2019年 東大国語 第2問(古文)『俳諧世説(はいかいせせつ)』解答(答案例)と現代語訳
目次
- はじめに
- 解答例(答案例)とプチアドバイス
- (一)傍線部ア・イ・カを現代語訳せよ。【各1行】
- ア うるさく思ふ人もあらんと、
- イ 程あるべき事なり。
- カ あらはれたる上は是非なく
- (二)「行くまじき方までも尋ねけれども」 (傍線部ウ) を、誰が何をどうしたのかわかるように、言葉を補い現代語訳せよ。【1行】
- (三)「我が知らせしとなく、 何町、何方へ取り返しに遣はし給へ」 (傍線部エ) とあるが、隣家の内室は、どうせよといっているのか、説明せよ。【1行】
- (四)「さては我をはかりてのわざなるか」(傍線部オ) とあるが、嵐雪は妻をどうだましたのか、説明せよ。【1行】
- (五)「余り他に異なる愛し様」(傍線部キ) とあるが、どのような「愛し様」か、具体的に説明せよ。【1行】
- 本文と現代語訳の併記(JPEG)
- 本文と現代語訳の併記(PDF)
- 現代語訳
- 【さらに深く学びたい方のために】
はじめに
2019年と2020年の東大古文は非常に簡単でした。
読解が簡単な年こそ、記述力で差が付くので、しっかり設問に答える解答が書けるように訓練しましょう。
解答例(答案例)とプチアドバイス
(一)傍線部ア・イ・カを現代語訳せよ。【各1行】
ア うるさく思ふ人もあらんと、
答案例:わずらわしく思う人もいるだろうと、
プチアドバイス:単語力「うるさし」がわかるかどうかを問われています。
イ 程あるべき事なり。
答案例:限度があるはずのことである
プチアドバイス:「べし」の訳は難しいけれど東大では時々、傍線が引かれますので対策しましょう。ここでは確信推量・当然(~はず)と適当(~のがよい)が当てはまります。
カ あらはれたる上は是非なく
答案例:嘘が明らかになった以上はどうしようもなく
プチアドバイス:「ばれた」とも訳したくなりますが、口語的表現なのでおすすめしません。「露見する・発覚する・明らかになる」などに言い換えたいです。
「仕方なく」も「しょうがなく」と書くと口語的になってしまいます。
(二)「行くまじき方までも尋ねけれども」 (傍線部ウ) を、誰が何をどうしたのかわかるように、言葉を補い現代語訳せよ。【1行】
答案例:嵐雪の妻が、猫が行くはずのない場所までも猫を捜しに行ったけれども、
プチアドバイス:「尋ねる」は「尋ねる」のままでは質問するの意になってしまいます。「探し求める・捜索する」などに言い換えましょう。
(三)「我が知らせしとなく、 何町、何方へ取り返しに遣はし給へ」 (傍線部エ) とあるが、隣家の内室は、どうせよといっているのか、説明せよ。【1行】
答案例:自分が知らせたことは隠して、猫を取り戻しすために預け先に人を送れ(と言っている)。
プチアドバイス:「何町、何方へ」の部分はそのままでも、省略するのでも良くないので、「預け先」「猫の居場所」などに言い換えましょう。
(四)「さては我をはかりてのわざなるか」(傍線部オ) とあるが、嵐雪は妻をどうだましたのか、説明せよ。【1行】
答案例:自分で猫を他所に預けておきながら、妻を捜し求めて消えたとだました。
プチアドバイス:猫が消えた原因が、妻の外出(猫を不安にさせた)という風に、責任を押し付けている点も入れたいです。(本当に意地の悪いだまし方…)
(五)「余り他に異なる愛し様」(傍線部キ) とあるが、どのような「愛し様」か、具体的に説明せよ。【1行】
答案例:人間より贅沢な布団や食器を与え、いつも離さず、忌日にも生魚を食べさせた愛し方。
プチアドバイス:「具体的に」とある時は、漏れが無いようにまとめたいものです。
本文と現代語訳の併記(JPEG)
本文と現代語訳の併記(PDF)
2019年『俳諧世説』現代語訳現代語訳
嵐雪の妻は、唐猫で容姿が良い猫を可愛がり、美しい布団を敷かせ、食べ物も普通ではない上等な容器に入れて、いつも膝のそばを離さなかったので、「弟子や友人などにも、わずらわしく思う人もいるだろう」と思って、嵐雪は(妻に向かって)時々は、「動物を可愛がるにも、限度があるはずのことだ。人間よりも良い敷物・器、食べ物(を与えること)も、精進しないといけない日にも、猫には生魚を食べさせるなども、良くないことだ」とつぶやいたけれども、妻は(夫の愚痴に)我慢しても、これ(=愛猫への態度)を改めなかった。
さて、ある日、妻が里に行った時に、(自分が)留守にする間、外に出ていかないように、その猫を(綱で)つないで、いつもの布団の上に寝させて、魚などとたくさん食べさせて、くれぐれも(猫の)綱を緩めないように頼んでおいて、出ていった。嵐雪は「あの猫をどこへなりとも追いやって、妻を騙して猫を飼うことをやめ(させ)よう」と思い、予め約束していた所があったので、遠い道のりを隔てて、人に命じて(猫を)連れて行かせた。妻が、日が暮れて帰宅し、真っ先に猫を捜すが見当たらない。「猫はどこへ行っていますか」と尋ねると、(嵐雪は)「そう、(その件だが、)あなたの後を追ったのだろうか、しきりに鳴いて、綱を切るほどに騒いで、毛も抜けて、首も絞まるほどになったので、『あまりにも苦しいだろう』と思い、綱をゆるめて魚などもあげたけれども、食べ物も食べないで、ただうろうろと(あなたを)捜す様子で、玄関や裏口・二階などを行ったり来たりしたが、それから外へ出たのでしょうか、近所を捜すけれども、今も見当たらない」と言う。妻は、泣き叫んで、(猫が)行くはずがない場所までも捜し回ったけれども、(猫は)戻ってこなくて、三、四日過ぎたところ、妻が泣きながら(俳句を詠んだ)のが、
猫の妻。どんな方が、(私の愛猫を)奪っていったのか。 妻
このように言って、気分がすぐれなくなりましたので、妻の友人である隣家の奥さん、この人も猫好きであったが、嵐雪が企んで(猫を)よそに連れて行ったことを聞き出して、こっそりと嵐雪の妻に告げ口し、「(あなたの愛猫は)無事でいるようです。決して心を痛めなさらないでください。私が知らせたとは内緒で、何町、何方へ取り返しに使いを送りなさい」と語ったところ、妻は「このようなことがあるはずがあろうか。いや、(普通は)あるはずがない。私の夫は、(私が)猫を可愛がることに恨みがましく申しなさっていたが、それでは、私を騙しての行為なのか」と様々、恨みがましく論争した。嵐雪も嘘が明らかになった以上はどうしようもなく、「確かにあなたを騙して(猫を)連れて行かせたのだ。常々言うように、あまりにも普通の人とは違う可愛がり方である。非常に悪いことだ。繰り返し(今後も)、私が言うようにしないようならば、取り返してはいけない」と、様々言い争ったところ、隣家や弟子などがいろいろ言って(仲裁に入って)、妻に謝らせて、嵐雪の(怒りの)心を落ち着かせ、猫も取り返し、平穏になったところ、(嵐雪が詠んだ)
一月初めの夫婦喧嘩を人々に笑われて
(仲直りして私達夫婦が猫を見て)喜ぶのを見なさいよ。
初子の小さなほうきを(ねずみ相手のように)猫が(喜んで)じゃれているよ。
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