2020年 東大国語 第3問(漢文)『漢書』解答(答案例)と現代語訳
目次
はじめに
驚くほど読みやすい年でした。
こんな年は、よく見直しして、不自然な日本語が無いかを確認しましょう。
答案例とプチアドバイス
(一)傍線部a・c・dを現代語訳せよ。【各0.5行】
a獄ヲ決スルコト平ラカニシテ
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名。
答案例:裁判の判決が公平であり
プチアドバイス:「平」は公平です。平和や平等だと判決の評価として適切ではないです。
c我ニ事(つか)フルコト
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点のみ
答案例:私の世話をして
プチアドバイス:「つかえて」でも良いと思われます。
d孝ヲ以テ聞コユレバ
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点のみ
答案例:孝行であると評判が高く〔高いので〕
プチアドバイス:古文単語でも「音に聞く」で評判が高い・有名であるという意味です。百人一首にも「音に聞く~」とありますね。
このように古文の知識で解けることもあります。
(二)「姑之ヲ嫁ガシメント欲スルモ、終ニ肯ンゼズ。」(傍線部b) を、人物関係がわかるように平易な現代語に訳せ。【1行】
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点のみ。
答案例:姑は嫁を再婚させようとしたが、嫁は最後まで再婚に同意しなかった。
プチアドバイス:「嫁がせようとした」と書いてしまうと、初婚のことなのか再婚のことなのか、明らかではありません。
東大がわざわざ「人物関係がわかるように」と書いているのは、ここのことです。なお、「肯んぜず」の主語も省略せずに明記しましょう。
(三)「于公之ヲ争フモ、得ル能ハズ」(傍線部e)とはどういうことか、わかりやすく説明せよ。【1行】
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名。
答案例:于公は、孝婦は無実だと太守に訴えたけれども、説得できなかったということ。
プチアドバイス:「争フ」の言い換えと、「得ル能ハズ」の言い換えの両方が必要です。
(四)「郡中此ヲ以テ大イニ于公ヲ敬重ス」(傍線部f)において、于公はなぜ尊敬されたのか、簡潔に説明せよ。【1.5行】
※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名。
答案例:ひでりの原因は孝婦を冤罪で殺したことだと説き、後任の太守に孝婦を祭らせ、雨を降らせることができたから。
プチアドバイス:「ひでり」「冤罪」「祭り(供養)」そして「雨を降らせた」という要素が必要です。
本文と現代語訳の併記(JPEG)
本文と現代語訳の併記(PDF)
2020年『漢書』現代語訳現代語訳
于公は県・郡の裁判を司る役人であった。
判決が公平で、法律を犯した者も、于公の判決には、みんな恨まなかった。
東海郡に、孝行な嫁がいる。若くして未亡人となり、子供もいない。
姑の世話をすることにおいて、とても礼儀正しく誠実であった。
姑は嫁を再婚させようとしたが、(嫁は)最後まで(再婚に)同意しなかった。
姑が隣人に言うには「孝行な嫁が、休まず努力して私の世話をしてくれる。彼女が、子供がいないのに独り身を守るのはいたわしい。私は年老いて、長く若者(である嫁)に苦労をかけている。どうしたらよいのだろうか。」
その後、姑は自分で首を吊って死んだ。姑の娘が役人に告発することには、
「嫁が私の母親を殺した」。役人は孝行な嫁を逮捕した。
孝行な嫁は「姑を殺していない」と供述した。(ところが)役人が取り調べると、孝行な嫁は自分で事実を偽って刑に服すことになった。
裁判に関わる文書一式が郡の役所に提出された。
于公は「この嫁は姑の世話をすること十年以上で、孝行として評判だ。絶対に殺していない(はずだ)」と思った。
(しかし)郡の長官は(于公の孝婦は無実だという主張を)聞き入れない。
于公はこのことを論争したが、(理解を)得ることができなかった。
于公は)なんと、裁判に関わる文書一式を抱えたまま、声を上げて泣き、そこで病気になったと言って職を去った。
太守は結局、判決を言い渡し、孝行な嫁を処刑した。
(その後、)郡中がひでりになること三年。後任の長官がやってきて、その(ひでりの)原因を占った。
于公が言うには、「孝行な嫁が死罪に該当しないのに、前任の長官が無理やり死刑を断行した。(ひでりという)天罰の原因となった罪は、ひょっとするとこの点にあるのではないか」と。
そこで、長官は(捧げものとして)牛を殺し、自身で孝行な嫁の墓をお祀りし、そして墓に墓標を立てた。
(すると)空から急に大雨が降り、作物が実り成熟した。
郡の人々はこれによって大変于公を尊敬して大切にした。
【さらに深く学びたい方のために】
敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。
ご興味頂いたかたは、以下のリンクからどうぞご利用下さい。
映像授業【東大漢文 漢詩編】(東大2011年白居易の詩:設問別の「よくあるミス」付)