2017年 東大国語 第3問(漢文)『賢奕編(けんえきへん)』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

難易度「標準」。
内容はわかりやすく、いろんな句形に触れることもできる題材です。

答案例とプチアドバイス

(一)傍線部a・b・cを現代語訳せよ。【各1行】

〈a〉龍(もと)ヨリ(しん)ナル於虎(とら)ヨリ(なり)

答案例:虎よりも神聖だ。

プチアドバイス:置き字「於(お)・于(う)・乎(こ)」の上が形容詞・形容動詞の場合は比較。動詞の場合は受身です。

 

〈b〉龍昇ルニ浮雲、雲其(そ)レ於龍ヨリ乎。

答案例:浮き雲が必要なので

プチアドバイス:再読文字としての読み方もある語を単なる動詞として読むのは東大漢文あるある。
必ず語順を確認しましょう!なお、「雲ヲ浮カス」を無理やり「浮」を動詞に読むのは文脈に合いません。

 

〈c〉(し)ヅケテフニ一レ

答案例:雲と名付けて呼ぶ方がよい

プチアドバイス:「名曰雲」の訳は「雲(猫)と名付ける」でもOK!
比較の句形「不如」がポイント。
「~が一番良い」「~のがよい」などはNG

 

(二)「名曰牆猫可」(傍線部d)と客が言ったのはなぜか、簡潔に説明せよ。【1行】

答案例:猛威をふるう風でも防ぐことができる塀は、風よりも優れているから。

プチアドバイス:理由説明問題は、「なぜ?」を繰り返しましょう。
直接の理由《前の「風」より「牆」が優れている》ことも忘れずに。

 

(三)「牆又如鼠何」(傍線部e)を平易な現代語に訳せ。【1行】

答案例堅固〔強固〕な塀も、穴をあけて崩す鼠に対して、どうしようもない。

プチアドバイス:「如何(いかんセン)」の目的語は「如」と「何」の間に入ります。

 

(四)「東里丈人」(傍線部f)の主張をわかりやすく説明せよ。【1行】

答案例:猫は猫に過ぎないという本質を失って他のものに喩えるのは愚かだ。

プチアドバイス:段落が変わっていて、文章全体のオチであることと、「猫は即ち猫のみ」と言っていることから、単に「鼠猫」への批判ではなく、別の名を議論すること自体への批判です。
漢文の最終設問では、冒頭を読み返して主題との整合性を考えましょう!

本文と現代語訳の併記(JPEG)

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2017年『賢奕編』現代語訳

現代語訳

 斉奄は家で一匹の猫を飼っており、自分でこの猫を普通ではなく優れていると評価し、「虎猫」と呼んで人々に言いふらした。(ある)客が斉奄に説得しようとして言うには「虎は確かに勇猛だが、龍の神聖さには及ばない。どうか猫の名前を『龍猫』に変更して呼んでくだされ」と。
また、(他の)客が斉奄に説得しようとして言うには「龍はもともと、虎よりも神聖である。龍は天に昇るにあたって浮雲を必要とするので、雲があるいは龍よりも尊いのではないか。『雲』と名付けて呼ぶ方が良い。」と。
また、(他の)客が斉奄に説得しようとして言うには「雲やもやは天を覆うけれども、風はあっという間に、その雲を散らせる。雲はもともと風に敵わないのである。どうぞ『風』に変更して呼んでください。」と。
また、(他の)客が斉奄に説得しようとして言うには、「大風は猛威を振るうけれども、わずかに塀で防ぎさえすれば、それで大風から守ることができる。風はいったい塀を吹き飛ばすだろうか、いや、吹き飛ばさない。『塀猫』と名付けて呼ぶのがよろしい。」と。
また、(他の)客が斉奄に説得しようとして言うには、「塀は堅固であるとしても、鼠が塀に穴をあけたら、塀はそれで崩れる。塀は鼠を防ぐだろうか、いや、防ぎようがない。そこで、『鼠猫』と名付けて呼ぶのがよろしい」と。

 東里の(とある)老人がこれまでの経緯を笑って言うことには、「ああ、鼠を捕まえるものは、もともと猫である。猫はつまり猫に過ぎない。どうして自らその本質を失うだろうか。いや、本質を失わない(ように、名づけにこだわらないのがよい)。」と。

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