2023年東大地理(第3問A)入試問題の解答(答案例)・解説

本問は、東大頻出の地形図読み取りと自然災害をテーマにした問題でした。
地形図読み取りに苦手意識を持たれている受験生が相当数いますが、たいていは食わず嫌いのようなもので、適切な訓練をしていないケースがほとんどです。
2022年に新設された地理総合や、2023年に新設される地理探究では、GISSやハザードマップなどの特集が多く組まれており、今後ますます地図読み取りの出題頻度が増すものと思われます。
帝国書院の『complete2023』や『世界の諸地域NOW2023』といった資料集には付録で白地図がついてきますから、ぜひ基本的な地形図読み取り訓練は早いうちから始めていきましょう。

それでは、設問解説にうつりたいと思います。
地形図は東大のホームページや東進過去問サイトなどで問題冊子をダウンロードしてご確認ください。
今回取り上げられたのは、2014年8月に豪雨によって深刻な土砂災害に見舞われた広島市の地形図でした。この未曾有の災害から見えた課題については、いくつもの記事が出ているので、ぜひご覧ください。

  • 土砂災害がたびたび起こる広島 建設された砂防ダム106基

https://news.yahoo.co.jp/articles/d5e0f9eb694e53f5afadc31b5cb99ac4182712db

  • 広島土砂災害から見えた課題

https://www.projectdesign.jp/201410/flood-control/002235.php

設問 (1)

図3-1において, 鉄道より北西側の住宅地域と概ね重なる地形の名称を答えよ。

地図を掲載できないのが心苦しいところですが、北西側に住宅地域周辺の等高線に着目すれば扇状地とすぐにわかることでしょう。
確実に正解したい1問でした。
ただ、ここで話を終わらせるのではなく、後背湿地なら住宅に適しているのか(低地で水はけが悪く粘土地盤なので地盤沈下が発生しやすい)、自然堤防なら住宅に適しているのか(液状化のリスクなどがある)といったように、どのような土地が住宅建設に適不適なのかをまとめてみると学びが大きいと思います。
自然災害と人々の生活との関係については、東大が繰り返しあの手この手と形を変えて出題してきていますので、敬天塾オリジナルの過去問分析シートを活用して過去問探究を進めましょう。

東大地理分析表(1983~2024年)ダウンロード可能

(解答)

扇状地

設問(2)

図 3-1中の山地には, 主に土地被覆に関する2種類の地図記号がみられる。 それらの地図記号が示す土地被覆と地形との対応関係を1行で説明せよ。

まず、土地被覆という見慣れない言葉がありますが、読んで字のごとく、土地を覆うものを指します。
森林や草原、水や砂やアスファルトといったもので、大地はカバーされていますよね。
それを小難しく表した言葉が土地被覆です。
本問では、与えられた地図中にの地図記号から、どんなものが存在しているのか説明せよと問われているわけですが、一瞬わからなければリード文や後続の設問文にヒントがないか探す姿勢が東大地理では重要です。
すると、(3)と(2)が連動していることに気づけますから、そこをヒントに地図中のAとB領域周辺に目を凝らして再考してみると糸口が見えてくるでしょう。
答えからいうと、針葉樹林と荒地の地図記号があることに気付けるはずです。

国土地理院ホームページより

荒地の地図記号は答えられなかった受験生も多かったかもしれませんが、せめて針葉樹林くらいは小学生でも学ぶものですから正解したいところでした。

(解答例)

尾根には針葉樹林が広がり、谷には荒地がみられる。(24字)

設問(3)

図3-1の山ぞいには, 図中にA,Bで示すような人工構造物が多数みられる。これらの構造物は, 2014年に発生した自然災害の後に建設されたものである。これらの構造物が建設された目的を, (2)の土地被覆の成立要因も考慮して2014年に発生した自然災害の特徴とあわせて, 3行以内で述べよ。

まず、AとBは山のふもと付近ですから、ここで甚大な自然災害が起こるとすれば、大雨による土砂災害がまず第一に想起できます。
土砂災害の後に建設されたものであれば当然、土砂災害対策の建造物になるはずです。
ここで、砂防ダムという言葉がスパッと出てくると良いですが、思い浮かばなくとも「土石流を防ぐダム」「土砂災害の被害を抑えるダム」といったように何とか表現するくらいの気概は必要です。
なお、砂防ダムの仕組みは以下のミニ動画をぜひご視聴ください。

https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005301089_00000

さて、指定字数が90字とかなりボリュームがありますから、もう少し言葉を添えたいものです。
そこで改めて設問文を読んでみると「(2)の土地被覆の成立要因も考慮」せよと求めていることがわかります。
仮に(2)の答えが出ずとも、土砂災害やら土石流が発生しやすい土地被覆であることは容易に想定できます。
土砂災害が起きやすい条件とは何でしょうか。

土壌の保水力が乏しいことがまず第一に挙げられます。
森林伐採に関する文脈でよく語られるテーマですが、杉などの針葉樹の場合も保水力が乏しくなります。
針葉樹は広葉樹のように縦ではなく横に根を張るため根が浅くなるのだそうです。
また、スギの葉には油分が多く腐葉土になりにくいため森林の保水力が乏しくなるといった研究もあるそうです。
ただ、こんなことを知らずとも、東大2018年第3問B(2)をしっかり復習していたならば、この設問(3)も設問(4)も容易に解答方針を立てられたはずです。
ご参考まで、ご紹介いたします。

2018年第3問(2)

広島と鹿児島において、都市域の拡大によって増大した自然災害のリスクのうち、両都市で共通するものを2つ挙げ、その特徴をあわせて2行以内で述べなさい。

解説記事はこちら

ちなみに、2023年度二宮書店地理探究教科書p62には写真付きで2014年8月に広島で発生した土石流が紹介されており、そこでは「積乱雲が次々と発生して連なる線状降水帯による集中豪雨で、同時多発的に土石流が発生した。」とあります。

やはり、教科書・資料集・過去問の3つが東大地理制覇の要だと言えましょう。それでは、解答例です。

(解答例)

線状降水帯による集中豪雨で保水力の乏しい人工林や荒地に水が大量に流れ込んだ結果、同時多発的に土石流が発生したことを受け、住宅地への被害を最小化すべく谷口付近に砂防ダムが建設された。(90字)

なお、本問に絡んでは、以下の内閣府防災ページもご覧ください。

https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/r04/105/special_01.html

さらに深く探究されたい方は、広島大学教授による論文をご参照ください。

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/25762/20141016152445513261/StudEnvSci_1_55.pdf

設問(4)

この地域では, 1970年代以降に宅地化が進んだ。 こうした災害リスクの高い土地でも宅地化が進んだ理由として考えられることを2行以内で答えよ。

前の設問でもご紹介した通り、東大2018年第3問(2)を周辺知識含めてしっかり復習できた受験生にとってはサービス問題でした。
過去問集としては、駿台文庫が出している青本や『東大入試詳解25年』が市販されているものの中では割と情報量が多いのでベターだと思います。

災害リスクの高い土地には普通誰だって住みたくはないはずです。
それでも、住宅を建設するのには何か逼迫した事情があるわけです。
1970年代以降に宅地化が進んだということから、それくらい人が集まりやすい都市だと推察できます。
都心部は70年代以前から既に土地開発されているはずですから、70年代以降に「新たに」開発されたということはベッドタウンの可能性が高いです。
ベッドタウンの条件は何でしたか?

都心部までの交通の便が良いことも重要条件でしたね。
必ず教科書や資料集などで周辺知識を総ざらいしておきましょう。
こうして、急増した人口に見合う住宅が不足したことを受け、郊外の地価の安い山麓にまで住宅開発が及んだわけです。
このあたりを解答にまとめれば良いでしょう。

(解答例)

都市化に伴い人口が急増し住宅不足が顕著になる中、交通インフラが整備された郊外の地価の安い山麓まで開発する他なかったから。(60字)

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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映像授業コース(旧オープン授業)【東大地理】

設問(4)に関連する授業として、
映像授業コースの、「日本地理特別編災害と可住地面積割合」編や「日本地理各論第一講〜災害編〜」でも詳しい解説をしておりますので、ご興味ございましたらご視聴ください。

【東大地理】日本地理 総論と各論第一講〜災害編〜

【東大地理】日本地理 特別編〜災害と可住地面積割合〜


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