2020年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

3Aはドイツの人口動向について考えさせる問題でした。
見慣れない資料が提示され、図や統計表の読み取りや判読力だけでなく、ドイツの産業構造などの知識が必要とされ筆者は難しい内容に感じましたが、いかがでしたでしょうか。

人や物の動きは、東大入試で頻出です。
敬天塾の東大過去問分析シートなどを手に、過去問研究を早いうちにガンガン進めましょう!東京大学が何度も大切な視点やポイントを受験生に訴えかけていることに気づけると思います。本問も学習効果の高い問題にもなっていますので、しっかりと復習しましょうね。

(1)の解説

(1)は、一見すると知識の問題かと思いますが、キーワードが盛りだくさんなので取りこぼしがないようにしたいところです。
アでは「豊富な石炭資源」や「重化学工業を中心とした工業都市」といった記述からルール炭田やルール工業地帯を思い浮かべられると5だと判断できたでしょう。
次にウでは「国際空港」や「欧州中央銀行の本部」などの記述からフランクフルト空港やフランクフルトが連想できると良かったですね。
残るイは「エルベ川上流」や「かつての王国」、「宮殿」などからザクセンであることが分かれば答えられると思いますが、確信を持って解答できた受験生は少なかったようです。

(2)の解説

(2)では1990~2000年にかけての人口増減率の地域差の特徴と要因が問われています。
1990年代のドイツと聞くと、東西統一がすぐに思い浮かんでほしいところです。日本史選択者だとしても、ここは甘えてはいけません。

さて、東西統一によって豊かな西側へ東側から雇用を求めて人口が流入したことは頻出です。たとえ見慣れないデータが使われていても、ある程度問題の予想はできますね。
実際に、表を見てみると、案の定東側がマイナスのところが、西側でプラスのところが多くなっています。答案の流れとしては、東西統一後に東西の経済格差から東から西へ人口が流入したことを丁寧に書けばスッキリした答案になると思います。

(3)の解説

つづいて、(3)は西部ドイツにおける人口増加率の南北格差が変化した要因について考えさせる問題でした。
正直これは完答するのはとても難しいのではないかと思います。答案の構成としては、かつての南北の人口増加率と、その背景を指摘したあとに、南北格差是正の理由を述べていくと変化と要因について上手くまとめられると思います。

まずは表を見てみましょう。
設問文では明確に区分されていませんが、1~5を北部、6~10を南部と仮定すると人口増加率は南部で高く北部で低いことが分かるでしょう。

北部衰退、南部発展の背景

では、なぜ北部で人口増加率が低くなっていたのでしょうか。これも設問文や指定語句をヒントにすると推論しやすいと思います。
まず、産業構造という語句から、北部の産業について考えると、ルール工業地帯に重工業都市が多く分布していることを想起できると思います。
また、1970~1980年代という時代を考えると、石油危機によって重厚長大産業が衰退していったことも分かります。
よって、北部の人口増加率が低い理由は石油危機などによる産業構造の転換に後れたことや国際競争力を失ったことを挙げられますね。

つぎに、南部の人口増加率が高い理由ですが、南部ではシュツットガルトに代表される自動車産業や機械工業が盛んで、またミュンヘンに代表される先端技術産業も盛んです。南部の産業構造が転換できたことや自動車産業などが国際競争力を保ったことを書ければ良いでしょう。しかし、ここまでたどり着けた受験生は少なかったのではないでしょうか。

南北格差が減少した理由

さいごに、南北格差が顕著でなくなった理由を考えましょう。
ここでは、(1)の文章とサービス経済化の指定語句に注目しましょう。

アの文章を引用してみると、

この州は、豊富な石炭資源をもとに、製鉄や化学といった重化学工業を中心とした工業都市が東西に連なり、コナベーションを形成していた。現在は、ライン川沿いの都市群が南北軸を形成し、ヨーロッパにおける重要な中心地の1つになっている

とあります。

文章の前半部は「工業都市」と書いてありますが、抜粋している部分ではただの「都市群」と表現していますね。ここから、工業から、工業以外の産業へ転換したことが推察されます。

さらにウの文章には

この州の人口の大半は、2つの主要な河川にはさまれた平野部に集中している。国際空港があり、鉄道や高速道路の結節点にもなっている。州最大の都市は、欧州中央銀行の本部が置かれるなど、金融都市として栄え、ドイツでは珍しく超高層ビルが林立している。

とあります。

ここでは、具体的に金融都市と指摘されています。
この辺りから、南北格差が顕著でなくなった理由は、サービス経済化や産業構造の高度化によって、金融業などが発達して北部でも雇用機会が生まれたことなどを挙げれば良いでしょう。
難しい問題でしたが、推論力も知識量も強化できる問題ですので復習のなかで深掘りしていくと得られるものも多いと思います。

(4)の解説

さいごに、(4)はドイツにおける近年の人口増加要因を考えさせています。地理受験者ならば確実に答えて欲しい問題でしたね。
ドイツでは自然減少が続いているものの、EU拡大により東欧諸国から雇用を求めた移民が流入し、人口が増加していることは有名だと思います。
また、2015~16年にかけての中東での紛争による難民が流入していることも書ければ加点されたのではないでしょうか。
このように4~5年ほど前の社会問題などが東大地理では取り上げられることが多いので、注意して勉強してみると良いかもしれません。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(2)

Aさん
東西ドイツの統一に伴い経済が停滞していた東部から人口が流出して減少し、経済が発展していた西部がこれを受け入れ増加した。

Bさん
東西統一後、経済の発展していた旧西ドイツへ、旧東ドイツから人口流入が起こり、人口増加率は西側は高く、東側は低くなった。

両名とも上手くまとめられていますね。
強いて言うなら雇用を求めて移動したことなども書けると良かったと思います。
また、Bさんの答案で「人口増加率」とあるのですが、設問の文では「人口増減率」です。ちょっとした違いですが、設問の表記に合わせられると良いでしょう。

設問(3)

Aさん
北部は金融で栄える南部への人口の流出が多く、重工業が石油危機や人件費の高騰で国際競争力を失い衰退したが、現在北部ではサービス経済化による産業構造の革新が進み人口減は収まった。

Bさん
石油危機以降北部は国際競争力の低下により重化学工業が衰退したが、その後南北共に産業構造の変化に伴ってサービス経済化が進み大都市に人口が集積したから。

Aさんの答案は詳しく簡潔に書けていてとても良い答案です!
欲を言えば北部の衰退の後に南部への流出が書けると流れが綺麗になると思います。
BさんはAさんに比べると南部への言及など少し内容が薄く感じます。また、「大都市に人口が集積した」だけでは、南北格差が是正された理由としては弱いです。例えば「南北にそれぞれ存在する大都市に人口が集積するようになったから。」などとすると、多少は改善されるでしょう。

設問(4)

Aさん
中東やアフリカ、東欧由来の難民、移民等の影響。

Bさん
東欧からの移民や中東からの難民の流入が増えたため。

どちらも中東などからの難民と東欧からの移民の2つの要素を抑えられています。

ただし、Aさんの答案では、文末が「影響」で終わってしまっています。これには良くない点が2点あります。
1つはどのような影響なのか具体化されていない点です。「増加した」くらいは書きたいところです。
もう1つは、論述していない所です。設問では「1行で述べなさい。」とあるので、体言止めは避けたほうが良いでしょう。

設問B

3Bは、日本の人口動向について問う問題でした。
東大地理では例年日本について出題されているので過去問研究を通じて日本に関する知識を蓄えていたら楽に解けたかもしれません。
こうした人口動向は、単に人が移動する話ではなく、経済の話です。雇用、産業、地価などお金や仕事によって人がどのように動くのかを意識して勉強すると良いでしょう。
また、本問は時代ごとの輸入超過人口のグラフから時代背景や変化を読み取る力も重要でした。
それでは、3Bについて見ていきます。

(1)の解説

(1)では、1960年代前半をピークに三大都市圏へ人口が集まってきた理由について問われています。
1960年代といえば高度経済成長期の真っ只中で、重厚長大型産業が隆盛を迎えている時期ですね。よって、産業構造の変化としては重工業化が挙げられます。
3Aでは重厚長大型産業から軽薄短小型産業への産業構造の転換を問われていたので、勘違いしてしまいそうですが、時代をしっかり区別しましょう。

また、重工業では資源や製品の輸出入に便利な臨海部が重要となってくるので、産業の立地としては三大都市圏が含まれる太平洋ベルトの指摘があると上手くまとめられると思います。
答案構成としては、三大都市圏の臨海部という立地条件から重工業化が進みやすかったことや、これによって雇用を求めて農村部から人口が流入したことをまとめると良いでしょう。

(2)の解説

(2)では、三大都市圏それぞれの都市圏での1980年代以降の転入超過人口の動向の特徴とその理由を答えさせる問題でした。表を見てみるとそれぞれの特徴は明らかですね。
東京圏では増加傾向で、大阪圏で減少傾向、名古屋圏で微増傾向ということをそれぞれの理由を添えて書いていきましょう。

東京圏では金融機能や大企業の中枢管理機能などが集積し、人口が集まったことで、東京への一極集中という状況になりました。
大阪圏では工業の視点から考えると、重工業の低迷や電気機械工業の海外移転などにより停滞した経済状況にあります。
名古屋圏では自動車工業が盛んであることはすぐに思いつくと思います。国際競争力のある自動車産業によって雇用機会が保たれているため、微増傾向にあると言えるでしょう。

以上のように考えると答案の流れは書きやすいですが、理由について言及するのはなかなか難しかったと思います。

(3)の解説

(3)では、1990年代以降の東京県内部の人口分布の変化について述べる問題でした。さきほどから存在感を放っていた東京都特別区部の輸入超過人口の情報がついに使えますね…!

グラフを読み取ってみると、東京都特別区部は1990年代まで転出超過となっていたことが分かります。つまりドーナツ化現象が進んでいたのですね。

しかし、1995年以降には人口が増加傾向にあります。
ドーナツ化現象からバブル経済の崩壊や再開発を経て都心回帰が進むという流れは受験地理では頻出のテーマです。各社の教科書でも取り上げられていますので、比較しながら勉強してみる理解を深めておきましょう。
答案は空洞化していた特別区部の地域が人口増加に変わったことを丁寧に書いてあげましょう。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(1)

Aさん
高度経済成長に伴い重工業が発達し工場立地によって雇用機会が増えた三大都市圏へ地方から大量に労働力が流入したから。

Bさん
高度経済成長期に産業構造の中心が農業や軽工業から主に三大都市圏に集中する重化学工業へと変化し、地方から雇用が集中したから。

だいたいの流れは抑えられていると思います。
Aさんは産業の立地について少し触れられていますが、やはり太平洋ベルトなど臨海部に立地することも書いた方がより説得力の高い答案になったと思います。
Bさんは産業構造の変化については詳しく書けていますが、産業の立地についての指摘が不足していますので、注意しましょう。

設問(2)

Aさん
経済の国際化・情報化により東京圏への諸機能の一極集中が起こり、大阪圏では産業構造の転換に後れ転出超過であるが、名古屋圏では自動車産業による雇用の維持によって転出入の差は小さい。

Bさん
大阪圏は阪神工業地帯などの衰退により減少し、名古屋圏は自動車関連業が雇用を維持し横ばい、東京圏では金融業や情報産業が発展し転入超過が続いている。

両名とも答案の流れとしては良いでしょう。
Aさんの答案よりもBさんの答案の方が東京圏や大阪圏の産業などがハッキリと書かれていて読みやすいかと思います。

また、Aさんの答案の「経済の国際化」についてですが、これは減点対象になるでしょう。まず「経済の国際化」という言葉が()恐らく)存在しません。存在しないので、何のことを主張しているかが不明ですから採点できません。
加えて、どこの経済のことか対象が不明瞭であるのに加え、国際化がなぜ東京への一極集中を促すのかにまで言及していません。
鎖国でもしていない限り、経済には多かれ少なかれ国際色は帯びてくるはずです。それゆえに「経済(そのもの)の国際化」という言葉自体、同義反復感が強いようにも思えました。
何となくで言葉を使うのはやめましょう。

なお、東京一極集中を論じるにあたっては、できれば「東京圏」と使いたいですね。東京都より広い範囲をカバーしましょう。東京都単体だと転入はそれほどではなかった時もあるからです。

設問(3)

Aさん
バブル崩壊後、地価の低下により再開発が行われ、東京圏の住居が高密度化したことで、人口が増加している。

Bさん
地価の高い都心から郊外への流出傾向が、バブル経済崩壊で地価が下がり、都心への再流入へと変化した。

Aさんの答案では、「地価の低下により」再開発が進んだとありますが、再開発は地価の低下だけでなく、建物の老朽化やドーナツ化現象に伴う税収の低下など様々な要因が絡むので、地価の低下だけにフォーカスするべきではありません。
また、元々は低い住居だった場所を、再開発して高層マンションにした場合、地価(家賃など)は下がります。するとAさんの答案とは因果関係が逆転してしまいます。
「住居が高密度化」とあり良い視点だったと思いますが、ここは高層マンションの立地などの説明を加えるとより丁寧だったと思います。
Bさんの答案は、1990年前後の人口の動向を流れで書けていてとても読みやすいです。ドーナツ化現象や都心への回帰といったワードを使えると良かったかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)