2025年(令和7年)東大世界史を当日解いたので、所感を書いてみた。

 
敬天塾の塾長と講師が東京大学の二次試験当日(2025年の2月25日・26日)に入試問題を解いて、速報で所感を記した記事です。他の科目については、上記のリンクにございます。
 
※当日の所感なので、今後の研究によって難易度などを変更する可能性もございます。

【科目全体の所感】

総合難易度 標準

第一問 大論述

2025世界史第1問

難易度 標準 

今年も二分割スタイルの論述問題が出題されました。
2024年度入試では、従来出題されてきた450〜660字級の大論述が廃止され話題を呼びましたが、2025年度入試でも踏襲されたのです。
一過性の出題スタイルの可能性も疑っていましたが、2年連続で2問構成が採用されたことから、しばらくはこの形式が続きそうです。

2025年度の第1問で注目すべきは形式面ばかりではありません。
中身についても、なんと再び20世紀が問われることとなりました。昨年度入試で20世紀が出されたから、今年は18〜19世紀あたりや古代中世が出されるのではとヤマを張っていた受験生には酷だったかもしれません。

ですが、過去問探究をしっかり行ってきた受験生にとっては瞬殺できる問題だったとも言えます。
東大世界史部会は、多様な民族を統治する帝国史や、交易や宗教の伝播といった広域をまたぐテーマを好んで出題する傾向にあります。

それゆえ、東大受験生であれば真っ先に対策をしておかなければならない頻出分野を今年度入試で問うてきたわけです。
東京大学に入りたければ、東大過去問をしっかり分析してくださいね、と教授陣が受験生に問うているかのような典型問題でした。

1992大論述や1997大論述、あるいは2019大論述などをしっかりと復習していた受験生にとってはサービス問題だったことでしょう。
なお、2024年第1問の解説記事でも申し上げましたが、2問構成になったからといって、実質的には1問構成時代の大論述となんら変わりがないと私は考えています。

詳しくは以下の解説記事も併せてご参照ください。

2024年東大世界史(第一問)入試問題の解答(答案例)と解説

 

さて、ここで、直近56年分の大論述出題トピック一覧をご覧いただくとしましょう。

いかがでしたでしょうか。本年の問題は、上記の表のように過去問をベースに周辺知識を整理していれば、最速で解くこともできたはずです。

過去問研究と事前準備量の「差」が、解答時間の「差」に直結し、それがそのまま日本史や地理に投下できる時間資源の「差」につながったとも言えましょう。

改めて、東大過去問が最高かつ最強のテキストであることを新年度の受験生には強く訴えたいと思います。

せっかくですから、2025第1問に最も近似している1997大論述の問題文をご紹介いたします。
ぜひ今年度の問題と見比べてみてください。

1997世界史

いかがでしょうか。1997大論述をしっかりと過去問探究された方であれば、ロシア帝国と清朝が主に革命で後続国家に移行したのに対し、オーストリア=ハンガリー二重帝国とオスマン帝国は第一次世界大戦の敗戦を経て大規模に解体させられたことは瞬時に思いついたはずです。

ともなれば、あとは指定語句の「国民統合」「チベット」「ドイツ人」「連邦制」を四帝国のいずれに用いるのか考えることとなります。

それらの解説はまた改めて解説記事を今後アップしていくことになりますので、お楽しみに!
ここでは、せっかくですから簡単な背景的なところについてお話をしたいと思います。

まず、2025年度第1問で挙げられた4つの帝国はいずれも

  • 広大な領域を支配し、多様なアイデンティティを持った人々が共存している。
  • 広大な領域を統治する政治体制と強力な軍隊が整備されている。
  • 宗教など統治の正統性を保証する理念を持っている。

ことに特徴があります。

(参考動画 政治体制とは)

映像授業【東大世界史】政治体制とは動画

ですが、これら旧来からの帝国の統治下にあった人々は、ナショナリズムの考えを知るなか独立を求めるようになり帝国政府に反抗するようになっていきます。

さらには、イギリスやフランスやドイツや日本といった国民国家体制の国々が経済的にも軍事的にも力をつけるようになってくるなか、旧来の帝国は統治下の民族に大幅な自治を与えたり、憲法を制定して近代化を図ったりと変革を志すようになりました。
オスマン帝国やハプスブルク帝国の場合、国内で巻き起こるナショナリズム運動へ対抗すべく、「トルコ」や「ドイツ」といった民族性を押し出した政策を採用しましたが、うまくいかなかったことは周知の通りです。

このような大まかな流れを頭に入れた上で、2019大論述に目を通されてみてください。
すると、2025年第1問をより解像度を高くして分析することができるはずです。

2019世界史

さて、2025年の問題に戻るとしましょう。
問1の指定語句について、「チベット」についての使い方がわからないという受験生がそこそこいたようですが、辛亥革命を経て中華民国が成立したのち、チベットではダライ=ラマ政権が独立を宣言するも中国側はこれを認めず、後々の紛争に繋がりました。
中国の周辺民族史の知識もしっかり整理しておきましょう。
「ドイツ人」については、「ドイツ」ではなくドイツ「人」となっていることに動揺した受験生も多かったようです。
色々な使い方が考えられますが、たとえば、ドイツ人が多く住むズデーテン地方を例に挙げることもできたでしょう(のちのヒトラーの話にも繋がってきます)。
「連邦制」については多民族連邦制を敷いたソ連の話に言及できればよかったように思えますが、別の使い方も考えられます。
「国民統合」については、国民国家やの文脈で用いるのが自然だとは思いますが、オスマン帝国の後継国家であるトルコ共和国の説明など別の切り口もいくつか考えられます。

追って、解説記事でも詳述したいと思いますのでブックマークをお願いいたします。

 

次に、問(2)では民族自決にフォーカスをあてて、オーストリア=ハンガリー二重帝国とオスマン帝国における事例について考察を試みさせています。
指定語句には、受験生が嫌がりそうな「委任統治」が上がっています。
敬天塾の講習でも委任統治をテーマにした2014筑波大学大論述を取り上げました。
ぜひ周辺知識を固めておきましょう。

2014筑波大 世界史

そのほか、「ウィルソン」は14か条の話につなげればよく、「平和に関する布告」もセットで述べれば良いでしょう。この2つについては2006大論述でも指定語句になっていましたので併せてチェックをしてください。

(映像授業2006)

映像授業【東大世界史 大論述対策講座4】2006年第1問〜戦争の助長と抑制〜

残る「チェコスロヴァキア」については、オスマン=ハンガリー帝国からの独立という文脈で紹介した受験生が多かった印象です。

少し長くなりましたが、第1問の所感は以上です。

 

なお、2023年度に東大世界史で50点(60点満点)を奪取された合格者による2022〜2023年度過去問解説記事も併せてご覧いただけると学びが大きいと思います。
よろしければ、東大対策の一助になさっていただけると幸いです。
また、今年度の第一問に関する重要背景は、東京大学名誉教授の羽田 正先生がご執筆された『グローバル化と世界史』にも詳しく書かれています。
塾生にも参考教材として読ませていた良書です。
ご興味のある方は巻末のまとめのところだけでも御一読されると学びが深まると思います。

  • 2023東大世界史実況中継解説 by 50点合格者

2023年東大世界史(第一問)入試問題の解答(答案例)と解説~50点合格者による実況中継~

  • 2022東大世界史実況中継解説 by 50点合格者

2022年東大世界史(第一問)入試問題の解答(答案例)と解説

 

(編集部より)以下のリンク先にある解説記事もご参照ください。

2025年東大世界史(第一問)入試問題の解答(答案例)と解説

 

第二問 小論述

第2問総合難易度 標準

難易度 問1 (a)  標準 (b)易  (c)易
          問2 (a)  やや難 (b)標準 
          問3 (a)  標準(b)やや難 

(全体考察)

昨年の第2問中論述があまりに簡単すぎた反動で、今年は例年通りの難易度に戻った印象です。
大乗仏教や玄奘など過去問で問われたことのあるテーマが多く出題される一方、東大世界史ではあまり問われていなかったため警戒していたイタリア史が問われもしました。
資料や図表の読み取りに動揺した受験生もいたかもしれませんが、大阪大学や東京外国語大学に比べれば見せかけ程度のものでしかなく、共通テストレベルの知識で解けるものばかりでした。
東大過去問の徹底探究と、基礎知識の定着こそが東大世界史制覇の要だと思わせるセットだったと思います。
昨年よりは解くのに時間を要したでしょうが、第2問だけなら15分〜20分程度で終わらせたいものです。

(設問別考察)

問1(a) 東南アジアに広まっていた仏教の名称と特徴、および関連する遺跡について

→だらだらと長ったらしい設問文や資料が載っているのでビビった受験生もいたかもしれませんが、設問を先読みすれば「大乗仏教」のことが問われていることは瞬殺で理解できたはずです。
直近では2018年の第2問で大乗仏教の特徴が問われているわけですから、しっかりと過去問探究をしていた受験生にはサービス問題だったと言えましょう。

2018年東大世界史(第二問)入試問題の解答(答案例)と解説

関連する遺跡については、資料文で記載のあったシャイレーンドラ朝をヒントに考えれば、答えは自ずとボロブドゥールと出たはずです。
ちなみに、教科書では「8〜9世紀,シャイレンドラ朝は,ジャワ島中部のボロブドゥールに世界最大級の仏教寺院を建設している。」(東京書籍世界史探究p77)と太文字で記載されています。
なお、文化史について嫌がる受験生がかなり多い印象ですが、東大世界史では頻出です。その切り口についても早くに分析しましょう。

こちらの記事もご参照ください。

どうする文化史!?東大世界史における文化史の出題切り口

  (b) シュリーヴィジャヤの名称ついて

→ 共通テストレベルの単答問題です。
東南アジアについては大論述で出されたら怖いと塾生に注意喚起をしてきましたが、このような形での出題でしたので、少し拍子抜けではありました。
なお、資料1で下線が引かれたナーランダー僧院は2019年第3問などでも問われています。
また、本問に絡んではマラッカ史の知識整理もしっかり行いましょう。
明の冊封を受けたこととの絡みでは2020東大大論述も要チェックですし、1999第2問Cのほか、ポルトガルやオランダやイギリス(海峡植民地の論点については2002年大論述や、2017年第2問2bも参照)がマラッカとどのような繋がりを持ったのかも併せてチェックをしましょう。

映像授業【東大世界史 大論述対策講座9】2020年第1問〜東アジア世界における国際秩序の変容〜

  (c) 玄奘と彼の事績について

→こちらも共通テストレベルの問題です。
「玄奘」の漢字間違いには注意が必要ですが、これくらいは正解したいところです。

義浄とごっちゃになってしまう人が時々いますが、インドまで陸路で行ったのか海路で行ったのかのルートも含め教科書や資料集などで併せて確認しておきましょう。
『大唐西域記』についても名前は知っているけれども、それがどういう意味を持っていたかまでは知らなかった受験生もいたかもしれません。

ですが、教科書には「中央アジアやインドの事情を紹介した」(実教出版世界史探究p48)などと明記されています。
ちなみに、1989年第2問では、「パミール高原の難所をこえて、インドに求法の大旅行をした代表的中国人2名をあげ、その事績を述べよ。」と、本問と全く同じ問題が出題されています。

このことからも、過去問が如何に重要であるのかご理解いただけると思います。

問2(a) ムッソリーニ政権が1932〜1937年の間に採った対外政策と、それに伴う国際的な政治環境の変遷

→今年の第2問の中では、この問2のaとbが一番受験生を悩ませたかもしれません。
ですが、冗長に書かれたリード文ではなく設問文を読めば、ムッソリーニ政権の話をしていることは共通テストレベルの知識でも理解できたはずです。
20世紀前半のイタリア史で受験生が知っていることといえば、ムッソリーニくらいなのですから。
教科書では

イタリアのファシズム政権も,恐慌による国民の不満を外にそらすため,1935年にエチオピア侵略を強行した。国際連盟はイタリアに対する経済制裁を決議したが,効果はうすく,イタリアは翌36年にエチオピアを併合し,1937年には国際連盟から脱退した。・・・・イタリアのエチオピア侵略をきっかけとして1936年にベルリン・ローマ枢軸が結成され・・・日独伊三国防共協定が成立し,三国枢軸が形成された。
(東京書籍世界史探究p322)

と明記されています。このあたりをまとめれば合格答案になるでしょう。

  (b) ローマ帝国最盛期と最高権力者の名前について

→ 長いリード文と複数の図を前にして戦意を喪失した受験生もいたかもしれません。

ですが、図3はローマ帝国の最大版図を示していることからトラヤヌス帝の話を書けば良いとすぐにわかるはずです。
図2については、何を意味しているのか不明瞭だったかもしれませんが、問2のリード文の最後に書かれているように「古代国家の最高権力者」に絡む話だとわかります。
「国家の威信」を示すに値するローマ帝国の最高権力者といえば、アウグストゥス(尊厳者)の称号を付与され、執政官・護民官・全軍団の最高司令官などを兼任したオクタウィアヌスを置いて他にはいませんね。

では、この2人の皇帝の功績をわざわざ持ち上げることで、イタリアにとって何のメリットがあるのかというと、リード文にもあるように「国家の威信」を示すために他なりません。
イタリアは、こんなにすごい国なんだぞと自国民を鼓舞し、中間層の熱狂的な支持を拡大しようとしたわけです。
ドイツのヒトラーも、ゲルマン民族こそ偉大であると頻繁に喧伝していましたよね。
その話を思い出せれば、ムッソリーニの意図にも気づきやすかったのではないでしょうか。

とはいえ、リード文にしっかりと「国家の威信」と書かれているわけですから、これは確実に取っておきたい一問だったと言えます。

問3(a) キューバ革命とキューバ危機について

→キューバ危機についてはメジャーな論点でも、意外にキューバ革命については説明できる受験生は少なかったかもしれません。

ですが、教科書には「キューバでは,1959年,カストロによってバティスタ親米政権が倒された(キューバ革命)。」(帝国書院世界史探究p315)と明示されています。

「4行」という行数に萎縮してしまう受験生もいるかもしれませんが、いたって普通のサービス問題でした。
なお、フィリピン革命(東大2021第2問)、ロシア第一革命(東大2015第2問)価格革命(東大1999第2問)、メキシコ革命といった、教科書で見かける●●革命の定義は言えるようにしましょう

  (b) アンゴラの宗主国について

→ これは、THE 私大とも言うべきイヤラシイ知識問題でした。

教科書や資料集で必ず掲載されているアフリカの宗主国をまとめた図表をちゃんと読み込んでいた受験生にとってはサービス問題だったかもしれませんが、アンゴラは少し世界史でまず登場しない国でしたので、地理好きでもない限りはノーマークだったでしょう。

その意味で、難問(悪問)の部類だと言って良さそうです。

第三問 都市が持つ様々な機能について

難易度 標準

→例年通りの10問構成ではありましたが、選択問題やグラフ問題などマイナーチェンジが見られたセットでした。
問3の「詞」や、昨今のパレスチナ情勢に着想を得たのか問7のラビンは若干マニアックだったかもしれない。

その点では、1〜2ミスは許されるセットだったとも言えましょう。

まとめ

以上より、2025年の総合評価としては

難易度  標準

と言えると思います。

第2問や第3問は資料読解っぽいことを受験生にさせようという意図は垣間見えましたが、こけおどしに過ぎず、例年通り、シンプルに問いに答えていけば苦労はなかったはずです。

注目の第1問は、来年以降も2問構成となるのか注目したいところです。

そして、どの大問についても、改めて過去問の徹底分析が重要であることを再認識させられた問題セットでした。
過去問を最後まで取っておくのではなく、早い段階から読み込むようにしましょう。過去問こそ、最強かつ最高のバイブルです。

最後に(宣伝)

上記の世界史の記事は敬天塾のおかべぇ先生が執筆しています。
おかべぇ先生は、東大世界史で満点を取得した先生です!
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