2026年東大地理(第1問C)入試問題の解答(答案例)・解説

(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。

(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
※入試直後は新聞社のページから入手できます。
 しばらくすると、新聞社からは入手できず、東大HPからは入手できるようになります。

・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20260226-7GXVJBPYIBC6TDSA7ZNXH27TQQ/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

はじめに

本問でも、注目度抜群のトピックが狙われました。
則ち、マイクロプラスチックです。

私達の日常生活にプラスチックは欠かせない存在となっています。
ざっと挙げるだけでも、これだけあります。

スチック循環利用協会リーフレットより
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf4.pdf

圧巻ですよね。
身の回りのほとんどがプラスチック製品です。

ちなみに、プラスチックの原料となるエチレンは石油からつくられていますから、昨今のイラン情勢を受けて三井化学などが既に減産し始めたと3月10日に報道がありました。
遠い国の無関係な出来事だと思っていたら、とんでもありません。
この話はまさしく経済安全保障に絡む問題ですね。

東大2024年1B設問(4)の解説記事も合わせてご覧ください。

2024年東大地理(第1問B)入試問題の解答(答案例)・解説

さて、これだけプラスチック頼りの生活をしているわけですから、相当なプラスチックゴミが排出されているのだろうと容易に推測できますね。

World Population Review 2025によると、中国が5570万t、アメリカが3160万t、インドが1080万t、ブラジルが670万t、メキシコが620万t、日本が530万t、ロシアが470万t、ドイツが440万t、インドネシアが420万t、イギリスが410万t、フランスが400万tとなっています。

中国のプラスチックゴミ排出量が半端なく大きいことがわかります。(https://worldpopulationreview.com/country-rankings/plastic-pollution-by-country)

さらに、今度はプラスチックゴミが実際にどれだけその国から海洋に流出したのかについても見ていくとしましょう。
プラスチックゴミが大量に出たとしても、適切に処理すれば海洋に流れることはないはずです。

ですが、故意に海に捨てたり、サイクロンや台風などで不意に沖合に流れていったりするケースもありますよね。
プラスチックゴミの総量を減らすことももちろん大事なのですが、海洋に流出するプラスチックゴミの量を根本的に減らさなければいけません。

 visual capitalistホームページより
https://www.visualcapitalist.com/cp/visualized-ocean-plastic-waste-pollution-by-country/

衝撃的な写真ですよね。
2021年のデータによると、
フィリピンからは約36万t、
インドからは約13万t、
マレーシアからは約7.3万t、
中国からは約7万もの
プラスチックゴミが海洋流出しているというのです。

東南アジアや中国の割合が極めて大きいことがわかりますよね。
日本はプラスチックごみの収集や処理をしっかりやっていますから、排出量が多くても海洋流出量は抑えられています。

ただ、問題は日本だけがしっかりしていれば万々歳かというと、そうではありません。
日本海側にお住いの方はご存知だと思いますが、台風が過ぎ去った翌日くらいに海辺にいくと、大量の木屑とプラスチックゴミが砂浜を覆い尽くしています。
よく見ると、中国語やハングルなどの文字が書かれています。

しかし、数日もすると、それらのゴミは跡形もなく消えていることが多いのです。
誰かが片付けをしてくれたというのもありますが、大半は再び波で沖合まで流されているのです。

先の第1問Bの解説のなかで、炭素循環や窒素循環についてお話をいたしました。
こういった物質の循環は元々あったものですから良いとしても、今の世界には「ゴミ循環」とでも言うべき事態が発生しているのです。
風や海流といった、私達の目には見えないチカラによって、遠くに運ばれ、そして、いつの間にか、私達の身体の中にまで潜り込んでいるのです。

上の図をご覧ください。
東南アジアや中国から海洋流出したプラスチックゴミが黒潮に乗って日本まで運ばれてきます。

そして、どうやれ千葉県沖でプラスチックゴミが大量に運ばれてきて、深海奥深くに沈み込んでいるというのです。
ここで本問の図1ー3をご覧いただきますと、夏に日本周辺が真っ赤になっていますよね。
台風もあいまって、日本に次々とプラスチックゴミ(正確にはマイクロプラスチック)が集まってきているわけです。

こうしたマイクロプラスチックをお魚さんなどが食べ、そのお魚を私達が食べたらどうなるでしょうか。
まさしく「生物濃縮」の話ですよね。

摂食だけではなく、空気や雨、水道水などにも目に見えない細かなマイクロプラスチックが含まれているそうです。
最新の医学研究によると、私達の肺や心臓、血液の中からもマイクロプラスチックが検出されているそうです。
人体にどのような害が及んでいるのかについては研究途上とのことですが、少なくとも健康に良いものではないはずです。

プラスチックそれ自体に毒性はなくとも、プラスチックを燃えにくくしたり紫外線で分解されにくくするために加えられる添加剤に毒性があるといわれています 。
そればかりかマイクロプラスチックは海流に乗って移動するなか様々な汚染物質を吸着するとも言います。
そんなのが私達の体内に日々大量に入ってきていると考えると、なんとも恐ろしいですよね。

かくも恐ろしいプラスチックですが、様々な論文を読む限り、一度海に流出してしまうと回収は極めて困難なのだそうです。
それゆえに、これ以上新たなプラスチックゴミを海洋流出させないようにすることが急務なのです。
2020年から日本ではレジ袋を有料化しましたが、それくらい事態は急を要しているのです。
日本政府広報室によると2050年までには、海に漂うプラスチックゴミの総量が、魚の量を上回るという試算もあるそうです。

いかがでしたでしょうか。
これだけプラスチックが蔓延しているわけですから、数百年後の人類が21世紀の地層を調べたらプラスチックゴミだらけだと気づくことでしょう。
2023年の東大地理第1問Aで「人新世」について問われましたが、私たちはいままさにプラスチックの世紀に生きていると言えましょう。

2023年東大地理(第1問A)入試問題の解答(答案例)・解説

以上、マイクロプラスチックに関する理解も深まったと思いますので、早速個別の設問についてみていくとしましょう。

設問(1)

問題文

図1ー3によると、マイクロプラスチックが多いの範囲が北緯20〜40度付近で横に長く広がっている。この範囲について2月と8月の状況を比較すると、2月は米国に近い東太平洋でプラスチックがやや多く、8月は日本付近や西太平洋でプラスチックがかなり多い。このような季節差は毎年見られると考えられる。季節差が生じる理由を、プラスチックの供給と移動の過程を考慮して3行以内で述べよ。

1Cの主役をなす1問です。
本問は多くの知識が連関した良問で学習効果が極めて高く、それゆえにこそ極めて難度の高い1問だとも言えます。

ざっくりした答案なら容易に書き上げられますから、その意味では標準レベルとも言えたかもしれませんが、奥深いことを書こうものなら最新の研究テーマとも絡んできますので、受験生レベルでは太刀打ちできません。
私にとっては記憶に残る問題の1つとなりました。

まず、本問で与えられたヒントは
① 8月に日本付近や西太平洋にマイクロプラスチックが多い
② プラスチックの供給源に着目する
③ プラスチックの移動過程に着目する
の3点です。

これらのうち、わかりやすいのは②でしょう。
いったい、どの国が大量にプラスチックを排出しているのかということです。

Natureホームページより
https://www.nature.com/articles/s41467-019-08316-9/figures/6

この点、図1ー3をご覧いただきますと、朝鮮半島周辺が赤くなっていますから、中国や北朝鮮あたりの東アジア諸国が元凶のように思えるでしょう。

もちろん、東アジアにフォーカスをあてても良いのですが、これだけですと、日本の太平洋側にもかなりのマイクロプラスチック濃度がみられることについては目を瞑ることになってしまいます。
東大側としては、日本の太平洋側を流れるどでかい海流があるでしょ、その海流の経路を考えてくださいねと受験生に求めているわけです。

そう、「黒潮」です。
この黒潮は日本の気候とは切っても切り離せない関係にあります。

過去にも東大地理では、

このような問題を出してきています。

ちなみに、2017年から2025年までの約8年間にわたって、黒潮の大蛇行がみられ、日本において様々な影響が生じ、大々的に報道がなされたことは記憶に新しいと思います。
漁獲量の減少や、太平洋岸の記録的猛暑や高潮被害が生じたのです。
ググるなりして調べておきましょう。

さて、話を戻しますと、本稿の冒頭でもご案内した海洋研究開発機構さんが作成された図表でも示されているように、この黒潮は東南アジア方面から日本に向けて流れている巨大海流です。
本来ならば海の恵みを日本にもたらしてくれる黒潮ですが、由々しきことにプラスチックゴミまで運んできてしまっています。

この東南アジアという視点にも気づけた受験生には加点がなされたことでしょう。

さらに申し上げるなら、「夏季」という季節に限定して考えたとき、東南アジアには南西季節風が吹き荒れます。
南西から吹いてくるわけですから、当然日本に向かっていますね。

九州大学論文より
https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/4776838/4776838_fulltext.pdf

則ち、本問で問われている「③プラスチックの移動過程」という点で言うなら、黒潮+南西季節風で東南アジア方面から日本にプラスチックゴミが運ばれることを意味するわけです。
これが第一の移動過程です。

では、第二の移動過程は何なのかというと、西太平洋から東太平洋にマイクロプラスチックが移動した理由となります。

敬天塾の東大地理 鉄則集でも申し上げるところですが、目に見えないチカラに着目することは東大地理では極めて重要です。

その代表例が「」と「海流」です。
先程申し上げた南西季節風や黒潮は好例ですよね。

では、太平洋の西から東へマイクロプラスチックを運ぶ「風」や「海流」がないか今度は考えてみるとしましょう。
「風」については、すぐに思いつけるはずです(思い出せなければいけません)。

則ち、偏西風です。
「海流」については、亜熱帯循環という言葉が出れば素晴らしいとは思いますが、思いつけなくても「海流」と答えれば大学受験レベルでは十分です。

東京大学ホームページより
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210713-1.html

東京大学の研究レポートによると、太平洋ゴミベルトに集積する浮遊プラスチックの約9割が北太平洋西岸から上図の移行域(亜熱帯循環の上部に書かれている青い矢印にご注目ください)を通って運ばれるとされています。

さらに付け加えるなら、この亜熱帯循環という巨大な海流の駆動力の一つとなっているのが偏西風です。

いきなりですが、冬になると偏西風が強まることはご存知ですか。
小学校の理科で学ばれた方も多いかもしれません。
偏西風の原理を考えれば当たり前の話ではあるのですが、ざっくり申し上げると、南北の気温差が大きいほどに偏西風は強まります。
北半球では冬になると寒くなりますから、赤道付近と北極付近の気温差が大きくなります。
その結果、強い偏西風が吹くのです。

詳しい原理にご興味のある方はこちらのリンクもご覧ください。

https://kyoukasyo.com/junior-high-school/westerlies/

テレビ宮崎ホームページより
https://www.umk.co.jp/otenki-blog/post-118.html

それゆえに、冬になるにつれて、西太平洋に集積したマイクロプラスチックが東へ移動していくわけです。

さらに申し上げるなら、偏西風が強まることで、亜熱帯循環も強まっていきます。
正確には複雑なファクターが絡んでいますので、単純な因果関係で結びつけることはできないのですが、ここでは風と海流は影響し合っていることを頭に入れておくと良いでしょう。

いかがですか。
この問題は考えれば考えるほどに奥深くなってきます。
まるでグミのような問題です。
噛みしめるほどに味わい深くなっていきます。

以上の諸論点をまとめると

このようになります。
これらを全て90文字の答案に詰め込むわけにはいきませんから、適宜取捨選択をしなければなりません。
なお、勉強熱心な方のなかには、東太平洋でマイクロプラスチックが集積している地点は、アメリカやメキシコなどから流れ出たプラスチックゴミが集積したものではないかと疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。
カナダやアメリカの西海岸は冬に雨が多いわけですから、陸上のプラスチックが川などを伝って海洋流出するわけです。

黒潮クリーンアップホームページより
https://kuroshiocleanup.com/service/marine_debris_on_okinawa/

非常に鋭いご指摘ですが、本問で問われているテーマとは少しピントが外れます。
東のゴミ集積域と西のゴミ集積域を無関係のものとしてバラバラに捉えるのではなく、マイクロプラスチックの海洋濃度変化をもとに、太平洋全域におけるプラスチックの「移動の過程を考慮」することが本問の趣旨だと私は思うからです。
西は西、東は東として個別事象として捉えるのではなく、東西でゴミが移動しているダイナミックな流れを意識してほしいと東大教授は受験生に求めているわけです。
海流話は2025年1Aの解説記事でも申し上げたAMOCの論点にも繋がってきます。
地球規模の風の動きや海流の動きに注視する重要性を受験生に訴えかけているのかもしれません。

2025年東大地理(第1問A)入試問題の解答(答案例)・解説

さらには、本問で挙げられている図1ー3では太平洋の西端と東端の2箇所がゴミベルト地帯として赤く塗られているわけですが、海流や偏西風で東に移動しているのなら、マイクロプラスチックが太平洋を帯状に広がっていることを意味するのではないか、なぜに高濃度地域が西端と東端にしかないのか疑問に思われたかもしれません。

また、日本の房総半島からカリフォルニアまで8月から2月にかけての半年で到達するというよりは2年や3年かけて到達するものもあるはずです。
そうしたことまで考察をされた方にとって、本問で取り上げられている図1ー3は違和感を覚えるものだったかもしれません。

その点に関して申し上げるなら、深海底奥深くに沈んだプラスチックもあるはずです。
広大な大海原のすべての地点に計測センサーを設置したわけではなく、あくまで、「最もマイクロプラスチックが集まりやすい場所」を調べたものが図1ー3ですので、不正確なところはあるとお考えいただければと思います。

本問は、大きな海洋循環や大気循環の話にも目を向けてほしいという出題者の想いが込められた問題だと考えるのがよろしいかと思います。

ちなみに、図1ー3の図表には続きがありまして、2066年時点でのマイクロプラスチック濃度の推計値も紹介されています。

いかがでしょうか。
2066年夏の図をご覧いただくと、真っ赤に塗られた範囲が2016年よりも遥かに拡大しています。
これが結局のところ、今から50年以内に海洋に漂うプラスチックゴミの量がお魚さんの総量を上回るという話とも関係しているわけです。
実に恐ろしいことですね。

なお、偏西風は一年中吹いているのに、なぜ夏季に関して考えなくて良いのか悩まれた方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
実に鋭いです。
先程も申し上げたように偏西風は南北の気温差によって勢力の強弱が決まります。
8月ごろと言いますと北半球は夏真っ盛りですから、赤道付近との気温差が冬場に比べて小さくなってしまいます。
太平洋高気圧やチベット高気圧が張り出すことで偏西風は夏に北上してしまいますから、西太平洋に集まるマイクロプラスチックの集積域から外れてしまうことも、夏に西太平洋に長期間にわたりマイクロプラスチックが滞留する要因の一つだと言えましょう。
このあたりは地学の本髄とでも言うべき内容です。

東京新聞2022/3/12記事より
https://www.tokyo-np.co.jp/article/165171

このように季節によって偏西風(ジェット気流)のルートが変わったり速度が変わったりするということは、飛行機の移動時間も変わってきそうですよね。
そうしたところにまで目を向けることが東大地理で求められる応用力醸成の鍵となってきます。

さらには、近年の猛暑に絡めても偏西風の話は重要です。

詳細な説明は本稿では割愛しますが、様々なトピックが芋づる式に出てくることをお分かりいただけたのではないでしょうか。
黒潮の大蛇行や偏西風の大蛇行、夏の猛暑などの異常気象の原因が天気予報などで報じられた際に、しっかりと原理を自分なりに調べなかったんですかと東大教授陣から問われているようにも私は思いました。
エルニーニョ現象ラニーニャ現象のメカニズムについても、これを機に教科書や資料集などで調べ端的に説明できるようにしましょう。

 

さて、だいぶ説明が長くなってしまいましたので、解答例を示したいと思います。

解答例

廃棄物管理が脆弱な東・東南アジア諸国から夏に台風等で海洋へ流出したプラスチックは、季節風や黒潮で西太平洋まで一旦運ばれ、冬に偏西風や亜熱帯循環が強まり東太平洋に移動するから。(89文字)

ゴミ処理やインフラが不十分な東・東南アジアからプラスチックが夏季に台風等で海洋流出し黒潮等で西太平洋まで運ばれるが、冬季には強まった偏西風と亜熱帯循環で東太平洋へ輸送されるから。(90文字)

人口が集中しゴミ処理のインフラに乏しい東・東南アジアから夏季に台風等で流出したプラスチックは黒潮に乗って西太平洋に広がり、冬季に偏西風や北太平洋海流で移動し東太平洋に到達するから。(90文字)

廃棄物管理が不十分な東・東南アジアから夏季に台風等で流出したプラスチックは季節風や黒潮で西太平洋一帯に広がり、冬季に強さを増し南下した偏西風と海流によって東太平洋へ運ばれるから。(90文字)

 

いかがでしょうか。かなり歯ごたえのある一問でした。

なお、ここまでの答案を書けずとも、
アジアなどの発展途上国から台風による豪雨などで流出したプラスチックゴミが、海流に乗って西太平洋まで夏に流され、その後、冬にかけて偏西風や海流で東太平洋まで押し流されたから。
と書いても、十分に合格答案だと思います。

 

(補足)
本問に付言して申し上げるなら、中国や東南アジア諸国によるプラスチックの輸入規制に絡む論点も注意をしてください。
実は長きに渡って日本や欧米諸国は使用済みのペットボトルなどのプラスチック製品の処理に困り、中国や東南アジア諸国に大量に輸出していたのです。

しかしながら、目に余る環境汚染を見かねた中国などが次々に廃プラスチックの輸入を禁止し始めたのです。
その結果、日本ではこれまで以上にプラスチックのリサイクルが推進されるようになりました。

せっかくですから、敬天塾の論述問題集より有益な問題をご紹介するとしましょう。

世界中の国々が、プラスチック問題に対して本腰を入れて対策を取り始めています。

日経新聞2010/9/5記事より
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGG0400G_U0A900C1000000/

三菱総合研究所ホームページより
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20181221.html

いかがでしょうか。かなり事が大きく動いていることがお分かりいただけたと思います。
私達にとっても他人事ではありません。
そのことに気づかせてくれる問題が、後掲いたします設問2番と3番となります。

なお、本問で取り上げました偏西風に関しては、東大地理で頻出です。
過去には以下のような切り口で問われました。
しっかりと青本の解説を読み込むなどして周辺知識を固めるようにしましょう。

いかがでしたでしょうか。「偏西風」1つとっても、越境大気汚染の話、季節風貿易の話、気温の年較差の話など、様々な論点に波及していきますね。

一見して無関係に見える諸論点を特定の切り口から整理統合できるチカラが応用力の正体なのであり、そうした分類整理(数学で言えば解法レシピの確立)ができますと、試験時間内に東大地理を解き切るチカラを得られるのです。

こうした実直な訓練をせずして、用語や統計の丸覚えだけで東大地理に臨むのは極めて困難になりつつあります。

設問(2)

問題文

表1ー2は、海洋のマイクロプラスチックの給源のうち小さな粒子を直接的に供給するものを、供給量の比率とともに示している。比率が最も高いものは合成繊維(衣類など)である。この理由を人の日常生活と関連づけて1行で述べよ。

設問(1)とは打って変わって、急にマイルドな問題になりました。
このような難易度の大蛇行に受験生も思わず失笑したことでしょう(笑)。
本問では、私たちが普段着ている衣類などの合成繊維にどんな問題があるのか問われています。

昨年の2Aでもファストファッションをテーマに衣類に関して問われていましたので、2年連続で衣類が話題にのぼったことになります。
2A解説記事でも申し上げた通り、アパレル産業は「第2の汚染産業」と称されるほどに、深刻な環境汚染を招いています。

環境省サステナブルファッション特集HPより
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/

こうした状況を少しでも改善するために、消費者のリサイクル意識の向上や、環境にやさしい染料の使用などの重要性が叫ばれるようになってきています。

詳しくは2025年2Aの敬天塾解説記事をご覧ください。

2025年東大地理(第2問A)入試問題の解答(答案例)・解説

「なーんだ、去年と同じ話か」と思われたかもしれませんが、少しベクトルが違います。
昨年度は衣類の製造工程にフォーカスがあてられていましたが、本問では私たちの「日常生活」に目を向けさせているのです。
衣類という大きなテーマが主題であることに変わりはありませんが、製造→着用→廃棄というサイクルの真ん中にあたる「着用」部分が問われています。

そんなの知らないよと思われたやもしれませんが、日常生活で衣類をめぐり、川やら海やらを汚染する営みってなんですか?と東大側は問うてきているわけです。
そう、「お洗濯」ですね。

このキーワードが出てきませんと、本問で正解することは難しかったでしょう。
地理の問題というより、小学生向けのクイズと申しますか、ナゾナゾのような問題に思えました。

東大側からすると、難度の高い設問(1)のあとに爽やかなデザートのつもりで、設問2番や3番をご用意くださったのかもしれません。

ただ、日頃から家事や炊事などを親御さんなどに任せっきりにしている方には、イメージのしづらい問題だったかもしれません。
小学生に本問を問うと9割以上が答えられたのに対し、高校生に問うと5割しか答えられなかったのは不思議なものです。
頭のやわらかさという表現で説明するのも乱暴な話かもしれませんが、身の回りの環境をつぶさに観察して地理的思考を巡らす訓練は隙間時間でぜひ実践なさってください。

では、お洗濯の何がいけないのかというと、合成繊維を選択すると微細なプラスチック繊維(繊維クズ)が剥がれ落ちるんです。
それがお洗濯の排水と共に流されて下水処理場に行くわけですが、あまりに微細なため下水処理場のフィルターでは拾いきれず、そのまま川や海へ流れてしまうというのです。
その結果、深刻なマイクロプラスチック汚染が広がっているのだそうです。
私たちの日頃の何気ない行動が地球環境を汚染していただなんて、申し訳ない思いでいっぱいになります。
このあたりを1行で端的に表現できれば良いでしょう。

武蔵野市ホームページより
https://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/048/981/leaflet.pdf

なお、マイクロプラスチックによる汚染をなくしていくために、様々な取り組みがなされているようです。

  • 使用済みのトレーやペットボトルを回収して再生する
  • 客が持ってきた容器にシャンプーなどを詰め替える「量り売り方式」を採用する
  • お洗濯の際に衣類からマイクロプラスチックが剥がれ落ちにくい素材を開発する
  • お洗濯の際に繊維が洗濯水に漏れ出すことを防ぐ洗濯ネットを商品化する
  • 微生物によって完全に分解されるバイオマス由来のプラスチックを開発・普及する
  • プラスチックゴミを買い取るシステムを構築する
  • 完璧を求めて必要以上に包装しない
  • マイバッグやマイボトルを持参するなど消費者自身が環境を意識した消費行動を心がける
  • プラスチックゴミを減らす努力をしている企業に投資する(ESG投資)

いかがでしょうか。特にESG投資に関しては、2026年4月に大改訂版が頒布される地理総合の教科書でも大々的に取り上げられるようになりました。

来年以降の東大入試で出題される可能性もありますので、論点を確認しておきましょう。

それでは、本問の解答例を示したいと思います。

解答例

洗濯で合成繊維の服から微細プラスチックが取れ排水されるから。(30文字)

合成繊維の繊維クズが洗濯で剥がれ排水と共に流出するから。(29文字)

合成繊維の繊維クズが洗濯で剥がれ排水と共に海へ流出するから。(30文字)

下水処理できない微細な繊維クズが衣類の洗濯で排水されるから。(30文字)

 

設問(3)

問題文

日常生活にともなう衣類からの小さな物質の供給は、合成繊維が普及する前にも生じていたが、以前は重大な海洋汚染の原因にはならなかった。この理由を1行で述べよ。

いよいよラストです。読解問題的な要素の強い問題でもありますが、「生分解性」というキーワードを思い出せたかもポイントになりました。
まず設問では、合成繊維が普及する「前」に言及せよとありますから、ここから綿や絹、麻などの天然繊維について思い起こせそうです。
これらの天然モノはお洗濯しても、海洋を汚染することはありませんでした。
それもそのはず、植物由来なわけですから、土に還るわけです。

ここでピンときてほしいのですが、今年度のブルーカーボンに関する1B(1)でも述べました「微生物分解」という視点が本問でも取り上げられているわけです。
仮に「生分解性」というワードが思い浮かばずとも、「分解」という重要キーワードは思い出してほしかったところです。

朝日新聞SDGs Actionホームページより
https://www.asahi.com/sdgs/article/15397203

そのほか、「バイオマスプラスチック」「生分解性プラスチック」「生分解性バイオマスプラスチック」など、様々なプラスチックが研究開発されています。

それぞれの長所と短所についても、しっかりとググるなりして調べておきましょう。

 

それでは、解答例を示したいと思います。

解答例

綿や絹などの天然繊維は自然界で微生物分解されていたから。(29文字)

衣類に利用された綿等の天然繊維は自然界で生分解されたから。(30文字)

 

編集後記

第1問A〜Cの解説は以上です。
ものすごく重厚な問題ばかりでした。
日本最高峰の東京大学にふさわしい問題セットだったと言えましょう。

敬天塾でも数千時間をかけて数多くの予想問題などを作成して参りましたが、「こんな切り口があったのか!」と思うような問題も本年は幾つかありました。
最先端研究に日夜励まれている教授陣の知性の高さに改めて敬意を抱くとともに、授業の方向性が間違っていなかったことを知れて確かな手応えを感じた2026年でもありました。

せっかく敬天塾のホームページにお越しくださった皆様に少しでも学び多き時間を過ごしていただきたいとの想いから、周辺知識も含めかなり詳しくご説明しましたので驚かれた方もいらっしゃると思います。
手前味噌ではございますが、極めて高い学習効果を得られるはずですので、ぜひ敬天塾の過去問解説記事をフルにご活用ください。

1人でも多くの方が敬天塾の授業や解説記事で地理を好きになって地理を得意教科にしていただけたなら、こんなにも嬉しいことはありません。

 

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
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