2020年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

日本列島の地形と自然資源利用に関する出題で、例年通りの自然環境関連のテーマに少し安心した受験生も多かったことでしょう。
筆者の所感としては、普通のテーマであることに反して問題の難易度としてはやや難しく思われましたが、東大の地理らしく合理的な推論で解ける問題もあります。
また、知識を重視している問題もありますが、「地理は暗記ではない」と指導されることが多いからか、知識を疎かにする東大受験生が多いです。日本史や世界史ほど暗記をする必要はないと思いますが、暗記すべきことはキチっと暗記するべきです。
今のうちに教科書や地図帳などで日本の地形について、知識の拡充に努めましょう!
それでは、1Aについて見ていきます。

ア~ウとX~Zの特定

まずはア〜ウと①~③を対応させていきます。資料読み取りでは、初めに異常値を探しましょう。例えば、ほぼ0%やほぼ100%の統計値などは、ヒントになることが多いです。すると、

  • アの中央部に海抜高度0mの地点
  • イの際立って急峻な中央部
  • ウの広大な平野

が目に入りますね。ここに注目すると

  • アの中央部に海抜高度0mの地点 → 真ん中に瀬戸内海が位置する③
  • イの際立って急峻な中央部 → 中央に奥羽山脈がある②
  • ウの広大な平野 → 西部に石狩平野、東部に十勝平野が広がる①

が当てはまると考えられます。

ちなみに、2006年の東大過去問などから、中国山地と四国山地を比べると四国山地の方が急峻だという事実を知っていると、さらにヒントとなったことでしょう。

(1)の解説

(1)ではX山地とY山地の地形的特徴の違いとその違いが生じた理由について考えさせようとしています。
上述した通り、中国山地と四国山地を比べると、四国山地の方が急峻です。この理由を答えればよいですね。指定語句に内的営力と外的営力が放り込まれていますので、この2つの観点から考えていくのが良いでしょう。

まず、これらの語句の定義をみてみます。
内的営力は「地球内部にエネルギー源をもつ火山活動や地殻変動などの地形を変える力」のことを指し、だいたい凹凸を作るような力のイメージです。
一方、外的営力とは「地球の表面上で作用し、地表の物質を風化・侵食・運搬・堆積して地形を変える力」のことを指し、具体的には風・流水・氷河・波などが挙げられます。これも細かい所は多少異なりますが、だいたい地形をなだらかにする力としてイメージしてください。

アを見てみると、X山地は標高は低いですが幅が広いことと、Y山地は幅は狭いですが標高が高く起伏の大きい地形となっていることがすぐに分かると思います。
解答の構成としては、設問文に「Y山地でそのような特徴が生じた理由」とあるので、X山地について軽く触れつつ、Y山地の特徴とその形成要因を中心に、内的営力(火山活動、地殻変動など)と外的営力(降雨など)に基づいて書けばスッキリと問われている要素を入れられるのではないでしょうか。

再現答案などで、「外的営力によって急峻になる」という答案と「外的営力によってなだらかになる」という答案の両方が見られましたが、上述した通り、基本的に外的営力は地形をなだらかにする力ですので、前者は減点対象となる可能性があります。注意してくださいね。(河川が谷底を流れることで侵食し、谷がより深くなる場合は凹凸が生まれますが例外的で、外的営力はなだらかにする力であることがほとんどです)

(2)の解説

次に、(2)ではZ山脈、すなわち奥羽山脈が周りの山地よりも高く隆起している理由についての問題です。正直、プレートの動きや理屈についての地学的知識がないと解答は難しいように筆者は感じました。
奥羽山脈は火山フロントに位置し、活発な火山活動に加えて、プレートの狭まる境界の褶曲作用などで高く険しい山地になっている、というようなことを、問われている要素を漏らすことなく答えましょう。

火山フロントの解説は、気象庁のこのページのイラストが見やすくて良いと思います。

(3)の解説

(3)で問われているaは宍道湖、bは八郎潟です。
20世紀半ばの日本といえば戦後に人口増加が起こり続け、食糧不足に陥ったことはとても有名ですね。その問題解決のために八郎潟が干拓され、大規模な水田地帯に変わったことを知っていれば解きやすい問題だったかと思われます。
中学受験の経験者なんかには、よく知られている知識かもしれません。
ただし、知識が不足していたとしても、問われている時代や、海岸近くでの大規模地形改変事業の文言などから、戦後の状況や、干拓とその意味を推論して上手く答えて欲しい問題です。

(4)の解説

つづく(4)も知識さえあれば簡単に解ける問題でした。解答の骨格としては、各地域の地形名とそれぞれの農業形態を対比して読みやすい答案を意識しましょう!
それでは、西部の石狩平野と東部の十勝平野について詳しくみていきます。

石狩平野

泥炭層(寒冷な気候のため植物の分解腐食が進まずに土が炭化植物の状態のもの)が堆積し、水田農耕に適していませんでしたが、山間地域から腐食土を運び客土を行う土地改良や、耐寒品種の開発、用水路建設、治水事業など、様々な努力の末に日本有数の稲作地域へと変貌しました。

十勝平野

平野とは言うものの、ある程度高原状であり、水はけの良さを利用して畑作や酪農が発達しています。また、この地域は、西部の火山地帯(火山フロント付近)の火山灰が降り積もり、水はけの良い火山灰土壌にもなっています。

「石狩平野は稲作、十勝平野は畑作」と暗記するように求められるかもしれませんが、この瞬間が差がつくポイントです。一歩踏み込んで(なんでだろう)と疑問を持ち、調べて見て下さい。すると、上述のような地理的な背景が存在しています。
東大地理の高得点者は口々に「あらゆる現象を系統地理と結びつけるのが重要」と言いますが、皆さんは出来ていますでしょうか?ハッとした方は、今すぐ手元に、最新の教科書や地図帳、資料集を用意して、逐一調べながら勉強しましょう!時にはネットで調べることも有効です。

(5)の解説

最後に、(5)は自信を持って回答できた受験生は少なかったのではないでしょうか。n=1と回答するのは勇気が必要だったと思いますが皆さんは正答できましたか。本問では、地図をヒントに水平方向の距離を推定することがポイントでした。

縦軸(高度方向)

まず、高度方向(縦軸)を考察します。これは簡単で、1kmが約1.5cmに対応するよう印刷されていることを確認すればOKです。アでは縦軸が2000mまで書かれていますから、2kmが3cmに相当していると判断しても良いでしょう。

ちなみに、ちょっと理系っぽい話になりますが、本問は有効数字が1桁で、しかも有効部分は1,2,5の中から3択で当てれば良いという、かなり大雑把な計算の問題です。そのため、多少測定がズレていたとしても当たってしまいます。具体的には、縦軸が1.5cmというのも、1.6cmとか1.7cmだと見積もったとして問題ない程度の正確さで良いです。

横軸(水平方向)

次に、水平方向(横軸)です。難しいのは、図1ー2に引かれている①~③の線が、現実には何kmの距離に相当するかということです。日常生活などで、大体の距離が分かっている人は計算する必要がないのかもしれませんが、分からなければ緯度や経度の知識から計算することになります。

図1-2を見ると、①はほぼ真横、②は①ほどではないけど、真横。③は縦方向です。つまり、①や②は経度差を利用して計算しますが、③は緯度差を利用することになります。

実はここで一番わかりやすいのは、②です。
手元の地図帳で確認して見てほしいのですが、実は秋田の最西端(男鹿半島)はピッタリ東経140度で、岩手の最東端はピッタリ東経142度です。

そして、秋田は北緯40度の位置にあるというのも有名です

では、経度1度はどのくらいの長さかというと、大雑把に100kmくらいです。(知っておくとやや便利ですよ)よって、②の線は200kmくらいの距離だと分かります。本当は100kmより少し短いですし、②の線は少し斜めに傾いていますから、厳密な計算をすると当然ながら200kmにはなりませんが、大雑把な計算で良い問題なので強引にこのまま進めます。(細かいことは後述)

次に、その約200kmが、イの図で何cmで表現されているかというと、印刷された横軸全体の幅は約7.5cmほどでしょうから、それより少し短く6.5cmくらいでしょう。これで必要な長さは全て判明しました。
なお、縦が1.5cm、横が7.5cmと正確に計算できなくても、比だけわかればよいです。(縦軸の1km分の長さを6倍したら、横軸の長さになるな、と分かれば良いということですね。)

計算しよう

では、計算します。
水平方向(横軸)では、約200kmが6.5cmで表現されていました。この縮尺の割合でいうと、1.5cmは何kmに相当するかを求めます。求めたい数をXとして、

200km : 6.5cm = Xkm : 1.5cm
X=46.1…km

と計算されます。つまり、もし縦と横が同縮尺だったら、縦軸の1.5cmは46kmの高度を表しているということです。

しかし、印刷されたイの図では、1.5cmのところで1kmの目盛りになっています。これは、縦方向に46倍に引き延ばしているからだということです。

よって、46を四捨五入し、解答欄に合うように変形すると、5×10^1ということになります。

この解説では、イの図と、②の線を利用しましたが、他の図を使えば別解答が作れます。先生や同級生とどう計算すればいいか話し合ってみるのも面白いかもしれませんね。

オマケ:北緯40度について

問題集や参考書などで、よく北緯40度が話題に出されていますので、簡単にまとめて見ます!

重要なのは、北緯40度付近に有名な都市や、有名な地形が並んでいることです。挙げてみましょう。

朝鮮半島の根っこあたり、北京、カスピ海の南から3分の1(バクー)辺り、黒海とエーゲ海の境界(ボスポラス海峡やダーダネルス海峡あたい)、イタリアの「土踏まず」のところ、サルデーニャ島、スペインのマドリード、ポルトガルの真ん中、ニューヨークなどなど

このくらい把握しておけば十分だと思います。

また「秋田は寒いけど、ヨーロッパは温かいのはなぜ」など、気候の違いに関する理解も重要です。系統地理を結び付けながら理解して頭に入れておきましょう。

経度1度は何km?

先ほどは、経度1度は100kmだと書きましたが、もちろん不正確です。
地球は球体ですから、緯度が高くなるにつれて経線の幅は狭まります。つまり経度1度の距離は、赤道で最大で、極で最小(というか0)になります。

では、具体的にどれくらいなのかというと、赤道で約111kmで、北緯40度では約85kmです。日本の真ん中付近にある東京は北緯36度ですが、北緯36度では約90kmです。地図を専門に扱う場合には、このくらいの細かい数字が必要でしょうが、大雑把に距離感を知る程度であれば、「経度1度で100km」で良いのではないでしょうか。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。
自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(1)

Aさんの答案
X山地は外的営力により侵食が進んでなだらかだが、Y山地は造山運動などの内的営力を受けて高峻である。

Bさんの答案
外的営力による風化で低平なX山地に対して、内的営力による隆起と外的営力による侵食が激しいY山地は標高が高く起伏に富む。

いかがでしたでしょうか。
AさんもBさんも読みやすい解答にはなっていますが、Aさんに関してはY山地について厚く書けるとbetterだったでしょう。また、これではX山地が内的営力の影響を受けていないような記述になってしまっています。

Bさんは、外的営力によって急峻になったように書かれていますが、先程申し上げたように外的営力は基本的になだらかにする力ですので、減点される可能性があります。
強いて使うとするのならば、外的営力によって谷底が削られたことなどに言及すれば回避出来るでしょうが、やはり微妙なところではあるので使用は避けた方が良かったかもしれません。

設問(2)

Aさん
火山フロントに位置し、火山活動が活発であるため標高が高い。

Bさん
褶曲山地で、火山活動も活発なので、標高が高い。

火山フロントや褶曲山地などの知識が不足する受験生が多いなかで、両者とも良く書けています。欲を言えばどちらの要素も入れたいところですね。

設問(3)

Aさん
戦後の人口増加による食糧不足を解決するため、干拓を行った。

Bさん
急激な人口増に伴い米などの穀物を自給する必要性が出たから。

両者とも要素はしっかり捉えられていますね。比較するとAさんの方が良いと思います。

Bさんの答案では戦後という指摘があるとより丁寧だったと思います。また、干拓について書かれていません。ここは意見が分かれるところでしょうが、社会的背景を問われている問題なので「干拓」というワードを答案に書かなくても減点されないのではないでしょうか。

さらにBさんの答案では、文末が「~から。」となっているのも気になるかもしれません。
あくまで背景を問われている問題であって、理由を問われているわけではありませんから、「~から。」とする必要はないでしょう。減点するほどのミスかと言われると、分かりません。当日の受験生の出来具合によるのかもしれません。

設問(4)

Aさん
cは水利の良い沖積平野で、稲作が行われている。また、dは台地が卓越し、水が得にくいため、稲作や酪農が行われている。

Bさん
cは沖積平野が広がり稲作が行われ、dは火山灰が堆積した台地が広がり畑作や酪農が行われる。

ここはよく書けている答案が多い印象でした。
また、両者の答案もcとdの対比の構造を上手く作れていて良い答案だと思います。Aさんの水利やBさんの火山灰の言及はより詳細で良かったですね。

設問B

設問Bでは5つの県における「総面積と可住地面積1kmあたりの人口密度」が提示され、各県の特徴や相違について問われました。
例年とは異なり、第3問ではなく第1問で日本地理が出題されたので、受験生は戸惑ったかもしれませんが、そういう傾向の変化に戸惑わずに解けるように力を磨いていきましょう。

本問のように見慣れないデータを使って様々な切り口で思考させる問題は東大地理で多数出題されます。
普段から色々な統計データに触れたり、ニュースを地理的に考察してみるなど、日常の全ての時間を勉強に繋げられるように意識してみると、飛躍的に成績も伸びるのではないでしょうか。

また、見慣れない問題が出てきた時ほど、設問文やリード文に「宝」が埋まっていると意識しましょう。記載されている情報から出題者の意図を汲み取る力が重要です。どのようなことが問われるのか予想しながら過去問を解いてみると新たな視点が得られるかもしれませんね。過去問を糧に、地理的思考力を鍛えていきましょう!

リード文

まず、リード文から問いについて読解していきましょう。
可住地面積とは「総面積から林野面積と主要湖沼面積(面積1km以上の自然湖)を差し引いた面積」であり、居住地に転用可能な、既に開発された土地を意味します。
提示された表のb/aは、数値が高いほど、該当する県の人口において可住地面積への集中度が高いことを示します。つまり、総面積に対して人の住める可能性のある土地にどれだけ人口が集中しているかが分かるわけですね。

(1)の解説

(1)では和歌山県と高知県に共通する地理的特徴が問われています。日本の地形に関する知識が不足していると解きづらい問題のようにみえますが、合理的な推論をすれば解くことが可能です。

まず与えられた表を見てみると、両県のb/aの値が高いことがわかりますね。よって、両県では多くの人口が可住地に集中し、総面積に対する可住地の割合が少ないことが考察できます。

そもそも日本は可住地面積が狭いです。山の割合が多く、平野部の面積が狭いというのは、よく知られていると思います。
では和歌山と高知に共通する内容を探ってみると、地帯構造において、中央構造線よりも南部の外帯に位置していることが思いつくのではないでしょうか。険峻な紀伊山地や四国山地が県内を通り、海際の小さい平野面積に人口が集中していることがわかりますね。これらの要素を解答に上手く盛り込めれば平均的な答案にはなるのではないでしょうか。
日本の地形の確認も忘れずに行ってくださいね。

(2)の解説

つづいて、(2)です。
この問題は四国に住んでいる受験生にとってはサービス問題だったのではないでしょうか。四国在住でなくても、合理的な推論によって十分解ける問題ではあると思います。

まずは、設問文や表から「宝」を探しましょう。すると、供給と消費の両面から考察せよとヒントが与えられていることに気がつきますね。

それでは、何についての「供給」と「消費」なのでしょうか。
ここで思い出したいのが、設問Aから話題になっている「山」です。例えば、山には鉱物資源がたくさん埋まっています。しかし香川も高知も同じ山を挟んで向こう側とこっち側という位置関係ですから、鉱物資源に大きな違いがあるわけではない。

では、山の両側で何が変わるのだろう?
などと考えていけば、「水」に思い至るのではないでしょうか。

中国山地と四国山地に挟まれている香川県は年中少雨な気候で、四国山地を背に太平洋側に面していて南東季節風が吹く高知県は多雨な気候。つまり降水量が全く違います。

高知県から香川県へ水資源が供給されていることくらいは中学校でも習ったと思いますが、やはりこうして理屈を理解しながら勉強するのが大切です。

供給の面では上述の通り、位置する場所の違いにより降雨量が異なるということを書けば良いでしょう。

つぎに、表を見てみると香川県の方が高知県よりも人口密度が高いですね。このことから、消費の面で考えると、人口に対して水資源が香川県では不足しており、高知県では余っていることが予想できると思います。

また、香川県では工業が発達していることも思い出したいところ。
授業をしていると、時折香川県のことを過小評価している生徒に出会いますが、四国や岡山県辺りに住んでいると、香川県の存在感は大きなものがあります。工業や農業など、各県の特徴をしっかり掴んでおくことは地理の問題を解くうえでとても重要になりますので、ぜひ復習をお願いします。

(3)の解説

最後に、(3)は東大地理らしい問題。正答率も高かったと思いますが、問われている内容をしっかり理解して、分かりやすい解答を心がけましょう。設問文から長野県と茨城県のレタスの出荷時期の違いについて、その要因を地形と経済の観点から考えることが求められていることがわかります。

レタスといえば涼しい気候が生育に適していることは有名ですが、地形的に考えると、長野県は高冷地に位置し茨城県は大市場に近い平野に位置することから、長野県では抑制栽培、茨城県では近郊農業が営まれており、それぞれ夏と春秋の異なる時期に出荷されていることが予想できますね。
レタスの旬の時期や夏が端境期であることを知っていると答えやすかったと思います。

また、経済的要因としては、茨城県は大市場の近郊であることから輸送費を抑えられることを、長野県は端境期に高価格で出荷できることを解答に盛り込みましょう。
以上のことを踏まえて、対比を意識しながら書けると良い答案が作成できたのではないでしょうか。

地理講師より補足

本問で取り上げられている可住地面積割合という視点は、ぜひ頭の中にいれておきましょう。たとえば、和歌山県と聞いた瞬間に、どういうイメージを持ちますか。地理の教員であれば、森林面積割合が大きい県、つまり可住地面積割合が低い県だと反射的に思い起こせます。

可住地面積の割合が小さく、人口が多ければ、住めるところを開拓すべく、土砂災害の危険区域に居住する人も増えてくるはずです。それだけ被災するリスクも増大するはずですね。こうしたテーマは、まさに東京大学が繰り返し、あの手この手と形を変えて出題している「都市と災害」との関係にも直結します。2023年度の第3問A(4)の解説記事も合わせてご参照ください。

2023年東大地理(第3問A)入試問題の解答(答案例)・解説

可住地面積割合などについては、以下の講座でも詳述しておりますので、よろしければご検討ください。

映像授業【東大地理】日本地理 特別編〜四国にみる日本の実情〜

加えて、1B(2)で問われた「水」についても要チェックです。
人が生きるのに欠かせないものといえば、「空気」「水」「食糧」を真っ先に思い浮かべたいものです。「水」は、人の命にとってのみならず、工業にとっても重要な資源だからこそ、水戦争や河川の公害問題が大きく取り上げられます。ダムやため池をつくるのも、水が大切な存在だからです。

2023年度の東大地理2Aで問われた水産資源も広くは「水」に絡む重要論点だと言えます。東大地理では、人々の生活に即した出題を好む傾向にあり、そうした観点からも「水」が繰り返し問われている理由をうかがい知ることができるでしょう。

2005年第1問B、2010年第1問、2013年第2問BC、2017年第2問A、2020年第1問B、2023年第2問Aなど、挙げたらキリがありません。ぜひに、お手持ちの教科書などで周辺知識を固めておきましょう。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(1)

Aさん
西南日本外帯に位置するため高く険しい山地が大きく、河川は小規模で、平野が未発達なため可住地の割合が小さい。

Bさん
山地が海岸線近くまで広がり、季節風や台風により降水量が多いため、浸食作用が大きく、谷は多いが、平野は少ない。

両名とも山地の割合が大きく平野が少ないことについては言及できていますね。
Aさんの答案では外帯に位置することなども答えられていて良かったです。
Bさんの答案では外的営力による浸食作用について書いていますが、1Aでも申し上げた通り、浸食作用が大きいと基本的になだらかになるので、谷が多いこととの因果関係が少しおかしいように感じられます。

設問(2)

Aさん
水。夏に南東季節風の風上となる高知県は多雨で人口は少なく水消費も少ないが、中国山地と四国山地に挟まれる香川県は年中風下で少雨で、人口は多く工業も活発で水消費が多いから。

Bさん
高知が太平洋上の高湿度の空気によって水資源が豊富ながらも、香川は瀬戸内海に面する事で土地柄による乾燥により水資源が足りないので、水資源を取引している。

Aさんの答案は素晴らしいと思います。
対比構造も上手く作れていますし、「南東季節風の風上となる」など少ない言葉に情報をギュッと詰めて要素も多く読みやすい答案になっています。
Bさんの答案では、受験生がよくやりがちなミスが散見されます。
まず「太平洋上の高湿度の空気によって」とありますが、高湿度の空気が南東季節風に乗って山地にぶつかり、雨を降らすことで水資源が豊富となるので、高湿度の空気があるだけでは水資源が豊富になるとは言えず、論理が飛躍してしまいます。

つぎに、「土地柄による乾燥」も気になります。
まず、「土地柄」という言葉が口語的です。さらに、抽象度が高く「土地柄」と言われても何を意味しているのか分かりません。このような言葉は、あまり答案で使わないようにしましょう。「土地柄による乾燥」と書くならば「少雨による乾燥」の方が、字数も短くて良いです。

他にも「こと」「うえ」「なか」などの言葉は漢字で表記するのは意味的に望ましくないので、余程字数がキツキツでないかぎり控えるようにしましょう。
色々と指摘はしましたが、両名とも書くべき要素は捉えられており、学びの多い答案だった思います!

設問(3)

Aさん
長野県では高地での抑制栽培で時期外れに出荷され、東京近郊の茨城県では輸送費用が抑えられ、旬の時期に出荷される。

Bさん
茨城は大消費地東京への近さを利用して輸送費が下がる近郊農業を行い、長野は高原の冷涼気候を活かし抑制栽培で高値で売るため。

典型問題であっただけに両名ともよく書けています。
Aさんの答案では、出荷時期について言及できていますが、「時期外れ」や「旬の時期」とあやふやな言い方をすると出荷時期を知らないように見えてしまいますので、「春」や「夏」など出荷時期を明確に書けると良かったでしょう。また、少し細かいことを言うと、文章の構成としては茨城県から先に書いた方が、長野産のレタスが高値で売れる理由が分かりやすいかもしれません。なぜなら、抑制栽培はあくまで旬の時期を外すことが重要だからです。

なお、「端境期(はざかいき)」という言葉を覚えておくと、論述するときに便利ですよ。こうした地理用語を上手く答案に盛り込めると情報量の多い良い答案になるので、積極的に勉強して、正確に使えるようになると良いと思います。
Bさんの答案は要素を簡潔に表せているので良いのですが、やはり「端境期」などのワードを使うなどして出荷時期を具体的に指摘できていたらより良かったでしょう。

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