2013年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

地域A~Cの特定を先に行っておきましょう。
地域Aはアンデス山脈が走るペルー南部
地域Bはアトラス山脈が走るアルジェリア北部~チュニジア北部
地域Cは西ガーツ山脈が走るインド南西部
となります。

経緯度だけで場所を特定できない人は、地図帳を開いて世界地図のあらゆる場所の経緯度を覚えておきましょう。
具体的に見るべきポイントは、
・赤道がどこを通るのか
・北回帰線、南回帰線、日付変更線など
・大陸の南北端や東西端
・有名都市
・湖や河川の場所
などでしょうか。

また、日ごろ勉強する時には必ず地図を開き、場所や経緯度を確認するクセをつけておくと良いでしょう。

設問(1)

ペルー南部(地域A)とアルジェリア北部~チュニジア北部(地域B)で海岸側と内陸側のどちらに砂漠地域が存在し、それぞれどのような要因で成立するのかを答える問題です。

地域Aは海岸側に砂漠気候が広がっています。近くにはアタカマ砂漠があるのでそこから答えられた人もいるでしょう。
西の沖合いには寒流のペルー海流が流れるため、寒流上の冷たい空気が大陸の暖かい空気の下に潜り込みます。暖かい空気は軽く冷たい空気は重いため、大気が移動せずに滞留しやすく(大気が安定)、降水が見られなくなります。この現象を気温の逆転現象といいます。

地域Bは内陸側に砂漠気候が広がっています。この地域は北回帰線が通り、年間を通して中緯度(亜熱帯)高圧帯が分布します。高気圧が分布する場所では下降気流が卓越して降水量が少なくなることは有名ですね。降水量の少ないことや、比較的高温で蒸発量が多いことも砂漠気候の成立に一役買っているでしょう。

また、海岸側が砂漠気候ではなく地中海性気候が分布していることにも注目しましょう。
これは偏西風の影響で西岸の温暖・湿潤な空気が運ばれてくるため、降水が見られるようになるからですが、内陸側はアトラス山脈に阻まれて湿潤な空気ではなく乾燥した空気が吹き込むため、ますます乾燥気候が卓越するわけです。この現象をフェーン現象といいますが、この原理についても教科書でしっかり復習しておいてください。

以上のことをそれぞれまとめれば十分得点できますが、成立要因を詳しく書こうとすると字数が全く足りないので、簡潔にまとめるよう意識しましょう。

設問(2)

アンデス山脈の農作物や家畜を答える問題です。基本の知識なのでしっかり答えたいところでした。

ペルーなど多くのアンデス諸国では、標高によって気温が変化していくため、高度によって栽培作物が異なります。またアンデス山脈は高度で環境区分の名称も異なり、
ユンガ帯(0~2300m)
ケチュア帯(2300~3500m)
スニ帯(3500~4000m)
ブナ帯(4000~4800m)
氷雪地帯(4800m~)
に分けられます。

このなかで2000m以上の山岳地帯で生産される農作物と家畜ですから、ケチュア帯以上の地帯の土地利用を考えればいいでしょう。

ちなみにユンガ帯ではとくにサトウキビやバナナなどのプランテーションが発達しています。
ケチュア帯ではとうもろこしや小麦、スニ帯ではじゃがいもや大麦が主に栽培され、農作物の栽培が難しいブナ帯からはリャマやアルパカなどが飼育されています。
以上のものからひとつずつ選べば良いです。

設問(3)

インド南西部の雨季がどの時期に該当し、またその要因は何かを答える問題です。これも典型問題ですが受験生が間違いやすいところでもあるのでしっかり復習しておきましょう。

インド南西部では5~10月に降雨が集中します。これは夏季の南西季節風がインド洋からインド大陸へ湿った空気を運び、西ガーツ山脈にその空気が当たって上昇し、地形性降雨をもたらすことで発生します。逆に、11~4月は北東季節風が大陸からインド洋に乾燥した空気を運ぶため、インド南西部は乾季になります。

季節風が夏にはインド洋からインド大陸に向かって吹くことや、湿った空気が山脈に当たって上昇すると雨が降ることのメカニズムを教科書や資料集でしっかりと理解しておくと良いでしょう。

設問(4)

インド南西部の海岸地帯で生産され主食となっている農作物と山麓の丘陵地帯で生産される商品作物を答える問題です。

アはインドの主食という文言からすぐに米と答えても良いでしょうが、北緯10度という低緯度で標高も低い場所なので熱帯性植物ということは明らかですし、(3)で多雨地域であることは分かっているので高温多湿な地域での栽培が有利な米であると確実に答えられそうです。

イはこちらもインドの代表的な商品作物という文言から茶と答えられます。
この地域で栽培されている茶葉はニルギリといい、インドでは他にダージリンやアッサムなどのよく耳にするような茶葉が栽培されています。
茶の栽培は年間平均気温が14~16℃以上で、冬季の最低気温がマイナス5~6℃におさまり、年降水量が1500mm以上、排水性の良い弱酸性土壌が分布する丘陵地帯などが適する土地となるようなので、こうした観点からも茶が代表的な商品作物として考えられそうです。

答案比較

設問(1)

Aさん
地域Aでは海岸側が沖合の寒流の影響で大気が安定し、降水量が少なく、地域Bでは内陸側が年中亜熱帯高気圧に覆われて降水量が少なく、高温で蒸発量も多いため砂漠気候になっている。

Bさん
地域Aでは沖合に寒流が流れることで大気が冷やされ、高気圧になり、海岸側が砂漠気候となる。地域Bでは、一年中亜熱帯高気圧に覆われ、高温であるため、内陸側が砂漠になっている。

Aさんは要素はしっかり書けているのですが、最後に砂漠気候でまとめるなら、降水量が少ないこともまとめて書きたいところです。
また、Aさんの構成だと「高温で蒸発量も多いため」の部分が地域Aにもかかってるようにも読めるので、先に「高温で蒸発量も多いうえに」などと繋げたらより読みやすかったでしょう。

Bさんは地域Aの記述で「大気が冷やされ、高気圧になり、海岸側が砂漠気候となる。」と書いています。大気が冷やされた結果として高気圧が分布しやすいのは事実ですが、高気圧になると砂漠気候になるという論理は飛躍しています。
また、解説でも述べたようにペルー南部で降水量が少なくなるのは大気の逆転現象が起こっているからであって高気圧が分布するからではありません。簡潔にまとめるのは大事ですが、論理の飛躍や事実誤認がないように気をつけましょう。

地域Bの記述の「一年中亜熱帯高気圧に覆われるから砂漠気候が分布する」という論理は、まだ通っているように感じますが、やはり降水量が少なくなることは書いた方が分かりやすいです。他にも、高温であるから砂漠気候が分布するというのは間違いなので、高温で蒸発量が多いことをしっかり述べ、降水量が少ないことをメインに答える方が分かりやすいでしょう。

設問(2)

Aさん
モンスーンの影響を受けるため、5~10月に降雨が集中する。

Bさん
夏季の湿潤な南西季節風の影響で5~10月に降雨が集中する。

季節風の影響と5~10月に降雨が集中することを書けていれば十分得点できるでしょうから、Aさんのように簡潔に述べても良いのですが、
Bさんのように「夏季」「湿潤」「南西」などのワードで様々な要素を詰め込んだ方がより情報量が多く加点要素の多い答案になるので、端的に多い情報をまとめる練習もしておきましょう。

設問B

適地適作によって生じるであろう問題点を2つ挙げて説明する問題です。
TPP(自由貿易協定)による関税撤廃が話題になっていたことを受けての出題かもしれないと考えてしまうのは余計でしょうか。

国際取引での長所を挙げられているので、生産国と消費国、または輸出国と輸入国の両方の視点からデメリットを考えると分かりやすいです。
生産国がその土地に適した特定の農産物の単一耕作を進めると、地力が消費され続けてその土地の生産効率は下がっていくでしょう。また、大規模生産を進めると灌漑農業や牧畜などが過剰に行われて、塩害・砂漠化・土壌侵食など様々な環境問題が起こる可能性があります。

対して消費国は輸入品が国内の農作物と競合して国内の農家が苦境に立たされるでしょう。いずれ安価な輸入品への依存が進むと、国の土地に適した農産物以外の食料自給率が低下し、国際情勢や気候変動などの様々なものの影響を受けて農産物の供給量や価格が不安定になります。何かのきっかけで生産国から農産物が輸入できなくなれば自国の食料安全保障は脅かされることになります。
以上の問題点を2つであることを明確にして簡潔にまとめましょう。

答案比較

Aさん
生産国では経済のモノカルチャー化が進行し、災害や国際取引額の変動による影響を受けやすくなる。又、単一の部品を生産する設備を作る際に、環境への負荷がかかり易くなることがある。

Bさん
輸入国では食料自給率が低下するため、気候変動などの影響を受けやすくなり農産物の供給・価格が不安定になる。生産国では農業の大規模化などの変化に伴って、土壌侵食などの環境問題が生じる。

Aさんは生産国の問題点として経済のモノカルチャー化が進んで色々な影響を受けやすくなるということを挙げていますが、適地適作が進むからといって工業製品など他の産業までも影響を受けるわけではないので経済(全体)がモノカルチャー化するというイメージを持たせるのは良くありません。

後半の「部品の製造」というのは工業製品に関する記述を読み手にイメージさせますが、今回の問いは農業がテーマなのでズレてしまいます。
「環境への負荷」という表現も曖昧なので、「温室効果ガスが発生して地球温暖化が進む」などともう少し具体化して書いた方がより良かったです。

Bさんは要素は上手くまとめられていて良い答案ですが、正確には輸入国の食料自給率が下がるというよりは輸入に頼る特定の農産物における食料自給率が下がるという方が正しいので、字数に余裕があればより具体化してほしいところでした。

設問C

設問(1)

漁獲量と養殖業生産量の統計が示されている表2のア~ウにアメリカ合衆国、インドネシア、ペルーのいずれが該当するかを答える問題です。

アは1970年や2000年には1000万トンを超えるほどの漁獲量があるのに他の年には急減していて、年によって漁獲量が大きく変動しているため、エルニーニョ現象によって毎年漁獲量が安定しないペルーが該当します。養殖業があまり盛んではないのも特徴的でしょう。

イは漁獲量が増加傾向にあり、養殖業生産量が中国に次いで多いため、水産資源が豊富で海藻類や輸出用エビの養殖が盛んに行われているインドネシアが該当します。

残るウは漁獲量も養殖業生産量もどちらも比較的少ないアメリカ合衆国が該当します。肉食中心の食文化などが影響して人口の割には水産業はあまり盛んではありません。

それぞれの国で特徴があるのですぐに正答して欲しい問題でした。

設問(2)

インドネシアの養殖生産量がアメリカ合衆国と比べて多くなっている理由について自然的条件と社会的条件の両面から答える問題です。
インドネシアでエビなどの養殖業が盛んになっていることは地理では頻出の知識ですが、その理由を答えるのは少々難しかったのではないでしょうか。

自然的条件から考えましょう。インドネシアは14000以上もの島から成っていて、長い海岸線を有します。そのため海藻類などの海洋養殖やエビなどの汽水池養殖の適地が多く、近年ではエビ養殖池建設のためにマングローブ林が過剰に伐採されて生態系が破壊され、ほかにも大量の人工飼料が流出して水質汚染を引き起こすなど様々な問題を起こしています。

社会的条件としては、発展途上国であるがゆえの人件費の安さなどが挙げられるでしょう。人件費が安ければ生産コストも削減できて国際競争力は上がります。また、世界的な日本食ブームや健康志向の高まりから魚介類の需要が増えて、それにあわせてインドネシアでは政府による養殖業への支援が進み、外貨獲得の目的で養殖業が盛んになりました。
以上のことを自然的条件と社会的条件の両面からまとめれば良いでしょう。

設問(3)

水産資源の持続利用のために国際的な取り組みが必要になっている理由を具体例を出しながら「排他的経済水域」「総量規制」「消費量」「生息場所」の指定語句を使って答える問題です。

(2)でも触れましたが、近年の魚介類の需要の高まりは様々な問題を起こしており、本問もそれに関連した出題といえるでしょう。具体例などを出すのは少し難しかったかもしれませんが、指定語句から答案の大筋を考えると分かりやすかったでしょう。

まず「総量規制」という言葉から国際的な取り組みは各国の漁獲量を制限するものだろうと推論できます。また先程も述べた通り魚介類の需要は高まっているため、「消費量」が増加しているから総量規制が必要となっているという文脈で使えそうです。

残りの「排他的経済水域」と「生息場所」というのはどちらも場所に関する語句なので繋げて考えやすかったでしょう。これまでの文脈を考えると、各国での漁獲量の規制が必要になるということは、管理されるべき水産資源の「生息場所」は1国の「排他的経済水域」に収まるものではなく、広範囲に渡るものではないかと考えられます。

指定語句を使った推論だけでだいたいの答案骨子はできあがりました。あとはそのような水産資源の具体例をあげる必要がありますが、これはクロマグロなどの回遊魚が最も適するでしょう。クロマグロは太平洋や大西洋などの広い範囲に生息し、刺身を好む日本に輸出すれば多くの利益をあげられるため、クロマグロの漁獲や蓄養は世界中で増えました。しかし、若い魚のとりすぎなどによってクロマグロは急速に数を減らしています。 現在は様々な国際条約によって漁獲量が規制されていますが、規制はまだ不十分であり、資源量の減少が心配されています。
以上から、クロマグロなどの回遊魚を具体例として挙げて答えれば十分に得点はできるでしょう。

答案比較

設問(1)

Aさん
海岸付近に養殖池としての利用に適した潮間帯が広がり、人件費も安く、外貨獲得のために政府が生産を奨励しているため。

Bさん
人件費や地価が安く、海岸が国土に多く存在する。これらの条件により、輸出向けのエビの養殖が盛んになっているため。

Aさんは、要素をたくさん書いてるのですが、肝心の養殖業が盛んであることが抜けているので問いに答えられていないと見なされるかもしれません。内容的にも、潮間帯が広がっているだけではそこまで養殖業に有利にはならないので、海岸線が長いことにも言及しておきましょう。
また、人件費が安いからなぜ養殖業が盛んになるのかも詳しく書いた方が良かったですし、政策的な支援の話が書けていれば社会的条件としては十分なので人件費の安さはわざわざ書かなくても良かったです。

Bさんも色々な要因を述べていますが論理が飛躍してしまっています。人件費や地価が安いことでどうなるのか、海岸が多いから何なのか、輸出向けのエビが養殖が盛んになっているのはなぜなのかなどの論理が書かれていないので加点要素になりにくい答案になるでしょう。
また、「海岸が国土に多く存在する」と回りくどく書くより「海岸線が長い」と書いた方が字数も節約できて良いです。

設問(2)

Aさん
マグロは需要が増すとともに消費量が増えているものの、生息場所が排他的経済水域外の公海に及んでいる。そのため、漁獲量の総量規制などの国際的取り組みが乱獲の防止に必要なため。

Bさん
回遊魚であるマグロは生息場所が1国の排他的経済水域を超えた広域に渡り、近年の消費量増大で乱獲により生息数を減らしたため、資源量回復を目指して国際的な総量規制が必要とされた。

Aさんはマグロの消費量が増えていることと生息場所が公海にも及ぶ程であることを逆接で繋げていますが、あまり因果関係は無いので順接で書いた方が読みやすかったです。
また、「生息場所が排他的経済水域外の公海に及ぶ」と公海に言及するより、一国だけではなく多くの国で漁獲ができるほど広範囲に生息していると書いた方が国際規制が必要なニュアンスが正確に伝わるでしょう。後半の総量規制が乱獲防止の目的であることなどは簡潔に書けていて良かったです。

Bさんは上手くまとめられている良い答案でした。乱獲によって生息数を減らしたという過程までしっかり書けているのでより分かりやすいですね。

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