2022年東大地理(第三問B)入試問題の解答(答案例)と解説
ブルーベリーの問題が印象に残る問題でした。
(2)や(4)は最新の資料集や教科書で特集コラムが組まれている内容ですので、新しもの好きの東大らしい問題だったとも言えます。
本問の(1)は中学入試ちっくな問題となっています。
東大2018年第3問以来です。
大学受験ものの参考書は、どうしても世界地理中心の紙面構成となり日本地誌が手薄になりがちですが、新設された地理総合と地理探究では日本国内の諸問題について考えさせる姿勢を強化していますので、手薄だった方は情報収集不足だったにすぎないとも言えます。
また、地理総合や地理探究の教材を手に取ったことがなかったとしても、2022年第3問Bは、 (1)のウを除いて、帝国書院の『地理の研究』などを読み込んでいれば解ける問題ばかりでした。
なので、 中学受験ものの参考書に手を出さずとも対策はできますので、安心してください。
それでは、各設問を見ていくとしましょう。
目次
設問(1)の解説
(1)について。東大地理に限らずですが、こうした客観式問題は極力取りこぼしがないようにしたいものです。
客観式問題は、学芸大学や新潟大学や北海道大学などでよく出されますので、東進過去問サイトなどを利用して定期的に解いてみると良いでしょう。
本問では、みかん・りんご・なし・うめ・ブルーベリーの生産TOP5が問われています。
ですが、「ア」と 「イ」のみを正解したくば、みかんとりんごにだけ着目すれば十分です。
この二つは、『地理の研究』(帝国書院2021ならp99「日本の果樹栽培」の項目)で、生産ランキング上位の県とともに、どのような環境で生育するのかも書かれています。
もちろん、一般的な社会常識として解くこともできますね。
中学受験のようにトップ5全てを覚えるようなことはしなくても解けますし、『日本国勢図会』や『データブック』を丸暗記する必要もありません。
ただ、「ウ」については、答えられなくても良いと私は思いました。
設問(1)の答案例と記述のポイント
Aさん ア―和歌山県 イ―長野県 ウ―千葉県
Bさん ア―和歌山県 イ―長野県 ウ―山梨県
Aさんは全問正解!
Bさんは「ウ」のみ間違われましたが、上述した通り、これは間違えても問題はない問題だと思います。
2B(1)のように後続の問題に影響を与えるわけでもありませんから気にする必要はありません。
設問(2)の解説
続けて、(2)です。設問では、ブルーベリーが東京都で盛んに栽培されている理由が問われています。
正直、 お恥ずかしながら、私は、ブルーベリーが東京都で栽培されていることすら知りませんでしたし、『地理の研究』や各社の教科書・資料集にも掲載されていませんでした(ただし地理探究の教科書にはしっかり書かれています。たとえば、2023年4月に刊行される二宮書店『地理探究』では特集記事が組まれています)。
ですが、この問題は簡単に解くことができました。
そのコツは合理的推論にあります。
おそらく、東大側は、本問を通じて、そうした能力を試そうとしていると私は思います。
本問にかぎらずですが、今年の東大地理は「どこかで見たことある問題」を見つけて機械的に解こうとする単純インプット型受験生を蹴落としにかかっている印象です。
そうした意味では、人によってはやや難に思えたかもしれません。
ですが、私はこれを見た瞬間「こんなのわかんないや。おそらく地理的思考を駆使せよってことだろうな」と考え、
- ブルーベリーとは? →いろいろ連想してみる→少し高いフルーツ? 目に優しい。粒が小さい。
- 「東京都」とは? 人→が多く住むところ。場所によっては地価が高い。敢えてそんな所で作ることの意義?
- 輸送費節減?購買者の多いところで作るメリット?高く売れるから?
といった具合に考え、農業経営の点で言えば、わざわざ地価の高い東京でつくるメリットはなんだろうと推論を重 ねて、答案をつくりました。
たとえ、「ブルーベリー 東京都」とググっても、なぜ東京でつくられているのかという理由までは検索で出てきません。
東大側としては、既存の知識をフルに活用して答えを見出す地理的思考を我々は重視していますよ、と本問を通じて声高に宣言しているようにも思えました。
設問(2)の答案例と記述のポイント
まずは設問を確認してみましょう。
設問(2)
表3―1によれば、ブルーベリーの収穫量第1位は東京都である。東京都でブルーベリーの栽培が盛んな理由を 1 行で説明せよ。
(敬天塾補足)表3-1は果樹生産出荷統計のランキングとなっています。
図をご覧になられたい方は、過去問集や東大ホームページに期間限定で掲載された過去問一覧をチェック願います。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
Aさん 新鮮さを要した運送の時間短縮や消費市場が大きく収入が多い。
Bさん 新鮮なままブルーリーを消費できる大消費地だから。
その上で、まずはAさんのご答案を見ていくとしましょう。
要素は良いと思います。
ただ、日本語がめちゃくちゃです。
「新鮮さを要した運送の時間短縮」とは何でしょうか。
これでは、「運送の時間短縮」が「新鮮さ」を必要とすると読めてしまいます。
また、「消費市場が大きく収入が多い」ですが、まあ、読めないことはないと思いますが、消費市場が大きいことと収入が大きくなる(収益が高くなる)の間はダイレクトに結び付けられないはずです。
収益性が高い作物だからこそ高く売れ、高く売れるからこそ収入が大きくなるわけですねl言われてみれば当たり前の話ですが、当たり前のことを書けていないわけです。
次にBさんですが、なかなかシンプルですね(笑)。
ブルーベリーの価値についても言及できたら良かったですが、こういう答案も嫌いではありません(笑)。
設問(3)の解説
引き続き、(3)に参りましょう。お題は、「ミカンの作付面積が一旦大きく増加しその後減少した理由」を 問うものです。
当然ですが、「一旦大きく増加し」「その後減少した」の2点について答えを書かねばなりません。
先ず、こうした初見の問題が出された時は、リード文や設問文、並びに与えられたデータの読み取りに尽きます。
まず、「一旦大きく増加し」た時期を見てみますと、1960~1974あたりまでですね。
1960年代 といったら、東大では頻出の高度経済成長期ですよね。
国民の消費購買力も大幅に高まった時期であります。
一般に景気が良くなれば、購買意欲が上がり、魅力的な商品に対する「需要」も高まります。
すると、生産者も供給を追いつかせようとガンガンにつくることになります。
そのためには作付け面積も比例して増えることになります。
しかしながら、「需要」が一旦下がれば、供給過剰となり、価格は下落します。
それを下げるために供給量を減らします。
この理は、なにもミカンに限ったことではありません。
経済の大原則です。
次に、「その後減少した」については、指定語句の「政策」「生産調整」が使えそうです。
なお、ここで「需要」を用いてももちろんかまいません。
「需要が減ったから、作付け面積も減った」といった具合に。
ただ、 「政策」やら「生産調整」については、少し戸惑った受験生も多いと聞きます。
ですが、「生産調整」ときいて、何かピンと来ませんか。
日本の農作物で「生産調整」「政策」ときたら、「コメ」が真っ先に思い浮かびますよね。
そう、減反政策です。
このことから、同じことをミカンにもやったんではないか?、と合理的な推論ができれば合格です!
設問(3)の答案例と記述のポイント
こちらもまずは設問を確認してみましょう。
設問(3)
図3―4をみると、みかん、りんごともに現在の作付面積は1960年比で減少しているが、その推移は両者で異なっていることが読みとれる。みかんの作付面積が一旦大きく増加しその後減少した理由を、以下の語句をすべて使用し、3 行以内で説明せよ。語句は繰り返し用いてもよいが、使用した箇所には下線を引くこと。
政策 需要 生産調整
(敬天塾補足)図 3―4 はみかんとりんごの 1960 年から 2018 年までの作付面積の推移を表しています。図をご覧になられたい方は、過去問集や東大ホームページに期間限定で掲載された過去問一覧をチェック願います。https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
Aさん 高度経済成長期の所得増でみかんの作付面積は増加したが供給過多に伴う生産調整や海外から安価なみかんが輸入自由化政策で輸入増加し、みかんの供給量が多く消費に釣り合わず減少していった。
Bさん 高度経済成長期には、需要の高まりに伴い作付面積も拡大されたが、輸入自由化で安価な外国産が流入し始めると高価な国産の需要が減って供給過多となり生産調整で生産縮小政策がとられたから。
それではみていくとしましょう。まずはAさん。本問では健闘されていますね!
良い答案だと思いました!
1箇所ケチをつけるなら「供給量が多く消費に釣り合わず」の「多く」が何より多いのかを示されていませんので、消費量より多くなった、供給過多になった、などと書き表せたら良かったと思います。
Bさんのご答案は完全解に近いのではないでしょうか。
A評価だと思います!
設問(4)の解説
そして、ラストの(4)です。「りんごの輸出量が増加している理由」を答えさせる問題です。
与えられた図表から外国での日本産リンゴに対する需要が高まっていることがわかります。
特に台湾や香港が顕著ですよね!
なぜリンゴをわざわざ遠い日本から輸送費やら諸費用を支払ってまで輸入する必要があるのかということです。
そもそも台湾や香港ではリンゴが作れない可能性があります。
あるいは、作れたとしても低品質なものしか作れないのかもしれませんね。
そして、輸送費やら諸費用を支払ってまで買うということは、日本で買うより割高になるはずです。
このあたりのことは教科書・資料集にきっちり書かれています。
リンゴが冷涼な気候でしか作れないこともです。
設問(4)の答案例と記述のポイント
設問(4)
図3―5と図3―6の輸出量をみると、みかんについては減少傾向である一方、りんごは増加傾向にある。りんごの輸出量が増加している理由として図 3―6 から考えられることを、2行以内で説明せよ。
(敬天塾補足)図 3―5 と図 3―6 は,みかんとりんごそれぞれについて 1990 年から 2018 年までの輸出量と輸出先を表しています。
図をご覧になられたい方は、過去問集や東大ホームページに期間限定で掲載された過去問一覧をチェック願います。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
Aさん 近年所得向上に伴い生活がやや奢侈化した為林檎等果物需要が増加した周辺国へ冷涼な気候を生かして輸出が拡大した。
Bさん 高価だが高品質で安全な日本産リンゴの需要が、アジアの新興国に形成された中高所得者層で高まっているから。
まずはBさんのご答案から見ていきましょう。
裕福な層が増えたことと、高品質な日本ブランドが好まれたことを理由に挙げていますね。
農産物のJAPANブランドは、世界で人気を博していますし、とても良い視点だと思います。
りんごの栽培に適さないことも書けたらベストでしたが、答案構成としては悪くないと思います。
引き続き、Aさんについて見ていくとしましょう。
パーツは悪くはありません。
ただ、わざわざ図表で国名まで挙げられている中、「周辺国」とざっくり書いてしまっているのが減点ポイントです。
また、この「周辺国」を形容する形で「近年所得向上に伴い生活がやや奢侈化した為林檎等果物需要が増加した」を書いているわけですが、正直長すぎますし、採点官が違った風に解釈する可能性もなくはないです。
そして、気候に着目できた点は優れているのですが、「冷涼な気候を生かして」とざっくり書いてしまうよりは、日本の冷涼な気候を生かして栽培された林檎とでも書けたら良かったかもしれません。
まとめ
最後に、本問に関して東大教授が発表したメッセージを最後にお伝えしたいと思います。
(東大教授からのメッセージ)
日本の果樹生産について、その地域的特徴や時系列変化に対する理解を問いました。時系列変化については、統計データを読み取り、食生活、気候、農業政策などの基礎知識と関連させながら総合的に説明することを求めました。
長々と解説をして参りました東大地理2022解説講義は以上で完結となります。
相当な文量だったと思いますが、敬天塾の授業で生徒たちに伝えている思考プロセスを出し惜しみせず公開したつもりです。
もちろん、他年度のパターンで有益な知識や技など、本稿で語り尽くせなかったことも多くあります。
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