2017年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説

第1問

島と海に関する出題でした。知識偏重型の問題が多かったように感じますが、いかがでしたか?特に設問Bの島々が特定できなかった場合、芋づる式に間違えて大量に失点してしまう可能性があります。いくら地理が思考力の科目だとはいっても、最低限の知識が必要だと分かる良い機会だったと思います。

設問A

設問(1)

太平洋の中央部で火山島とサンゴ礁が北西から南東の方向に並んでいる理由を答える問題です。
地学基礎を選択している受験生なら解きやすかったと思います。図1-1を見てみるとたしかに問題文に示されている通りになっていますが、なぜこのような現象が起こるのでしょうか。

結論から言ってしまうとホットスポットとプレートの移動が原因となります。ホットスポットとは、プレートよりも地中深くに存在するマントルからマグマが湧き上がって火山島が形成される場所です。そのため、表面のプレートが移動してもホットスポットの位置はほとんど変化しません。
ホットスポット上に形成された火山島はプレートの動く方向に従って移動しますが、ホットスポット自体は移動しません。火山島は噴火時にしか形成されないので、点々と続く火山島が見られるのです。
さらに、火山島の位置する海洋プレートは大陸プレートに衝突して海溝を形成しながら沈み込んでいくため、火山島は徐々に沈降していき海山となります。

↑太平洋付近のプレートの模式図。左側の「火山フロント」に位置しているのが日本です。(2020年第1問設問A(2)も参考にどうぞ)

↑プレートがズレながらサンゴ島ができていく様子。ホットスポットの位置は固定され、プレートだけ移動するため、プレートの上に乗っかっている火山島が移動する。)

↑海洋プレートは重いため、西に移動するにつれて沈み込むため、火山島も沈降する。それと並行して、火山島が波や風に侵食されるため

 

↑航空写真。ハワイ島が最東端(つまり最新)の火山島で、西の方が古い火山島になる。西の方が侵食・沈降するため、途中から海面に潜っている。

ここで大事なのはサンゴ礁島の形成過程です。サンゴ礁は暖かい海域(30℃以上)で太陽光線が届く浅い海底に形成されるということは有名ですね。
そして、サンゴ礁は
裾礁(中央島の裾野にサンゴ礁が形成される)

堡礁(中央島の沈降が進んで、太陽光を求めて成長したサンゴ礁が島から離れた位置に形成される)

環礁(中央島が完全に沈降して環状または楕円状に発達したサンゴ礁だけが残される)
のように変化していきます。
図1-1のハワイ諸島で見られるように、火山島の沈降に伴うサンゴ礁島の形成がサンゴ礁の発達と同様の過程を経ていることが推察できます。以上から、プレートが北西に移動するため南東から北西へ火山島とサンゴ礁島が並ぶということと火山島の沈降に伴ってサンゴ礁島が発達するということをまとめれば良いのですが、2行にまとめるのはなかなか難しいです。

設問(2)

サンゴ礁島からなる小島嶼国(規模の小さな島嶼で構成される国)が先進国の支援や移民の出稼ぎによって経済が維持されている場合が多い理由についてその地理的な特徴を含めて答える問題です。
まず問題文を整理するところから始めましょう。最初に「サンゴ礁島からなる」とあるのでサンゴ礁島の特徴をふまえたほうが良さそうです。「先進国の支援」や「移民の出稼ぎ」で経済が成り立っているということは逆に自国の産業の発展が不十分であると考えられます。これに地理的特徴をふまえて答えればよいと言われているので、産業が発達しにくい理由を地理的特徴から考えてみましょう。とはいえ、地理的特徴と言われても漠然としているので、こういう時は与えられた情報(問題文、リード文、図表など)をフルに活用することが大事です。
サンゴ礁から攻めていくとすると、サンゴ礁島の土壌は石灰岩質であり、水はけが良くて生産できる農作物が限定されてしまいます。また、環礁ともなれば農地面積も確保しづらく、十分な生産量を確保することができません。
つぎに、図表を見てみると太平洋の中央に位置していれば、市場から距離が離れているため輸送費がかかります。大量生産できないこともふまえれば製品の単価が上がって、他国の輸出品よりも競争力は必然的に下がってしまいます。
よって、答案骨子は以上のような地理的特徴から自国では産業の発達が困難であるということを書きましょう。

設問(3)

領海と排他的経済水域の区別

領海と排他的経済水域の違いについて「海里」「主権」「資源」「環境」「航行」の語句を使って答える問題です。基礎的な知識ではありますが、いざ答案にするとなると難しいですね。東大地理では大陸棚や排他的経済水域に関する出題も多いのでこれを機にしっかりと確認しておきましょう。
領海の定義を簡単に述べると、基線(低潮線)という干潮時の海岸線から12海里の範囲で、国家の主権が及ぶ海域となります。
排他的経済水域は領海の外側で、海岸の基線から 200 海里の距離内に設定されている水域です。ここでは資源の探査・開発・保存・管理をする権利を沿岸国に認めています。また、航行・上空飛行・国際コミュニケーションの面では公海と同じように全ての国に開放されています。(あくまで領海内が沿岸国の範囲であり、排他的経済水域は沿岸国の国内ではありません。経済的な活動については沿岸国に排他的な権利がありますが、それ以外の活動についてはただの海と同じです。)

これらの基本的な内容だけで、「海里、主権、資源、航行」は使用できますね。
残る「環境」については環境保全に使えば良いでしょう。国連海洋法でも海洋環境の保護及び保全に関する管轄権を沿岸国が有することを述べています。
以上のことを領海と排他的経済水域に分けてまとめましょう。排他的経済水域の方が少し文量は多くなると思います。
この解説及び答案への指摘は外務省HPのこちらのページを参考にしています。

【塾長加筆】主権という言葉について

主権という言葉自体の定義を理解するのは高校生レベルを超えています。「主権」という単語が飛び交う世界史を選択している受験生でも、その実態はほとんど理解していないと思います。そこで、少し解説をします。

「主権」というのは、世界史で習う、近世の「主権国家体制」がルーツです。
現在の国際法においては、世界中に存在する国家というのは、(少なくとも建前上は)主権国家とされます。主権とは、他国から一切に干渉を受けずに(つまり排他的に)統治する権利です。
他国の命令や干渉を受けなくてもよいということは、主権国家が最上位の存在だということです。例えば、私たち国民は、政府という上位の存在を認めているため、憲法や法律に従う義務が発生します。しかし、主権国家には、主権国家より上位の存在がありません。アニメや漫画に出てくる「世界政府」のような存在があれば、国家が命令を聞く義務があるかもしれませんが、現実には「世界政府」は存在しません。だから、他国の意見や命令を聞く義務はないのです。

ちなみに、「国連」のことを「世界政府」だと勘違いしている人がいますが、全く違います。国連というのは、あくまで国家同士が議論をする場に過ぎず、主権国家にいうことを聞かせる能力はありません。(例えば、国際司法裁判所の判決でも、従わなくてもよいのです)。世界史選択の人ならば、国連は「常設のウィーン会議」くらいにイメージしておくとわかりやすいでしょう。

さて、この「主権=排他的に統治する権利」を認められているのが領海内です。排他的経済水域は、あくまで「ただの海=公海」であり、沿岸国の内部とはみなされません。あくまで経済活動だけ、特権が与えられていると考えてください。だから、排他的経済水域の海上を他国の飛行機が通過しても、公海を通過したのと同じなので問題ないのです。

また、領海だろうが、排他的経済水域だろうが、環境保全の「義務」は発生しません。主権国家に義務を課せる存在がないからです。そのため、答案に「環境保護の義務がある」などと書くのはやめておきましょう。
では、沿岸国には何が認められているかというと、「管轄権」だそうです。環境を破壊する可能性がある船の往来などについて、「お前の船は通ってよい」「お前の船は活動してはダメ」などの許認可を与える権利のことだそうです。許認可を与えることにより、間接的に環境を保全できるということですね。(管轄権については詳しくないので、間違っている可能性もあります。雰囲気で読んでください。)

以上を踏まえ、私も答案例を作成してみました。良かったら参考にしてください。

領海は海岸線から12海里以内の主権が及ぶ範囲、排他的経済水域は海岸線から200海里以内で、漁業や海底資源の採掘等の経済活動を排他的に行う権利や、環境保全や他国船の航行の管轄権が及ぶ範囲。

設問(4)

サービス問題でしたね。中学受験で散々やったような問題だと感じた人も多いでしょう。

日本の領土の端っこの島は
最北端→択捉島
最東端→南鳥島
最南端→沖ノ鳥島
最西端→与那国島
です。
よってaは南鳥島、bは沖ノ鳥島となります。最「東」端なのに、「南」鳥島です。紛らわしいですがしっかり覚えましょう。

設問(5)

小笠原諸島と南西諸島は同程度の緯度に位置するのに、前者より後者の年降水量が約700mmも多い理由について答える問題です。
両者の位置は地図で確認しましょう。フィリピン海プレートの北西に位置しているのが南西諸島で、北東に位置しているのが小笠原諸島です。

南西諸島では夏季の南東モンスーンや梅雨前線、台風などの影響を受けて降水量が多くなりますが、小笠原諸島は太平洋高気圧に覆われているため、下降気流が発生し雨が降りづらい気候です。
南西諸島が多雨の理由と、小笠原諸島が少雨となる理由をそれぞれ述べる方針が書きやすいと思いますが、小笠原諸島を中心に書いても問いには答えられます。答案比較でも紹介するので是非参考にしてみてくださいね。

答案比較

設問(1)

Aさん
北西に移動するプレート上のホットスポットで火山島が形成され、移動しながら侵食・沈降作用を受けてサンゴ礁島が発達するから。

Bさん
北西に移動するプレート上にあり、ホットスポットのある南東部に近いほど火山島となり離れた北西部は沈水しサンゴ礁島になる。

両者とも要素は掴めていますが、Aさんは「プレート上のホットスポット」と表現しています。
先程も述べた通りホットスポットはプレートとは関係なく存在するため、位置関係を明示しない方が良いでしょう。「移動しながら」の部分はプレートが移動することを先に述べているのでかっとして字数を節約しましょう。
「侵食・沈降作用を受けてサンゴ礁島が発達する」と書いてしまうと、「侵食作用によってサンゴ礁島ができる」という因果関係が緩く発生してしまいます。しかし、浸食作用とサンゴ礁島の発達は因果関係が薄いので、表現を変えた方がよいでしょう。同様に、「沈降作用を受けてサンゴ礁島が発達する」という部分も、沈降がサンゴ礁島が発達する要因というわけではありません。
これを解消するためには、例えば「侵食や沈降をしながらサンゴ礁島が発達する」と書くのはいかがでしょうか。
このように、受験生が勝手に因果関係を持たせて答案を書いてしまうのはアルアルなので、注意してください。

Bさんは火山島とサンゴ礁島の位置関係も含めて要素を十分に書けている良い答案ですが、強いて言うと前半は「北西に移動するプレート上にあるため」と、助詞を変えた方が良いと思います。

設問(2)

Aさん
面積が狭く資源にも恵まれないことに加えて土壌は農業に不向きで交通の便が悪く、そのため多くの産業において発達しにくいから。

Bさん
面積が小さく、他の地域との交通の便が悪いため産業が発達しづらいから。

Aさんは要素をたくさん書けていますが、後半に「そのため」とつなげると交通の便が悪いから産業が発達しにくいようにも読めます。先ほどと同様、明確な因果関係を強引に指摘するのは止めましょう。
「多くの産業において発達しにくい」という表現は何が発達しにくいのか分かりにくいので、文末を「発達が困難だから。」とするか、「多くの産業が発達しにくいから。」と書くと主語がわかりやすくなります。

Bさんは要素が少なく、他の答案と比べると見劣りしてしまいます。また、Bさんも「交通の便が悪いため」産業が発達しづらいと書いていますが、Aさんと同様に因果関係を明示するより並列で表現しましょう。

設問(3)

Aさん
どちらも資源利用や環境保全などにおいて沿岸国の主権が認められ、排他的経済水域は海岸から200海里で他国の船舶も自由に航行でき、領海は海岸から12海里で他国の船舶の航行を制限出来る。

Bさん
海岸から200海里までの範囲を排他的経済水域と呼び、沿岸国には資源開発と環境保護の義務が存在し、全ての国が自由に航海できる。又、12海里以内を領海と呼び、沿岸国のみが主権を持てる。

Aさんは前半で領海と排他的経済水域をまとめて書いていますが、問いは違いを答えるように求めているので問いからは少しズレてしまっています。またどちらとも主権が認められると書いていますが、排他的経済水域では経済活動に関する権利が認められているだけで主権が認められているわけではありません。(設問(3)の解説にある「塾長加筆」をご覧ください)

話は逸れましたが、排他的経済水域では主権は認められないので領海とは別々に述べた方が良さそうです。また領海の説明は他国の船舶の航行について絞って述べるよりも、主権を中心に述べましょう。排他的経済水域の説明部分で航行について述べた方が字数が節約できて構成もスッキリするでしょう。

設問(5)

Aさん
小笠原諸島の周辺には小笠原高気圧が発達していて、前線は当該諸島以北に発生するが、南西諸島は前線の影響を受けるため。

Bさん
小笠原諸島の上空には太平洋高気圧が卓越しているので、南西諸島とは異なり、熱帯低気圧や梅雨前線の影響を受けないから。

Aさんは小笠原諸島と南西諸島を対比して、小笠原高気圧と梅雨前線について言及できていますが、要素が少ないので他の答案よりは見劣りするでしょう。また「前線」だけでは不十分なので「梅雨前線」としっかり書いた方が良いです。他にも台風や南西季節風などの影響も書けると良かったでしょう。

Bさんは小笠原諸島を中心にして書いている答案です。論理展開も簡潔で良い答案なのですが、文末で「影響を受けない」と断言せずに「影響を受けにくい」ぐらいにぼかして表現した方が良かったでしょう。

設問B

設問(1)

世界の島々のうち3~5番目に大きな面積を持つ3島には北極線、赤道、北回帰線、南回帰線のいずれかが通っていて、それぞれにどれが通っているのか答える問題です。

島の形や面積が上位の島を覚えていたら即答できたかもしれません。aのカリマンタン島やbのマダガスカル島はメジャーなのでaを赤道、bを南回帰線が通ることはすぐ分かった受験生も多かったと思いますが、cのバフィン島は多くの受験生は答えられなかったでしょう。しかし、明らかに海岸線にフィヨルドが発達していることから高緯度に位置していると推論して北極線を選ぶことは可能ですので、しっかりとって欲しい問題でした。

特に、カリマンタン島は地理学習者にとって非常に面白い島です。地形、気候、産業など特徴的ですので、必ず機会を設けてしっかり勉強しておくことをお勧めします。

また、赤道や回帰線、緯線経線の通る地名や国名は覚えておくと便利なのでぜひ確認してみてください。

北回帰線は、台湾を南北に分断し、インダス川やガンジス川の河口を通り、サハラ砂漠を横切って、キューバ島の北端をかすめます。台湾では、北回帰線の南側が熱帯で、北側が亜熱帯になっていることも有名ですね。

南回帰線は、マダガスカル島の南端をちょっとだけ残して切断し、ブラジルのサンパウロを通り、オーストラリアの真ん中よりやや北側を通過します。

設問(2)

cのバッフィン島の海岸線の特徴とその特徴が生じた理由について答える問題です。
今回はフィヨルドに関する典型問題だと思ってよさそうですが、1行に収めるのは難しいので端的に書くように心がけましょう。フィヨルドは氷食谷が沈水して形成された地形で、深い入り江が連続して海岸線は複雑なものになります。教科書も確認しておいてください。

設問(3)

カリマンタン島(a島)とマダガスカル島(b島)の自然資源の利用に基づく産業が基幹産業となっており、自然環境の違いもふまえてその産業の特徴を比較しながら答える問題です。
カリマンタン島やマダガスカル島についての知識を問う問題で、これも典型問題ですし、知識の問題です。そもそも(1)で島を特定できなかった場合(3)も総崩れとなる出題形式でしたので怖い設問でした。問題文も自然資源の利用に基づく産業は幅が広くて答えにくいですし、自然環境の違いもどれを答えればいいか迷いますので総じて難しかったですね。

まずはa島から説明すると、赤道直下の熱帯雨林気候を利用して天然ゴムや油やしといったプランテーション作物が栽培されています。鉱産資源でいえば、原油と天然ガスが豊富に産出されます。
b島では(1)で答えたように国土の南部に南回帰線が通り、南東貿易風が吹いています。東部には山脈が存在しているため、東部は多雨となり、稲作が盛んです。また香辛料栽培やレアメタルの採掘も行われています。
そもそも知識が不足しがちなところですので両島の特徴をそれぞれ論理的にまとめれば十分に点数はもらえるでしょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
氷食谷が沈水してできた入り江が連続している。

Bさん
氷食によってフィヨルドが発達し、入り組んだ地形になっている。

だいたい同じような答案が多かったですが、Aさんのように簡潔にまとまっている答案の方が良いと思います。しかし、「深い谷」や「複雑な海岸線」など地形の特徴についても加筆できるでしょう。

Bさんはフィヨルドの発達要因として氷食とだけ書いていますが、氷食谷が沈水してフィヨルドは形成されるので沈水したことまで詳しく書きましょう。また、地形の特徴も不十分です。

設問(3)

Aさん
a島は熱帯雨林気候のもと天然ゴムや油やしの栽培が盛んで、新期造山帯のため石油が採掘される。b島も熱帯雨林気候より雨の多い東部で稲作が行われ、安定陸塊なのでレアメタルが採掘される。

Bさん
a島ではラワンなど特産の木材や、金や銀などの鉱物の産出による第二次産業が中心となっている。b島では湿潤な気候を活かした、アフリカでは珍しい稲作や、レアメタルの輸出などを行っている。

どちらも要素をたくさん書けているのですが、Aさんは「新期造山帯に位置するから石油が採掘」され、「安定陸塊に位置するからレアメタルが採掘される」と述べています。新期造山帯の石油や、安定陸塊のレアメタルは、あくまで産出されやすい「傾向」に過ぎません。必ず産出されるというわけではないので、因果関係は示さない方がよいでしょう。

Bさんはラワンなどの細かい知識を答えられて良いと思います。細かく見ればb島の稲作に関する記述は東部で行われていることを示せたらより良い答案になったと思います。

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