【東大日本史】1999年第3問の解答(答案例)と解説

◎はじめに

東⼤⽇本史の問題は、リード⽂、資料⽂、設問⽂の3点で構成されているのがスタンダード(例外あり)。
これを、どの順で読むべきかというと、おススメはリード⽂→設問⽂→資料⽂の順です。

これがなぜかというと、理由は2点。
リード文は本文へ導入するための文なんだから、リード文の方が先。
そして、本文は設問に答えるための材料だから、設問文が先ということです。カレーを作るか、ポテトサラダを作るか決めないと、ジャガイモの用途が分からないのと同じで、何に答えるかが分からないと本文の使い道も分からないわけですね。

もちろん、絶対的な指標ではなく、あくまでガイドライン。
未来永劫、本文を最後にすべき問題しか出ない保証なんかないので、その場で柔軟に対応すべきといえばその通りではありますが、だからといって基本パターンを知らなくてよいことにはなりません。

これまで多くの答案を⾒て採点や添削を⾏ってきてわかったのですが、内容の良し悪し以前に、問われていることに答えていない答案が、想像の5倍くらい多いと思ってください。自分の答案が十分問いに答えているかどうか、必ずチェックするクセを付けましょう。

◎リード文の分析

書いてある情報としては、それほど多くありません。
商人の家訓についての資料だそうです。

◎設問の分析

江戸時代の商人の相続について、どんな特徴かという問題。縛りとして「武士の家と比べて」とあります。

商人の家の相続と、武士の家の相続について、どれくらいのことを知っているでしょうか?せっかくなので、ここで即席で簡単に復習しましょう。

長子単独相続というのは、家督を含めた財産の一切を、その家の長子(長男)が、単独で相続するというものです。
鎌倉初期ころは分割相続をしていて、惣領(武士のリーダー)以外の庶子(その他の人)へも財産の相続がありました。後ほど女子の相続に関しても話題になるので、先に話しておきますが、このころは女子にも相続権が認められてました。

これが、元寇以降になると嫡子(長男)による単独相続へ変化します。
詳しく書くと大変なので簡単に済ませますが、分割相続を繰り返していると、世代を経るごとに財産(=土地)が小さくなってしまいます。ここに元寇が訪れ、犠牲と出費の嵐に加えて恩賞が不十分ときたものですから、さらに武士たちは貧しくなってしまいます。
そんなこんなで、分割相続の文化も廃れ、少ない財産を嫡子だけに相続するようになりました。ちなみに、女性の相続は一期分といって1代限りの財産のみになり、地位が低下します。このまま江戸時代まで単独相続が続いた、というのが、受験生の知識のレベルでしょうか。

とすると、江戸時代の武家と商家の相続の違いなど知らないのが前提と考えて良いでしょう。

◎資料文の分析

資料文(1)

まず、資料文(1)です。これはそれほど難しくありませんね。ほとんど読んだままの意味なので解説もないですが、商人の家に関しても財産相続は大事に思われています。

資料文(2)

これは短いながら、結構重要な資料です。
1文目に「天子や大名」とありますが、これは天皇と大名のことです。大名とは武士の偉い人のことですから、設問の「武士の家と比べて」のヒントがあると思ってよいでしょう。

ではどう書いてあるかというと、「次男以下の弟たちは、みな家を継ぐ長男の家来となる。」だそう。要するに長男が家から財産からすべてを相続して、長男以外は家来だということです。

そして2文目。
「下々の我々においても」とありますが、江戸時代は身分の上下がハッキリしていましたから、商人は武士より立場が下です。だから「下々の我々」と自称しています。
そして肝心の内容ですが、「武士と同じです!」と書いてあります。つまり、商家も武家と同様に、長子単独相続が行われていたということです。

資料文(3)

ここから、急展開です。
なんと、1文目では長男に学問をさせることが大事と書いてあり、2文目には長男には相続させない場合があることが書かれています。「成長が思わしくない」とありますが、これは身体的な発達ではなく、もちろん「学問」のこと。要するに、学問ができないなら長男には相続させないのです。ではどうするかというと、分家と相談して、適任者を探して相続させるとのこと。
なにやら武家とは違った相続の仕方が登場してきました。

資料文(4)

そして、冒頭。「家を滅亡させかねない者へは、家の財産を与えてはならない。」とあります。家の滅亡とは穏やかではありません。
では、商家の滅亡とは何か?それは、商売が繁盛するかどうかです。
商家の相続とは、結局商売で設けたお金を子孫へ残せるかどうか。ということは、家を滅亡させるような(商売が下手な)ヤツには、家は相続させないという意味です。

その後、なんと血縁のない養子であっても相続対象になることが書いてあります。

資料文(5)

最後に、女子について書いてあります。
書いてある内容としては、女子は他家に嫁がされること、実家で厳しく育てられる方が他家から離縁されないから良いというようなことです。

この資料文に関しては、様々な解釈が可能で難しい所です。

設問としては、商家の相続に関することですが、資料(5)では相続に関することは直接は書いてありません。しかし「他家へ嫁ぐ」という部分から、女子は相続しないことがうかがい知れますから、これは良し。

問題なのは、2文目以降です。実家で厳しい方が良いとか、嫁ぎ先で辛抱できなくなるとかという内容が、どのように商人の相続に関係するか。これは難しいです。

他予備校様や先生方などの解答を参考に、私なりに解釈した答案がありますから、どうぞご覧ください。

答案作成用メモ例

答案例

武家同様、商家も長子単独相続を原則としたが、相続が安定していた武家と違い、商家の財産は経営状態に左右されたため、 長子の経営能力が不足していると、 次男以下の男子や他家からの男性養子が相続した。女子は相続対象にならず、嫁ぎ先の他家を支えるよう厳しく育てられた。このように商家は武家よりも能力が重視された。

・まず、原則として武家と同様で長子単独相続をしていることを言い、その後に違いを指摘しています。
・武家は経営状態に左右されることがなく、給料も俸禄が安定して与えられることなどを踏まえて「安定」と表現し、商家との違いを表現しました。
・長男が相続する原則に従わない理由と場合を簡潔に書きました。
・女子に対しては他家を支える存在になれるよう厳しく育てられるということから、男子と同じように能力を求められたと解釈して、最後に共通項があるとしてまとめました。

◎総評

背景知識があまり要らない一方で、読解がやや難しい問題です。
商家が経営能力を求められる点に関しては、何とか読み取れるかもしれませんが、資料(5)の女子の記述の解釈がかなり難しく、どのように答案に盛り込むか悩むでしょう。

初心者にも扱える問題ではありますが、まとめるのはやや難しいです。

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