2025年東大地理(第3問A)入試問題の解答(答案例)・解説

(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。

(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20250225-SS6KISNKS5BRTKNOCIBINS4GHI/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

はじめに

今年度の3Aでは、人口集中地区(DID)にフォーカスをあてた問題が出題されました。
ご存知の方は少なかったとは思いますが、きちんと設問文や図表を読み取れば、東京一極集中や郊外化(ドーナツ化現象)の典型論点が問われているに過ぎないことにすぐ気付けたはずです。
ゴツイ図表やデータをみて難問だと思い込まないようにしてください。

見慣れない問題の時ほどチャンスだと思え!、と塾生には口酸っぱく伝えていますが、本問はその好例です。

馴染みの薄い専門用語や図表が多く出され、設問文や注釈が長文で出されると、まともに分析考察することなく、すっ飛ばす受験生が多くいます。
こうした人をふるい落とすための問題を東京大学は毎年のように各設問にちりばめてきます。
今年度は図表を多く読み取らねばなりませんでしたから、例年になく試験会場で動揺した方も多かったとききます。
地図やデータの分析力を重視した地理総合・地理探究の科目コンセプトに則ろうとしているのかはわかりませんが、来年以降もこうした出題スタイルが踏襲されるように思えます。
敬天塾の過去問解説をしっかり読み込んで、万全の準備をしましょう。

 

さて、東大地理には幾つかの出題切り口があります。ざっくり挙げるなら

①なんのひねりもない典型問題/単純知識問題

②ゴツイ図表などを出してコケオドシをするも、結局は典型論点について問うているに過ぎない問題

③見慣れない用語や論点を出して、地理的思考力を駆使して受験生の差別化を試みようとした問題

の3つに大別されます。
①はいわゆるサービス問題と言われるものですが、東大地理では非常に少ない印象です。
メインは②と③になるのですが、社会科を単なる暗記科目と捉えている受験生にとっては酷な出題形式でして、対策方法がわからず地理選択を敬遠する方が毎年多くいます。

この点、東大が好む地理的思考については、敬天塾の東大対策問題集 地理鉄則集過去問解説記事などでノウハウをまとめておりますので、科目選択を変更なさる前にぜひ一度お手にとってみてください。

 

それでは、解説を始めたいと思います。

設問(1)

問題

図3ー1,図3ー2により1960年と1980年のDID分布を比較すると,東京23区から見て北(埼玉県方面)ではDIDは放射状に拡大している。図3ー4も参考にしながら,このような拡大傾向を規定している要因として考えられることを,1行で述べよ。

小難しいことが書かれていますが、要するに23区から埼玉県に向かって人口が「放射状」に増えている理由を考えるよう求めているわけです。
ご丁寧なことに、「図3ー4も参考にしながら」とヒントを与えてくれており、そこでは触手のように23区から延びた鉄道網が示されていますので、これをヒントに答えれば良いだけの易問です。

見た目のゴツさと難易度は一致しないことを示す好例だとも言えましょう。
せっかくですから、図3ー2を簡略的に描いた図を載せたいと思います。

ちょっと雑な図で申し訳ないところではありますが、実際に私が解く時には、これくらいザックリと捉え直して考えていることを皆さんにお伝えしたくて、敢えてイラストレーターなどで綺麗に描図はしませんでした。
複雑な図が出されたときに、要点のみを抽出してシンプル化する重要性については2024年1Bの解説記事でもご案内したところですので、あわせてご覧ください。

2024年東大地理(第1問B)入試問題の解答(答案例)・解説

さて、この図3ー2の簡略図で注目して欲しいのは、23区ゾーン(赤色)から延びた黄色いトゲトゲの部分です。
ここに、図3ー4で示された鉄道網を書き込んでみると、見事に一致しています。

当然と言えば当然ですよね。23区に通勤通学する人は、交通の便の良い鉄道駅周辺に住むはずなのですから。
鉄道や高速道路といった主要な交通網沿いに街が形成されていくことは常識として知っておくべきでしょう。
首都圏にお住まいの方なら、朝の満員電車地獄はよくご存知だと思いますので、鉄道網沿いに都市開発がなされることはイメージしやすいと思います。
地方の方であっても、主たる鉄道駅の周辺にデパートや繁華街がつくられ賑わっていることはイメージできるのではないでしょうか。
資料集に付属している白地図や共通テストの過去問を読み込んでいれば駅周辺が栄えていることは、わりとよく出てくる話しでもあります。
ですので、解答方針としては、鉄道路線沿いに宅地開発がなされたことを軸にすれば良いでしょう。

 

ただ、プラスアルファで述べるなら、1960年〜1980年の間に鉄道路線が新設されたことを書くのもアリです。
高度経済成長のなか東京圏(1都3県)の人口は急増していました。
1955年から1980年までに人口は2倍近い3000万人に膨れ上がり通勤地獄の様相は目に余るものとなりました。
こうしたなか、一兆円を超える資金をもって鉄道網の拡充や輸送力の向上を図る「五方面作戦」が実行されたのです。
ご興味のある方は、こちらをご覧ください。
https://www.jcca.or.jp/infra70n/files/PJNO_06.pdf

もちろん、こんな知識を知らずとも、人口が増えれば鉄道網も拡充するだろう、鉄道網が拡充すればニュータウンなどが併せてつくられ多くの人が移住してDID分布が広がるだろうと推察することは出来たはずです。

 

なお、本問に関連して、ドーナツ化現象やスプロール現象といった関連キーワードについては教科書や資料集で定義を確認するようにしてください。

せっかくですから、教科書の記述もご紹介いたします。

1970年代前半に、大阪圏や名古屋圏への人口集中はおさまったが、東京圏への一極集中は続いた。地価の高い都心部を避け、通勤・通学圏である郊外にニュータウンや団地が開発され、人口のドーナツ化現象があらわれた。近年は、景気の停滞や人口の減少によって、大都市圏の拡大は収束し始めている。核家族世帯が多くなった大都市郊外の住宅地では、子供の独立による住民の高齢化や孤立化が進み、人口減少や空き家の増加もみられるようになった。
(二宮地理探究2024年版p164)

少し長くなりましたが、解答例を示したいと思います。

解答例

都心と郊外を繋ぐ鉄道網が拡充し、沿線地域の宅地開発も進んだ。(30文字)

郊外から都心に通ずる鉄道沿いに大規模な宅地開発がなされた。(29文字)

 

(追記)

「通勤通学の便利な鉄道沿いに人口が集中した」と書いた答案が散見されましたが、これはお題に答えているか疑わしいです。
人口が集中した要因を問われて「人口が集中したから」と答えたのでは、同義反復しているだけです。
人を引き込む要素を挙げなければなりませんから、「通勤・通学に便利な鉄道網が埼玉方面に延伸したから」くらいは書きたいところです。

 

設問(2)

問題

東京23区から見て南西(神奈川県方面)と東(千葉県方面)比較すると,図3ー1〜図3ー3のいずれの時点でも,東京駅から25km以上50km未満の範囲におけるDID分布が大きく異なっている。このような違いが生じた理由を,以下の語句を全て用いて3行以内で説明せよ。語句は繰り返し用いてもよいが,使用した箇所には下線を引くこと。

 時間距離 港湾都市

本問では、なぜ神奈川では広く繁栄しているのに、千葉はあまり栄えていないのか問われています。
神奈川の場合、東京湾岸地域に留まらず広くDIDが広がっていますが、千葉については東京から近距離にあるエリアや臨海部に限定してDIDがみられます。

なぜだろうと思われた方も多かったかもしれませんが、設問(1)と同様に鉄道網という切り口から答えを紡ぎ出したいところでした。

通勤通学先は基本的に東京23区にあります。
それゆえに、東京都心への交通アクセスの良いところに住みたいわけです。
片道2時間かかるところよりも、片道45分で東京に出られる方が、朝も早起きしなくて済みますし、体力も削られなくて済みます。
地方にお住まいの方であれば、東京大学に合格されて上京したときに何処に住みたいですかという話です。
東大まで1時間の場所であれば朝7時に起きても1時間目の講義に間に合います。

ですが、東大まで2時間の場所であれば朝6時に起きないといけませんし、夜も終電のことを考え夜10時には帰路に着かないといけません。
さらには最寄り駅から自宅まで離れていても嫌ですよね。
朝は良いかもしれませんが、クタクタになって帰ってきたとき、最寄り駅から徒歩30分なんてたまったもんじゃありません。

さて、多くの人が東京都心方面に通勤通学するわけですが、ブラックホールのように郊外から人口を吸収している様は以下のムービーでも一目瞭然にわかります。ゾワゾワっとしますよね(笑)                                                     https://x.com/ShinagawaJP/status/1295290745381728265

ちなみに神奈川と千葉でどれくらい交通アクセスが異なるのか、次の図をご覧ください。

このように東京駅を中心に半径50km圏をみてみると、東京駅からの直線距離がほぼ同じ神奈川県の鎌倉と、千葉県の成田では40分も時間が異なります。
木更津に至っては直線距離的には鎌倉より短いにもかかわらず30分も多く時間がかかります。
千葉の場合、快速の本数が少ないこともありますが、東京湾のせいで単純な直線距離で考えることができなくなっています。
東京寄りの船橋や千葉であればスムーズに東京まで出られますが、木更津あたりですと東京湾を大きく迂回せねばならないところ、東京駅からの移動距離は50km圏を表した円では表現できません。
移動距離が伸びれば、所要時間も増えるはずですね。

また、交通網という点でも、神奈川は臨海部に限らず鉄道網が充実しているのに対し、千葉の内陸部の交通網は神奈川に比べて見劣りします。
設問(1)で考察したように、鉄道路線沿いに都市開発がなされますから、交通網の未発達は都市開発の遅れにも繋がり、わざわざ都心からお引越ししようとは思えなくなるわけです。
実際の路線図をご覧いただくと一目瞭然です。

だいぶ交通網の充実度が異なりますよね。
ちなみに、50km圏外でいうなら、神奈川には小田原があります。
東京駅から新幹線が通っていますので距離が離れていても意外に早く到着できます。
敬天塾から東大合格を果たされた生徒で、静岡から東京大学まで新幹線通学をされている方もいます。
ですが、千葉ですと新幹線は通っていませんので、東京から離れれば離れるほど莫大な時間を要してしまい、都心への通勤通学が必要な人には敬遠されてしまいます。

さて、ここで指定語句に目を向けるとしましょう。当たり前ですが、指定語句の定義があやふやだと、まともな答案は書けません。まず一番厄介なのは「時間距離」でしょうか。

教科書では

2地点間の所要時間から測定される距離をいう。時間距離は交通路の直線化や交通機関の高速化によって短縮される。
(二宮地理探究2024年版p122)

と定義されています。

さらには、東大1997-3Aでは鉄道網の整備によって時間距離が短くなることが問われてもいますから、過去問探究をしっかり行ってきた受験生にとって本問はサービス問題だと言えましょう。

次に「港湾都市」ですが、これは読んで字の如く、東京湾沿いに形成された都市のことです。
千葉であればディズニーランドのある舞浜や、臨海部に形成された京葉工業地帯周辺を指すでしょうし、神奈川であれば横浜や川崎あたりが有名どころです。

たとえ具体的な地名が分からずとも、東京湾沿い(下図の青いゾーン)に人口が集中していることは図表からも明らかですから、港湾都市に人口が集中している旨を書いておけば十分です。

以上を端的にまとめれば合格答案になると思います。
90文字もありますから、意外に字数が余った方もいたことでしょう。
その場合、指定語句を何度か使ってみたり、東部や南西部にかわって「千葉方面」「神奈川県方面」を用いることで字数稼ぎをするのも一案でしょうか。
幾つかの解答例を示します。

解答例

南西部は鉄道網が充実し都心との時間距離が短く、産業集積が見られる港湾都市も抱えるため人口が集中した。だが、東部は産業が集積する臨海部を除いて、都心へのアクセスが悪く移住者が少ない。(90文字)

南西部は鉄道網が充実し都心との時間距離が短く、産業集積が見られる港湾都市も抱えるため人口が集中した。だが、東部は都心への時間距離が短い東京湾岸地域を除いて、交通網が未発達である。(89文字)

南西部は鉄道網が優れ都心との時間距離が短く、大規模な港湾都市も抱えるため人口が集中した。だが、東部は産業が集積する東京湾岸地域を除き、都市開発や交通網整備が遅れ人が集まらなかった。(90文字)

東京湾岸域の工業地帯周辺ばかりで交通網整備や都市開発が進んだ東部とは異なり、南西部では産業が集積した港湾都市に限らず鉄道網が広く整備され、東京都心との時間距離の短縮に成功したから。(90文字)

東部は東京湾が障壁となって都心からの時間距離が長くなりがちで、東京寄りの港湾都市を除いて交通網が未発達なのに対して、南西部は鉄道網が充実し都心へのアクセスも良く人口が集中したから。(90文字)

 

(追記)

千葉県には東京湾を突っ切る東京湾アクアラインが木更津から走っています。
ただ、朝の通勤通学でいちいち車で海を渡らなくてはいけないのは不便ですし、お金もかかります。電車の本数が増えたり、特急や快速が今よりももっと増えてくれれば良いのでしょうが、実際には快速を減らすケースもあり、東京都心との時間距離はますます長くなっています。
いっとき、大きなニュースにもなりました。

https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/019/75/

こうしたこともあり、けっきょく、東京寄りの地域ばかりに人が集まり、その他の地域は深刻な過疎化が進んでいるのです。
首都圏にありながら、交通網の未発達などで首都圏にいる恩恵に授かれないと嘆く千葉県民はかなり多くいます。

 

設問(3)

問題

図3ー1〜図3ー3から時系列的なDID分布の変化を見ると,首都圏におけるDIDの外側に向けての拡大は1980年代までに概ね収束している。DIDの外側への拡大がそれ以上進まなかった理由として考えられることを2つ挙げ,合わせて3行以内で説明せよ。

本問では、1980年代までにDIDの拡大が収束している理由が問われています。
国土交通省の資料では

平成2年(1990年)以降、首都圏におけるDID面積の伸び率は控えめになっています。
千葉・埼玉・神奈川におけるDID面積もほとんど増えていませんから、本問で言う「DIDの外側に向けての拡大」が収束した点に間違いはなさそうです。
80年代に落ち着いたということは、80年代に何かがあってそれ以降事態が何も変わらなかったとも言えますし、90年代はじめに何かがあってDIDの郊外化を止めるような事態が生じたとも言えそうです。
80年代から90年代に何が起きたのでしょうか。
20〜21世紀の出来事は、東大地理で頻出ですので、歴史嫌いの方も最低限の知識は習得するようにしましょう。

東大対策問題集 地理 歴史編

まずは、教科書にどのような記述があるかチェックするとしましょう。※赤字化は筆者

日本では、1980年代後半から1990年代初めのバブル経済期に、大都市を中心に土地の転売や地上げ が横行し、地価が異常に高騰する現象が起こった。
(帝国書院地理探究2024年版p194)

なるほど、バブル経済が起きていた頃ですね。地価が高騰して、古くから住んでいた人が土地や家を手放して郊外に引越しをしました。

2Bでもご紹介した、こちらの図の話です。
ですが、バブル(泡)ですから永遠には繁栄しませんでした。

バブル経済崩壊後に1990年代後半から2000年代にかけては、大都市や地方都市でも地価が下がったため、都心近くでもマンションの供給が増加した。
(帝国書院地理探究2024年版p194)

このように、空洞化から都心回帰の動きが加速したわけです。
ここで内閣府の統計をご覧いただくとしましょう。

上図の通り、確かにバブルが弾けた90年代前半から、都心部から郊外への転出が減少し、郊外から都心部への転入も増加しています。
その背景には、都心部の地下下落ののち分譲マンションが大量供給されたこともあります。

下図をみる限り、確かに1994年ごろからマンション供給量が急増していますね。

このようにみると、バブル経済崩壊後の地価下落に伴う都心回帰がDIDの郊外化終焉の一因だと言えそうです。

ですが、本問を難しくしているのは、理由を2つ挙げなければならない点にあります。
この点、先程ご案内した地価高騰に関する絵でも記載がありましたように地価高騰の要因には様々なものがあります。
その一つに「職を求めて人が流入」することが挙げられます。

過去問では、

郊外住宅地化とその後の変化は,どのようなものであったか。下記の語句をすべて用い説明せよ。

 距離帯 団塊世代  地価    

東京大学2015年3C(2)

東北地方の3つの県では、1980〜2000年にかけて東京圏で就職する高等学校卒業者の割合が減少し、県内就職者の割合が増加している。こうした変化の理由として考えられることを2行以内で述べよ。

東京大学2006年3B(1)改題

九州地方の3つの県について,東京圏で就職する高等学校卒業者の割合をみると,1980〜1990年にかけて増加し、1990〜2000年にかけて減少する傾向がみてとれる。1980年代に東京圏の割合が増加した理由として考えられることを2行以内で述べよ。

東京大学2006年3B(2)改題

東北地方の3県においては宮城県で、九州地方の3県においては福岡県で、それぞれが就職する高等学校卒業者の割合が、増加する傾向にある。このような変化が生じた理由として考えられることを3行以内で述べよ。

東京大学2006年3B(3)改題

のような形で過去に問われています。
官民の中枢管理機能や金融機能が集積する恩恵、並びに雇用吸収力の高い第三次産業の急速な発展や高賃金が人々を魅了して東京への人口流入が続いていたことは事実ですが、その一方で東京一極集中を是正する動きが地方中枢都市などで起こっていたことも過去問から学ぶことはできます。

やはり過去問探究が東大対策に極めて有益だということが改めて証明されました。
地方から東京圏に流入する人口が抑え気味になれば、DIDの郊外化が進むこともなくなるはずです。
止め処なく流入してくる人々を郊外に流す必要性がなくなるからです。

ここで国土交通省の資料をご覧いただくとしましょう。
確かにバブル崩壊後に地方から東京圏への人口移動が減少しています。

この点について、内閣府は以下のように考察をしています。

 高度成長が終焉を迎える70年代に入ると、地方からの人口の流入圧力が弱まったことなどから、首都圏の人口の純流入は減少している。首都圏の人口の社会増は、70年代前半の5年間では89万人の増加であったのが、後半では19万人の増加に止まった。

 この背景としては、経済が低成長経済に移行し、都市への人口流入の経済的な誘引が弱まったことに加え、出生率の傾向的な逓減を背景とする地方での「潜在的他出者」(⚠︎家を継ぐ子供以外の兄弟姉妹)の減少という人口学的要因や、地方における地元志向が強まったことによる県外就職率・進学率の低下、かつて首都圏に移転して来た地方出身者のUターン志向の強まりなどの要因も、指摘されている。

 しかし、80年代に入ると、景気拡大を背景に首都圏への純流入数は再び増加に転じ、80年代前半の5年間には48万人、いわゆるバブル期に当たる80年代後半には73万人の純流入にまで戻った。しかし、いわゆるバブル崩壊による景気の低迷とともに再び減少し、一時90年代前半には17万人にまで減じた。その後はまた90年代後半に34万人、2000年代前半には70万人と増加傾向に転じている。

内閣府『地域の経済2011』

いかがでしょうか。70年代に東京圏への人口集中が緩やかになった理由については色々と書かれていますが、80年代にDIDの郊外化が終焉を迎えた点についてはなかなかハッキリしません。
受験生レベルで細々と論じることまでは東大側も求めてはいないはずです。

それゆえ、

① バブル経済崩壊後に都心の地価が下落し、分譲マンション建設も相まって都心回帰の傾向が強まった

② 高度経済成長期にみられた地方からの人口流入が沈静化し、郊外の都市開発需要が大幅に下がった

ことを明示すれば十分に合格答案になると思います。それでは、解答例を示したいと思います。

 

解答例

地方から東京圏への人口流入が沈静化したこと等に伴い、郊外の新規宅地開発が停滞したことに加え、バブル経済崩壊後に地価が大幅に下落しマンション供給量が急増した都心に人が流れ込んだから。(90文字)

 

(追記)

DIDの郊外化が終焉したのち、郊外のニュータウンでは建物の老朽化や居住者の高齢化が深刻な問題となっています。
こうしたDIDの縮退に伴い、スーパーマーケットが撤退し、商店も次々に閉店すると、首都圏に住んでいながら買い物難民になってしまうわけです。
多摩ニュータウンは入試でも頻出なので押さえておきましょう。

https://s.mxtv.jp/tokyomxplus/mx/article/202101261000/detail/

なお、買い物難民については、以下の過去問の確認がMUSTです。

大都市での日常の買い物についてみた場合,かつてはその利便性が確保されていたにもかかわらず,最近では,居住者が日用品の購入に不便や困難を感じるようになった地域も発生している。こうした地域が生じている理由について,2行以内で述べなさい。

東京大学2018年3C(2)

2018年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

加えて、居住者の高齢化が進むということは、空き家問題も当然出てきます。

この点にフォーカスをあてた以下の問題もMUSTで確認しておきましょう。

日本において, 住宅総数は長期的に増加を続けてきたが, 空き家率(図3-3の下の※を参照)も近年上昇が著しい。 これらの事象が生じてきた理由として考えられることについて, 以下の語句を全て用いて3行以内で述べよ。 語句は繰り返し用いてもよいが, 使用した箇所には下線を引くこと。

 世帯規模 地方圏 高齢化

東京大学2023年3B(4)改題

2023年東大地理(第3問B)入試問題の解答(答案例)・解説

 

最後に、高度経済成長期を支え、かつて首都圏に大量流入した団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる2025年問題も併せて復習するように心がけましょう。
深刻な人材難に見舞われようとしています。
来年以降、この論点が出題される可能性も高いですから、ご参考まで、敬天塾の最新ワード集より一部資料を抜粋してご紹介いたします。

敬天塾東大対策問題集 地理 最新ワード集2025より

少子高齢化がらみの論点も、この機会に整理しておきましょう。

フランスやスウェーデン(A群)の合計特殊出生率は回復傾向にある。その一方で、日本や韓国(B群)は回復に苦戦している。なぜ、このような差異が生じるのか3行以内で端的に説明せよ。
 (敬天塾の東大対策問題集 地理 比較編①より)

2020年の人口規模が10億人以上であった中国とインドの、人口変化率の推移にみられる差異とその背景を2行以内で説明せよ。
(東京大学2024年2B(3)改題) 

2024年東大地理(第2問B)入試問題の解答(答案例)・解説

ドイツにおいて、ここ20年間の人口構造の変化によって深刻化していると思われる経済的問題を2つ、あわせて2行以内で答えなさい。
(東京大学2017年3A(2)改題) 

2017年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

ドイツや日本では、近年、総人口の中で高齢者の占める割合が高くなる人口高齢化が、重要な社会問題であると考えられている。このような国で人口高齢化が進む理由を、次の語句をすべて用いて、3行以内で述べよ。
 出生率 平均寿命 人口ピラミッド
(東京大学2002年2D改題)

いかがでしたでしょうか。
たった1題から、ここまで話を膨らませることができるわけです。
このような過去問学習を日々実践なさっていれば東大地理は恐るに足りません。

長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。
なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。
ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。

 

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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