2020年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

「世界の食料の生産と消費」 に関する出題でした。
例年、第2間では「続計読み取り問題」をテーマとする設問が出題されていますので、第1問に続き、例年のテーマに沿った設問であったといえますね。
大問2ではそれぞれで資料が提示されており、 図や統計表の特徴からの読み取りや判読力が問われました。
問題の難易度は標準的で、しっかりと得点したいところでした。高得点を狙うならば、知識の拡充はもちろん、考え方や答案の書き方もしっかりと学びましょう!
2Aでは19カ国における 「1963年から2013年にかけての1人あたりのGDPの伸びと国民1人あたりのカロリー摂取量に占める動物性食品の割合の変化」に関する散布図が提示されました。

(1)の解説

(1)では、「陸上の自然環境に及ぶ悪影響」と問われている内容が分かりやすく、答案も書きやすかったと思われます。色々な解答が成り立つと思いますので、これも先生や同級生と話し合ってみて、知識を教科書で確認すると良いでしょう。

動物性食品の摂取量が増えれば、飼育頭数も増加し、広大な土地や大量の飼料が必要とされることにも気がつけると思います。これらが植生の破壊や森林伐採、砂漠化など様々な環境問題に繋がることも容易に想像出来ると思います。地理的知識をもとに原因と結果を簡潔にまとめられると良かったでしょう。

具体的には、牛肉の生産をベースに考えてみると、ブラジルでは熱帯雨林が切り開かれて牧場が建設され、過剰な放牧による植生の減少、熱帯雨林の破壊などの悪影響が起こっています。
アメリカ合衆国のグレートプレーンズでは肉牛の放牧やフィードロットによる肉牛の肥育が行われており、それが肉牛の成育に必要な水を過剰に取水して地下水の枯渇を引き起こしたり、飼料作物のトウモロコシが過剰に生産されて土壌劣化や土壌流出などの悪影響を起こしています。
このように様々な悪影響が挙げられますが、1つに絞って答案の論理を上手くまとめるように心がけましょう。

(2)の解説

たいていの国々では経済成長に伴って価格の高い動物性食品の購入が可能になり、食生活の変化によって食生活に占める動物性食品の割合が増加する傾向にあるなか、1~6の先進国と言われるような国々では動物性食品の割合が微増または減少傾向にある理由を問われています。

1~6の国々を列挙してみると、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、アメリカ、スウェーデン、フランスです。これらは1963年の時点ですでにある程度、豊かな国です。そのため、動物性食品の割合が天井を叩いてしまって、高止まりしていたと考えることができます。

加えて、少子高齢化の進行に伴う健康志向の高まりや、(1)で問われているような環境問題を意識した消費志向の変化なども考えられます。これらから、答案骨子はすぐに作れるでしょう。

(3)の解説

(3)は、ペルーのアルゼンチンやブラジルとは異なる特徴をその理由とともに答えさせる問題でした。
表を見てみると、2013年時点では、アルゼンチンやブラジルでは動物性食品の割合が高いのに対して、ペルーではその割合が低いことがわかります。よって、動物性食品の割合に違いが生じる理由をこれらの国々を対比させながら、指定語句を踏まえて考え、答案作成すると答案が書きやすいでしょう。

設問文で理由を2つ挙げよとありますが、指定語句がヒントになっています。食文化が違う民族構成であることと、地形によって行われる農業が違うことで2つが得られます。

具体的には、アルゼンチンの混合農業地帯が行われているのはラプラタ川近辺のパンパ地帯で、起伏の緩やかな平原です。
ブラジルでは熱帯雨林地帯(低地)で粗放的牧畜が営まれ、中央部近くのマットグロッソ州(高原)などでは飼料作物にトウモロコシや大豆を利用した大規模な肉牛肥育が営まれています。

どちらも起伏がゆるやかで、ブラジルもアルゼンチンも多くの肉牛を飼育できる平原や高原があるから肉類を大規模かつ企業的に生産でき、そのために動物性食品の摂取割合も高くなっていると言えます。また、世界史選択者ならよく分かると思いますがヨーロッパ系白人の入植者の子孫が多い民族構成となっていて、肉類中心の食文化を持ちます。

一方で、ペルーはアンデス山脈が通り、気候は乾燥帯や寒帯の無樹林気候や、高山気候が広がっています。そのため、大規模に農牧業を行うことは難しく、イモ類の小規模で自給的な農業が行われています。逆に、大規模な農牧業は出来ずとも、険しい山岳地帯の特性のおかげでヨーロッパ系白人に入植することも比較的少なく、イモ類中心の食文化を持つ先住民が多い民族構成が保たれてきたとも言えるでしょう。山岳地帯と平原地帯の対比を意識して書きましょう。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(1)

Aさん
家畜頭数の増加や放牧地拡大により、砂漠化や森林破壊が進む。

Bさん
牧場開発に伴う森林伐採が地球温暖化を招く。

両名とも論理展開が丁寧で良いのですが、それぞれ欠点がありますね。
Aさんの答案では、砂漠化と森林破壊という2つの悪影響を答えてしまっているので、「1つあげ」という問いに答えていません。
Bさんの答案では、地球温暖化まで発想できたのは大変素晴らしいのですが、問題では陸上の自然環境と指定されているので、やや外れた答えになってしまっています。

設問(2)

Aさん
高カロリー・高脂質で水などの資源を大量消費する動物性食品の摂取量が多い国では、その過剰摂取による健康被害や環境負荷が意識されることで、消費を控えるようになったから。

Bさん
古くから有畜農業が盛んであったが、近年は健康志向が高まっていることや動物愛護、環境保護の活動が活発になっていることから動物性食品の消費が控えられている。

両名とも上手くまとめられていますね!
Aさんはとても読みやすく説得力のある答案が書けています。
「高カロリー・高脂質で」のあとに読点「、」を打つと、「動物性食品」への修飾がわかりやすくなるということが指摘できますが、それを気にさせないくらい上手い答案だったと思います。

Bさんは良い視点をお持ちですね。
以前から動物性食品の摂取量が多かったことの指摘も出来ていますし、動物愛護などの指摘もなかなか面白いと思いました。東大の地理では、このようなリベラルな考え方を評価していますので、生活の様々なところに注意を持っていくのが重要かと思います。

設問(3)

Aさん
アルゼンチンとブラジルは広大な平野で牧畜などの企業的農業が行われ、食文化が肉類中心の白人が多い民族構成で動物性食品の摂取量が多いが、ペルーは山岳地帯で畑作などの自給的農業が行われ、じゃがいもや穀物中心の食文化を持つ先住民の割合が高いため。

Bさん
ペルーは山岳地帯の割合が多く、大規模な畜産に適さず、食糧生産は畑作などの小規模農業を中心とし、またブラジルやアルゼンチンに比べ白人が少なく先住民中心の民族構成で、農作物を主とした伝統的な食文化が維持されているため。

Aさんの答案は各国の異なる特徴とその理由を対比的にスッキリまとめていますね。
Bさんのようにペルーを中心に書いても問われている要素を読みやすく書けていれば恐らく減点はされないと思います。自分の書きやすい構成を模索してみてください。
ただし答案を書くうえで、Bさんのように「連用形+読点」や「で+読点」を多用して答案を書くのは、できれば避けると良いでしょう。曖昧な意味で接続されるため、論理関係がぼやけてしまう可能性が高いです。「~だから」や「〜なため」など、意味がはっきりした接続を使うと、因果関係が明瞭になります。

設問B

本問は、東南アジアの主要な米生産国について、1969年から2013年の範囲内の3つの時期における「生産量、国内供給量、過不足量、自給率」が提示され、米の生産、自給率などの推移から東南アジアの国々の差異について考えさせる問題でした。
提示された数値の意味をしっかりと理解できれば東南アジアの国々の基礎的な知識だけで簡単に解ける問題が多かったので、高得点を狙って欲しいところです。
ただ、必要とされる知識が基礎的であるため、答案の書き方で差がつきやすいとも言えますね。
日頃の答案作成から、読みやすく問われている要素をしっかりと盛り込めるように心がけましょう!
それでは、2Bについてみていきます。

(1)の解説

(1)は表にある情報から国名を推測する記号問題です。それぞれの国の特徴がハッキリしているので是非完答してほしい問題だと思います。米は自給作物なので、人口規模によって生産量・供給量などが左右されます。よって、aの数によって、大雑把に人口規模を類推できます。

また、統計資料では異常値を確認するのが鉄則でしたね。
生産量が異常に多くなっているDは、人口が約2億7000万人で5か国の中で最大のインドネシアと推測できます。

「米は自給的だから、輸出している国は珍しい」という知識があると、自給率が100%を超えているのも異常値のようなものとみなせます。例えば、Cは自給率が 178%と非常に高くなっているため、米の輸出量世界1位のタイと考えられますし、BはCに次いでかなり輸出量が多くなっているため、東南アジアの中ではタイの次に多いベトナムが該当します。

ちなみに、かつてベトナムは米の輸入国でしたが、1986年に始まった「ドイモイ(刷新)政策」により、市場経済や資本主義を導入したため、農民の生産意欲が向上し、米の生産量が伸び始めました。これによって、2009~2013 年に自給率は 135%となり、米の輸出国に変貌を果たしたのです。

AとEを反対にする解答が多かったようですが、a=人口規模と考えると簡単です。
生産量の多いEが人口約1億人を擁するフィリピンで、残るAは人口が約3100万人であるマレーシアとなります。

(2)の解説

続いて、(2)です。本問は(1)で正当していることが前提の問題でした。
マレーシアでコメ関連の出題はあまり見ないので戸惑った人も多かったのではないでしょうか。
(1)でAとEを逆にしている回答が多かったのも、本問で混乱して、(1)を考え直してしまったのかもしれませんね。
ほかの問題をヒントにできないか目を光らせるのも大事ですが、振り回されないように気をつけましょう。

さて、答案としては書きやすい問題だったと思いますが、本問も合理的推論で十分解き進められるものとなっています。設問文では、生産量と国内供給量の推移に着目せよと言っているので表を見てみましょう。
すると、生産量が伸びていること、国内供給量はそれ以上に伸びていること、自給率は下がっていることぐらいはすぐに見てわかると思います。自給率が下がっているということは輸入量が増えているということもすぐ分かりますね。

次に、その背景を考えてみましょう。
マレーシアだと分かっていれば、水田適地が少ない自然条件や、油ヤシを盛んに生産するあまり稲作の停滞を招いたことなど様々な背景を思いつくと思います。また、東南アジアの工業的な発達が著しいことは有名だと思いますので、そこから工業化の進展による農業人口の減少、または所得水準の増加などの背景を推し量ることも可能かと思われます。

(3)の解説

(3)ではD国の自給達成について(2)と同様の条件で問われています。D国がインドネシアであることは明らかですので、この問題はすぐに片付けて欲しい問題です。

(2)と同様に、表に目をやると、国内供給量(≒人口)の増加に伴って生産量も増加していることがわかりますね。
インドネシアの米の増産とくれば「緑の革命」というワードはすぐに出てくると思います。よって、灌漑施設の整備や、高収量品種の開発などの緑の革命によって生産量が増加したことなどを背景とするのが良いでしょう。
また、自給率達成までの推移を問われているので、米の輸入国であったことと、自給できるようになったことを流れで書けると読みやすい答案になると思います。1997年に類題が出題されているので、併せてご確認ください。

答案比較

ここでは、答案の比較と解説をします。自分の答案を試験中にパッと添削できるように一緒に訓練を積みましょう!

設問(2)

Aさん
工業化重視の政策で経済が発展し、人口増加で国内供給量が増え、生産量より輸入量が増えたため、自給率が低下した。

Bさん
工業重視の政策で経済が発展し、人口は増加したが、米の増産が追いつかず、自給率は低下している。

両名ともルックイースト政策の一部である工業化を言及していて、マレーシアを意識した解答ができていると思います。
しかし、問題では生産量と国内供給量の推移に触れながら解答せよと指示されているので、Bさんの答案では不十分でしょう。
設問の条件をしっかり読んで解答しましょう。

設問(3)

Aさん
輸入に頼っていたが緑の革命による高収量品種の導入に伴う生産量増大が人口増に伴い急増する国内供給量を賄い時給を達成した。

Bさん
以前は輸入国だったが、緑の革命によって生産量を大幅に伸ばし、人口増加に伴う需要増加に対応できたため、国内時給を達成した。

簡単な問題だったので正答率は高かったと思います。
両名とも以前までは輸入国であったことや緑の革命などを指摘できていて良いですね。
しかし、設問(2)と同様にAさんは国内供給量に関する指摘が抜けていますので注意しましょう。
また、Aさんのように「緑の革命による高収量品種の導入」など緑の革命に関する説明もしてあげられると丁寧でしたね。

 

 

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