2018年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説
地球環境と気候に関する問題でした。
基礎知識を問う典型問題もあれば思考力を必要とする問題もあって、「さすが東大」というべき良問だったかと思います。過去問演習を通して東大地理に必要なエッセンスを得ましょう。
設問A
二酸化炭素濃度の過去の変化とこれからの予想を図に表して地球環境について考えさせる問題でしたね。二酸化炭素濃度の増加と減少の2つの側面から考えることがキーポイントでしたが、こうした多角的な視点はとても大切なのでぜひ学んでいってください。
設問(1)
二酸化炭素濃度が全体として増加している理由を人間活動によるものとしてその活動を2つ答えさせる問題です。
この問題は先程述べた通り、増加と減少の2つの側面から考えられます。
つまり、
・増加が促進されている理由
・減少が抑制されている理由
を考えてみると良いでしょう。
増加が促進されている理由として、温室効果ガスが地球上で増加することが挙げられます。温室効果ガスといってもメタンガスやフロンガスなど様々ですが、今回は題意に沿って二酸化炭素に関して考えてみましょう。
二酸化炭素を排出する人間活動としては原油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の燃焼によって排出されることは知っていますね。
次に、減少が抑制されている理由ですが、二酸化炭素を減少させる存在といえば植物ですね。農業用地の確保や鉱産資源開発などによって熱帯雨林が過剰に伐採されている環境問題はよく知られていますが、こうした森林資源の過剰伐採は二酸化炭素濃度を光合成によって減らしてくれる存在を少なくしていることに等しいのです。
熱帯雨林といえば、発展途上地域での人口爆発が焼畑農業を過剰にさせ、森林が減少していることも書けますし、燃やす段階で二酸化炭素も排出されているので二重に二酸化炭素濃度を増加させる原因になっていますね。
これらの活動を2つだけ書けたら十分でしょう。
設問(2)
1958年から細かく増加と減少を繰り返している理由を述べる問題です。これも増加と減少の2つの側面から考えなければなりません。
図を見るとピッタリ1年単位で増加と減少を繰り返していることが分かります。例えば、横軸の10年で区切って、山がいくつあるか数えて見て下さい。(下図参照)
ここで(1)の森林が二酸化炭素を吸収する点とつなげて考えられると分かりやすかったでしょう。落葉広葉樹を例にしてみると、夏季には葉が多くて光合成が盛んになり、二酸化炭素をたくさん吸収しますが、冬季には落葉して光合成が抑制され、二酸化炭素の吸収量も減少します。
ここで、ひとつの疑問が生まれたかもしれません。それは、「季節変化が原因なら北半球が冬の時でも南半球は夏なので変わらないんじゃないか」という疑問です。たしかにそう考えると季節変化による二酸化炭素濃度の変化というのは不適当なように思えます。しかしながら、季節変化というものは等しく訪れますが、植物の絶対的な量では南北で差が生まれます。北半球の方が陸地が多いことを考えると、その分森林が多いことが予想できます。
答案骨子としては、植物量が違うために季節によって二酸化炭素濃度が増減するということを書きましょう。
なお、この問題を敬天塾のゼミ授業中に検討した際、「ハワイの観測だから、ハワイ周辺の変化に注目した方が良いのではないか」とか「ハワイの観測所と書かれているので、北半球に森林が多いことを答案に書かなくても良いのではないか」などの意見が出ましたが、この解説及び答案への指摘は気象庁HPを参考にしています。
設問(3)
図1-2の二酸化炭素濃度増加のシナリオのなかで、指数関数的に伸びているAのシナリオとゆるやかに弓なりを描いて変化に乏しいDのシナリオを比較する問題です。
Aが温暖化対策に失敗したシナリオでDがある程度成功したシナリオというのはすぐわかると思います。この時点で指定語句を参考にして「Aはエネルギー消費の増加に伴って二酸化炭素量が増大し気温が上昇したシナリオである。Dはエネルギー消費の増加抑制に成功し気温があまり上昇しないシナリオである。」という基本的な答案骨子が考えられます。
難しいのは「固定」という指定語句ですね。これの扱いに困った受験生は多かったでしょう。結論から言うと、この語句は「二酸化炭素の固定」や「炭素の固定」として使うものです。
生物選択者なら「窒素固定」という言葉は聞いたことがありますよね。マメ科の根粒菌が空気中の窒素を植物内に取り入れて栄養に変えていく機能です。
同様に、「二酸化炭素の固定」も植物や一部の微生物が空気中から取り込んだ二酸化炭素を、炭素化合物として留めておく機能となります。代表的な例としては光合成が挙げられます。人間活動で植林が増えて、二酸化炭素固定が進み、気温上昇が緩やかになるという流れで書くと良いでしょう。
なお、ゼミ授業中に塾生から出た意見として「Aは現在と同じ水準でエネルギー消費が続くシナリオとするのと、今以上に一層激しくエネルギー消費が続くシナリオとするのでは、どちらがよいのか」という意見(質問)が出ました。
これに対しては、東大側としても受験生がこのシナリオに関する知識を持っているとは想定していないだろうから、(あくまで)入試問題レベルで受験生が答える答案としては、どちらでも良いのではないか(同水準なのか、今以上の高水準なのかは大きな問題にならないのではないか)と考えています。
しかし、出典(気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書)をチェックして調べてみたところ、どうやらAは「追加の緩和策を施さず、非常に高い温室効果ガス排出となるシナリオ」のようです。気になる方は、リンク先を見るか、「RCPシナリオ」で検索してみると良いでしょう。
答案比較
設問(1)
Aさん
化石燃料の使用と森林伐採Bさん
化石燃料の使用量の増加と森林伐採の拡大
Aさんのように書いている答案がほとんどでした。Bさんのように「増加」まで書けると丁寧でしたね。
設問(2)
Aさん
陸地面積が南半球より大きい北半球が夏になると、多くの植物が光合成を行い二酸化炭素濃度が大きく下がるため。
Bさん
夏季は植物の光合成が活発になり、二酸化炭素の吸収量が増加するが、冬季は暖房の使用などで排出量が増加するため。
Aさんは先程の疑問について上手くまとめていますね。夏の光合成量が多くなることも書けていますが、冬には二酸化炭素濃度が増加するということも書いて対比させられるとより良かったでしょう。
Bさんは二酸化炭素濃度の変化の原因が夏と冬で異なるように書いています。対比として要素が増えても上手くまとまってはいるのですが、「暖房の使用」の指摘は疑問が残ります。今では夏に冷房を、冬には暖房を使い、いつも電気を使っています。また、図1-1の「ギザギザ」は、時代を経ても全く同じ形状をしています。これは、世界経済がますます発展して、世界中で冷暖房の使用量などが増えてきたことが影響していないためだと考えられます。今回は書かない方が良いのではないかと思います。
設問(3)
Aさん
Aでは現在の経済活動が維持され、地球温暖化が進み、気温の上昇が続き、Dでは再生可能エネルギーへ移行し、二酸化炭素濃度の上昇は収まり、炭素固定の技術の発達で減少に転じている。Bさん
Aは温暖化に対して何も対策せず、エネルギー需要に応じて経済活動を進め二酸化炭素濃度が上昇する予想で、反対にDは温室効果ガスの排出量の上限を固定し、二酸化炭素濃度が下がる予想。
Aさんはだいたいの答案骨格は良いですが読点が多くて読みづらいので気をつけましょう。
「現在の経済活動が維持され」という部分に関しては、二酸化炭素濃度は増加しているので「維持する」よりも変化を書いた方が良いでしょう。例えば、「エネルギー消費量がさらに増える」などと書けると具体的で良いです。後半は再生可能エネルギーへの移行や炭素固定の技術など色んな要素が書けていて良い答案でした。
ちなみに「経済活動が維持され」というのも、いささか疑問が残る表現です。なぜならば、世界経済は原則として継続的に発展し続けるからです。「経済活動が維持」と書くと、現在の経済水準が維持されるような印象になるので、避けたほうが良さそうです。
Bさんの答案では、最初に「温暖化に対して何も対策せず」とありますが、全く対策が無いということはないでしょうから「十分な対策はされず」くらいにしておきましょう。「エネルギー需要に応じて経済活動を進め」という部分に関しては分かりにくく、これもAさんと同じようにエネルギー消費量が増えるくらいに留めるのが良いでしょう。
また、「温室効果ガスの排出量の上限を固定」とありますが、二酸化炭素固定が分からずにこの使い方をしている受験生は多かったようです。おそらく出題者側も二酸化炭素固定と使うことを想定しているでしょうから、あまり加点要素にはならなそうです。
なお、解説部分にも書きましたが、二酸化炭素排出量への対策の強度については、寛容な採点になっているのではないかと予想しています。
設問B
気候に関する出題でした。典型問題が多かったのでしっかり得点したいところです。
設問(1)
発生地域が広くてちょっと迷いますよね。色が濃くなってるところで言うと中央〜北アメリカのハリケーンと南〜西アジアのサイクロンを答えれば良さそうです。基本的な知識ですので教科書などでしっかり確認しておきましょう。
設問(2)
これも典型的な問題でした。それぞれの緯度帯でどのような風が吹くのか確認しておきましょう。本問では低緯度で貿易風が熱帯低気圧を西へ運び、中緯度になると偏西風が東に運んでいきます。
設問(3)
これまた典型問題ですが、字数が30字と少ないため表現が難しくなっています。南米大陸西岸にはペルー寒流が流れていますが、この寒流の影響で海水温が低く蒸発量が少なくなり、上昇気流が発生しにくくなります。原理は分かりやすいので、要約力が勝負の分かれ目だったのではないでしょうか。論理性を保って短くまとめるように心がけましょう。
設問(4)
熱帯低気圧の強度や発生頻度に関わらず熱帯低気圧に被災する人が増える理由となる自然や社会の変化について述べる問題です。この理由としては、大きく2つに分けて考えられます。
1つ目は現状でも被災しやすい場所に居住する人が増えることです。
被災しやすい場所といえば三角州などの低地が挙げられますが、なぜ居住者が増えるのでしょうか。端的に言うと人口が増えるからです。人口が増えれば人の居住域が広がります。しかし、人口が2倍になったら、居住域が2倍になるかというとそういうわけではなくて、人は住みやすいところに集まります。つまり、現在人が住んでいるところへ、さらに人が集まってくるのです。このような話は東大地理でも頻出ですね。
2つ目は現状の熱帯低気圧でも被災するリスクが高まることです。例えば、近年の温暖化によって海水面が上昇していることは有名ですが、海水面が上昇すれば今まではギリギリ高潮などの被害には遭わなかった地域でも被害が出るようになったり、もともと被災しやすい地域では被害範囲が広がることになるでしょう。
このように考えて、社会の変化としては人口増加によって被災しやすい地域に人が済むようになることを、自然の変化としては地球温暖化によって海水面が上昇することを書ければ良いです。他の要素も論理的に正しければ正解となるでしょう。
答案比較
設問(2)
Aさん
低緯度では貿易風の、中緯度では偏西風に影響されるため。
大体皆このように書けていました。この問題はこのような答案で十分ではあるのですが、地理の答案の書き方としては少し具体的に書けるとより分かりやすくなります。本問を例に挙げると、文末の「影響される」を「針路が曲がる」とするとより良いですね。具体化することを意識してみましょう。
設問(3)
Aさん
寒流の影響で海水温が低く、上昇気流が発生しにくいから。
Bさん
南極周辺からの寒流で、海水温が低くなっているから。
こちらもだいたい皆さん書けていたようですが、やはり表現で差が出ますね。
Aさんの方が海水温の低さに加えて上昇気流が発生しにくいことまで言及できています。Bさんは「南極周辺からの寒流」と情報が足されていますが、海水温が低い理由を答えるのではなく、熱帯低気圧が発生しにくい理由を答える問題ですので、「上昇気流が発生しない」など、もう一歩踏み込んだ理由まで説明しましょう。
設問(4)
Aさん
熱帯低気圧の影響の大きい温暖な都市への一極集中が進むことや、森林伐採による地すべり、河川の氾濫などが起こるため。Bさん
人口が熱帯低気圧の被害が頻発するアジアやアフリカを中心に増加し、また未開の地域での居住地域が広がっていく。
Aさんは社会と自然の変化について書かれていて、問いに答えようという姿勢が分かりますね。
表現で気になったところは「一極集中」というところです。これだと他の都市で人口が少ないというような意味がついてしまうので、危険地域でも人口が増加することを書きましょう。また、書き方が「AやB、Cが起こるため」という構成になっていますが、今後の変化について述べる問題ですので、どのように変化するのかなどを中心に書く方が良かったでしょう。
Bさんは社会の変化を細かく書こうとています。熱帯低気圧の被害を受けやすいところで人口増加するということを書いて、その後に「未開の地へ居住地が広がる」とありますが、「未開の地=被害を受けやすい」という思考は強引に感じます。ここは被害を受けやすい地域へ居住地域が広がるとより具体的に書くと分かりやすかったでしょう。ただ、自然の変化については全く書かれていないので、問題をよく読んで、問いに答えている答案を書くように心がけてください。