2013年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説

気候と地表環境に関する出題でした。
風化作用や土砂崩れなどをテーマに様々な地理的考察を要求する切り口は東大らしいものでしたが、問題の問われ方もいつもより変なものが多くて戸惑った受験生も多かったでしょう。

設問A

設問(1)

高緯度帯と低緯度帯の両緯度帯で風化作用が弱くなる理由を、図1-1をヒントにそれぞれ答える問題です。
図1-1の凡例3を見てみると、たしかに南極などの高緯度帯と南北回帰線の通る低緯度帯の両方に風化作用が弱い地域が存在します。なぜ風化作用が弱いのでしょうか?

物理的風化と化学的風化

まず風化について理解しておきましょう。
地理ではしっかり学ぶことはなく、高校生にとっては地学の分野で習う内容です。しかし東大地理では、平気で地学の内容が出題されます。(しかもまあまあな頻度です)
徹底的に対策するなら、地理だけにとどまらず地学にも手を出すべきでしょう。
例えば、2020年第1問2017年第1問などが地学内容の出題例です。

さて、風化には2種類あります。物理的風化と化学的風化です。

物理的風化

物理的風化とは、イメージ通り、岩石そのものが壊れて崩れるようなものです。
具体的には、
・温度変化(湿潤と乾燥を繰り返すと、岩石に含まれている粘土などが膨張と収縮を繰り返して、岩石が割れてしまいます)
・水の凍結(寒冷地帯などでは、岩石の亀裂に入り込んだ水が凍結して膨張することで、割れてしまいます)
・塩類の風化(岩石中の塩分が結晶化する時に岩石に圧力を加えて、割れてしまいます)
・木の根っこなど(木の根っこが成長する際に、岩石を押して割ってしまいます)
などがあります。
物理的風化は乾燥地帯や、寒冷地帯で起きやすいとされています。

化学的風化

一方、化学的風化は岩石そのものが変化してしまう風化のことです。
具体的には
・加水分解(岩石中にあるカリウムやマグネシウムなどの金属が水に溶けてしまいます)
・石灰の溶解(石灰質の岩石が、二酸化炭素が溶けた雨に打たれて溶解します。カルスト地形、鍾乳洞などは地理でもお馴染みです)
などです。
どちらも雨によっておこるので、温暖な地域や湿潤な地域で強く作用するとされています。

風化と浸食の違い

さて、以上を踏まえて、解説をしていきましょう。

まずは誤解しやすいところを解消しましょう。
一般的に風化というと、雨や風にさらされて徐々に岩石の表面が削られていくことだと思うのではないでしょうか。
しかし、これは風化ではなく浸食だと考えてください。

東京書籍の教科書の記述を引用すると

大地が大気にさらされると、地表面には太陽の熱や雨が直接降り注ぐ。すると、地表の岩石をつくる鉱物が熱で膨張したり、岩石に含まれた塩類が結晶して析出するときの圧力で、岩石は壊されたりする。また、岩石は、雨などの水分にとけた酸やアルカリが引き起こす化学的な働きによっても壊される。こうした作用を風化とよぶ。
風化されてもろくなった地表面は、流水や風、波などの外的営力によって削られていく。これを侵食という。
寒冷な地域では水が凍結と融解を繰り返すことで風化が生じ、また氷河による侵食が働く。いっぽう、高温湿潤な地域では化学的な風化が強く働き、流水による侵食が激しい。大地の削られ方は、気候によっても大きく異なっている。

とあります。
まずは、浸食と風化の違いを意識しておきましょう。

答案の方向性

これを理解した上で、与えられた図1-1を見てみると、凡例3で示されている「風化作用が微弱な地域」は、カナダやシベリアなどの寒冷地帯(高緯度)と、サハラ砂漠などの乾燥地帯(低緯度)に分布しています。(サハラ辺りは「低緯度」なのか怪しい気がしますが、気にせず解きましょう。)

寒冷地も乾燥地も、物理的風化が強く、化学的風化が弱い場所だと説明されます。
そのため答案の方向性としては、まず「化学的風化が起きにくいから」というのを思いつきます。逆に、本来強いはずの物理的風化が起きづらい理由を答えることでも説明できるでしょう。

ということで、答案の方向性を検討してみます。

高緯度で風化が弱い理由

まず高緯度ですが、寒いため高気圧が発達していますから、化学的風化の原因である降水がそもそも少ないことが挙げられるでしょう。

他にも、高緯度は年中寒くて温度変化が小さいことが特徴なので、物理的風化が弱くなるという説明ができます。
常に氷河におおわれているため、水の再凍結が起こらないことを指摘しても良いでしょうし、寒すぎて植物があまり生育できず、木の根っこが岩石を割ってしまうことがない、という説明もできます。

これらの中から書きやすいものを選んでください。

低緯度で風化が弱い理由

続いて低緯度地域ですが、サハラ砂漠やアラビア半島辺りが該当するため、降水量が少ないことが挙げられるでしょう。

降水量が少ないと、物理的風化の原因である水の凍結も起こりませんし、植物が育たないため木の根っこが岩石を割ることもありません。また、化学的風化の原因となる加水分解も起こりづらいですし、石灰を溶かすCO2の雨も降りません。

このあたりをまとめれば良いでしょう。

設問(2)

風化作用の激しい地域が備えている植物の生育に好ましい条件を答える問題です。

植物の生育条件としては、水・光・温度・空気・養分などが挙げられます。これを念頭に置きながら、該当する地域を確認しましょう。

すると、凡例1に該当する地域は、主に赤道周辺の低緯度地域やオーストラリア東部や南アメリカ大陸東部などの大陸東部に集中しています。

低緯度地域は年間を通じた日射量が多くなりますね。
また、凡例1に該当する地域の気候を考えると、だいたいの地域で熱帯気候または温暖気候が分布し、年間を通して比較的気温が高く、降水量も多いことが言えます。

空気は地球上のいたるところに存在しますので答案には書きづらいので除外し、養分は設問文で溶脱することが述べられているので、これも検討しなくて良いでしょう。

以上から、降水量・日射量・気温が多い(高い)ことを述べるという方針になります。

設問(3)

ガンジス川やブラマプトラ川の下流域(a)とジャワ島(b)のそれぞれの地域が肥沃な土壌に更新され続ける自然的要因を答える問題です。これも気候と地形を基に考えましょう。

まず、ヒマラヤ山脈を水源とする(a)の両河川はバングラデシュで合流します。ガンジス川流域は6~9月に湿潤な南西季節風の影響で雨季となり、下流のバングラデシュは定期的な洪水に見舞われます。この時に、上流から肥沃な土壌が運搬されて堆積し、土壌の肥沃度が保たれます。ちなみに、エジプトはナイル川が定期的に起こす洪水によって同様に肥沃度が保たれていましたが、上流でのダム建設によって洪水があまり起こらなくなったことで土壌の肥沃度が保たれず、代わりに農薬の過剰投与が行われるなど、様々な問題が起こっています。ナイル川関連の問題もチェックしておくと似たような問題に対処しやすいので、この機会に教科書で復習しましょう。

(b)のジャワ島は、窒素やカリウムが豊富な火山性土壌が分布しています。ジャワ島付近に多くの活火山が存在し、それらが排出する火山噴出物が降り積もってミネラルなどの栄養が豊富な土壌が形成されるようです。

答案比較

設問(1)

Aさん
高緯度では低温少雨のため、低緯度では亜熱帯高圧帯の影響による極端な乾燥のため、風化を促進する地表の水が少ないため。

Bさん
高緯度では低温少雨、低緯度では高温少雨の地域があり、それぞれ降水量が少ないことで、雨水による風化作用が小さいから。

両名とも要素は含まれています。

Aさんは「〜ため」が3回も続いて登場して違和感があるので、文末の「ため」を「から」に変えれば読みやすくなるでしょう。
また、極端な乾燥という表現は強調しすぎた表現なので、「乾燥」とだけ述べれば十分でしょう。

Bさんは「〜では…の地域があり、」という文章構成になっていて、高緯度地域の気候を断定しすぎない表現になっていて良いです。しかし、日本語的には「〜には…の地域があり」の方が読みやすいでしょう。

設問(2)

Aさん
低緯度の多雨地域に位置し、年中を通じて、十分な降水があり、気温も高く、日照時間も長い。

Bさん
風化の激しい地域は主に低緯度や大陸東岸に位置し、気温、日射量、降水量などの植物にとって重要な生育条件に恵まれている。

Aさんは簡潔に述べられていて良い答案だったと思います。表現の部分で「年中を通じて」はあまり見ない表現なので、「年間を通して」とか「一年中」などと表現した方が読みやすいでしょう。また読点「、」が多いので、いくつか減らしても良いでしょう。

Bさんは問いへの答え方が少しズレてしまっています。
問われているのは「植物の生育条件に好ましい条件」ですが、Bさんの答案では風化作用が激しい地域が「どんな場所か」を説明してしまっています。

設問(3)

Aさん
aではモンスーンやサイクロンの影響で大河川が頻繁に氾濫を起こし、一帯の土壌が入れ替わり、bでは定期的に火山の噴出物が堆積して土壌にミネラルが補充される。

Bさん
(a)は夏の季節風やサイクロンによる洪水で、上流から肥沃な土が運ばれてくるため。(b)は噴火によって堆積した火山灰が風化することで、栄養分に富んだ土壌が形成されるため。

Aさんは「〜が頻繁に氾濫を起こし、一帯の土壌が入れ替わり」という部分において、「連用形+読点」が2回続いています。
細かいですが、このような部分は例えば「氾濫を起こし、一帯の土壌が入れ替わることで」など、片方の末尾を変更すると読みやすくなります。
またどうせなら肥沃な土壌が運ばれてくるニュアンスも出したいので、大河川を主語にして能動態で書くのではなく、Bさんのように洪水で肥沃な土壌が運ばれることを簡潔に述べると良かったです。
Bさんは簡潔にまとまった良い答案でした。

設問B

設問(1)

図1-2に示されている土地での土砂崩れ前後の風景の変化を答えるという変な問題でした。
共通テストの地図から読み取れる風景を選択する問題になにか通ずるものを感じますね。

図1-2から等高線を見てみると、X付近はアの時期には尾根が広がっているのにイの時期には谷に変化していることが分かります。
また、アの時期にあった針葉樹林の地図記号がイの時期にはなくなって砂礫地になっていますし、Xの北側には土崖や岩崖の地図記号が増えています。
以上のように等高線や地図記号から分かる変化を土砂崩れの影響として考えて、答案に書けば概ね良いでしょう。

ただし「風景の変化」というお題に対して、本当にそこから眺める景色を答えるべきなのか、それとも地形の変化を書けば十分なのか、不明です。

設問(2)

土砂がどのように流下していったのかを図1-2のZ付近とY付近の地表面の変化とともに答える問題です。
X付近からZ付近までには谷があり、土砂はこの谷に沿って流下していったと考えられます。この際に、アとイを比べてイの方が等高線の間隔が狭いことや、イの南西端に新たな計曲線が書かれていることから、谷底を侵食しながら流下したことが分かります。

また、イにはY付近に砂礫地の地図記号が書かれていることや谷の東側に岩崖が顕著に見られるようになったことから、土砂が勢いよく流れて、X付近の東側の崖を越えてY付近まで到達し、小三笠山にぶつかって崖を侵食しながらZ付近へ流下していったことが読み取れます。

設問(3)

土砂崩れの被害を2つ例示する問題です。こういう問題では例が2つであることが分かるように答案を書きましょう。

まず、土砂崩れの被害としては下流にある家屋の倒壊や人命被害が直接の被害として考えやすいでしょう。また、道路が寸断されたり、電気・水道が通らなくなったりとライフラインへの影響も考えられます。さらにはこうして道路も寸断されて電波も届かず救助が遅れてしまうという被害も考えられます。

他にも、土砂崩れの後には崩壊した土砂が河道を塞いで天然の堰止湖を形成し、そのダムが決壊して下流に洪水をもたらすこともあります。
家屋の倒壊などは比較的思いつきやすかったでしょうが、もうひとつの被害例を出すのは多少難しかったかもしれません。

答案比較

設問(1)

Aさん
周囲を一望できた尾根から谷底に変化した。

Bさん
尾根から谷に変化し、土がけや岩がけが形成された。

Aさんは風景というワードから「周囲を一望できた尾根」という表現が出たのでしょうが、この情報を書いても谷底がどんなものかを書かないとただ尾根の情報が増えただけで、全体としてはあまり変わらず、加点要素にはなりづらいです。単純に尾根から谷になったことだけを述べて植生の変化などを加えるという方向の答案もあり得ます。

Bさんは崖の形成まで指摘できていて良かったです。

設問(2)

Aさん
土砂が地図中の南東部分へ大量に流れ込み、Y付近の植生は破壊され、そのまま谷に沿って南西方向へ流れてZ付近にまで到達した。

Bさん
殆どの土砂は南西部に流れ出し、Z付近は植生が失われた。一部の土砂はYの付近まで昇り、砂礫で覆われた。

Aさんは流れはつかめていますが、土砂を主語に答案を書いているのに「Y付近の植生は破壊され」と急に受動態の文章を入れてしまって少し読みづらくなっているので、「Y付近の植生を破壊しながら、」と能動態の文章で統一した方が読みやすいでしょう。Z付近の地表面の変化も書きたいところでした。

BさんはYとZのどちらの変化も書けているのですが、両地点の地表面の変化がメインになってしまっているので、問いから少しズレてしまいます。また、Yに関する記述は「Yの付近」の「の」は消しても良いですし、その後の「砂礫で覆われた」という部分は「Y付近が」という主語を入れないと分かりにくいです。
土砂がどう流下していったのかをメインにして書けるとより良かったでしょう。

設問(3)

Aさん
岩石や水を巻き込んで家屋や耕地を襲う土石流を発生させ、水道などのインフラ施設が破壊されてライフラインが途絶される。

Bさん
土砂崩れによって道路に土砂が堆積して通行の妨げになる。河川に堆積した土砂が決壊して、洪水が起こる。

Aさんは「〜する土石流を発生させ、」というように土石流の修飾部分として被害を書いていてその後にもうひとつの被害を書くという分かりにくい構成になっています。はっきりと土石流によってどうなるのかを書いた方が読みやすくて加点もされやすいでしょう。また、文頭にある土石流の説明も今回の問いでは必要ない部分なのでカットして字数を節約するべきです。
Bさんはそれぞれの例を句点を使って区切っていて非常にわかりやすい答案でした。

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