2023年東大地理(第2問A)入試問題の解答(答案例)・解説

水産物の養殖業にフォーカスをあてた国際比較の問題でした。
水産業にフォーカスをあてた問題は、東大2013年度第2問C、古くは1989年度第1問でも出題されています(敬天塾オリジナルの過去問分析表を是非ご参照ください)。
近年の地理学習指導要領大改訂と、それを受けての入試制度改革を受けて、水産業や農業といった人間の暮らしに直結する産業に関する出題割合が今後増えていくことを敬天塾では警鐘を鳴らしていましたが、昨年度の第3問Bなどにつづいて、今年も東大は第1次産業にスポットライトをあててきました。

本年度の共通テスト本試験におきましても、ウナギの養殖に関する問題が出題されましたが、そこを起点に国勢図会シリーズや教科書・資料集で周辺知識の確認をしっかり出来た受験生にとってはサービス問題だったと言えます。
世界の水産業の実態については、2023年度に新設される地理探究の教科書でも多くの特集記事が設けられており、出題可能性が高まっていました。既存の参考書では記述が浅いものも多いですから、改めて最新の教科書と資料集で学習することを心がけていただきたいです。
さて、ここで、世界の水産業の実態についてご紹介したいと思います。

令和3年度水産白書より https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r03_h/trend/1/t1_4_1.html

こちらの図を眺めつつ、今度は有名な『世界国勢図会』と『日本国勢図会』の水産業に関するページをご覧ください。
なお、単価が高いので、なかなか手が届かないという方は、図書館で借りるのも良いでしょうし、年度落ち版であれば出版社さんが特別に無料公開していますので、使わない手はないですね!

                          https://yanotsuneta-kinenkai.jp/databook/backnumber.html

なお、今年度の東大入試直前に、塾生に配布した資料の一部を公開いたします。
題材は上述いたしました今年度の共通テスト本試験で出題されたウナギ問題です。

前置きが少し長くなりましたので、設問の解説に入りたいと思います。

【リード文】

表2-1は, 水産物の養殖業が盛んないくつかの国を取り上げ, 1990年と2020年の生産量とその比, 2020年の生産量の水域別の割合, 2020年の生産量に占める水生植物(主に海藻類) の割合を示したものである。

設問(1)

表2-1のア, イ, ウに該当する国名を, 韓国, ベトナム, チリの中から選んでアー〇のように答えよ。

このような図表読み取り問題では、ぶっ飛んだ数字に着目することが大事です。
せっかくですから、ア、イ、ウそれぞれの数値のうち顕著なものを色分けしてみたいと思います。

いかがでしょうか。
上記の表のどこから攻めるかは、人それぞれですが、水生植物が海藻であることに気付けると、韓国海苔からイを韓国に決めることもできたかもしれません。
淡水域での養殖が盛んということは、国土を走る巨大な河川や大きな湖があることが推察されます。

チリには国土を縦断する大河はありませんし、目の前の太平洋で養殖すれば良いわけですから、「ア」ではなさそうです。
では、ベトナムと韓国を比較した時、大河があるのはどちらかといえば、インドシナ半島の生命の源と言われるメコン川を擁するベトナムが「ア」となりましょう。
イとウについては、仮に韓国海苔が思いつかなかったとしても、1990年、つまり今から30年以上前に「イ」の養殖生産量がア〜ウの中ではぶっちぎりだったことに着目すれば韓国が「イ」だと特定できます。
なぜなら、養殖施設は建設や維持に膨大なコストがかかりますが、太平洋という好漁場が目の前に広がるチリがわざわざ30年前の段階で養殖に舵をきるとは考えづらいからです。
他にも、もっと面白い切り口があるかもしれませんので、ぜひコメント欄などで教えていただければと思います。

(解答)

ア- ベトナム   イ- 韓国  ウ- チリ

設問(2)

1990年~2020年にかけては,  全世界の水産物の養殖生産量に著しい増大がみられた。その背景を, 水産物の需要供給の両面に注目し2行以内で述べよ。

本問は、知識問題です。
教科書や資料集などで、養殖生産が激増していることを知っているか否かで運命が大きく変わります。
また、冒頭で述べたように、東大2013年度第2問をしっかり復習できていた受験生にとっては、サービス問題だったとも言えます。
ただ、ここで気をつけなくてはならないのは、設問が「水産物の需要」と「(水産物の)供給」の2点を求めていることにあります。
意外に、片っ方しか書いていない答案も多く見受けられますので、問われていることにちゃんと答える姿勢を最後まで貫いてください。
さて、両者について、箇条書きでいくつか視点を示したいと思います。

(需要)

  • 健康志向の高まりで魚介類の消費が増大している
  • 生活水準の向上により魚食習慣の強いアジア地域では水産物需要が激増
  • 最大の人口増加が予想されるアフリカ地域での動物性たんぱく質摂取量の増加

                                   令和2年水産白書 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r02_h/trend/1/t1_f1_1.html

(供給)

  • 漁獲量が世界的に減っている
  • 輸送技術の発達で水産物の国際取引が活発になっている
  • 養殖技術の発展(最近では陸上養殖技術も開発されている。冷凍技術なんかも面白い視点)

ひとまず、このあたりを60字以内でまとめれば合格答案になると思います。

(解答例)

新興国での健康志向や生活水準向上、途上国での人口爆発で需要が激増し、世界的な漁獲量減少を補う養殖や輸送の技術が発展した。(60字)

設問(3)

表 2-1の国のうち,  中国, インドネシア, ア国の淡水域(A), インドネシア, ア国の汽水域 (B), ウ国, ノルウェーの海水域 (C) のそれぞれにおける代表的な水産物の名称と養殖が行われる場所の地形ないしは生態環境を, Aー水産物, 地形ないしは生態環境のように答えよ。

本問も客観式問題であるが、設問文の日本語があまり上手くはない。考えずに読むと、インドネシアが2回出てきてビックリした受験生もいたかもしれません。問題文を言い換えるなら、

「中国・インドネシア・ベトナム(ア国)」における淡水域をA
「インドネシア・ベトナム(ア国)」における汽水域をB
「チリ(ウ国)・ノルウェー」における海水域をC

とした上で、それぞれの

  • 代表的な水産物の名称
  • 養殖が行われる場所の地形ないしは生態環境

を答えなさい、という設問要求です。
ちょっと分かりづらい問題文でしたね。さて、本問に手こずった方がそこそこいらっしゃったと聞きます。
ただ、教科書や資料集にはバッチリ載っているんです。

ノルウェーサーモンの話、マングローブ林で育てるエビの話、コイなどの淡水魚を中国では大量に養殖している話、いずれも『complere地理』や『世界の諸地域NOW』といった資料集や、帝国書院や二宮書店の教科書にはこらむのような形で記載がありましたので、東大教授からするとサービス問題として出されたのかもしれません。
ただ、情報がなかなかアップデートされない市販の参考書だけで勉強していた方にとっては若干酷な問題だったかもしれません。
それでは、解答例のご紹介をいたします。

(解答例)

Aーコイ、河川(湖)  Bーエビ、マングローブ林   Cーサケ、フィヨルド

設問(4)

今日の水産物の養殖業はその持続性において様々な課題を抱え, 解決に向けた取り組みがなされている。 その内容を以下の語句を全て用いて2行以内で述べよ。 語句は繰り返し用いてもよいが、 使用した箇所には下線を引くこと。

    稚魚            生態系

本問は様々な切り口が観念されます。敬天塾の映像授業でも述べた通り、「功罪」を意識した学習を日頃からちゃんとやってくださいね、と本問を通じて東大教授は受験生に訴えています。
水産庁の資料に詳しいので、ぜひ御一読いただきたいところですが、魚を育てるためにエサを大量投下することや、狭い空間で育てるために養殖魚は病気になりがちであることから薬品などを大量投下することで、海洋汚染や生態系の破壊といった問題が起きています。

(水産庁資料リンク)https://www.jfa.maff.go.jp/e/annual_report/2013/pdf/25suisan1-1-2.pdf

  (日経記事リンク) https://www.nikkei.com/article/DGXNZO62202330W3A101C1XE1000/

また、養殖するために、稚魚を乱獲することで水産資源の枯渇化が危惧されるようにもなっています。
そこで、人工孵化による完全養殖を実施するようにもなってきています。

(完全養殖とは)https://eco-word.jp/html/01_seitaikei/se-27.html

(養殖魚のワクチン) https://www.yoshoku.or.jp/vaccine/

なお、養殖業と栽培漁業の違いについて、帝国書院の『地理の研究』(2021年版ならp106)でも比較表が挙げられていますので、ご参照ください。

ただ、このあたりのことを知らずとも、設問文における「持続性において様々な課題」「解決に向けた取り組み」という文言、並びに指定語句の「稚魚」と「生態系」の話から推察することはできるのではないでしょうか。
様々な課題があるわけですから、生態系を破壊するといったフレーズは容易に思い起こせるでしょうし、冒頭でもご紹介した2013年第2問を復習する際に周辺知識を合わせてしっかり確認された方なら、稚魚がどんどん減っていることは知り得たはずですから、その辺りをまとめるだけでも及第点はいただけたはずです。
このような見たことのない問題を前にした時は、設問やリード文や指定語句から関連諸事項を連想する思考習慣を身につけるようにしましょう。

さて、それでは、解答例のご紹介です。

(解答例)

養殖飼料や薬剤による海洋汚染や稚魚の乱獲などで生態系の破壊が進んだため、完全養殖やワクチン開発等の技術革新が進んでいる。(60字)

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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2023年東大地理(第2問A)入試問題の解答(答案例)・解説” に対して3件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    (4)、指定語句の「生態系」が入ってません

    1. 担当者 より:

      ご指摘ありがとうございます!答案例を修正しています。

  2. 匿名 より:

    (1)の問題、ありきたりな発想ですが、私は汽水域→マングローブ林という思考回路で最初にベトナムを特定しました。

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