2025年(令和7年)東大地理を当日解いたので、所感を書いてみた。
全体の考察
難易度 標準
本年は、1A・2B・3Bで見慣れぬテーマの問題が出され、だいぶ苦戦された受験生も多かったのではないでしょうか。
ですが、こうした問題の時ほど、基礎に戻る勇気が大事なのです。受験生に問える知識には限りがあります。東大教授は、そうした制約のなかで「やりくり」して設問をつくっています。答えを見れば誰だってわかるような内容のことを、うま〜く化粧して隠そうとするわけです。そうした粉飾技術がものすごい高いのですね(笑)。
正直、このスキルは予備校の東大模試ではなかなか再現できません。それもそのはず、大学入試問題は、大学の威信をかけて、最高峰の精鋭たちが1年かけてつくる問題です。
しかも、変な問題をつくろうものなら、何十年先までずっと批判され続けるわけです。ですが、模試なんていうのは、数年もすれば入手も難しくなり、皆が気にも留めなくなるわけですね。作問に際しての重圧がまるで違います。
東大対策における最高かつ最強のバイブルは過去問であると映像授業の中でも繰り返し申し上げてきましたが、本年の問題でも、その傾向は強くうかがいしれます。ぜひ、過去問を伝家の宝刀のようにとっておくのではなく、思考訓練の教材として余すとこなく活用していただきたいと切に願っております。
第一問
設問A
難易度 標準
ここ数年、東大地理では1Aに見慣れない図表や用語を載せ、受験生を動揺させようとする傾向にある。
2022年度の1Aではコロナを意識してか「人獣共通感染症」について問い、2023年度の1Aでは「人新世」について問い、2024年度入試では「乳糖耐性者の世界的分布」という見慣れないテーマが出題されたのです。
それに対して、今年度の1Aでは難易度はともかくとして、それほど目新しいテーマではありませんでした。
旬なお題という点では、2Bや3Bの方がタイムリーな話題だったと言えましょう。
ただ、教科書や資料集を読み込んでいない受験生にとっては、2025年の1Aでフォーカスが当てられた「永久凍土」という論点も難しく感じられたかもしれません。
もし見慣れない論点だった場合、どのように対処したら良いでしょうか。考えられる主な方策は3つあります。
- リード文や設問文や指定語句のなかに考えるヒントが隠されていないか考察する。
- いったんトバシて、別の大問に移る。
- (1)や(2)がわからずとも、後続の(3)や(4)がお得な問題である可能性を疑う。
いかがでしょうか。ぜひ参考にされてください。
今年度を例にすると、1A(1)は難度の高い問題だったと思います。
正直、捨て問です。
ですが、地理が得意な受験生ほど、「絶対に正解してやる!」と意気込むあまり、この問題に時間を使いすぎて冷静さを失ってしまいます。
東大教授が先頭の設問にイヤラシイ設問を持ってくることが多いことは、過去問分析をしていればわかるはずです。
このあたりの心構えも合格力の一つだと言って良いでしょう。
上述の①〜③を即座に実践できたかが合否の分水嶺の一つだったと言えましょう。
さて、それでは各設問についてみていくとしましょう。
(1)2025年東大地理で最難関の設問だと言って良いでしょう。
地理と地学は密接に連関しているといいますが、本問に関しては地理の教科書や資料集には記載はありません。
地学基礎の教科書には熱収支の章で太陽光の反射率について取り上げられてはいますが、海氷や積雪の太陽光反射率について詳しく書かれているわけではありません。
はっきり言って捨て問です。
過去問探究をしてきた私なら、「ああ、またいつものパターンね。おそらく後続の問題に易問が散りばめられているはずだ」と前向きにトバシます。
ただ、本問を正解した受験生がいるのも事実です。
まず、指定語句のうち「太陽光」と「反射率」がおそらくセットになるだろうと考え、太陽光の反射率が上がるということは、太陽の熱が地表に留まらなくなり、気温の上昇は起きにくくなるのではないかと考えます。
その反対に、太陽光の反射率が下がれば、地表の気温が上昇しやすくなると言えそうです。
温室効果ガスのメカニズムについては小中学校の理科でやっていますから、その考えを応用したわけです。
その上で、本問では地上気温の上昇率が北半球の高緯度地域では高いと言っていることに目を向けます。
高緯度地域には「海氷や雪」がありますね。
「海氷や雪」が「太陽光の反射率低下」とどのようにリンクして気温が上昇するのか、東大教授はできるだけ論理的に推論して欲しかったのかもしれません。
また、近年、北極圏航路(東大地理2021-1A)や氷河湖決壊など、地球温暖化が氷河に与える問題が教科書や資料集でも多く取り上げられるようになりました。
周辺知識を確認すべく、地球温暖化のメカニズムをググるなりしていれば、解けたかもしれません。
とはいえ、時間制約の厳しい東大地理にあっては、いったんトバスのが試験戦略上、合理的だと言えましょう。
(2)これまた、小難しい設問文に見たことのない図表が示され、ビビってしまった受験生も多かったかもしれません。
参考書や教科書にも載っていない図表が出されて、お手上げ状態になってしまいそうですよね。
きっと「難問」だと思われた方も多かったと思います。
ですが、本問に関しては、教科書にも記述があるのです。
たとえば、
温暖化の影響によって海水が熱膨張する
(東京書籍地理探究p68)
温暖化により水温が上昇した海水は膨張し
(二宮地理探究p69)
地球温暖化の結果、海水が温められて熱膨張したり
(帝国書院地理探究p70)
といった具合にです。
つまり、何を使って東大対策を行ってきたかによって、本問の体感難易度は大幅に変わると言えるのです。
(3)永久凍土の融解が、地球温暖化に与える影響についてです。
一般的に、地球温暖化が永久凍土の融解を促すことは小学生でも知っていますが、本問では、永久凍土がとけだすことで、地球温暖化がさらに加速する理由が問われています。
難問のように思えますが、実のところ、資料集では明示されています。
凍土融解に伴う地下氷からのメタンガスの発生が懸念されている
(帝国書院世界の諸地域NOW2024のp32コラム)
さらに、過去問を探究していた受験生にはサービス問題でもありました。
2023年東大地理1A(2)で、極氷中の大気組成分析の論点が出されました。
かなりの奇問でしたが、しっかりと復習をしていれば、氷の中に地球温暖化を促す気体が閉じ込められているのではないかと推論することはできたはずです。
地球温暖化を促す気体については、二酸化炭素やメタンなどがよく知られているところですから、仮に上述した資料集を読んでいなかったとしても答えを出すことは可能だったと思います。
なお、気象庁のQ&Aコーナーに本問に絡んだ質問が紹介されていたのでご案内いたします。
URL https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WGI_FAQs_JP.pdf
(4)永久凍土の融解が引き起こす経済的な損失の例を考えさせようとしています。
経済というと、大規模工業を思い描くかもしれませんが、人間の生活全般も含まれます。
たとえば、衣食住なんかも経済に絡みます。
永久凍土がらみで我々が知っている教科書レベルの知識といえば、せいぜい永久凍土の上に立っている住宅などの建物くらいではないでしょうか。
資料集では
凍土の上に建物を直接建てると、暖房の熱などが地面に伝わり凍土が融け、建物の沈下や倒壊などの被害が生じる
(第一学習社GEOp46)
と書かれています。さらには、凍土という名の土壌に大きな変化が生じるわけですから、鉄道網やパイプライン(東大地理2024-1B参照)といったインフラへの影響も考えられます。
本問は知識問題とも言えますし、「経済的な損失」として考えられることを列挙するなかで、永久凍土と関係しそうなものをチョイスして答えを紡ぎ出すこともできたでしょう。
そうした意味では思考力問題だとも言えます。
設問B
東大頻出の河川に絡む問題です。東大地理で問われた重要河川については、ぜひ情報整理しておきましょう。
ご参考まで、塾生に配布している資料の一部をご紹介いたします。
それでは、各設問について概観したいと思います。
(1)見慣れぬ図が出されていますが、単なるこけおどしです。
東大地理でよく見られる手口です(笑)。
図を漫然と眺めていても混乱するだけですから、扇形に1、2、3、4・・と番号を振ってあげるとイメージが湧きやすいと思います。
則ち、「ア」は年中一定の流量を誇り、
「イ」は7〜9月の夏に流量が急増し(モンスーンが真っ先に浮かびますね)、
「ウ」も6〜8月の夏に流量が増えるとはいえ冬にもかなりの流量が認められ、
そして「エ」は3〜5月の春先に流量が急増していることから雪解け水の可能性を疑えます。
なお、ポー川については、どこにあるのかわからないという受験生もいたようです。
仮にわからなかったとしても、私なら、まずは世界最大の流域面積を誇るアマゾン川、並びにモンスーンの影響を強く受ける東南アジアにあるメコン川から選択肢を絞り、残りは消去法で勝負すると思います。
(2)図表がたくさん与えられてはいますが、典型論点を問うているに過ぎません。
要するに、ダムやえん堤の持つ機能と、緑のダムと呼ばれる森林の役割についてまとめさせようとしているに過ぎません。
わざと小難しく書くことで受験生を動揺させていますが、シンプルに何が言いたいのかを掴むことが合格ポイントです。
さらには本問が中国にフォーカスをあてているところ、教科書では中国での植林活動がかなり進展している旨(二宮書店地理探究p64)明記されているので、そうした知識があれば図1ー4でいう土壌保全面積の拡大の意味も見えやすかったのではないでしょうか。
仮に土壌保全と聞いてもピンとこないなら、土壌が保全されない状態ってなんだろうと逆を考えてみるのもオススメです。
土壌がめちゃくちゃになるといえば森林伐採が真っ先に思い当たるではないでしょうか。
ということは、土壌を保全するということは木を植えることだと気付けますね。
森林の持つ土壌保全機能については、東大地理2010年第1問も併せて参照してみましょう。
(3)前の(2)と対をなす設問です。
東南アジアではダムや堰堤の建設が進んでいるにもかかわらず、なぜか河川から流出する土砂量は増えているとのこと。
(2)とは異なり本問では土壌保全措置については言及されていないので、おそらく東南アジアではそれほど大規模に植林活動が行われていないのかなと推測ができます。
でも、植林されていないから土壌流出量が増え続けるというのでは論理的に繋がりません。
ダムや堰堤による土砂流出防止効果を上回る土砂流出が起きていなければいけません。
ここで考えてほしいのは、なぜ環境破壊が生じるのかという問題です。
環境破壊の原因はなんといっても人間の経済活動です。
ガンガンに森を伐採すれば、土壌の流出量は増えていくはずですね。ガンガンに森を伐採するということは必要性に迫られてのことでしょうから、経済活動が活発な証拠でもあります。
東南アジアはどのような地域でしたか。2024年東大地理3Bで、東南アジアの経済発展について問われていましたね。
そのことを思い出せれば、解答方針はすぐに定まったことでしょう。
(4)砂州に関する問題です。
あまり見かけたことがないタイプの問題ですので、合理的に推論してほしいという東大教授陣の思いが垣間見えます。
河口砂州について詳しく知らずとも、与えられた図1ー5を読図すれば、河口部を堤防のように塞いでいる独特な形にすぐ気づけることでしょう。
その上で、今度は、砂州が軽減する自然災害と、砂州が増大させる自然災害についてそれぞれ考えていきます。
東大地理が好んで出す「功罪」の視点が本問でも登場しているわけです。
まず、河口砂州はその名の通り、河口部にできるわけですから、海と河川の結節点に位置します。
則ち、両方からの影響を強く受けるはずです。
堤防のような形をしていると申し上げましたが、堤防の役割といえば、津波や高潮による被害を食い止めるイメージがありますよね。
実際、河口砂州に関しても、津波の遡上を軽減させたり、高潮や高波浪による海水の河道内への侵入を軽減する効果があるのです。
では、砂州が増大させる自然災害とはなんでしょうか。
海側からの災害を防ぐことができたなら、河川側からの災害は防げないのではないかと思いついてほしいところです。
砂州は河口を塞いでいるようにも見えますね。
それゆえ、河川の上流で大雨などが降り、急激な増水や洪水が発生したとき、河口を狭めているためスムーズに海側へ水を流すことができず、水位の上昇に伴う氾濫リスクを高める恐れがあります。
この問題は、河川がらみの災害を日頃から論点整理できていた受験生にとっては、容易に推論できた良問だと言えます。改めて、東大教授の作問レベルの高さに脱帽しました。
なお、洪水絡みでは以下のURLも有益です。
国土地理院 ~洪水はなぜ起こるのか~ https://www.gsi.go.jp/common/000235065.pdf
国土技術センター 意外と知らない日本の国土 https://www.jice.or.jp/knowledge/japan
NHK 流域治水とは https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20200721_01.htm
第二問
設問A
難易度 標準
東大地理では珍しく、衣類の企画・生産・消費をテーマにした大問です。
近年の教科書で、ファブレス企業やファストファッションといった言葉が取り上げられるようになり、いつ出てもおかしくはないと予想していましたが、見事に出題されました。
「ファッションのことなんてわからない!」と、ろくに設問文も読まずにトバした受験生も一定数いたようですが、非常にもったいないことです。
(1)や(2)は典型論点ですし、
(3)は教科書を読み込んでいれば部分点は確実に得点できる問題でした。
(4)についても難問だと思い込まれている方が多くいますが、輸入を規制する保護貿易政策が一般的になんのために行われるか考えてみれば解答の方向性は定まるはずです。
指定語句の吟味検討を行えば、合理的に推論することはできました。
それでは、個別にみていくとしましょう。
(1)衣類のデザイン企画を担う企業が、大都市に集中する理由を考えさせる問題です。
中学受験でも問われるくらいの基礎問でしたので、取りこぼしは避けたいところです。
教科書では、
東京やニューヨーク、パリのように、情報が集まり、学術・文化の中心でもある大都市には、出版・印刷業のほか、ファッションや流行に敏感な服飾業も立地する。
(帝国書院地理探究p124)
と記載されています。
仮にわからなかったとしても、衣服を買う顧客の多くはどこにいるのか、多くの人に服を買ってもらえるようなデザインを考えるために大都市に立地するメリットは何なのか考えてみれば、解答の方向性は定まってくるでしょう。
(2)中国への衣類輸入依存度が低下している理由を考察させる典型問題です。
経済発展が著しい中国では人件費が高騰しており、より高い利益をあげるために人件費の安いベトナムやバングラデシュなどに生産拠点を移動していることは教科書にも記されています。
縫製業は、自動化が難しく手作業に頼っているため、豊富で安価な労働力が重要になる。そのため、中国に工場をもつ日本企業は、中国での賃金が上昇すると、より安いバングラデシュなどに生産拠点を移動させるようになった。
(二宮地理探究p112)
このあたりをコンパクトにまとめれば合格答案があっさり出来上がります。
(3)易問が2問連続でつづきましたが、ここに来て少し頭をつかう問題の登場です。
まず、与えられた指定語句の「ファストファッション」は、教科書でも説明がなされていますから、定義をしっかり答えられれば瞬殺です。
教科書では、
最新の流行を取り入れ、価格を抑え、短期間に大量販売するファストファッションと呼ばれる衣服も出現している。
(二宮地理探究p169)
ファストファッションの登場によって、製造期間やコストの削減が追求されるようになり、特に衣服縫製業の発展途上国への工場進出がめざましい。
(二宮地理探究p108)
と書かれています。
「インフォーマルセクター」「セグリゲーション」などカタカナ語句について、頻繁に定義を問うてくるのが東大地理の特徴なので、敬天塾プリントや教科書などをもとに定義を即答できるようにしましょう。
(参考) 地理_プリントの棚
さて、問題は残る1つの指定語句である「天候」です。
これはかなり頭を痛めた受験生がいたと思います。
衣類が世界中で過剰に生産される理由と「天候」がどのように関係するのでしょうか。
天候というと、雨とか晴れとか、暑いとか寒いとかをイメージすれば良いでしょう。
服を着るとき、夏服や冬服がありますよね。冬は寒いですから暖かなコートでも着たいものです。
ですが、冬になってからコートを生産したのでは、消費者の元に届くのは春先になってしまいます。
それゆえに、冬に入る前に生産発注を行うのが常です。
ですが、近年の異常気象で暖冬や冷夏といったように季節外れの天候になってしまい、商品が売れ残ってしまうこともあります。
もうお分かりですね? 経済を考える上で、最も重要な視点である「需要と供給」のバランスが崩れてしまう元凶として「天候」が指定語句に挙げられているのです。
設問文で書かれている「実際に使用されるよりも(=需要)、きわめて多くの衣類が生産(=供給)」という言葉から、なぜに供給過剰になるのか、なぜに需要予測が失敗したのかを考えなさいと東京大学は問うているわけです。
経済に関する視点は、東大地理で繰り返し繰り返し、あの手この手と形を変えて出題されています。
敬天塾オリジナル鉄則集でも詳述していますので、ぜひご活用ください。
(4)中古の衣類の輸出入規制を世界各国でかけている理由について「2つ」挙げるよう求められています。
オリジナリティ豊かな問題で、他大学では見かけたことがありません。
教科書や資料集にも記載がありませんから、設問文と指定語句から答えを紡ぎださなくてはならないのです。
まず設問文を情報整理してみましょう。
①EUは中古衣類の「輸出」を規制しようとしている。
②中古の衣類の「輸入」を禁止OR制限しようとしている国もある。
となっています。
①については、主語がEUと明示されていますね。
EUというと世界的にみればリッチな国々の集まりですから、中古衣類を輸入なんてする必要性はあまりありません。
となると、②で想定されている国は、中古の衣類を輸入しなければいけない経済状況の国だと考えられ、途上国を指していると推論できそうです。
②から考えてみると、輸入を制限するということは保護貿易的な政策を取ろうとしているわけです。
保護貿易は、概して自国産業の保護のために行われてきましたから、このあたりを記述すれば良さそうです。
(←「安価」な中古衣類をどんどん輸入してしまうと、国内のアパレルメーカーが倒産してしまうわけですから。)ここで、指定語句の「安価」と「輸入国」は使えそうです。
では、①についてはどうでしょうか。
EUの主要国は地球環境にやさしい政策を次々と打ち出しています。
教科書では、「近年のEUは、脱炭素社会の実現に向けて環境政策に力を入れており、世界をリードしている。(帝国書院地理探究p285)」と記されています。
当然、リサイクル先進国でもありますから、EU域内の中古衣類を安易に域外へ輸出することなくリサイクルすることで、輸送時に伴う二酸化炭素排出の抑制や大量廃棄に伴う環境汚染防止に資すると考えられています。
ご参考まで、環境省のホームページでは、サステナブルファッションとして詳しく紹介されています。https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
なお、近年話題のSDGsについては、各ゴールの論点を整理しておくと学びが多いでしょう。
設問B by塾長
難易度 標準
他の科目の「所感記事」を書くのにヘトヘトになってしまったので、地理は面白そうな問題から書こうかと思ったら、はじめが3Bで、次がこの設問になりました。
インバウンドによる観光業への影響を考察したような問題ですね。
(1)は都道府県当てクイズ。
一番つまらない当て方をするなら、横軸の人口規模を見て、多い順に当てちゃえば良いです。A北海道、B福岡、C京都、D沖縄。終わりです。
しかし現実的に見て、一番少ないのが沖縄なのは当たるとしても、A北海道とB福岡の人口差が小さいので、これで当てるのはやや厳しいでしょう。ということで、縦軸も見ていきます。
Cは日本人にも人気ですが、外国人観光客にとても人気です。東京、大阪の次に人気ということで京都が思いつくでしょう。歴史的な建造物も多いですし、そもそも着物を着ている人も多くて外国人ウケします。
残りAとBですが、Bは上下の表であまり違いがないですが、Aは日本人の人気が跳ね上がっています。さて、福岡と北海道のどちらでしょう。とくれば、そりゃ北海道でしょうね。残ったBが福岡です。
なお、この図で分かるように、外国人観光客というのは、楽しいスポットがどこにあるとかいうより、とりあえず大都市に観光に行くという法則を知っておくと良いでしょう。また、複数の観光地に行く場合は、距離も気になります。東京と大阪は二大都市だから行くとして、そこから近くて外国人に受けそうなところというと、やはり大阪からすぐの京都になりますね。
(2)は、神奈川、愛知、兵庫の特徴について。
神奈川と兵庫なら、「東京都大阪みたいに、大都市が近くにあるから、そっちに宿泊されちゃう」っていう共通点がありますが、愛知となるとちょっと違いますね。
じゃあ、空港がないから?と思ったら、神奈川は羽田でこと足りるし、兵庫も大阪国際空港から近い。愛知はセントレアがあるということで違うかなぁ。
あ、そうだ。3つとも工業地帯や港湾など、観光というよりお仕事をするところだからか!と思いましたが、外国人宿泊客が少ない理由になるのかなぁと。
ということで、今のところ「外国人観光客にとって魅力的なコンテンツが少ないから」くらいしか思いついていません。
山梨のド田舎出身の僕が、神奈川様、愛知様、兵庫様に対してこんなことを言うのは本当に申し訳ないのですが。お前のところの方が何もないだろうが。一生、富士山と武田信玄を自慢して生きてろとか言われちゃう気がしますが。い、いちおう、ワインとかフルーツもあります(震えた声)。
(3)インバウンド需要で宿泊施設の新規開業が求められていて、住民が引っ越しするようになっているとな。要するに、ホテルとか旅館が開業することで、何が起こるのかということですね。観光業というのは非常に労働集約的で、ものすごく手間がかかる仕事です。ホテルのお掃除とか受け付け、レストランなんかは思いつきやすいですが、他にも荷物を運ぶだとかタクシーを増やすだとか、ものすごく人手が必要なんですね。それで、ホテルの近くに引っ越すなどの変化が生まれそうです。
もしくは、ホテル近くに住んでいた人が、観光客のバッドマナーを避けて、別のところに引っ越すなども考えられますね。
(4)これも、観光業者にとって重要な問題ですね。自然を売りにしていても、観光客によって「非自然化」されてしまいます。
予防する方法はいろいろ思いつきますね。例えば、入場料を高くする、完全予約制にするなど入場者への規制をかける方法です。こうすると儲からなくなるので、反対意見が出るでしょう。
生物が交通事故で死んでしまうことも大きな問題になっているようです。これを防止するとなると、自動車の制限速度の厳格化や、取締り検査を頻繁に行うこと、在来生物の居住地と道路の距離を話すことなどが考えられるでしょうか。しかし交通ルールの厳格化は、住民が住みづらくなって反対意見が出そうですね。
他には、手荷物チェックをするとか、手荷物の持ち込みを禁止するなどで、不審物を減らすという方法ですね。ゴミだけじゃなくて、外来生物を排除するのも大切です。これは反対意見があまり出ないような気がしますが、手荷物検査をする分、人件費がかさみます。
第3問
設問A
難易度 標準
本問では、なんともゴツイ図が4つも挙げられており、これを見ただけで難問だと思い込んでトバしてしまった方もいたのではないでしょうか。
ですが、複雑な図表が出された時には、たいていお得な問題であることが多いのが東大地理の特徴です。
パッと見で判断することなく、リード文や設問文などに隠されたヒントを探すように心がけましょう。
さて、本問で扱われている日本の人口動態に関する論点は、東大地理で最頻出といってよいです。
今年度の3Bでも問われたコロナ禍では、東京への一極集中が一時的にゆるやかになりましたが、昨今、再び東京一極集中が加速するようになりました。
そうしたことを意識して本問をチョイスしたかはわかりませんが、学びの多い1問であることには変わりありません。
なお、2020年-3B、2018年-3C、2015年-3C、2006年-3B、1997年-3あたりは、MUSTで確認しておきたい重要類題です。
解く時間がない受験生は、せめて青本の解説や解答だけでも読み込みましょう。
それでは、各設問について概観します。
(1)小難しいことが書かれていますが、要するに23区から埼玉県に向かって人口が「放射状」に増えている理由を考えるよう求めているわけです。ご丁寧なことに、図3ー4で鉄道網が示されていますので、これをヒントに答えれば良いだけの易問です。見た目のゴツさと難易度は一致しないことを示す好例だとも言えましょう。せっかくですから、図3ー2を簡略的に描いた図を載せたいと思います。
ちょっと雑な図で申し訳ないところではありますが、実際に私が解く時には、これくらいザックリと捉え直して考えていることを皆さんにお伝えしたくて、敢えてイラストレーターなどで綺麗に描図はしませんでした。
この図3ー2の簡略図で注目して欲しいのは、23区ゾーン(赤色)から延びた黄色いトゲトゲの部分です。
ここに、図3ー4で示された鉄道網を書き込んでみると、見事に一致しています。
当然と言えば当然ですよね。
23区に通勤通学する人は、交通の便の良い鉄道駅周辺に住むはずなのですから。
鉄道や高速道路といった主要な交通網沿いに街が形成されていくことは常識として知っておくべきでしょう。
併せて、ドーナツ化現象やスプロール現象といった関連キーワードについては教科書や資料集で定義を確認するようにしてください。
せっかくですから、教科書の記述もご紹介いたします。
1970年代前半に、大阪圏や名古屋圏への人口集中はおさまったが、東京圏への一極集中は続いた。地価の高い都心部を避け、通勤・通学圏である郊外にニュータウンや団地が開発され、人口のドーナツ化現象があらわれた。近年は、景気の停滞や人口の減少によって、大都市圏の拡大は収束し始めている。核家族世帯が多くなった大都市郊外の住宅地では、子供の独立による住民の高齢化や孤立化が進み、人口減少や空き家の増加もみられるようになった。
(二宮地理探究p164)
(2)本問では、なぜ神奈川では人口集中地区が増えているのに、千葉ではあまり増えていないのか考察させようとしています。
指定語句は「時間距離」と「港湾都市」です。
当たり前ですが、指定語句の定義があやふやだと、まともな答案は書けません。
「時間距離」とは
2地点間の所要時間から測定される距離をいう。時間距離は交通路の直線化や交通機関の高速化によって短縮される。(二宮地理探究p122)
と定義されています。
さらには、東大1997-3Aでは鉄道網の整備によって時間距離が短くなることが問われてもいますから、過去問探究をしっかり行ってきた受験生にとって本問はサービス問題だと言えましょう。
要するに、千葉は神奈川ほど鉄道網が整備されなかったわけです。
それゆえに、人口集中地区もそれほど増えなかったわけです。
ただ、これだけだと、もう一つの指定語句である「港湾都市」の使い方が見えてきません。
まず、港湾都市というのは、下記の図で言うところの青いゾーン(東京湾沿い)を指し示すと考えて良さそうです。
この一帯は、神奈川では古くから人口が集中していますね。
横浜市をイメージすれば良いでしょう。
対する千葉も1980年ごろからDIDが増えています。
東京湾沿いだと23区へのアクセスが良いからでしょう。
千葉の内陸部にも鉄道は通っていますが、時間距離が長いことから通勤・通学に多くの時間を要してしまい、住むのを躊躇う人が多いのでしょう。
このあたりを端的にまとめれば合格答案になると思います。
(3)本問では、1980年代までにDIDの拡大が収束している理由が問われています。
要するに、23区から外の方に人があまり引っ越さなくなった理由が問われているわけです。
つまり、90年代に何かがあったわけですね。
バブル崩壊による都心の地価下落や、お台場など臨海地域に高層マンションが乱立するなどして都心回帰の傾向が強まったことを端的に書けば良いわけです。
ですが、東大側は要因を「2つ」書けと要求しています。
1つなら簡単なんです。
2つとなると、どうにも厄介です。
バブル崩壊に伴う東京圏への人口集中が一時的に急減したことを挙げるのも一案かもしれません。
地方からの人口流入が減少し、地価の下がった23区の郊外をわざわざ開発することが躊躇われたからというのも考えられましょうか。
最後に首都圏におけるDIDの拡大状況をまとめた図をご覧いただくとしましょう。
国土交通省国土技術政策総合研究所 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/rpn/rpn0032pdf/kh0032012.pdf
設問B by塾長
難易度 やや易
他の科目の「所感記事」を書くのにヘトヘトになってしまったので、地理は面白そうな問題から書こうかと思ったら、この設問になりました。
多分、今年の入試で一番耳目を引く問題でしょう。ついに来ました、コロナの問題。
東大地理は時事に絡めた問題が出るのが、もはや恒例になりました。いつもは第1問でしたが、今年は第3問設問Bでしたね。
(1)はコロナ中に人口減少率が浮上した理由について。
人口の増減の話題が出たら、普通は自然増減と社会増減に分けるのが鉄則です。自然増減は生まれるのと死ぬの、社会増減は海外への流出と海外からの流入です。
ただしよく見るとこの問題は「日本人の人口変化率」なので、社会増減は無視で良いでしょう。
すると、日本人の出生数が増えたことと、志望者数が減ったことを考えるということになります。
出生数が増えた理由は、(やむを得ずにしろ)在宅する時間が増えたことで、在宅ワークの奨励や宅配サービスの充実によって、子どもを産み育てやすい環境になったなどと書けば理由は作れそうです。(これで本当に子どもを産むプッシュ要因になるかは未検証ですが)
ただ、出生数が増えたという方向性よりも、死亡原因が減ったことの方が書きやすいでしょう。
絶対書かなきゃいけないのは、感染症対策の徹底により衛生環境が充実して死亡者が減ったことでしょう。他には、移動が減ったことによる交通事故の死亡者が減ったことなども書きやすいですね。
(2)はコロナ中に外国人が急減した都内市区町村についての問題。
グラフを見ると、20~30才くらいの働き盛りの世代で、外国人が大きく減少しています。ということは、出稼ぎの外国人がたくさん住んでいるような地区を思い浮かべれば良いでしょう。外国人がどのように住むかというと、当然地価の高いところには住みません。地価が安い郊外などを答えれば良いでしょう。
もしくは、出稼ぎ外国人ではなく、外国人留学生をイメージして、外国人留学生が多く在籍する大学の近くや、外国人留学生の寮がある場所などを答えるのも良いかもしれません。
(3)はコロナ中にも関らわず、東京から他の都道府県への移動が増えた理由です。この問題、軽く悪問なんじゃないかと思うんですが、「移動者」と言っておきながら、データは「住民基本台帳」なんですよね。つまり住民票が東京から他へ移った数なので、引っ越しをした人を考える問題だと思います。「移動者」というと、旅行とか仕事の出張などで一時的に移動する人をイメージしそうです。そして、そういう一時的な移動を必死に抑え込もうとしたのが「緊急事態宣言」などの命令だったと思うので、「緊急事態宣言を出しておいて、全然減ってないじゃないか」みたいな余計な怒りの感情を生みそうですね。
余談が過ぎましたが、この問題は要素が思いつきやすかったのではないでしょうか。
まず単純に、東京のように人口が過密している場所は感染症のリスクが高いということで引っ越ししたこと。
もう一つは在宅ワークの発展や推奨ですよね。私の友人も、在宅で仕事ができるようになったということで、高い家賃を払う必要がなくなったと言って、田舎に引っ越した人が多くいました。かく言う私の家庭も、田舎暮らしを検討したことあります。東京の家賃高いんだもん。
(4)は、1つ例示すれば良いので、公共交通機関のチケットの販売数や、高速道路の入退場の記録などでよいのではないでしょうか。
最後に
上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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