2016年東大日本史(第2問)入試問題の解答(答案例)と解説(塾長作成)

◎はじめに

東⼤⽇本史の問題は、リード⽂、資料⽂、設問⽂の3点で構成されているのがスタンダード(例外あり)。
これを、どの順で読むべきかというと、おススメはリード⽂→設問⽂→資料⽂の順です。

これがなぜかというと、理由は2点。
リード文は本文へ導入するための文なんだから、リード文の方が先。
そして、本文は設問に答えるための材料だから、設問文が先ということです。カレーを作るか、ポテトサラダを作るか決めないと、ジャガイモの用途が分からないのと同じで、何に答えるかが分からないと本文の使い道も分からないわけですね。

もちろん、絶対的な指標ではなく、あくまでガイドライン。
未来永劫、本文を最後にすべき問題しか出ない保証なんかないので、その場で柔軟に対応すべきといえばその通りではありますが、だからといって基本パターンを知らなくてよいことにはなりません。

これまで多くの答案を⾒て採点や添削を⾏ってきてわかったのですが、内容の良し悪し以前に、問われていることに答えていない答案が、想像の5倍くらい多いと思ってください。自分の答案が十分問いに答えているかどうか、必ずチェックするクセを付けましょう。

別スタッフの解説

本稿は塾長(平井)が書いた記事ですが、別スタッフによる解説も存在します。よろしければ両方ご覧ください。

こちらにございます。

◎リード文の分析

リード文の分析が重要な問題。短い文で重要なことがたくさん書かれています。

まず、場所。京都の桂川がステージです。
次に、「東寺領上久世荘」という単語。通常、こういった進出の固有名詞は「ふんふーん」と読み飛ばすのものですが、今回は痛い目を見る問題。ちゃんと意味を考えると、「東寺が領主をしている、上久世という名前の荘園」という意味です。これを理解しておかないと、資料の分析が十分にできません。
一度は読み飛ばしても、あとでちゃんと戻って来ましょう。

最後に、「惣村」という言葉の定義です。
もちろん通常の勉強で「惣村」を覚えてないと東大受験生として中々厳しいのですが、ここを読めばある程度は惣村の意味が分かります。ここを読む限り、荘園をいくつかまとめて惣村になっている、つまり荘園の集合体が惣村だと読み取れます。

しかしこれではちょっと足りません。惣村というのが自治的で地縁的な存在だという側面を知らないと、この問題を深く考察したときに困ってしまいます。やはり、細かいところで知識の理解がモノを言いますね。
さて、「自治的で地縁的」とはどういう意味でしょう。日本史に限らず、こういう小難しい言葉は、かみ砕いて理解していくのがとても大事です。
私なりに(若干やり過ぎくらいに)かみ砕くと、「近くに住んでる人同士で、勝手に作った仲間」という感じでしょうか。今でも、〇〇同好会とか、〇〇隊とか、勝手に作ることがありますよね。思いついちゃったので書いちゃいますけど、クレヨンしんちゃんの「春日部防衛隊」とか。まあ、そんなノリです(ちがうか)

室町時代は治安が悪くなり、自分で自分の身を守らないといけなくなりました。
今の日本なら警察がちゃんと機能していますから治安が良いのですが、警察がなくなったらどうでしょう。誰かに襲われるかもしれないとなったら、自分で自分を守らなければならないのです。
だから、近くに住んでいる人同士、自分たちの生活を守るために協力体制を作るようになるわけです。

◎設問の分析

シンプルな設問ですね。
資料文を読むとわかりますが、この問題は水の取り合いをしている様子を追いかける問題です。

ちょっと補足をすると、水とはすなわち命だと思ってください。
飲み水はもちろん、田んぼで稲を育てるのにも水が重要です。地理を勉強すると分かりますが、米というのは降水量が多くないと育たない作物です。米を食べる習慣のある地域と、降水量の多い地域を比較すると、かなり一致するというのは、地理選択者にとって非常に重要な視点です。余談ですが、地理はこのように、系統地理と地誌を結び付けて理解していくのが王道の方法ですね。
話を戻すと、日本のように米が食べ物だけでなく、ほとんどお金のように取り扱われているような国ですから、なおさら水が大切です。

世界史で説明するなら、分かりやすいのは4大文明はどうでしょう。エジプト文明だとか、メソポタミア文明など覚えると思いますが、必ず川とセットで覚えます。正しいかどうか確認したことはないですが、ライバル(rival)の語源はリバー(river)だそうです。

このように、水がなければ人は生きていけません。

今の日本では水の確保に困らない生活が成り立っていますが、当時は命がけの争いをしています。生き残るために、当時の人々は惣村を「自治的に地縁的に」作って対処しました。
こういう知識の補助があると、問題の理解が色鮮やかになるのではないでしょうか?

最後に、「近隣惣村との関係に留意しながら」という条件も気になるところ。資料文を読んでいると近隣惣村が登場しますので、登場したらチェックしましょう。

◎資料文の分析

資料文(1)

まず、資料文(1)です。これは情報量が少ない資料です。
リード文で登場した桂川には、両岸に灌漑のための用水の取り入れ口があったこと、そしてそこから荘園が水を引いていたことが書かれています。
なお、この資料で登場する「五カ荘用水」というのは他の資料で何度も登場します。そのたびに「ああ、資料(1)のヤツね」と確認しながら読解してください。

資料文(2)

まず、「用水が洪水で埋まってしまった」とありますが、これは「用水に修理が必要になったとき」や「用水の供給が不足したとき」など軽く抽象化しておきましょう。

次に、「上久世荘」が登場しますので、「リード文のヤツね」と確認しておいてください。上久世荘の百姓らは、用水が使えなくなって困ります。修理をどうするかというと、東寺へ要求します。
ここで、リード文の「東寺領」が効いてきて、領主に要求したことが分かります。

以上、「用水の修理が必要になったら、領主へ経済援助を要求した」のような感じでまとめておけば十分でしょう。

資料文(3)

今度は干ばつが起きます。川の水が干上がって、水の絶対量が少なくなっているわけですから、当然取り合いが発生しますね。

何気に大事なのが、「五カ荘用水を利用する上久世荘など5つの荘園(五カ荘)」という記述。これでやっと、今まで登場してきた単語の関係性が分かります。
桂川から引かれている「五ケ荘用水」の先に「五カ荘」という5つの荘園の集合があり、それを形成している荘園の1つが上久世荘だということですね。(後で、絵で説明します)

そしてもう1つ。「石清水八幡宮領西荘」という単語も登場しますが、これもリード文と同様、読解すると「石清水八幡宮」が領有している「西荘」だと理解しておけばよいです。(東寺領上久世荘、と同様です。)

この2つが用水をめぐって争います。争うのですが、まずは幕府に裁定を求めているところに注目してください。資料(4)を読むと分かりますが、この後この争いが合戦に発展します。要するに、武力行使に及ぶわけです。武力行使の前に、幕府の裁定を求めているというのは重要なところでしょう。

さて、「幕府の裁定」に関してですが、ここは少し味付けしたいところ。
例えば「幕府の権威によって決着をつけようとした」など、幕府権威による解決を求めたという解釈が可能です。余談ですが、東大の日本史では「〇〇の権威によって~~」と記述すると答えやすい場合が多いので、良かったら覚えておいてください。

他にも、「まずは平和的解決を試みたが、その後、武力行使に発展した」と「平和→武力」という変化で語るというもの。これも説得力があると思います。

どちらでも良いし、両方盛り込む答案でも良いと思いますので、皆さんの判断でお使い下さい。

資料文(4)

(4)でもまだ争っています。幕府が西荘寄りの判決を下したことで、五カ荘の用水の取り入れ口を壊そうとすると、五カ荘が反発して合戦に発展します。

この時、ポイントとなるのは「近隣惣村」が巻き込まれているところです。設問で「近隣惣村との関係に留意しながら」とありますから、必ずチェックです!

ここまでをまとめると、「はじめは幕府の裁定を求めたが、決着がつかない場合は近隣惣村を巻き込んで合戦に発展した。」という感じでしょうか。

資料文(5)

ついに決着がつきます。
まず、再度裁判を起こします。今度は五カ荘に有利な判決が出ますが、やはりお互いが納得する妥協点とはならず、まだまだ争いが止まりません。結局は、近隣惣村の沙汰人が仲裁してやっと決着する、というオチです。
近隣惣村は登場したら必ずチェックですから、「近隣惣村が仲裁した」としておいてください。

ここで年号が登場しています。
資料文(3)によると、干ばつが発生したのは1494年で、資料文(5)によると決着がついたのは1503です。都合10年くらいずっと争っています。
わざわざ年号を載せている点、そして「最終的には1503年になって」と”長いでしょ”というのを仄めかす表現があることから、「長期的に争った」としておきましょう。

さて、やっと資料文の分析が終わりました。答案作成に移りましょう。

答案作成用のメモの例

実際の問題用紙に、このようなメモを取ると答案作成しやすくなるという例です。参考にどうぞ。

答案例

各惣村は近隣惣村と関わりながら自力救済を原則としていた。用水の供給が不十分になると荘園領主に経済援助を求め、近隣惣村との利害が対立した際には、まず、幕府に裁定を求めるなど平和的解決を図ったが、不満が残る場合は、近隣惣村の協力を得て武力行使に及んだ。争いは長期にわたり、最終的に他惣村の仲裁により収束した。。

・1文目で、近隣惣村と関わっていること、自力救済が原則であることの2点を指摘して、大きな方針を示しました。
・資料文(2)をまとめて「用水供給が不十分になると荘園領主に経済援助を求め」としました。
・次に、資料文(3)~(5)の争いのストーリをまとめました。基本的に、時系列に沿って丁寧にまとめたのですが、「まずは平和的解決」を図ったが、「大規模な武力闘争が長期にわたり」と平和から武力の流れを書きました。
・最後に、近隣惣村が仲裁役まで買って出ていることを指摘しました。

◎総評

背景知識があまり要らない問題でした。惣村が自治的で地縁的なことが分かっていると解きやすいですが、知らなくても何とか解けてしまうように誘導がありますし、知識が必要といえばせいぜいこれくらい。

ということは、その場の読解力と記述力の勝負になるということです。
資料文を余すところなく使い切り、要素をコンパクトにまとめて答案に書く。かつ、分かりやすく明快な答案を書くという力が養成できる問題です。
知識がなくても解けてしまうので、初心者や東大日本史を体験したい方にとてもおススメの問題といえると思います。

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