【東大日本史】2004年第3問の解説

◎はじめに

東⼤⽇本史の問題は、リード⽂、資料⽂、設問⽂の3点で構成されているのがスタンダード(例外あり)。
これを、どの順で読むべきかというと、おススメはリード⽂→設問⽂→資料⽂の順です。

これがなぜかというと、理由は2点。
リード文は本文へ導入するための文なんだから、リード文の方が先。
そして、本文は設問に答えるための材料だから、設問文が先ということです。カレーを作るか、ポテトサラダを作るか決めないと、ジャガイモの用途が分からないのと同じで、何に答えるかが分からないと本文の使い道も分からないわけですね。

もちろん、絶対的な指標ではなく、あくまでガイドライン。
未来永劫、本文を最後にすべき問題しか出ない保証なんかないので、その場で柔軟に対応すべきといえばその通りではありますが、だからといって基本パターンを知らなくてよいことにはなりません。

これまで多くの答案を⾒て採点や添削を⾏ってきてわかったのですが、内容の良し悪し以前に、問われていることに答えていない答案が、想像の5倍くらい多いと思ってください。自分の答案が十分問いに答えているかどうか、必ずチェックするクセを付けましょう。

※この問題の詳しい解説や、問題の解法、高評価を受ける答案の書き方などは、オープン授業日本史第1講にて扱っています。
ぜひこちらもご覧ください。

◎リード文の分析

書いてある情報は、「江戸時代の蝦夷地の動向」だけですね。蝦夷地とは今の北海道のことです。

◎設問の分析

まず時代設定は「18世紀中ごろ」。設問で書かれた時代設定は最重要です。資料文の年代が、設問の設定より先なのか後なのかを必ず意識しながら読んでください

次に、問われている内容が書かれていて、「蝦夷地は幕藩体制にとって、なくてはならない地域となっていた。それはどのような意味においてだろうか。」とのこと。
幕藩体制とは何かといわれると、大雑把に言えば江戸時代の支配体制ですが、細かく言うとキリがありませんし、政治、経済、外交・・・と色々な側面があります。問われていることや、資料文の内容から、どの側面のどの部分を取り出すのかを判断して、臨機応変に答案に盛り込むことになります。

この答えは、設問文の直後に「生産や流通、および長崎貿易との関係を中心に」という条件が書いてあるところから読み取れます。要するに、今回の主要テーマは主に経済面になるでしょう。

これをヒントに、蝦夷地や幕藩体制への切り口を考えていきます。

◎予備知識

この問題は、多少の予備知識がないと解けません。
東大日本史は、あまり知識が必要ないと評されることが多いのですが、不要なわけではありません。まずは知っておきたい予備知識を解説していきます。

蝦夷地について

日本と蝦夷地の歴史を簡単におさらいしましょう。

和人(日本人)とアイヌ人の交易は古くからありましたが、14世紀末~15世紀ころになると、蝦夷に道南十二館(日本人居住地の領主の館)がる造られます。そして津軽の安藤氏の支配下に属して勢力を拡大します。

1457年にコシャマインの戦いが起こり、蠣崎氏の客将の武田信広が鎮圧。武田氏が蠣崎氏を継いで和人居住地を支配します。その後、1599年に蠣崎氏が松前氏と改称し、1604年に家康からアイヌの交易独占権を御恩として知行されます。通常、御恩は土地を与えられますが、北海道は寒くて米がとれないため、石高(土地に対する米の生産量)土地が御恩として機能しません。そこで特別にアイヌとの交易権が与えられたのですね。
松前藩主は、藩士に対して「商場(あきないば)」という場所で交易する権利を知行します。これを商場知行制といいます。

1699年にシャクシャインの戦いという、全アイヌが団結して松前氏に反発する大規模蜂起が起きますが鎮圧され、これ以後、アイヌは全面的に松前藩に服従するようになります。

18世紀には松前藩氏が、商場での交易を和人商人に請け負わせて運上金を上納させる「場所請負制」がスタートします。この時、アイヌ人は労働力として過酷に労働させられたそうです。

この問題を解くだけであれば、ここまで細かい知識は不要ですが、江戸幕府が松前藩に交易権を知行していること、松前氏がアイヌ人を支配していること、商場知行制や場所請負制の意味合いなどは必要なので、押さえておいてください。

江戸時代の航路と、俵物の輸出

江戸時代には水運が非常に発達しました。
このうち長崎貿易に関係あるのは、西廻り航路です。松前藩の辺りからスタートし、日本海側の各都市に立ち寄りながら、関門海峡を通って、瀬戸内海を進み、大阪に至ります。
また、先ほども登場した場所請負制が始まり、和人商人が蝦夷に関わるようになると、北前船という新たな廻船が発達して一層、航路の重要性が増します。

 

他の航路もあるのですが、この問題では不要なので割愛します。

さて、関門海峡辺りで降ろされた蝦夷産の特産物は、陸路で長崎に運ばれ、清との貿易に使われました。蝦夷の特産品はいろいろあるのですが、ナマコやアワビ、フカヒレなどは俵物(たわらもの)と呼ばれて、珍品や貴重品として高価で取引されたそうです。
対価として輸入したのは金や銀。江戸時代は、商品経済がどんどん発達する一方で、金や銀の産出量が減ってしまい困っていた時代です。(そのため貨幣鋳造が8回も行われます)
よって、金銀の流入は江戸幕府の財政において非常にありがたい話だったのです。

ここまでの話も、日本史の通常の勉強で習うことかと思います。この内容を思い出せれば、蝦夷地が幕藩体制にとって不可欠な理由は見出せますね。

◎資料文の分析

資料文(1)

まず、資料文(1)です。
アイヌの生活の様子も書かれていますが、和人と交易していたことが書かれています。また、松前藩がアイヌ社会を掌握しようとしていることや、アイヌとの交易から利益を得ていることも書かれています。
ここでよく読むと、「藩やその家臣たちは」と書かれています。これは商場知行制のことだと読み取れますね。

以上は、予備知識と同じですので、特にここで補足は不要でしょう。

資料文(2)

1文目に「松前藩は交易を広く商人にゆだねるようになり」と書かれていますが、これは場所請負制のことです。2文目にも、商人が蝦夷地に殺到したことが書かれていますから、間違いないでしょう。また3文目にはアイヌ人を酷使したことも書かれています。
4文目には、西廻り航路や北前船のことが書かれていると捉えれば良いでしょう。
ここまでも予備知識通りです。

資料文(3)

蝦夷の産品ののことが書かれています。

ナマコやアワビのことは俵物のことだと解釈して、清との輸出に使われたと書けば良いでしょう。
初登場の情報としては「〆粕」ですね。これは資料文でも書かれているとおり、肥料です。

江戸時代は、米の生産性が上昇し続ける時代だという側面があります。肥料や農業具がどんどん開発され、米の生産量が増加していきます。米生産は、幕府財政の根幹ですから非常に重要です。また、先ほども説明しましたが商品経済が発達しますが、ここにも肥料は関わります。ということで、肥料の流通も幕府にとって重要な要素なのです。

時系列をどう考えるかについて

困るのが、時代の順序をどう処理するかです。

「設問文には18世紀中ごろまで」という縛りがありますが、資料文の時代が前後しているのです。

資料文(2)を見ると、1文目が「18世紀に入ると」とあります。これは問題なく答案に盛り込んで良いでしょう。2文目は「18世紀後半からは」とあり、設問の「18世紀中ごろまで」より後の時代になってしまいます。答案にそのまま盛り込むことはできません。

資料文(3)では「19世紀に入ると」とありますから、これも時代が後です。

この問題をどう処理すれば良いでしょう。

まず1つ目は、工夫して上手く日本語で表現し、全ての内容を盛り込んでしまうというものです。「後の〇〇の土台となった」などと書くことで、時代が先のことでも答案に盛り込めます。

もう1つは、気にせず書いてしまうというものです。
入試は厳しい時間制限の中で解かなければならないですから、多少のことには目をつぶり、答案を書き上げることを優先するという考えですね。実は、解答例や答案を見ると時系列をあまり意識していないものが、結構多く見つかります。気づいていないのか、気づかないふりをしているのかわかりませんが、相対評価において0点になるようなミスとはならないのではないでしょうか?

答案例

蝦夷地が松前藩を通して幕藩体制に組み込まれた後、場所請負制に移行すると、次第にアイヌの人々は蝦夷地に進出してきた和人商人の労働力となった。北前船の成長により流通網が発達し、商品作物の生産量を増大させる〆粕や、長崎貿易で金銀を獲得した俵物が流通して幕府の財政再建が促されたことにおいて、蝦夷地は労働力と肥料や輸出品の供給地として幕藩体制に不可欠な存在であった。

・色々書くことはあったのですが、かなり省いて1文目を書きました。寒くて石高を設定できないとか、商場知行制や、シャクシャインの戦いなどなど。今回は、あくまで幕藩体制にとって必要だという問いに答えるため、必要な情報のみを残す工夫をしています。

・1文目では、蝦夷地が幕藩体制の一部であること、和人商人の労働力になったことを書きました。私の答案の特徴や差別化のポイントとして、「蝦夷地が俵物や〆粕の生産地として重要だ」というだけでなく、「アイヌ人の労働力も幕藩体制を支えた」ということも書いた点があります。労働力としても重要という視点は、他の答案では指摘されていないポイントでした

・時系列の順序についても非常に悩みましたが、「交通網が発達し、商品作物の生産量を増大させる〆粕や」と、過去形を避けることで、ギリギリ逃れる書き方にしました。(したかった)

・北前船に対して「流通」、〆粕について「生産量」、俵物についても「流通」、輸入した金銀は「幕府の財政再建」と、設問の要求である「流通、生産、幕藩体制」に寄せる表現を多様しました。

・最後に、「労働力と肥料や輸出品の供給地として幕藩体制に不可欠」とすることで、幕藩体制になくてはならないという意味合いを強く押し出しました。

◎総評

予備知識もある程度必要で、資料文の読解もただ読むだけではなく予備知識と結びつける必要があること。記述面においては、多くの要素や側面を1文で表現し、なおかつ時系列も意識するということで、東大日本史の特徴が多く詰まった難しい問題です。

よく言えば、色々考えなければならないためバランスが良いとも言えます。この1問が完璧に解けるようになれば、他の多くの問題も予備知識の中身を変えれば解けるようになるでしょう。

また、予備知識については、この記事でたくさん書きましたが、かといって物凄くたくさん必要かというとそうではありません。また、蝦夷地の知識というのは、他の政治史などと大きくかかわるわけではありませんから、とっつきやすい問題ともいえます。

これらの事情を勘案して、オープン授業日本史の第1講で扱う問題として選びました。
東大日本史の攻略に必要な3要素、予備知識をどの程度持っていればよいか、資料文の読解はどうすれば良いのか、答案を書くまでの思考のプロセスや、サンプル答案の添削を通じて高評価の答案を書くためのメソッドなど、非常に盛りだくさんの内容となっています。また、東大日本史の初心者や、日本史を未習の方でも解説を聞けば理解して、東大日本史の攻略法が分かるように工夫して構成しています。

よろしければご視聴下さい。ご視聴はこちらのリンクから

 

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