2025年東大日本史(第2問)入試問題の解答(答案例)と解説

東京大学の日本史の設問を「リード文」「設問」「資料文」それぞれで分析しています。

リード文の分析

特にありません。飛ばします。

設問の分析

メインで問われているのは「室町幕府は、土一揆に蜂起に対して、どのように対応したか」です。ただし、よく知られているような「徳政令の発布」と「鎮圧軍の派遣」は除かなければなりません。後述しますが、資料文は徳政令や鎮圧軍については触れていないので、資料文をまとめれば自動的に満たされる条件です。

さらに「(1)(2)と(3)(4)にみえる土一揆の構成や基盤の違いにふれながら」という条件もあります。これは嬉しいヒント。(1)(2)がセットで、(3)(4)がセットになっていることを教えてくれているからです。しかも、そこから抽出する内容として「土一揆の構成や基盤」が重要だということと、「(1)(2)と(3)(4)ではそれらが違う」ということまで書かれていますから、かなりのヒントです。

これらを念頭に資料を見ていきましょう。

資料文の解説

資料(1)

京都の東寺の領内の人が土一揆に加担したという噂が流れました。幕府は当然、一揆を防ぎたいので、噂の真相を調べようとなります。
そこで幕府の命令で、東寺は上久世荘・下久世荘という荘園の沙汰人たちに調査させることとなりました。

ここで、解釈が2つに分かれます。
資料文から読み取れるのは、幕府が命令した相手が東寺であるという部分のみです。沙汰人に調査させることを決めたのは幕府か東寺か分かりません。
すなわち、幕府が東寺に対して「沙汰人に調べさせよ」と命令したのか、
それとも幕府は東寺に「調べよ」と命令して、東寺が沙汰人に「調べよ」と命令したのか、この文章からはハッキリとは分かりません。
しかしこれは結果的にあまり大きな問題にしなくても良い、という結論になります。(後述します)

結果、沙汰人は住民を集めて調査を行い、住民の潔白を主張しました。

ということで、答案に関わる部分をまとめます。

室町幕府の対応:東寺に調査を命令しました。結果、荘園の沙汰人が調査をしました。
土一揆の構成や基盤:東寺の領内の誰か(荘園の誰か)

資料(2)

資料(1)からしばらくして土一揆が蜂起しました。
幕府は山科七郷という村の沙汰人たちに対し、「住民が土一揆に参加していたら、その村を処罰する」と通達します。

ということで、答案に関わることをまとめると

室町幕府の対応:村(惣村)の沙汰人たちに、「住民が参加したら村を処罰するぞ」と通達
土一揆の構成や基盤:京都近郊の村(惣村)の誰か

資料(1)(2)の共通点

本当は(3)(4)と比較したほうが見えてくるものが多いでしょうが、現時点でわかることをまとめておきましょう。

室町幕府の対応

資料(1)では、幕府が沙汰人に調査させたかわかりませんでしたが、資料(2)では幕府が沙汰人に通達したことが書かれています。ということで、資料(1)でも沙汰人へ調査をさせたかったと捉えても良いのではないでしょうか。
さて、ここでの特徴は、沙汰人を通じていることです。
設問文から分かるように、幕府は徳政令を出したり、鎮圧軍を出したりもするのですが、これらと比べて温和な対応ですね。つまり徳政令や鎮圧軍に至るまでは、それほど強硬な姿勢に出ていないということだと思われます。別に室町幕府が直接調査して首謀者を特定しても良さそうなのですが、そんなことはせず「沙汰人任せ」これが共通点と言えるでしょう。
なお、なぜ沙汰人任せにしたのか、までは答える必要がないため、ここでは触れなくてよいですね。

土一揆の構成や基盤

資料(1)では東寺の領内(か荘園)の誰かが加担したと書かれ、資料(2)では山科七郷の誰か(だと幕府は疑っている)です。どちらも(武士などではなく)農民や庶民です。資料(3)(4)では武士とか守護などが出てくるので、それと対比すれば良いでしょう。

資料(3)

今度はかなり様相が違う話が書かれています。

幕府の対応:首謀者の主君である細川氏に対して処罰を求めました。
土一揆の構成や基盤:守護の細川氏の家来

ということで、設問文から予測されたように、土一揆の構成や基盤が武士になりましたね。ただしここでいくつか疑問が残ります。

資料文には「首謀者の地侍が、主君の守護細川政之の邸宅に逃げ込んだ」とあります。ということは、首謀者の主君は細川氏のはずです。しかし、政之は「首謀者には他の守護たちの家来もいる」と答えています。ということは、細川氏の家来だけではない、と読み取れます。
これをどう読み取るのかですが、(断定はできませんが)私は「細川氏は幕府の要求に拒否した」という点に着目して、「テキトーに幕府の命令をスルーする言い訳をしたんだろう」くらいに思いました。つまり、本当は細川氏の家来しかいないけれど、「他の守護の家来もいるから」とウソをついて、幕府の命令を聞かないよう言い訳していると。いやもしかしたら、本当に他の守護の家来もいるのかもしれませんが、そこはもはや、どっちでも良さそうです。

資料(4)

翌年、土一揆が蜂起しました。幕府は守護に対して動きます。

幕府の対応:守護の細川政元に対して、家来が土一揆に参加することを禁止するよう命じました。
土一揆の構成や基盤:守護の細川氏の家来(だと幕府が思っている?)←資料(3)と同じ

資料(3)(4)の共通点

共通点が色々ありました。

室町幕府の対応

両方の資料ともに、幕府は細川氏に要求しているだけです。首謀者がそこにいると分かっているにも関わらず、細川氏に言うだけ。資料(4)では土一揆が蜂起してしまいます。
資料(1)(2)の共通点としても、幕府は沙汰人を通じて命じるだけということになりましたが、ここでも同じような対応です。
普通、このような問題の場合、「(1)(2)は〇〇で、(3)(4)は××」というように、対応の違いを答えることが多いのですが、今回はどちらもほぼ同じような対応をしていますね。

ということで、資料(1)(2)と(3)(4)を俯瞰して共通点を探ると、「どちらの場合も、参加者や首謀者が属している集団の長を通じて、命令や通達、要求をしている」ということにまとめられそうですね。

土一揆の構成や基盤

(3)も(4)も同じで、細川氏の家来でした。資料(3)では(解釈次第ですが)他の守護たちの家来もいるとかかれていますので、まとめるならば「守護の家来」などとすればよいでしょうか。

疑問点

さて、資料(1)から(4)までの中に、「幕府の対応」でもなく「土一揆の構成や基盤」でもない部分があります。
抜き出すと

資料(1)
沙汰人は荘園内の住民を集めて調査を行い、住民とともに誓約書を作成し潔白を主張した

 

資料(3)
政之は「首謀者には他の守護たちの家来もいる。彼らが処罰するならば自分も処罰する」と言って拒否した

これ、どちらも幕府の対応ではなく、「幕府がされた対応」なんですよね。だから、問われている内容と真逆です。
この部分をどうするか。

実はしばらく分からなかったのですが、この解説記事を書いている途中で思いつきました。
どちらも幕府があまり強気に出られてない内容ですよね。つまり、幕府勢力が弱まっていることを背景に、土一揆の予防や蜂起に対して、あまり強気に出られないということなのではないでしょうか。幕府が直接首謀者を捕らえるような強硬手段に出られず、命令するにとどまっている。そして、沙汰人や細川氏は、どうせ幕府が強気に出てこないだろうと思って、反発する態度をとっている。こう考えれば、一応筋は通ります。

ただ、筋は通るといっても、問われている内容ではないですから、盛り込むかどうかは別問題です。
今回は盛り込んでいない(スタンダードな答案)と、盛り込んでいる答案の両方を出してみますが、要不要は皆さんで検討してください。

なお、「土一揆の計画を立てるなど実行に移していない場合は温和な対応をして、蜂起したら強硬手段を取るなど、段階を経て対応を変えていたのだ。だから、初期の段階では強く出ていないのだ。」という仮説は、資料(2)と(4)から棄却しました。だって、蜂起したあとも、間接的な通達しかしていないですからね。

答案例

弱気な幕府を入れない
⑴⑵のような荘園や惣村を基盤とした土一揆には、荘園領主や惣の沙汰人を通じて処罰や命令を通達した。⑶⑷では複数の守護の家来たちが一堂に介して一揆の基盤を構成した場合も、処罰を守護に命じた。このように幕府は一揆の参加者に直接処罰を通達せず、参加者が属する集団の長を通じて一揆の予防や鎮圧を図った。

弱気な幕府を入れる
⑴⑵のように農民を基盤とした土一揆には、沙汰人を通じて対応した。⑶⑷のように守護の家来たちを基盤とした土一揆には、守護を通じて対応した。このように幕府は一揆の参加者に対して直接処罰するほど強硬に対応できず、参加者が属する集団の長を経由した間接的な対応に留まり、土一揆の蜂起を予防することはできなかった。

※沙汰人や守護が幕府に反発した(幕府が反発された)という内容をそのまま盛り込むと、問いに答えるような内容にならないため、このようにしました。
幕府が弱くて対応が不十分であるというニュアンスを出しつつ、文末を「土一揆の蜂起を予防することはできなかった」とすることで、あくまで幕府の対応について答えているように工夫しました。

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