2021年東大日本史(第2問)入試問題の解答(答案例)と解説
設問の分析
設問A Bともに、地頭と荘園領主の関係性や地頭請所に関する基本的な背景知識があれば、あとは単純な資料読み取り問題である。第1問と同様に高いレベルで解答をまとめたい。
資料文の選定
本問は資料文を設問ごとにきっちり棲み分けするのは難しい問題である。どちらも資料文⑴〜⑷全体の内容を念頭に置きながら解くべき問題と言えるだろう。
設問の解答
設問A
設問Aで問われているのは、荘園領主が検注を実施しようとした理由である。検注という言葉はおそらく初めて見たと思うので、まずは資料文から検注とは何なのかを確認していこう。
まず資料文⑵から、検注とは土地の調査であり、その目的は荘内の田地の面積を調べる事で納めるべき年貢の量を確定することにあったとわかる。また、資料文⑶からは検注は荘園領主が代替わりした時に実施するのが慣例であった事がわかる。しかも、地頭が検注の実施を拒んで裁判になるケースもあった事がわかる。
ではなぜ、地頭は検注を拒否したのだろうか。その理由は、荘園領主が検注を実施しようとした理由と重なる。まずそのヒントは資料文⑴にある。⑴によると、地頭は荘内の荒地を開拓し、積極的に田地を拡大していた。そして、資料文⑶をよく読むと、地頭は検注に際し、「それ以前に開拓された田地」の検注を拒否したと書かれてある。つまり、地頭は単に検注を拒否したのではなく、地頭が新たに開拓した田地に検注が入るのを拒んだのである。
これを荘園領主側の視点から考えてみよう。荘園領主が検注を実施しようとした理由としては、まず冒頭で確認したように検注は年貢の量を確定する作業であった事から、新たに開拓された田地を把握することで年貢増徴を企図していたと推測できる。また、検注が代替わりのタイミングで実施された事から、荘園領主であり荘園の支配権・徴税権を持つことを行動で示し、その存在感を自他に明示する意図があったとも考えられる。
このように、現地で勢力を伸ばしつつある地頭と荘園領主は、しばしば緊張関係にあった。ここで、荘園と地頭について軽くまとめておこう。
荘園の成立
10世紀頃、律令支配の形が転換したのに伴い、徴税方式も人に課す人頭税から土地に課す土地税へと変わっていた。それは、田堵と呼ばれる有力農民層が耕作と徴税を請け負う形だったのだが、やがて田堵層の中から大規模に耕作を行った大名田堵が現れ、さらにそれらが一定の地域の支配に成功すると開発領主と呼ばれるようになった。これら開発領主は、受領による激しい徴税に対抗するため、中央の権力者に土地を寄進し保護を求めるという策をとった。このような経緯で寄進地系荘園が成立した。このような荘園において、現地を管理したのが荘官であり、寄進先は本家・領家と呼ばれた。
地頭と荘園
1185年に平氏を滅ぼすと、源頼朝は後白河法皇に迫って守護・地頭を設置する権限を獲得した。特に、地頭は年貢の徴収・納入や土地の管理、治安維持といった荘官と共通した役割を果たす存在とされた。鎌倉幕府初期は、地頭は平家没官領に任命されていったが、幕府の勢力拡大とともに地頭と荘園領主は対立を激化させていく。
特に1221年の承久の乱の後、幕府権力の拡大を背景に地頭は荘園領主に対し年貢未納などの行為に及ぶようになり、本問にもあるような様々な争いに発展した。その際の解決方法としては主に二つほど挙げられ、まず一つは地頭請(所)である。地頭請は荘園領主から地頭が荘園の管理を一任され、代わりに定額の年貢納入を請け負うというものである。いまひとつは、下地中分である。これは、荘園領主と地頭で土地そのものを分割し、それぞれの土地でそれぞれの支配権を認めるというものであり、当事者官の示談による場合と幕府の命令による場合があった。こうして、地頭は現地を管理する役職から、現地の土地と農民を直接支配する存在へと変化していった。
では、地頭請に関わる設問Bも見ていこう。
設問B
地頭請に関しては、主に資料文⑷で触れられている。地頭請とは、先ほど確認したように荘園領主が地頭に荘園の管理を任せるものだが、⑷を読むとその内容に関し荘園領主は管理を任せたとしても検注を行う権利は依然有していると考えていた事がわかる。一方で、検注に関し紛争になった際、幕府は地頭請である事を理由に検注の停止を命じており、言い換えれば地頭請は検注を拒否する法的根拠になったのである。
問いの要求に沿って、地頭請と開発の関係についても考察しよう。これに関しては、資料文⑶を参考にすると良い。⑶において、地頭は「それ以前に開発された田地の検注」を拒んでいる。つまり、地頭にとって検注が行われないという事は、新たに開発した田地が課税対象に組み込まれないという事であり、そのおかげで地頭はより意欲的で自由に開発を進める事が可能となったのである。そして、荘園領主の介入を排する事ができるため、荘園に対する独自の支配を深めていくこととなった。
答案例
A新たに開発を進める地頭に対抗し、新田地を含め現状を把握して年貢の正確な徴収・増徴をすると共に荘園領主の権利を明示した。(問番号含め60字)
B一定の年貢納入を条件に支配を地頭に荘園の管理を任せる地頭請は、検注を拒む法的根拠となり、地頭は新開発地に対する課税といった荘園領主の介入を排した上で独自の支配を進める事ができた。(問番号含め90字)