2018年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説
人口と都市に関する出題でした。なかなか難しかったですね。
設問が3つあったり語群の問題が久しぶりに出たりと度肝を抜かす東大らしい問題でしたがいかがでしたか?
目次
設問A
設問(1)
4つの都市における人口増減率の変化を比べて埼玉県、沖縄県、東京都、福岡県のどの都市を示しているのかを考える問題です。
バブル期前後の東京の地価と人口増減については、すぐに思いついてほしいところです。具体的には、バブル期〜バブル崩壊期である1985~90年あたりで東京の地価が高騰して都心から周辺地域へ人口流出し、バブル崩壊期の1990~95年あたりから東京の地価が下落して再開発が進むと、人口の都心回帰が起きていきます。
このことから85~90年に人口増減率がマイナスになり、90~95年からプラスに転じているBが東京都になります。
反対に85~90年に人口増減率が高かったがバブル崩壊に伴って人口増減率が低くなっていったCは、ドーナツ化現象によって人口が流入して社会増加を示していた埼玉県と判断できます。
残るAとDの判断も簡単で、沖縄県の出生率が高いため常に人口増減率も高いので、安定して人口増減率が高く2010~15年には1番になっているAが沖縄県、残るDが福岡県です。
設問(2)
山梨県と和歌山県が周囲の都府県と比べて減少率が大きくなる共通の理由を問われています。
語群の設問の解法について
語群から使用する語句を選ぶ問題で、指定語句とは違って推論の材料として使うには難しいです。こういう問題は、他年度の問題も含めて研究するに、採点も答案の方向性も、ある程度寛容になっているようです。予備校や塾の模範解答と違う方針や、違う語句を使用していたとしても、すぐ減点というわけではないと思われますので、柔軟に考えてください。
また、ダミーの語句もある可能性がありますので、「全部の語句を使わないといけない…!」と意識するよりは納得感や説得力のある答案を目指しましょう。その際、論理を重視して「この語句とこの語句はこんな論理として繋げられそうだな」という感覚で解いていくのがおススメです。
山梨県と和歌山県の共通点
まずは地図を見てみます。たしかに、山梨県と和歌山県では周囲の都府県に比べて人口減少率が大きくなっています。さらに周囲の都府県に目をやると大都市圏に近接していることがわかります。
しかし、一般的に大都市圏に近い場所に住んでいるなら高速交通網を使って大都市圏へ通勤するという人が多いため、引っ越ししなくても良いことになります。これでは人口減少率が大きくなっている理由が分かりません。ここで、なぜ大都市圏に近いのに通勤ができないのかということを考えてみましょう。
まずは地形に関する考察です。
両県の地形を見てみると山梨県は山地に囲まれた盆地となっていて、和歌山県は紀伊山地(半島)といった山がちな地形となっています。こうした山がちな地形から通勤しようとしても通勤ルートが限られたり時間がかかったりして大変です。そのため、通勤に便利な地域に人口が流出したと考えられます。
加えて、山がちな地形で交通の便が悪いということは物資の流通も円滑ではなく工業化が進みにくく、雇用機会も周囲の都府県に比べると少なくなり、過疎化が進んだと考えられそうです。
多様な解答が考えられますが、論理や説得力を持たせる答案を意識しましょう。
※塾長追記
山梨県出身の私の主観ではありますが、山梨県は東京都隣接しているとは言っても、東京の中心部は東の端っこの方です。山梨と隣接している部分は、東京の中でも田舎の地域です。
また、山梨の県庁所在地である甲府は、山梨の中の中心よりやや西くらいに位置しているため、やはり東京都の県境からは距離があります。甲府から新宿へ鈍行の列車で行こうと思うと、2時間30分~3時間くらいかかりますし、特急列車(追加料金あり)でも90分かかります。これでは、さすがに東京の通勤圏外となってしまいます。
とすると、東京へは引っ越しをせざるを得ず、人口流出してしまうということだと感じています。
和歌山に関しても同様で、大阪と隣接しているといっても、大阪の中心部は和歌山と逆方向の北側です。和歌山の状況はよく知りませんが、似ている部分もあるのではないでしょうか。
なお、生徒の答案で「山梨には産業がないため雇用もなく、大都市へ人口が流出する」「山梨は賃金が低いため都市圏に出稼ぎに行く」など書いてあるものがありますが、様々な感情がこみ上げ涙が止まらなくなります。
設問(3)
沖縄と北海道を除いた地方圏での人口減少率に差異が生まれる理由として考えられることを答える問題です。
問題文で示される①②について整理すると、三大都市圏への距離で人口減少率が変わり、地方の中でも人口減少率に差が出るということですね。ここで地方圏で人口減少率が小さい都市を図から探してみましょう。すると、宮城県や石川県、岡山県、広島県などの県が人口減少率が小さく、これらの県には共通して広域中心都市が存在していることがわかります。
このことから、三大都市圏に近い県と広域中心都市を抱える県は人口減少率が低く、三大都市圏から遠い県と他の地方圏は人口減少率が大きいというように分類できそうです。
それぞれの理由について考えてみると、三大都市圏に近い県は様々な産業が発達して若年層が流入しやすく、都市規模が大きくなります。これと先程の広域中心都市も同様のことが考えられますから、あわせて「産業が発達しやすく、人口が流入しやすい」とまとめても良いでしょう。
また、岡山県や広島県は高速道路や新幹線が整備されています。倉敷市の水島コンビナートでは重工業も発達しているので、ここで「工業化」や「高速交通」の発達も理由に挙げられますね。
人口減少率が大きい地域に関しては逆に産業があまり発達せずに農村地域が多く、若年層が流出して過疎化が進んだと考えられます。
(2)と同様に多様な解答が考えられますが、人口減少率の大小で分類すると書きやすいと思うので、参考にしてみてください。
答案比較
設問(2)
Aさん
両方とも近い距離に大きな都市規模の都市圏が存在し、出稼ぎや通学によって人が都市部に移動し、多くがそのまま定住するため。
Bさん
工業化が進み中枢機能が集中する大都市に近い距離にあり高速交通の発展により移動時間が短縮され移住する人が増えた。
Aさんは大都市圏に近接することと通勤通学のために人口が流出していることを書いてますね。
「大きな都市規模の都市圏」と大都市圏を詳しく説明していますが、語句を使わないといけないという意識に縛られずに「大都市圏」と簡単に表して字数を節約した方が良いです。また、人口流出に関する記述は通勤通学という「目的」を書くよりも、山がちな地形で通勤通学が難しいことや産業の発達が他地域よりも遅れていることなどの「理由」を書いた方が論理的で加点しやすくなります。
Bさんも大都市圏について詳しく書いていますが、あくまで両県に共通する特徴を答えることが大事なので点数は厳しいでしょう。
後半の部分も疑問があります。高速交通が発達して移動時間が短縮された場合、他県に流出する人もいるでしょうが、通勤可能になり流出を思いとどまる人も出ます。どちらが多いかという微妙な条件は、この問題では論じられないため、明確な因果関係が発生する答案にした方が無難です。
設問(3)
Aさん
三大都市圏と距離の近い県や広域中心都市を抱える県ではベッドタウンとなったり雇用が生まれることで人口の流出が抑えられるが、そうでない県は都市部への流出が止められないため。Bさん
都市から距離のある地域では都市部程雇用が多くない事で過疎化が進行している。しかし、ある程度工業化されており、交通機関が発達している地域は雇用がある為、人口が増加している。
①と②の整理に苦戦している人が多かったようです。
Aさんは「人口減少率が小さい県」に関しては詳しく書けていますが、大きい県に関しては単に「そうでない県」と一括りにして雑な表現になっています。文字数の制限もありますが、大都市圏から遠い県とか地方圏ぐらいに具体化して欲しかったです。
また「三大都市圏と距離の近い県や広域中心都市を抱える県」と主語をまとめてしまっていますが、単に「広域中心都市」と書くとベッドタウンにはなりづらい場所に見えるため、事実誤認の藩邸になりかねません。分けて書くか本当に両者に共通することだけを書きましょう。
また、文法面でも「たり」の使い方が間違っています。「たり」は「Aしたり、Bしたり」と2度使うことが正しいため注意しましょう(間違っている答案を、本当によくみます)。
人口減少率が高い県に関してはなぜ人口流出が止められないのかまで書けたら加点対象となったかと思います。
Aさんと同様に、Bさんも人口減少率が低い地域の言い換えがくどくなっているうえに、どこを示しているのか分かりにくいです「(大)都市から距離のある県」というまとめ方は端的で良いですね。
つぎに文法面での指摘をしておくと、「都市部程雇用が多くない事で」の部分は「程」は平仮名で書くのが普通です。「事」や「為」も同様です。さらに「工業化されており」の「おり」は謙譲表現です。答案には敬語を含めずに書くのがルールなので「工業化されていて」と直しましょう。
つづいて、「しかし、ある程度工業化されており、交通機関が発達している地域」という表現は、文脈から判断すると大都市圏から離れた地域内の説明に見えてしまい、①の大都市圏に近い地域の説明が抜けてしまっているように読めます。
こういうミスは多いので注意しましょう。工業化や高速交通機関が発達していることは十分理由になりえるので文章構成を変えるだけで得点がグンと伸びそうです。
設問B
設問(1)
鹿児島、広島、金沢の都市域の拡大と地形条件について答える問題ですが、相当難しいですね。余談ですが、本稿を執筆している私は鹿児島出身なのにもかかわらず、自信を持って答えられるか怪しいです。
とりあえず図を見てみましょう。
どの図にも共通して城跡の地図記号だけが付されていて、城下町から都市が拡大したのではないかと考えると答えやすそうです。鹿児島市の城下町の位置は丘陵地の麓に立地しているように見えます。城下町の近くから地形的条件を見ていくと、沿岸に沿って南側に、また西部山岳地帯の谷間にも広がっていき、特に南の方は直線的な海岸線となっているため、埋立地が形成されたと思われます。よって、丘陵地の麓から沖積平野を中心に広がり、埋立地にも拡大したと考えられます。
広島市の城下町の位置は三角州の河川に挟まれた場所に立地しているように見えます。その後、沿岸地域の南方と山岳地域の北方の沖積平野を中心に広がり、干潟を埋め立てた沿岸地域にも拡大したと考えられます。
金沢市の城下町の位置は山麓付近の扇状地上に立地しており、その後に放射状に拡大し、一部は海岸砂丘にまで拡大したと考えられます。
設問(2)
広島と鹿児島における都市域の拡大によって増大した自然災害の共通するリスクについて特徴もあわせて2つ答える問題です。基礎的知識が大事になります。
両都市とも山岳地域と沿岸地域の両方に都市域が広がっているので、この2つの地域での災害リスクについて考えると良いでしょう。
地斜面などを開発して住宅地に変えると集中豪雨などの際に土石流などの土砂災害の被害を受けやすくなります。また、沿岸地域への拡大は熱帯低気圧が近づいた時には高潮の被害を、地震時には津波や液状化現象の被害を受けやすくなります。
ただ、瀬戸内海に立地する広島は津波などの被害はあまり大きくないので、液状化現象を挙げるのが良いです。特に埋立地や河川敷などの水分が多く含まれる地域では液状化現象は起きやすいです。
答案比較
設問(1)
Aさん
鹿児島は城跡から海に向かって埋立地を作り広がった。
広島は城跡付近の三角州や扇状地に広がった。
金沢は城跡付近の扇状地から川沿いに広がった。Bさん
鹿児島は北部の低地から内陸や南部の低地に拡大した。
広島は三角州中心部から山間部より南部の低地へ拡大した。
金沢は扇状地の扇頂から扇端にかけて拡大していった。
Aさんは、鹿児島の記述では埋立地の指摘しか出来ていないので山間部や南部への広がりや城跡の地形も書きたいです。広島や金沢に関しても城跡の地形条件をまず書きましょう。また、金沢の「川沿いに広がった」という部分は山間部から放射状に広がっていて川に沿って広がったわけではないので間違いとなります。
Bさんは端的に書けていますね。表現の部分で「北部の低地」というよりは「台地の麓」などと表現した方が具体的です。金沢の「扇頂から扇端」に拡大したというのは扇頂と扇端の範囲が分からないのでハッキリと言うのはリスキーに感じますが間違いとも言い切れないです。
設問(2)
Aさん
山のふもとの川沿いに拡大したため、土砂災害や水害、地震の時に液状化する恐れがある。Bさん
山間部で豪雨に伴う土砂災害の、沿岸の埋立地などの低地で地震による液状化現象や台風による高潮などのリスクが増大した。
受験生にありがちなミスですが、問題文では「2つ」述べるように指示しているのに1つしか無かったり3つ以上書いていることが多々あります。これは問いに答えられていないということで減点される可能性があるので注意しましょう。
Aさんは短くまとめようとしていますが、論理が飛躍しています。山の麓の川沿いに拡大するとなぜ土砂災害や水害、液状化の恐れがあるのでしょうか。おそらく含まれる水分が多くなることなどの影響はありますが、こうした理由を書いている文字数は無いので、因果関係をつなぐよりも特徴と自然災害の名前をひとつずつ挙げる方が良いです。
Bさんはどんな地形条件で起こるかなどの特徴はよく書けていますが、土砂災害、液状化現象、高潮と3つの災害になってしまっているので気をつけましょう。
設問C
設問(1)
大都市の土地利用と生活圏との関係を問われています。
指定語句などを見てみるとすぐに構成は分かるかもしれませんが、問題は会話文をふまえるように指示しているので大都市の土地利用と生活圏に関する内容を探してみましょう。
大都市の土地利用に関する表現は
「都心のターミナル駅や繁華街」
「家賃が高くてなかなか住めない」
「都心はデパートや専門店、劇場なども多くあって」
あたりですね。家賃が高い→地価が高いと連想し、中心業務地区に関しては、デパート、繁華街などの用語から連想して使えそうです。
生活圏に関する表現は
「通勤や通学に便利ですかね?」
「郊外に住むということ」
「家の近くにスーパーマーケットや食料品店があると便利」
あたりが使えそうです。スーパーマーケットや食料品店から生鮮食品は郊外の生活圏に関する記述で使えそうですね。
「都心のデパートに行ってする買い物と、近所のスーパーでする買い物は違うもの」というところは都心と郊外の違いをよく表しています。以上のことをまとめて、答案骨子は「中心業務地区が広がる都心は地下が高く、繁華街やデパートなどが立地するが、地価が安い郊外では住宅地が広がり、近くに生鮮食品などの最寄り品を扱うお店が立地する」となります。
設問(2)
昔と比べて今は日用品の購入が不便になったり困難になったりする地域が発生する理由について問われています。モータリゼーションに関する典型問題だと思って良いでしょう。
問題では日用品の購入に限定しているため、設問の流れからして郊外に関する問題だと考えます。大都市の郊外に発達したニュータウン地域では高齢化が進み、若年層も流出することで購買力が低下してきています。また、幹線道路沿いに車で来られるように駐車場を備えた大型店が増加して更に近隣の商店街は廃れていきます。
これによって車に乗って大型店へ買い物に行くことが一般的になり、車に乗ることが難しくなった高齢者などにとって買い物が困難になります。以上のような流れをふまえて答案を作成しましょう。こうした日常の不便さも地理に繋げて考える重要性を教えてくれる問題でしたね。
別の解答方針
この問題を塾内のゼミで扱った際に、「問題文には、大都市の日常の買い物についてみた場合とあるが、ニュータウンや郊外を大都市に含めて良いのか」という疑問が出ました。確かに、わざわざ「大都市」と書かれていると、都心部や繁華街の付近などを指す場合もあるでしょう。
これに対して、様々な意見が出て考察がなされましたが、設問Cのリード文(つまり会話文)自体が「大都市」に関するものであることや、会話中で都心から(少なくとも電車で20分以上は)離れた郊外のことも触れていることから、ある程度広い範囲まで「大都市」に含めて良いのではないかと思われます。
また、仮に大都市の中心部(例えば、東京の山手線沿いや内側など)を想定して答案を作るならば、
・高層マンションが多くなり、日用品を購入した小売店から自宅までの距離が遠くなるため、運搬が困難になった。
・車を所有しない世帯が増え、家具などの大きなものや、飲料などの重いものを購入しづらくなっていった。
・人口の過密化が進行し、レジを待つ行列が長くなり、時間がかかるようになった。
などが考えられると思われます。
答案比較
設問(1)
Aさん
都心の中心業務地区に近づくにつれて地価が高くなり、都心から離れた郊外では高価な買回り品よりも生鮮食品などの生活必需品を売る店が多い。Bさん
地価が高い都心の中心業務地区や繁華街では回周り品を扱う商店が多い。一方で地価の安い郊外では生鮮食品などの最寄り品を扱うスーパーマーケットなどが立地し職住が分離している。
Aさんは中心業務地区との距離によって地価が変動するというような意味になってしまいますが、土地の価値を決める大きな要素は、立地、面積と形状、道路との関係性など多岐にわたります。 また、地質や周辺環境、景気や都市計画の影響などにも左右され、言い切るには難しいです。
郊外での買い物事情についても言及していますが、買回り品は都心に多いデパートなどで買うことを明示して対比を明確にしましょう。
Bさんは土地利用に関する記述が上手くまとまっていますね。ただし、最後の「職住が分離している」という言葉だけだと生活圏の説明が少なくなりますし、「職」の部分に関して言及が存在しないので、説明不十分な答案になってしまいます。住宅地が広がることを付け加えられると良いです。
設問(2)
Aさん
大型店舗の規制緩和に伴う大型店舗の出店により商店街が衰退した後、地域の高齢化による利益減で大型店舗が撤退したため。Bさん
ニュータウンでは住民の高齢化や若者の流出により消費が落ち込み、中心商店街が衰退しているから。
Aさんは焦って書いたのか、「大型店舗」という言葉が何度も答案に登場してしまっています。
同じ言葉を繰り返し使うと幼稚な文章に見えてしまいますし、要素が薄くなってしまいます。
大型店舗の進出に関する理由を詳しく書いていますが、問われているのは日用品の購入が不便になった理由ですので、加点要素にはなりづらいでしょう。
加えて、商店街の衰退と高齢化による利益の減少は、どちらが先に起こったと明確化できるものではなく、同時に並行して進んでいるものです。
Bさんはシンプルにまとめられていて良いと思います。「交通手段に困る」ということも書けたら、さらに充実した答案になりましたね。