2024年東大地理(第1問B)入試問題の解答(答案例)・解説

はじめに

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的に取引価格が急騰しているエネルギー資源のうち、天然ガスにフォーカスをあてた問題です。
新聞などで、ドイツがパイプラインでロシア産の天然ガスや原油にに依存していたことが一時大々的に取り上げられていました。
これの何が問題なのかというと、特定の国にエネルギー資源を過大に依存してしまうと、その国と揉め事でもあって輸入できなくなった時に、国内の産業や生活基盤は大打撃を受けるということです。
エネルギーの安全保障というテーマは、近年、極めて重要な論点となっています。
ちなみに、こうした事態を受け、ドイツは原子力発電所の停止計画を延期するなど対応に迫られています。

皆さんがお使いのテキストや参考書には、こうした最新の情勢に関する知識は載っていましたでしょうか。
もしも、載っていなかったとしたら、東大地理を難しくしている元凶は、皆さんの使用教材の情報不足にあるということになります。

帝国書院の地理資料集complete2023年のp144では、

原油はサウジアラビアやアラブ首長国連邦など,西アジアからの輸入が多い。液化天然ガスは,オーストラリア,東南アジア,西アジア,ロシアなど多様な地域から輸入している。

(ちなみに、p134には輸入経路が明瞭に掲載されています)と明記されています。

ズバリ、これが本問の設問(4)の答案骨格になります。

敬天塾の東大地理対策映像授業でも申し上げましたが、情報戦を制する者が東大地理を制するのです。
今年の入試で悔しい思いをされた方、同日模試で全く解けずに意気消沈された方は、ぜひ東大に特化した戦略のもと、適切な訓練を実践なさってください。

【実際の入試問題入手先】

なお、本解説記事を読むにあたっては、事前に入試問題をご入手いただけると幸いです。

産経新聞さんが期間限定で問題を公開されています。https://nyushi.sankei.com/honshi/24/t01-53p.pdf

東大のホームページでも、春先に最新年度の社会の問題が公開されますので、産経新聞さんのリンクが切れたのちは、こちらをご活用ください。https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

設問(1)

問題

図1ー3は,1970年から2021年の天然ガス年間生産量の推移を示した図である。A, B, Cに該当する地域を以下の3つの地域から選んで,Aー◯◯のように答えよ。なお,独立国家共同体は,ロシアおよびソビエト連邦から独立した共和国からなる国家連合を示す。

独立国家共同体      中東    北米

解説

1Aに続いて、客観式の問題から設問が始まっています。
本問も様々な解法が考えられますが、まずお伝えしたいのは、東大地理ではあらゆる設問情報を駆使せよ、ということです。
たとえ、設問(1)を解いている時でも、設問(2)や設問(3)の設問文や指定語句にヒントが隠されていることが東大地理ではあるのです。
本問で言えば、設問(2)でAの地域で天然ガスの生産量が2010年頃から急激に増えたと問題文に書かれています。

もう、これは共通テストレベルの知識ですよね。
アメリカにおけるシェール革命の話です。
このことから、Aが北米と確定しますから、独立国家共同体(要はロシア)と中東のいずれがBかCかを考えれば良いわけです。
ただ、両者の判定でかなり悩んだ受験生がいたと報告が多数上がってきています。

まず、縦軸と横軸を確認しましたか。
横軸で年号が載っているわけですが、なぜ、この「年号」をわざわざ書き記す必要があったのでしょうか。

次に、BとCのグラフの動きを見たときに、「顕著な動き」はありませんでしたか。
たとえば、急激に上がったり、急激に下がったりした部分です。ここで、図1ー3を模した簡略図を載せたいと思います。

すると、Bが1990年頃に天然ガスの年間生産量を大きく減らしていることがわかりますよね。
では、1990年頃に何がありましたか?
地理は、日本史や世界史のようにたくさん年号を覚える必要がある科目ではありませんが、それでも、重要な年号はあります。
たとえば、

  • 1955〜1973→日本の高度経済成長期
  • 1947〜1949→日本の第一次ベビーブーム
  • 1973→石油危機
  • 1989〜1991→ベルリンの壁崩壊〜ソ連崩壊
  • 1986〜1991→バブル経済
  • 1997→アジア通貨危機
  • 2008→リーマンショック

といった具合にです。
塾生は、東大地理鉄則集の極意16を確認してください。

さて、本問に話を戻すと、1990年頃と言えば、ソ連が崩壊したわけです。大混乱に陥っているわけですから、天然ガスの生産どころではないはずです。

だから、大きく生産量を減らしているわけですね。
以上より、正解は、Aー北米、Bー独立国家共同体、Cー中東 となります。

設問(2)

問題

図1ー3のAの地域では,新しい技術の導入により2010年頃から天然ガスの生産量が急激に増え,この変化は(           )革命と呼ばれている。括弧内に入る語句を答えよ。

解説

珍しい単問形式の問題です。
正解はシェールとなります。
教科書では、どのように書かれているのかというと、

(二宮書店2023地理探究p97)
アメリカを中心にシェールガスやシェールオイルの産出が本格化した(シェール革命)。アメリカは天然ガス・石油の世界最大の産出国となり自給率も上がったが,他国がこれに対抗して増産したため,世界的な供給過剰が生じた。

(帝国書院2023地理探究p109)
〜世界の石油需要に大きな影響を与えるようになり,シェール革命として注目されている。アメリカ合衆国ではシェールガスの開発が先行して進められた。それに続いて,シェールオイルの採掘にも力が注がれ,2018年には同国の石油生産量は45年ぶりに世界第1位に返り咲いた。

とあります。皆さんが愛用されているテキストや参考書には、きちんとこのあたりのことが明確に書かれているか今すぐチェックしてみましょう。
なお、シェール革命の良い面だけではなく、負の側面についてもしっかりと周辺知識を固めておきましょう。
それに加えて、日本にどのような影響があったのか、資源エネルギー庁のホームページなどで学びを深めていただけたらと切に願っております。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/shalegas.html

設問(3)

問題

図1ー4は,世界の7つの地域(ア〜キ)における2021年の天然ガスの輸出・輸入量を,パイプラインによる輸送とLNG(液化天然ガス)としての輸送に分けて示したものである。見出し行(横軸)が輸出した地域,見出し列(縦軸)が輸入した地域を示す。輸出と輸入の地域が同じ箇所は,同じ地域内の国家間の輸出入を示す。以下の3つの地域はア〜キのどれにあたるか,地域名ー◯のように答えよ。

   アジア太平洋    独立国家共同体     ヨーロッパ

解説

本問で手こずった受験生は多かったのではないでしょうか。
その専ら(もっぱら)の理由は、図1ー4の見方がよくわからないことによるものだと思います。

まず、パイプラインによる輸送と、LNG(液化天然ガス)による輸送にはどのような相違点があるのでしょうか。
パイプラインは基本的に陸の上を走らせるイメージを持っておけば良いでしょう(正確には海底にも走らせています)。
それに対して、液化天然ガスは専用のタンカーで運ぶことをイメージしてください。
要は遠距離に海運するのです。
このあたりの知識は、教科書や資料集やテレビニュースなどで見聞きしていないと難しかったかもしれません。
もし知らなかった場合は、躊躇なく捨て問にして次の設問(4)に進むべきでした。
仮に設問(3)の答えが定まらずとも、設問(4)の答えは紡ぎ出すことが可能だからです。

さて、液化天然ガスは専用のタンカーで運び、パイプラインは主に陸上に走らせるものという知識があれば、本問は楽勝です。
まず、設問で示された三地域をグループ分けすることから始めましょう。
アジア太平洋は海が多いエリアです。
海底パイプランなんて太平洋に張り巡らすのは技術的にもコスト的にも困難ですから、基本的にはLNGにして海上輸送するのが第一選択となります。
それに対して、ロシアやヨーロッパというのは陸で繋がっている地域ですから、パイプラインで天然ガスを送った方が安上がりです。
これに合わせて、ロシアが世界有数の産油国だというのは共通テストレベルの知識ですので、「独立国家共同体」は天然ガスの輸出側に立つはずだとわかります。
その上で、図1ー3をご覧いただくとしましょう。
碁盤のようにたくさんのマスがあって、なんとも気持ち悪くなった人もいたかもしれませんが、こうした図表の読み取りでは、まずぶっ飛んだものに注目するのが鉄則です。
そこで、輸出入量のうち、1000以上のものだけを赤で塗った図をご覧いただくとしましょう。

まず、日本のあるアジア太平洋地域から考えてみましょう。
先程も申し上げたように、海が広範囲に広がっている地域ですから、LNGの海上輸送が第一選択になります。
ということは、基本的に右の図を見れば良い分けです。

右の図のうち、1000億立法メートル以上の輸出入量を誇るエリアは、「ウ」の地域になります。
この時点で、私はウをアジア太平洋と確定しました。

その次に、陸で繋がっているヨーロッパと独立国家共同体について考えていきます。
両者はLNGを取引している当事者であることは昨今のウクライナ侵攻のニュースなどでも周知の事実です。
人口規模からしても大量に取引していることは容易に想定できますから、ここでもやはり1000億立法メートル以上のところにだけ着眼すれば良いと判断しました。
すると、左の図のようになったわけですが、イマイチ見方がよくわからなかった受験生もいたことでしょう。
では、以下の図でしたら、いかがでしょうか。

設問文にもあるように縦軸が輸出で、横軸が輸入です。
1000億立法メートル以上を赤いマスで表現してきましたが、100〜1000を黄色いマスで表すこととします。
たとえば、エの縦軸(緑で囲ったゾーン)であれば、幅広い地域に天然ガスを輸出していることがわかります。
その一方、カの横軸(青で囲ったゾーン)であれば、幅広い地域から天然ガスを輸入していることがわかります。
イに関しては、自分の地域で天然ガスを産出し、域内で消費しているだけですので、ここでは一旦候補から除外して良さそうです。

以上をもとにすれば、天然ガスを輸出する側は独立国家共同体のはずですから、エが独立国家共同体となり、多くの天然ガスを輸入しているカがヨーロッパとなります。

以上より、アジア太平洋ーウ、独立国家共同体ーエ、ヨーロッパーカが正解となります。

設問(4)

問題

図1ー3と図1ー4を参考に,日本のエネルギー資源確保の観点からみた天然ガスの特徴を石油と比較しながら3行以内で述べよ。

解説

本問を解くのに、設問(3)は正解していなくても構いません。
なぜなら、貿易や商取引においては、輸送コストを極力下げるべく「お隣さんの法則(なるべく近場から仕入れたいという心理)」が働くのが常だからです。
その意味で、日本がアジア太平洋地域から天然ガスの輸入を試みるという帰結を導くことはできたと思います。

ただ、本稿の冒頭でも申し上げた通り、最新の教科書や資料集にはきちんと天然ガスのメリットは書かれているんです。
そうした意味で、本問は単なる知識問題だとも言えるのですが、仮にそうした知識がなかったとしても、東大教授としては図1ー3と図1ー4を参考にすれば解けますよとヒントを出してくださっているわけです。

まず、日本とアメリカは政治経済の両面で緊密な関係を結んでいることは小学生でも知っていますから、図1ー3で示されているように天然ガスの増産分を日本が輸入していると考えるのは自然な流れです。
それに加え、「お隣さんの法則」からすれば、増産傾向にあるアジア太平洋地域や中東からも仕入れていると考えるのが自然でしょう。
もっと言えば、石油と比較しながらエネルギー資源の「確保の観点」から考えろと要求されているわけです。
石油がらみで日本は痛い目に遭ったことがありましたね。
そう、1973年の石油危機です。
この時の経験から、日本はエネルギー源の多様化(脱石油)を打ち出したわけです。
(二宮書店2023地理探究p304コラム参照)

この話は、東大過去問や共通テストでも幾度となく問われてきていますので、きちんと理解できていない人はこの機会に教科書や資料集などで周辺知識を固めておきましょう。
ロシアによるウクライナ侵攻で、エネルギーの安全保障・エネルギー資源の自給率といった話がよく報道されるようになりました。
要するに、生活や産業に不可欠なエネルギー資源を盾に恫喝外交を輸入元の国にされたり、政情不安や戦争勃発などで輸入が滞るようなことが起きると、国全体が大混乱に陥るってしまうから、なんとか対処しなくてはいけないと動き出しているわけです。
ここまでわかれば、解答の方向性は見えてくるのではないでしょうか。
ここで、図1ー4を少し加工した図をご覧いただくとしましょう。

先程の設問(3)でも特定したように、「ウ」が日本を含むアジア太平洋地域となります。
日本をイメージして、LNGの輸入を指す「ウの横軸」(赤い囲み部分)をご覧いただくとしましょう。
すると、ア〜キまでの全地域から量の多寡はあるもののLNGを輸入していることがわかりますね。
その中でも、赤いマス(1000億立法メートル以上)のゾーンがアジア太平洋地域となっていることが明瞭にわかることでしょう。

以上をもとに、解答例を示したいと思います。

解答例

政情不安が著しい中東に偏在する石油とは異なり、天然ガスの輸入元は産出量が急増しているアジア太平洋地域を筆頭に多様であるため供給の安定性が確保される点、エネルギー安全保障に資する。(89字)

中東依存度の高い石油とは異なり、天然ガスの輸入元は世界中にあるため供給の安定性が確保される。特に、日本から近距離にあり生産量が急増しているアジア太平洋地域から多く輸入している。(88字)

いかがでしたでしょうか。
なお、受験生の答案の中には、LNGの海上輸送のコストが原油に比べて割高であるという点に言及したものもありました。
確かに事実ではあるのですが、「日本のエネルギー資源確保の観点から」という設問条件に照らしてみたとき、輸送コストが高いからLNGの輸入を躊躇っているのかというと、そうした話はあまり聞きませんし、エネルギー資源確保の点で言えば、輸送コストがかかっても安定的に供給できるのであれば、資源を「確保」することにLNGが長けていることに変わりはありませんので、私は余事記載だと思いました。

なお、エネルギーの安全保障については、資源エネルギー庁のホームページが非常に詳しいので是非ご参照ください。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/anzenhosho/

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lng_conference2023.html

https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2022_0902.html

長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。
なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。
ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。

【さらに深く学びたい方のために】

敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。

上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
どなたでも受講可能な、おかべぇ先生の授業はこちら ↓

映像授業コース(旧オープン授業)【東大地理】

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