 住宅総数は長期的に増加を続けてきたが, 空き家率も近年上昇が著しい。 これらの事象が生じてきた理由として考えられることについて, 以下の語句を全て用いて3行以内で述べよ。 語句は繰り返し用いてよいが, 使用した箇所には下線を引くこと。
世帯規模 地方圏 高齢化
東大地理2022年3B
のような切り口で問われていますので、周辺知識をしっかり固めましょう。
教科書では、
開発時に働き盛りの世代が一斉に入居した日本各地のニュータウンでは、現在、居住者の高齢化が急速に進み、建物の老朽化や少子化なども課題となっている。
(帝国書院地理探究2024年版p193)
地価の高い都心部を避け、通勤・通学圏である郊外にニュータウンや団地が開発され、人口のドーナツ化現象があらわれた。近年は、景気の停滞や人口の減少によって、大都市圏の拡大は収束し始めている。核家族世帯が多くなった大都市郊外の住宅地では、子供の独立による住民の高齢化や孤立化が進み、人口減少や空き家の増加もみられるようになった。
(二宮書店地理探究2024年版p164)
のように書かれています。
このように話を膨らませていくと、多くの論点が有機的に連関していることに気づけるのではないでしょうか。
さて、オーバーツーリズムの話に戻します。
京都を例にとると、新規のホテル建設ラッシュが町のいたるところで行われています。
一泊120万円もするような部屋もあるそうです。
世界遺産の目の前にホテルも建てられているそうでして、地域の景観を害しているとして訴訟まで起きています。
観光客の集中やマナーの悪さで住環境も悪化しているそうです。
神奈川県の鎌倉を例にとると、観光客が多すぎて地元住民が電車に乗れない事態まで発生しています。
こうした事態を憂慮してか、今年の東北大学や北海道大学では英作文でオーバーツーリズムの問題が取り上げられていました。
地理的思考を駆使して時事的な話題を考察する習慣を身につけると他教科でもアドバンテージを得られるかもしれない好例ですね。
それでは、解答例を示したいと思います。
解答例
観光名所の近接地域における地価・家賃の高騰や住環境の劣悪化で、地価が安く観光客の少ない郊外への転居を強いられている。(58文字)
設問(4)
問題
西表島や白神山地などの地域では,訪れる観光客が増大することによって生態系が乱れ、生物の多様性が損なわれてしまうことが危惧されている。そうした地域で、このような問題を解決するにはどのような方法があるか。また,その方法を実施することに,どのような反対意見があるか。合わせて3行以内で述べよ。
解説
オーバーツーリズムの問題点を自然遺産の切り口から問うています。
問題点を知っているだけではなく、解決策や反対意見にまで言及するよう求められていますので、用語を見聞きしたことがあるだけでは太刀打ちできなかったことでしょう。
わりと有名な論点ではあるのですが、市販の参考書や塾テキストですと、情報の更新が間に合っていないのか未掲載なものも多かったようです。
ただ、東大の教授陣はそんなことは気にしていません。
あくまで、最新の教科書や資料集に書かれているのか、過去の東大入試問題を探究することで涵養できる地理的思考力で解けるかどうかだけが東大教授陣の関心事です。
では、教科書や資料集にはどのように書かれていたのか確認してみましょう。
観光開発によって、観光用道路や施設の建設、整備が進んでいる。しかし、それによる自然環境破壊も進んでおり、観光化と環境保全のバランスをとることが重要になっている。
(二宮地理探究2024年版p139)
急速な観光開発や観光客の増加は、地域の自然環境や伝統的な文化、慣習に与える影響も大きいため、それらを損なわない配慮と工夫が欠かせない。
(二宮地理探究2024年版p279)
エコツーリズム: 環境意識の高まりを背景に、観光を通じて、自然や文化などの資源を保全しつつ活用し、地域振興をはかる観光のあり方、自然に親しむツアーをエコツアーとよぶこともある。
(東京書籍地理探究2024年版p154)
と記されています。
ただ、困ったことに解決策や反対意見について、明示はされていません。
敬天塾の最新ワード集2025などを使っていた方には易問だったかもしれませんが、たとえ知らなかったとしても地理的思考力を駆使すれば解答方針は定められたはずです。
本問にせよ、1つ前の説問(3)にせよ、要するに金儲けを目論む企業側と、不利益をこうむる住民や自然環境との利益衡量(=天秤にかけること)が問題になっている訳です。
いまどきのSDGs風に言うならば持続可能な開発が重要だと考えられている訳ですね。
それでは、ここで考えられる方策と反対意見をいくつか挙げてみたいとおもいます。
敬天塾作成分析チャート
いかがでしょうか。
人が増えすぎたことが問題なのであれば、人を減らせば良いという発想は思いつきやすいと思います。
ただ、人を減らせば観光収入が減りますから、ホテル業者や飲食店からは不平不満が出てくるはずです。
このあたりを端的にまとめれば答えを紡ぎ出せるでしょう。
なお、小学生に本問を解かせたところ、
「自然保護のため観光客の訪問数を制限する方法が考えられるが、カネにならないという反対意見がある。」
という答案が提出されました(笑)。
ストレートすぎる表現は微修正すべきでしょうが、ポイントを掴めています。
なお、⚫︎⚫︎ツーリズムの論点は、最近の教科書や入試問題で数多く出題されていますので要チェックです。
※以下、筆者が赤字化
ヨーロッパで始まり、自然や人文環境を損なわない範囲で自然観察を行ない、先住民の生活や歴史を学ぶことに主眼を置いた観光形態をエコツーリズムと言う
(明治大学改題)
農山漁村でみられる新たな取り組みとして、都市住民が豊かな自然や文化をはじめ、地元住民との交流を楽しむ滞在型の余暇活動をグリーンツーリズムと言う
(東京学芸大学)
スラムツーリズムという観光形態がある。日本では、哲学者の東浩紀が提唱した「福島第一原発観光地化計画」によって知られるところとなったダークツーリズムの変種だ。ただし、ダークツーリズムが、追悼のために、知的好奇心を満たすために、チェルノブイリ原子力発電所やグラウンド・ゼロといった悲劇の跡地を訪れるものだとしたら、スラムツーリズムは、文字通り、スラム=貧困地域という現在進行形で人々が生活している場所を訪れるため、たとえ慈善や学習のような目的があったとしても、より倫理的な問題が発生しやすくなる。
(一橋大学)
マイクロツーリズムとは、地元や近隣への短距離観光を表す。新型コロナウイルスによって打撃を受けた観光業界を救う手段の一つとして、「三密」を避けながら観光を楽しむための手段として注目が集まっている。コロナ禍で長引く自粛生活の中で、保養目的の小旅行を楽しめれば、暮らしに活力を取り戻せるとして注目を浴びた。地域活性化の手段としても注目が集まっている。
(教科書などを要約)
オーバーツーリズムとは、観光地に観光客が多数押し寄せることを意味する。鎌倉を例に挙げると、江ノ電という電車に観光客が押し寄せた結果、地元民が電車に乗れない事態が発生した。ゴミをポイ捨てするモラルの低い外国人観光客も多く、地元民からは市の観光政策を批判する声が上がっている。こういった「観光公害」が深刻化すると、観光客にとっても満足度が下がる結果となり、「持続可能な」観光産業が育まれなくなるというリスクが観念される。地域振興のメリットとの狭間で揺れ動いている。
(教科書などを要約)
敬天塾の東大対策問題集 地理 比較編①より抜粋
なお、白神山地で貼られている警告文書を最後にご覧いただきたいと思います。
なんだか読んでて悲しくなりますが、ルール違反のことをしている人が想像以上に多いからこそ、こういう張り紙がつくられるわけですね。
それでは、解答例をご紹介いたします。
解答例
事前予約制や時間帯指定入域制の導入により、自然保護区域に立ち入れる観光客の人数を制限する方策がある。だが、客足が鈍って観光収入が減り、地域経済に悪影響が及ぶことを懸念する声がある。(90文字)
環境保全と地域振興を共に追求するエコツーリズムの導入が解決策に考えられている。だが、両者のバランスを図ることは困難であり、優秀なツアーガイドの確保も難しい実態があるとの懸念がある。(90文字)
入域税導入に加え、AIやビッグデータ等を用い混雑状況を分析して観光客の分散化を図り自然保護区域の過密化を防ぐ方法がある。だが、客足が鈍り観光収入が減ってしまうことが危惧されている。(90文字)
以上、長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。
なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。
【さらに深く学びたい方のために】
敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。
上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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