2022年東大世界史(第一問)入試問題の解答(答案例)と解説

現役生フレンドリーな古代が問われた2021年度とは打って変わって、2022年度入試においてはトルキスタン史という、多くの受験生が盲点とする中央アジア史がついに出題されました。

少しだけ敬天塾の自慢をさせていただくと(笑)、授業では口酸っぱく内陸アジアの出題可能性が高まっているぞと言ってきましたので、予想通りの出題でした。
中には15分程度でサクッと仕上げることができたと入試当日に喜んでいた塾生もいました。
なぜ、このような予測ができたのか全てをここでオープンにすることはできませんが(笑)、その一つに近年の出題ブームがあります。

ソグド人やトルキスタンなど中央アジア周辺地域の研究が進んだこともあり、ここ数年の難関国立大学で中央アジア史や北方民族史は出題ブームとなっていたのです。

2020京大第1問(ソグド人の活動と中国文化への影響)、
2019京大第1問(4〜17世紀のマンチュリア史)、
2018阪大第1問(ソグド人の政治・宗教・文化面での貢献)、
2017京大第1問(前3世紀から後4世紀における匈奴史)、
2016京大第1問(9〜12世紀のトルコ系の人々のイスラーム化過程)など、取り上げたらキリがありません。

中央アジアに関連する未出のテーマが、アフガニスタン史・ソグド史・トルキスタン史でしたので、東大側としては、研究も進み、高校生が用いる東京書籍の教科書などにもそこそこの情報が載るようになったことから、出題の機が熟したと判断したのでしょう。

過去には、中論述で、1989年にアフガニスタン史、1995年に東トルキスタン史を出題していますが、受験生の平均点がものすごく低かったと言われています。
なお、東大は、直近の京大の問題をパワーアップして出題することが過去何度かありましたので、情報収集に努めると良いでしょう。

話は変わりますが、昨年より連日のように新聞紙上を賑わせているロシアの南下政策について、東大2014第1問で大々的に問われました。
この東大2014を敬天塾の授業でも取り上げましたが、その際、侵略する側だけではなく、侵略された側にも着目して周辺知識を固めることが大切だと説明をしました。
この時の指定語句には「トルコマンチャーイ条約」や「イリ条約」といった現役生が嫌がるワードも入っていましたが、過去問を解く際に、これらを丁寧に資料集や用語集などで確認していれば、今年度指定された「ブハラ・ヒヴァ両ハン国」という語句も難なく活かせたはずです。

ここで、過去問一覧をご覧いただきたいと思います。

過去問一覧

2021年度の問題は、上記の表のように1995年の大論述をベースに、周辺知識を整理していれば、最速で解くこともできました。
過去問研究と事前準備量の「差」が、解答時間の「差」に直結し、それがそのまま日本史や地理に投下できる時間資源の「差」につながったとも言えます。

ですが、本2022年度は、国語でも数学でも世界史でも、過去問の安直な焼き直し問題は出題されず、より高度な思考力や分野を横断する力、部分点を取りに行くガッツが求められているような気がします。

今後も、このような出題傾向がつづくと思われ、赤本の答えを丸覚えするだけで東大世界史はなんとかなると思っている受験生は根本的な戦略転換を強いられることになるでしょう。
もちろん東大過去問が最高かつ最強のテキストであることに変わりはありませんが、それをどのように工夫して活かせるかが勝負の鍵となりましょう。

そうした観点に照らせば、実のところ、このトルキスタン大論述もなんら特異なものではなく、東大の伝統に従った良問だと言えます。

東京大学は1989年入試以来の「人と物と文化(宗教)」の交流を強調するようになりました。
例えば81年には9〜10世紀のビザンツ・西欧・イスラム圏の政治・経済・文化の比較史が出題され、
86年には西欧とイスラム世界の交渉と勢力関係、
95年には地中海世界における文明の交流といった広域に及ぶ人の交流と移動をテーマにした問題が繰り返し出されてきています。

ですので、本問で問われている「周辺の地域に興った勢力がたびたび進出してきたが, その一方で,トルキスタンに勃興した勢力が周辺の地域に影響を及ぼすこともあった。」というお題は、十分に出題が予見されたものであり、
むしろ、今まで出題されないのがおかしな分野だったとも言えます。

この2022東大大論述は学習効果の非常に高い1題ですので、非受験学年の方は、ぜひ本問を通じて合格力を上げていっていただけたらと思います。

さて、この問題に対して合格者は2月26日にどのような答案を試験会場で書いたのか、気になるところだと思います。
予備校の解答例や青本や赤本の解説は、あくまで時間無制限に複数の講師が事実誤認のないよう吟味して練り上げたものですので、実際の本試験の緊張や焦りの中で書き上げたものとは異なります。
そこで、ある合格者の再現答案をご紹介したいと思います。

Aさんの答案

ウイグルの西遷でトルコ化が進んだ中央アジアで、アッバース朝や自立したサーマーン朝のもとでトルコ人のイス ラーム化が進み、トルコ人のカラハン朝が東西トルキスタンを統べた。カラハン朝の後のセルジューク朝はバグダー ドに入城しスルタンの称号を授かり、 更に小アジアに進出しビザンツ帝国を圧迫した。セルジューク朝からホラズム 朝が西トルキスタンで興り、東トルキスタンでは宋と金の挟撃で滅びた遼の皇族である耶律大石が西遼を建てたが、 その後モンゴル帝国が西遼を奪ったナイマンやホラズム朝を征服しユーラシア大陸を席巻し、トルキスタンではチャ ガタイ=ハン国が成立した。チャガタイ=ハン国の分裂から現れた実力者のティムールはインドや西アジアにまで進 出し、アンカラの戦いでオスマン帝国のバヤジット1世を下した。シャー=ルフやウルグ=ベクの下でティムール朝が 安定期を迎えると、建築と天文学の発達を特徴とするトルコ=イスラーム文化が栄えた。ティムール朝の滅亡後、そ の子孫バーブルはインドでムガル帝国を建て、西トルキスタンではウズベク人国家が、東トルキスタンでは遊牧民 ジュンガルによる国家が興った。しかし、清の乾隆帝がジュンガルを征服し新疆として理藩院の管理下に置き、ロシアも南下政策でブハラ·ヒヴァ両ハン国を保護国化した。その後にロシアの支援でヤクブ=ベクの乱が起こると、清の 左宗棠がこれを鎮圧し、トルキスタンで二帝国が抗争した。

この答案の評価はいかがでしょうか。
ウルグ=ベクやらヤクブ=ベクというマニアックな知識も盛り沢山となっていますが、大切なことは事実誤認がなく、かつ、東京大学の教授の要求に応えているかどうかにあります。
ですが、そうは言っても、どのような点に注意して大論述を書き上げたら良いのか分からない方がほとんどでしょうし、また、世界史大論述をどのように書いたら良いのかわからず途方に暮れている方も多いと思います。

その点、皆さんは非常にラッキーです。
なんと、東大教授が受験生に向け、答案作成に際しての注意事項と、論述答案書き上げの方法論の一つをご紹介くださったのです!

(東大入試問題作成部会から受験生へ)

第1問は、第二段落の「以上のことを踏まえて」の「以上のこと」が何を指すか考えましょう。トルキスタンの歴史的展開を、(1)「トルキスタンの支配をめぐり、その周辺の地域に興った勢力がたびたび進出してきた」ことと、(2)「トルキスタンに勃興した勢力が、周辺の地域に影響を及ぼすこともあった」ことを踏まえて記すわけです。次に、年代として「8世紀から19 世紀」までの時期が指定されています。例えば、この(1)(2)を横に、8 世紀から19 世紀という時間を縦にして表を作り、トルキスタンの周辺地域のそれぞれの空間を意識しながら、表に指定された語句を落としてみてください。そうすると、それらに関連する事象など新たなキーワードが浮かんでくるのではないでしょうか。方法は様々ですが、問題文に示された出題意図、また問いの内容、そして指定された語句を手がかりにして、時間的、空間の広がりを踏まえて、歴史の展開を考える問題になっています。

いかがでしょうか。東大教授が言及されているように、リード文における

(1) トルキスタンの支配をめぐり、その周辺の地域に興った勢力がたびたび進出してきたこと

(2) トルキスタンに勃興した勢力が、周辺の地域に影響を及ぼすこともあった

の2点に注意して、トルキスタンの歴史的展開を論じることが大事なのです。

そんなの当たり前じゃないか、と思われるかもしれませんが、東大教授がこのようにわざわざ訴えかけているのは、そうした「当たり前」のことを満たしていない答案が大量にあったことの裏返しでもあります。

それでは、この2つの基準を元に、東大入試の採点官になったつもりで、先程のAさんの答案例を評価してみてください。

いかがでしたか。
素晴らしい答案でしたか?
それとも、ダメダメな駄作でしたか?

簡単に私からコメントをいたします。
Aさんの答案には、多くの予備校解答で記述されていたソグド人の話も出ていませんし、やたら君主の名前が細かく書かれていますし、文章も淡々としていて、正直一読して素晴らしいと感動するような名文でもありません。
しかしながら、誰がトルキスタンの東西を支配し、そして、周辺のどの地域に影響を与えたのかをコンパクトながら盛り込めています。
さらには、多くの受験生答案に見られる事実誤認が極めて少なく、採点官の立場で概観したとき、安心して読み進めることができました。
もちろん、60点満点の答案を目指すのなら、上記の条件を満たした上で、より攻めた答案を書きたいところですが、20〜50分という短い時間のなか、高速で処理せねばならない入試会場においては

  • 問いに答える
  • 事実誤認のない答案を心がける

という基本に忠実な姿勢が最も重要であることを強くお伝えしたいと思います。
このような視点は、参考書や東大模試ではなかなか学べないことです。
実際の東大入試で高得点を取った人にしかわからないコツを知った上で臨む東大入試と、何も知らずに臨む東大入試とでは安心感が格別に違います。

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世界史の映像授業です。世界史満点講師による東大に特化した世界史の授業を一度ご覧ください。
上記以外の出題ブーム・上述の東大教授のコメントに関する分析なども紹介しております。
(講座リンク) https://exam-strategy.jp/op_w

世界史の大論述を書くために知っておくべき補足資料です。
(東大世界史における文化史の切り口) https://exam-strategy.jp/archives/10874
(大論述指定語句にみる東大世界史) https://exam-strategy.jp/archives/10872               

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