2015年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説説

自然環境と人間活動との関係に関する出題でした。地図読み取り問題に苦戦した受験生も多かったでしょう。

設問A

設問(1)

1916年の扇状地や氾濫原の広がる土地の地形図から、真ん中辺りにある「台地」と東側にある「低地」のそれぞれで卓越した土地利用と卓越した理由を答える問題で、自然的要因と社会的要因を中心に答えるよう指示されています。

地形から台地は扇状地の扇央、低地は氾濫原または自然堤防などと考えましょう。


地形図を見てみると東側の低地には水田の地図記号、中央の台地には桑畑や針葉樹の地図記号が見つけられます。

自然的要因はそれぞれの地形からすぐに思いついて欲しいです。
扇央は河川水が伏流して水無川となる乏水地なので、大量の用水が必要となる土地利用は難しいため、そこまで水を必要としない桑畑が適しています。また、東部を見てみると河川が南北に通っていることが分かり、大量の用水を必要とする水田稲作などが適していると言えるでしょう。

つぎに社会的要因について考えます。
1916年当時の日本は、第一次世界大戦で主戦場となったヨーロッパに代わってアメリカ合衆国やアジア市場への生糸輸出が盛んになっていました。そんな詳しいことは知らなくても、昔の日本は養蚕業が盛んだったことは知っておきたいところです。桑の主な用途が蚕の飼料なので、桑畑がたくさんあり、富岡製糸場などに代表されるように、明治以降の日本は生糸を輸出して外貨を稼いでいました。しばらく、日本にとって最大の外貨獲得手段だったのですが、1929年の世界恐慌(国内としては昭和恐慌)を期に衰退の一途をたどっていきます。
なお日本史選択の人であれば、もっと詳しい知識を持っておきましょう。1894年に器械製糸の生産量が座繰製糸の生産量を上回るだとか、1909年に生糸の輸出量が世界1位になるだとか、細かいことを習うと思います。

※塾長追記
私が子供のころは桑畑の地図記号を習いましたが、再受験の時には消えていてビックリしました。調べたところ2013年に廃止されたようです。現在は製糸業大分衰退してしまっているためでしょう。地図記号も世相を反映して変化するということを学びました。

稲作が卓越した社会的要因としては、主食として米の需要が高かったことが挙げられます。
しかし、ゼミ授業のなかでは日本で稲作が盛んであることは様々な要因が絡んでいるものだし、「主食として需要がある」というのは、社会的要因といえるほどのことかという意見も出ました。他にも、字数制限が厳しいため出題者は意図していないのではないかという意見も出ました。
残りの字数に余裕があれば書いても良いでしょうが、ギリギリなら書かずに別の部分を充実させても良いでしょう。

設問(2)

1916年から1951年の間に台地での土地利用の変化とその要因となった技術を答える問題です。
図1-2を見てみると、図1-1では桑畑だった土地が水田に変わっていることが分かります。しかも、南北に伸びたあるラインより東側に限定されています。
そこで、そのラインは何なのかを見てみると、上の方に「西天龍水路」が見つかります。

「水路」というくらいなので、水田に必要な用水を確保できることや灌漑技術が発達したことを考えやすいです。灌漑技術によって水利を良くして、米や小麦などの作物を作るという話は、地理ではよく習いますね。

設問(3)

今度は1951年から2002年の間に起こった台地と低地での土地利用の変化とその要因について答える問題です。地図を丁寧に読み取りましょう。

まず、図1-2と図1-3を土地利用に関して比較してみると台地では畑、果樹園、工業団地、ゴルフ場などが見られ、低地では多くの建物、工場などが見られます。
つぎに台地の桑畑と低地の水田が上記のように変化した理由を考えましょう。それぞれの土地利用に変化した要因を考えてみるとわかりやすいです。畑・果樹園への変化は養蚕業の衰退が大きく影響しています。先ほども述べたように世界恐慌(昭和恐慌)で製糸業が打撃を受けたあとも、戦後に化学繊維が普及したことや海外の安い生糸・絹製品の大量輸入などの影響で国内産生糸の需要は減少し、養蚕業の衰退に伴って桑畑の数も減少しました。

工業団地・ゴルフ場への変化は、中央自動車道の開通に着目しましょう。高速交通が整備されると東京などの大都市への時間距離が短縮し、自動車輸送などの利便性が向上するうえに、ゴルフ場などのレジャー施設も利用しやすくなります。

低地での変化の要因は多少分かりにくかったかもしれません。天竜川に堤防が建設されていることや、道路が増えて整備されていることに着目しましょう。堤防建設などの河川改修によって氾濫危険性が低下し、また道路が整備されることで地域の利便性が向上しました。こうした変化の影響から宅地開発が進み、水田が住宅地や工場へ変化したと考えられます。

答案比較

設問(1)

Aさん
台地では水はけのいい土地が好まれ輸出用生糸の生産に用いた蚕のえさであったため桑畑として、低地では水を得やすいうえに主食として米の需要が大きかったため水田として利用されていた。

Bさん
当時、輸出目的の養蚕や国内消費用の稲作が盛んであったため水を得辛い扇央に位置する台地では養蚕用の桑を生産し、水を得やすい低地では稲作が行われている。

Aさんは台地と低地が整理されていますが、読みづらいです。
「水はけの良い土地が好まれ」るのは何に好まれるのか不明ですし、その後の「蚕のえさであった」のが何なのかも不明です。おそらく桑のことを言っているのでしょうが、最後に桑畑という単語が出てきてやっと推測できる構成になっているので読みづらくなってしまいます。要素を詰め込もうとして修飾が長くなって分かりにくくなるというのはアルアルなので気をつけましょう。

Bさんは要素は簡潔に書けているのですが、社会的要因と自然的要因で分けて書いているので養蚕と稲作に関する説明が交互に出てきて、それぞれの対応関係が少し分かりにくくなってしまいます。構成はAさんのように台地と低地で整理して書く方がオススメですが、全体的に表現が読みやすくて良い答案だったかと思います。
また、どちらの答案も低地が水が得やすいのは自明のように書いていますが、近くの河川から得やすいことなどを書けると丁寧でしたね。

設問(2)

Aさん
灌漑用水路の建設によって台地にも水を供給することが可能になったので、桑畑の一部が水田に変化した。

Bさん
台地東部に西天龍水路が建設されていたことで灌漑用水を確保できるようになったため、桑畑から水田へと変化した。

本問は正答率が高かったですね。西天龍水路でも灌漑用水路でもどちらでも用水路の存在を書けていれば良いでしょう。
Aさんは桑畑全体が変わったのではなく「桑畑の一部」と限定しない表現ができていて良かったと思います。
Bさんは「建設されていたこと」という部分が第三者に勝手に水路が建設されたような感じがして少し違和感がありました。「建設されたこと」で十分でしょう。

設問(3)

Aさん
低地では道路の整備や河川改修などにより水田が宅地や工場へ変化した。台地では高速道路の建設により自動車輸送をしやすくなったことや養蚕業の衰退などから桑畑が宅地や工業団地へ変化した。

Bさん
高速道路が開通して交通の便が良くなったことで、低地では水田が減少して工場や住宅地が増加し、台地では桑畑や森林が畑や果樹園になり、工場や工業団地に加え、学校などが建設された。

Aさんは低地の説明は良く書けています。後半の桑畑が変化した理由については高速道路の建設により養蚕業の衰退が起こったというようにも読めます。「養蚕業の衰退」の前に読点を打つと分かりやすいでしょう。

Bさんも最初に「交通の便が良くなったことで」と書いて全ての変化の要因が交通の便が良くなったことであるように答えていますが、論理が飛躍してしまっています。変化の内容を重視するよりも変化した理由に重点を置いて論理構成を整えた方が良いでしょう。

設問B

設問(1)

アジアの湿潤な地域の山岳における植生帯の分布を示した図1-4でA~Dの指標に該当する植生帯を選ぶ問題です。

まず問題文から、図は「アジアの湿潤な地域」を示しているので乾燥気候の植生帯であるステップは除かれます。(問題文をあまり読まずに答えようとすると、こういうヒントを逃します。)
またA~Dのなかで一番低緯度にあるのはDですが、Dの北限である北緯30度前後の低地は温帯気候です。ということで、熱帯気候の植生帯であるサバンナも除かれます。
残る植生帯は常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、針葉樹林、ツンドラの順で低地から高地、または低緯度から高緯度に分布しやすいので、この順でD~Aにそれぞれ当てはまります。

東大では、植生に関する問題はやや珍しいのですが、いつどんな問題が出るかわかりません。また、植生は気候の影響をモロに受けますし、農業など産業にも影響を与える重要事項です。本問は他の問題を解くうえで基礎となるので、しっかり正答したい問題でした。

設問(2)

低緯度地域では高地になっても落葉広葉樹林が存在しない理由を「年較差」「低温」「落葉」の語句を使って説明する問題です。

落葉広葉樹林が落葉する理由は様々ありますが、簡単に言うと低温や乾燥という厳しい環境への変化に適応するために落葉広葉樹林は落葉します。葉には根から吸い上げた水分を蒸発させる働きがあるため、寒さが厳しく水分を十分に吸収できない冬には水分不足に陥りやすくなってしまいます。そこで落葉することで木全体が枯れないようにしているのです。
他にも、塩害や虫害に対する防御反応としての落葉も存在するようですが、指定語句から考えると適切ではないですし、字数制限が厳しくそこまで書く余裕はでしょう。

低緯度地域では気温の年較差が小さく、低地は低温になりにくいです。高地になっても年間を通して気温はあまり変化しないので、季節変化に適応する必要がありません。よって、答案骨子は低緯度地域では気温の年較差が小さく、季節がはっきりわかれるほど変化しないため、わざわざ低温や乾燥などの厳しい環境への変化に対応して落葉する必要もなくなるということをまとめられると良いでしょう。

設問(3)

ロシアの針葉樹林帯では林業が盛んであるのに日本の針葉樹林帯では多くの森林が分布するのに木材生産が少ない理由について答える問題です。

これは日本の林業に関する典型問題でした。日本の森林の多くは山岳林であり、伐採や搬出などが平地に存在する森林よりも難しいです。また賃金が高く人件費もかさむことから、生産コストが高くなって外国産の木材よりも単価が高くなってしまいます。
更に林業従事者の減少や高齢化、保安林または公益林として保護される森林の増大などによって木材生産は減少しています。

設問(4)

近年の東南アジアで焼畑農業による森林面積の減少が顕著になっている理由を答える問題です。これも焼畑農業に関する典型問題でした。

焼畑農業は熱帯から温帯にかけて伝統的に行われてきた粗放的な農業形態で、草木を焼き払って肥料生産や土壌の改良、病害虫の駆除などの様々な効果を得ます。そして、数年ごとに他の農地へ移動して、もとの農地は休耕期が設けられるので、地力の回復や森林の再生が十分になされます。

近年は人口増加にあわせて焼畑面積が拡大し、休耕期間が短縮されることで森林や地力が回復できずに森林破壊に繋がると考えられます。また、東南アジアでは商品作物や輸出用の農産物の生産のために焼畑以外にもプランテーション農園や養殖池などの造成のための伐採が多くなり、森林の再生が半永久的に起こらないような場所も増えています。

答案比較

設問(2)

Aさん
低緯度地域では気温の年較差が小さく低温になる時がないため、落葉広葉樹が分布しやすくなる条件を満たさないから。

Bさん
低緯度地域は標高に関わらず気温の年較差が小さいため、冬季に葉を落とす落葉広葉樹の生育に適さないため。

Aさんは「低温になる時がない」と強い言い切り表現になっていますので、「低温になりづらい」など柔らかな表現にすると良いでしょう。
また後半の「落葉広葉樹が分布しやすくなる条件を満たさない」という部分は、ほとんど何も答えてないに等しいです。「植生帯が存在しない理由を答えよ」に対して「分布しやすくなる条件を満たさないから」と答えるだけでは不十分ですので、何か具体的な要素が欲しいところです。また、字数も長いので短い表現に直せるとなお良いです。

Bさんは低緯度地域が季節変化に乏しいことなどは書けていますが、「低温」という語句が使われておらず、減点されてしまいます。指定語句を使い忘れるなどのミスはできる限り減らしましょう。

設問(3)

Aさん
ロシアでは、Bは低地に分布しているが、本州では山岳に分布していて伐採や搬出が困難であり、保安林として保護されているから。

Bさん
日本の森林の多くが山地に分布するため伐採などにかかるコストが高いうえに従事者の減少や高齢化が進み労働力が不足しているから。

Aさんは「ロシアでは針葉樹林が低地に分布し、本州では山岳に分布する」と限定的に書いているので、「分布しやすい」などとぼかした方が良いです。最後の「保安林として保護されている」というところも「保安林が多い」と限定表現を避けましょう。

Bさんはロシアとの対比をせずとも要素を十分書けています。しかし、「従事者」では曖昧なのでしっかり「林業従事者」と明示しましょう。その後の「労働力」という部分も先に林業従事者と書いていれば林業に関するものだと分かりやすいです。

設問(4)

Aさん
伝統的焼畑は自給的で休閑期に森林が再生していたが、近年はプランテーション農園の開発や、休閑期間の短縮が見られるから。

Bさん
以前は自給を目的とした伝統的な焼畑だったが、現在は輸出を視野に入れた焼畑により地力が回復しない地域が増えるから。

Aさんの「自給的で」という表現は分かりにくいですし、問いからもズレてしまうので書く意味がありません。自給を目的としていることを書くならば、Bさんのように近年は輸出を目的としていることなどを書いて対比させた方が良いでしょう。

Bさんは以前の焼畑がわざわざ伝統的であったと書いていますが、Aさんと同じで伝統的であるという表現は曖昧なうえに問いからもズレているのでカットしましょう。地力の回復に着目できたのは良かったのでますが、「回復しない」と断定するより、「回復しにくくなる」とぼかした方が良いでしょう。

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