2023年東大地理(第3問B)入試問題の解答(答案例)・解説

本問は、日本の住宅事情にスポットライトをあてて、空き家や非木造住宅の増加など旬な話題も多く盛り込んだ良問です。
特に空き家については、2030年頃までに、1/3近い住戸が空き家になると試算されており、直前講習でも注意を喚起しておりました。
地方のみならず東京など大都市圏でも空き家は生じえますし、2022年度3Aで東京大学が問うたスマートシティやコンパクトシティの話に絡めて理解を深めることが重要です。
高齢化・交通弱者・買い物難民・医療難民・団塊の世代・多摩ニュータウンなど高度経済成長期に建てられた住宅などの話と絡めて、周辺知識をしっかり固めておきましょう。
併せて、住宅がらみでは、別荘についても要チェックです。
避暑地として名高い軽井沢を擁する長野県や、山中湖などを擁する山梨県に別荘が多いこともググるなりして調べておきましょう。

それでは、早速、設問解説に移りたいと思います。

設問(1)

図3ー2は, 横軸に 2018年の都道府県別の1世帯当たり人員数を, 縦軸に同年の1住宅当たり居住室数を示したものであり, A, B, C, D は, 北海道, 東京都, 富山県, 沖縄県のいずれかである。 A,B,C,D の都道府県名を, Aー○のように答えよ。

図につきましては、東大のホームページや東進過去問サイトで問題冊子をダウンロードの上、ご確認ください。

その上でですが、本問はわりと難度の高い客観式問題でした。
近年の東大地理客観式問題は必ずしも点取り問題ではなくなってきていますから、一旦横に置いて、記述問題などに取り組み、最後にもう一度考察してみる駆け引きも合格力の一つだと言えます。
なお、東京大学は、2020年度第1問でも、特定の都道府県にフォーカスをあてた出題をしています。
各都道府県の特徴については小学生用の参考書でも良いのでチェックしておくと良いでしょう。

とはいえ、それらを知らなかったとしたら解けないのかというと、そうでもありません
まず、候補は北海道・東京・富山・沖縄なわけですが、この中で、特異な存在はやはり大都市東京のはずです。
核家族や単身者の割合が多い場所ですから(家族6〜7人で住んでいますという方は少ないですよね)、瞬時にDを東京都と特定できるはずです。
東京のように、高層マンションが立ち並んでいたり、単身者の割合が多いと、グラフの左下の方に位置することになります。

次に、北海道・富山・沖縄をいくつかの切り口から分析してみましょう。
与えられた図表は、横軸が「1世帯当たり人員数」、つまり家族が何人住んでいるのかという話ですね。そして、縦軸が「1住宅当たり居住室数」、つまり何部屋あるのかということです。
住宅の規模感を表した指標ですから土地の広さも関係してきそうです。もちろん、だからと言って、北海道はでかいから部屋数いっぱいのAと決めては作問者の罠にはまります。もう少し考察しましょう。

例えば、部屋数(縦軸)を家族人数(横軸)でざっくり割ってみると、1人あたりの部屋数が分かります。やってみましょう。
Aは6÷2.6=2.30、
B3.75÷2.45=1.53、
Cは4.25÷2.1=2.02
となります。
つまり、Aでは1人あたり2部屋以上を広々と使っているということが分かります。一方Bは1人あたりの部屋数が少なく狭いところに住んでいることがわかります。
これで何か気づいて答えられるなら良いですが、ピンとこなければ他の視点に行きましょう。

教科書レベルの知識でいうと、沖縄の出生率が高いことは有名ですから、A〜Cの中では、AかBあたりになりそうです。少なくとも、世帯あたりの人数で東京に次ぐビリに近いCが沖縄ということは考えにくいように思えます。

他には、富山の住居と言えば「散村」。つまり、散らばったところにポツポツと住居があるということです。ここからイメージして、部屋数も多く、家族みんなで住んでいるAが富山だと特定することもできるでしょう。
※塾長追記
どこで仕入れたか忘れましたが、富山は持ち家率が全国1位だというのを知っていたので、それで当ててしまいました。
北陸や東北は持ち家率が高く上位が多いです。一方、東京は最下位で、沖縄や北海道も低いそうです。

次に、北海道に行きましょう。北海道の人口はおよそ500万人です。かなり多くの人が住んでいます。
札幌は、富山や沖縄にないほどの大都市ですが、大都市では核家族や単身者の割合が高くなる傾向にあります。そこでCが東京に近い数値ということで北海道として良いのではないでしょうか。

最後に沖縄ですが、那覇に行ったことのある方ならわかると思いますが、庶民の家はそんなに広くはないです。
沖縄は温暖で観光業が発達していて、広い土地は観光リゾートや畑にしてしまいます。

また、沖縄の出生率が高いといっても、何十人と産むわけではありません。
2019年の人口動態統計を見て、1.82と言われています。もちろん全国1位ではあるのですが、それと同様に離婚率も全国1位なのです。
離婚したら、夫と妻は別世帯になりますから、1世帯あたりの平均人数も下がることになります。このあたりから、沖縄をBとすることもできたかもしれません。
もちろん、いろんな切り口があると思いますので、ぜひ面白い視点を見つけられた方はコメント欄などで教えていただければ幸いです。

(2019年人口動態統計リンク)https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2020/r02pdfhonpen/pdf/s1-7.pdf

(解答)

Aー富山県  Bー沖縄県   Cー北海道  Dー東京都

設問(2)

北海道と沖縄県の都市部では, 平らな屋根の住宅が多く見られるが, その理由は両地域で異なっている。 それぞれの理由を, 気候に関連づけ, あわせて2行以内で述べよ。

これは、中学入試ちっくな問題でした。
まず、困った時は自然地理に立ち返って考える癖をつけましょう。
東大はわざわざ「気候に関連づけ」とヒントをくださっていますね。
いきなりではありますが、私が考えた解答例を先に提示いたします。

(解答例)

沖縄では台風被害を軽減し渇水対策の貯水槽設置にも資するため、北海道では屋根からの落雪事故防止や除雪負担を軽減できるため。(60字)

この解答例からもわかるように、先ず最低限、沖縄には台風が来ること、そして、北海道は雪が多いことの2点は容易に想起できるはずです。
なぜ台風が来ると平屋根にしなければならないかというと、我々がよく目にする三角形の屋根の場合、瓦やスレートで覆われていますから、突風で飛ばされてしまうことがあります。
その点、平屋根であれば風の影響を受けにくいですから安心だというのもあるそうです。

また、プラスαの知識ですが、沖縄は雨が降らない期間が長く、しばしば渇水で悩まされます。
そのため、屋上に貯水槽を設置して雨水を貯めるのですが、三角形の屋根よりも、平屋根の方が設置しやすいというメリットもありそうです。

北海道については、雪かきのために屋根に登って転落するといった事故や、屋根から落ちた雪が通行人を直撃し重傷を負わせてしまうようなこともあるそうです。
その点、平屋根であれば地層のように屋根の上に雪が水平に堆積していくだけですから、通行人に勢いよく降りかかるようなことはなさそうです。
このあたりをまとめたのが上記の解答例になります。

設問(3)

日本における住宅数の構造別割合を見ると, 1978年には 81.7% が木造であったが, 2018年には非木造 (主に鉄筋鉄骨コンクリート造, 鉄骨造)の割合が 43.1%にまで上昇している。非木造住宅の割合が上昇してきた理由を、日本における人口移動の特徴も踏まえて, 2行以内で述べよ。

この問題はヒントがたくさんありますね。
先ず、「日本における人口移動の特徴も踏まえて」とありますが、東大は人口動態に関する設問を高頻度で出していますから、敬天塾の過去問分析チャートでしっかり確認をしておきましょう。

次に、非木造の例として鉄筋コンクリート造という例が挙げられていますから、ここからマンションをイメージしてほしかったです。
教科書レベルでも、都心に高層マンションが多く建って、人口増加率が高まっているといった記述があるわけですから、このあたりはすぐに気づかねばなりません。

ちなみに、2023年度二宮書店地理探究教科書p165では、

近年、東京の湾岸地域など都心部では、再開発や集合住宅の建設など、人口の都心回帰の傾向がみられる。

とありました。

こうしたヒントを手土産にすれば、大都市圏への人口集中の話や需給バランスが崩れて地価が高騰する話は容易に思いつくことでしょう。
しかも、マンションの場合、一戸建てと違って、多くの人を収容することができ、20階建や30階建てのようにすれば、狭い土地を有効活用することもでき、土地が狭い都心部では非常に有効な住宅供給策だとも言えます。
東京都では都心への人口回帰を企図して、容積率を緩和し高層マンション建設を後押ししたこともありました。

それでは、解答例をご紹介いたします。

(解答例)

大都市圏への人口集中による地価高騰と住宅不足を受け、土地を有効活用でき耐震性にも富む非木造高層住宅が多く建設されたから。(60字)

 

(参照リンク)総務省統計局データhttps://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/nihon/2_1.html

それでは、ラストの設問に参りましょう。

設問(4)

図3-3で示すように、日本において, 住宅総数は長期的に増加を続けてきたが, 空き家率(図3-3の下の※を参照)も近年上昇が著しい。 これらの事象が生じてきた理由として考えられることについて, 以下の語句を全て用いて3行以内で述べよ。 語句は繰り返し用いてもよいが, 使用した箇所には下線を引くこと。

   世帯規模       地方圏       高齢化

図については、東大のホームページや、東進過去問サイトなどでご確認をお願いいたします。
本過去問解説冒頭でも申し上げた通り、空き家に関する問題は出題可能性が高いと塾生にも注意喚起しておりました。
予想問題よりはマイルドな印象を受けますが、指定字数が90字ですから、意外に書くネタを思いつけなかった方も多かったかもしれません。

問われていることをざっくり言うと、「住宅の数はどんどん増えているのに、空き家があるってどういうことなの?」となりましょう。

一見して矛盾した2つの事実なわけですが、実は日頃から東大好みの思考習慣ができている受験生にとっては瞬殺できる問題でした。

大都市圏と地方圏を比較する視点を日頃から持っているか、
高齢化というワードから労働人口減少・税収減・社会保障費増・食糧自給率低下・介護・合計特殊出生率・スマートシティ・過疎・町おこし・人口ボーナス・人口オーナスといった周辺語句を瞬時に連想できるか、ぜひ自問自答してみましょう。

なお、「世帯規模」というワードに戸惑った受験生が一定数いたようですが、(1)〜(3)までの設問の流れを考えれば、自ずと方向性は見えてくるはずです。

それでは、解答例を示したいと思います。

(解答例)

核家族や単身世帯増など世帯規模の縮小化で住宅需要が高まり住宅総数は大都市圏を中心に増加傾向だが、人口流出が続く地方圏では住人の高齢化による入院や相続問題で顕著に空き家が増えたから。(90字)

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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2023年東大地理(第3問B)入試問題の解答(答案例)・解説” に対して2件のコメントがあります。

  1. koudain より:

    第3問設問B(4)の模範解答に世帯規模というワードが含まれていない気がします

    1. 平井 より:

      ご指摘ありがとうございます。
      確かにそうでしたので、修正いたしました。指定語句を含めていますので、よろしければご覧ください。

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