2017年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

第3問

ヨーロッパと日本の産業及び社会の変化に関する出題でした。図表から情報を読み取る力が試される問題でしたがいかがでしたでしょうか。

設問A

設問(1)

3つもある指標から推測してア~エに該当する国名を答える問題です。
簡単にまとめると図3-1は人口の推移、図3-2は1995年と2014年の年齢階層別人口の比較、表3-1は主要な職業の男女別構成比を示しています。
まずは図3-1から見ると、1990年から人口が減少し続けているエをブルガリアとすぐに判断できます。(3)で詳しく解説しますが、ブルガリアを含めた東欧諸国1991年ソ連崩壊を契機に社会が不安定になって人口が減少しています。
近年人口が増え、自動車産業が盛んなスペインは図3-1で人口増加率が最も高く、また表3-1で生産工程・労務的職業で男女どちらも比率の高いイになります。
残るアとウについて考えましょう。
図3-2を見るとアが老年人口は増えつつも若年層も若干増えていて、ウは少子高齢化が進んでいることがわかります。また表3-1ではアもウも管理的・専門的・技術的職業で女性の比率が高く女性の社会進出が進んでいるようですが、アの方が少し比率が高いですね。以上から女性の社会進出が進む中で福祉制度などが整って少子高齢化対策が十分に為されているスウェーデンがアで、女性の社会進出や少子高齢化が進んでいるドイツがウとなります。

設問(2)

ドイツにおいてここ20年間の人口変化によって深刻化していると思われる経済的問題を2つ答える問題です。
ドイツについてですが、先進国で少子高齢化が進んでいるのは日本と同様です。日本国内のことをイメージするとわかりやすいかもしれません。

さて、ドイツの人口構造の変化といえば少子高齢化ですので、少子化と高齢化に分けて考えてみましょう。まず高齢化にまつわる問題としては医療費などの社会保障費が増大していって、国家財政を圧迫するということは日本でもよく聞きますよね。高齢者が増えることで若者の税金負担が重くなり、若年層の納税額が年々上がっていくことはドイツでも十分考えられます。
また少子化にまつわる問題としては、若年層の減少が消費の現象につながり、市場が縮小するということが考えられます。景気が悪くなると様々な産業が停滞し、失業率も高まっていきます。経済の問題からは少し離れるかもしれませんが、若年労働力を補うために海外からの移民を多く受け入れることになり、言語的・文化的摩擦が生まれるかもしれません。
以上から、社会保障費の増大と市場の縮小を軸にまとめれば書きやすいでしょう。

設問(3)

ブルガリアにおいて1990年以降に人口減少を引き起こしていると考えられる理由を2つ答える問題です。
(1)でも述べましたが、ブルガリアは1991年のソ連崩壊後に経済危機に陥ります。社会不安から出生率が低下し、治安の悪化から人口の流出も起こります。
またEU加盟後には西ヨーロッパ諸国での少子高齢化に伴う労働力不足も相まって他国へ移住する若年層が増えました。よって、ブルガリアの人口減少は自然減少と社会減少の2つを中心に答えれば良いでしょう。

設問(4)

スウェーデンで高齢化が進んでいるわりには若年層の人口が多い政策的な要因を答える問題です。指定語句の「女性の社会進出」から考えれば、普通は出生率は下がりそうなものですが、少子化が抑えられているということは女性が社会進出しても育児をしやすい「労働環境」が整っているということでしょう。
政策的な要因を考えると、育児休暇制度など福祉制度の整備はすぐに思いついて欲しい話題です。
答案骨子は、女性の社会進出が進むなかで福祉制度などの整備によって仕事と育児を両立しやすい労働環境が整ったことで出生率が上がったということを書くのがスタンダートでしょう。

設問(2)

Aさん
生産年齢人口の減少により労働力が不足して市場が縮小することと、高齢化に伴って社会保障費が増大して財政を圧迫すること。

Bさん
高齢化により社会保障費が増大する。又、高齢の有権者が増え、若年層向けの政策が減ることで労働者が流出し市場が縮小する。

Aさんは市場の縮小と財政の圧迫の2つが問題であることがわかりやすく書けていますね。このように答える事象が2つや3つに限定されている時は採点者に分かりやすい書き方を意識しましょう。

Bさんは財政まで言及できていないので少し目劣りしてしまいますが、「市場が縮小」という点において、一応問題には答えている判定になると思います。「若年層向けの政策が減ることで労働者が流出し」の部分は議論の余地がありそうです。そのような傾向はあり得ますが、明確な因果関係を示すのはリスキーではないでしょうか。

設問(3)

Aさん
社会主義体制の崩壊による社会への不安から出生率の低下と死亡率の増加が起こり、EU加盟後に西欧諸国へ若年層が流出したから。

Bさん
社会主義の政府が倒れたことで国内が混乱した。加えてEUに加盟し、給料の高い国に出稼ぎに行きやすくなったことで人口が流出した。

Aさんはどれが2つの主要な理由なのか分かりにくいです。また社会への不安から死亡率の増加が起こると書いていますが、論理が飛躍しているように思います。

Bさんは自然減少については触れずに理由を国内の混乱に留めています。根本的な理由にはなるので加点はされると思いますが、やはり出生率の低下まで書けたら丁寧で良かったと思います。後半は詳しく書けていて良いです。

設問(4)

Aさん
女性の社会進出が進むなかで、育児休暇制度の充実など仕事と育児を両立させやすい環境を整備したことで出生率が上昇した。

Bさん
女性の社会進出が早くから進み、経済的余裕があるうえ、育児との両立が可能な労働環境が整っているため。

Aさんは内容はとても良いのですが、指定語句の「労働環境」を「環境」にしてしまっているので減点は免れないでしょう。

Bさんは女性の社会進出を経済的余裕に繋げた発想は良かったのですが、問題は政策的な要因を聞いているので問いに答えられていません。問いに答える意識は常に持ちましょう。

設問B

設問(1)

日本工業の主要業種の1963,1988,2013年の出荷額等について上位5位までの都道府県名を示した表3-2のA~Dについて北海道、千葉、東京、大阪のなかから選んで答える問題です。
まずは年代から推察して、1960年代すなわち高度経済成長期の経済の状況を考えましょう。高度経済成長期には東京で工場立地が進んで大量に人口が流入しました。電気機械組立業などは基本的には労働集約型の産業に属しますが、この時期は技術力の高かった東京で盛んに行われていました。ただ、年々東京の地価や労働賃金が高騰していくと、小さな面積でも操業可能な出版印刷業が主流となり、電気機械組立業は安価な労働力や安価な土地、高速道路などの良好な交通条件を持った北関東へ拠点を移していきました。よって電気機械業で1963年に1位、1988年に2位、2013年にはランク外になったAが東京となります。

東京が決まれば後はわかりやすいです。食料品業で1988,2013年で1位になっているCは農畜産業が盛んな北海道に該当します。また、1988,2013年で化学および石油製品、石炭製品などで順位を上げているDは石油化学工業が盛んな京葉工業地域を持つ千葉に該当し、残るBが大阪になります。

設問(2)

上位5都道府県の対全国比について1963~2013年の間に輸送用機械はほとんど変化していないのに電気機械では大幅に低下していますが、その理由について答える問題です。
まずは、輸送用機械の対全国比がほとんど低下していない、言い換えれば他地域に移転していない理由について考えましょう。輸送用機械、主に自動車産業はおよそ2万個から3万個にまでも及ぶ部品を組み合わせて完成すると言われています。そのため、特定大企業の量産工場の周囲にその下請・関連企業が集まる企業城下町型集積を必要とします。
こうした集積を遂げれば、部品や原材料を生産する工場が近接しているので、それらの輸送費の節約になるとともに、組み立て工場にとっては必要なときに必要な部品を迅速に調達することができ、余分な在庫を抱えずにすむメリットを享受することができます。
一旦自動車産業が成立してしまえば、自動車産業のみならず、関連産業の出荷額や人件費なども莫大なものとなるため、容易に他地域に移転することが難しくなります。それゆえ、1963 年~1988 年の間に工場立地がほとんど変化していないと考えられます。

つぎに、電気機械の対全国比が大幅に減少している理由を考えます。これは(1)の解説でも述べた通り、電気機械業が労働集約型の産業であることが影響しています。電気機械業は東京から北関東へ生産拠点が移っていったように、より安価で豊富な労働力を得られ、交通の便が良い土地に生産拠点が移っていきました。こうしてひとつの地域に集積するのではなく全国に展開していったのです。

以上から、答案は輸送用機械産業が他地域に移動しにくいことと電気機械業が他地域に移動しやすいことを理由を添えて書くと良いでしょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
輸送用機械は関連産業の集積が必要なため移転しにくいが、電気機械は安価な土地や労働力を求めて地方へ工場が分散したから。

Bさん
輸送用機械は関連工場が集積する利益が移設するより大きいため移設しないが、電気機械は安い土地ほど利益が大きくなるから。

Aさんは簡潔にまとまっていて良い答案です。細かく見ると、前半の輸送用機械の記述で、移転しにくいのが工場であることを具体的に述べた方が丁寧で良かったですね。

Bさんは「集積する利益」とより具体的に書いていますが、字数が厳しいので「集積が必要である」くらいに簡単に述べた方が良かったです。また、「移設するより大きいため移設しない」という部分は「移設」がくどいのです。「関連工場が集積すると有利」などと書けるとスッキリするでしょう。後半も利益について述べるよりもどんな場所に工場が移転するのかを詳述した方が加点されやすそうです。

設問(3)

Aさん
減少率が高い県はリーマンショック以降アジアへの移転が進んだデジタル家電の生産が多かったが、減少率が低い県は高い輸出競争力を維持している自動車の生産が盛んだから。

Bさん
減少幅が大きい県は、アジアで生産力が急速に伸びたデジタル家電へと出荷額上位が変化し、減少幅の小さい県は国際競争力の高い輸送機械へと出荷額が上位に変化した。

Aさんはリーマンショックについて言及していますが、リーマンショックの影響が全く伝わらない使い方になっているので加点はされにくいでしょう。(単に「リーマンショック以降」と、時代を明示する表現にとどまっています。)
また、アジア地域へ生産拠点の移転が進んだ理由も述べられていないので内容が薄くなってしまいます。そもそも「アジア」という指定語句も日本も含まれるアバウトな語句なので使いづらいこと限りないのですが、生産費用が安いアジアへの移転が進んだとアジアの説明を加えると良いと思います。
後半部分については簡潔に述べられているので良いのですが、化学産業について触れられるとより要素が足せて良かったでしょう。

Bさんは要素は掴めているのですが、出荷額上位の業種を主軸に述べていて分かりにくいです。しかも減少幅が大きい県の出荷額上位の業種はデジタル家電ではなく電子部品等ですので事実誤認になってしまいます。また、大分県の出荷額等の1位は化学なのでこれも述べた方が良かったでしょう。

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