2012年 東大国語 第2問(古文)『俊頼髄脳』解答(答案例)と現代語訳
目次
- はじめに
- 解答例(答案例)とプチアドバイス
- (一)傍線部ア・イ・ウを現代語訳せよ。【各1行】
- ア 葛城の山、吉野山とのはざまの、はるかなる程をめぐれば、ア事のわづらひのあれば、
- イ イ凡夫(ぼんぷ)のえせぬ事をするを、神力(じんりき)とせり。
- ウ ウたふるにしたがひて法施をたてまつらむ
- (二)「我がかたち醜くして、見る人おぢ恐りをなす」(傍線部エ)とあるが、どういうことか、わかりやすく説明せよ。【1行】
- (三)「その夜のうちに少し渡して、昼渡さず」(傍線部オ)とあるが、一言主の神はなぜそのようにしたのか、説明せよ。【1行】
- (四)「ひまはざまもなくまつはれて、今におはすなり」(傍線部カ)とあるが、どのような状況を示しているのか、主語を補って簡潔に説明せよ。【1行】
- (五)冒頭の和歌は、ある女房が詠んだものだが、この和歌は、通ってきた男性に対して、どういうことを告げようとしているか、わかりやすく説明せよ。【1行】
- 本文と現代語訳の併記(JPEG)
- 本文と現代語訳の併記(PDF)
- 現代語訳
- 【さらに深く学びたい方のために】
はじめに
高度な和歌の解釈が求められています。
和歌の対策として挑戦してみてください!
なお、出典の『俊頼髄脳』は源俊頼によって書かれた歌論書です。
解答例(答案例)とプチアドバイス
(一)傍線部ア・イ・ウを現代語訳せよ。【各1行】
ア 葛城の山、吉野山とのはざまの、はるかなる程をめぐれば、ア事のわづらひのあれば、
答案例:行き来において苦労があるので、
プチアドバイス:「不都合な事情が・(何か)面倒事が」と訳すと、迂回することの面倒さ以外の不都合(例えば関所)があるようにも読めます。「行き来・往来」のような語が必要です。
イ イ凡夫(ぼんぷ)のえせぬ事をするを、神力(じんりき)とせり。
答案例:普通の人ができないことをするの力を、神の力と称している。
プチアドバイス:サ変「す(為)=do」は柔軟に訳しましょう。「~とみなしている〔と考えている・と言っている〕」など。
「神の力としている」だと日本語として合いません。
ウ ウたふるにしたがひて法施をたてまつらむ
答案例:持ち堪えられる限度まで
プチアドバイス:「橋ができた結果に応じて〔準じて・次第で〕」という方向の解答でも良いと思われます。「かたじけなくも」とお願いする態度からとは矛盾するのですが、この後に神を縛ってしまう役の行者のキャラクターなら言いかねないので…。
(二)「我がかたち醜くして、見る人おぢ恐りをなす」(傍線部エ)とあるが、どういうことか、わかりやすく説明せよ。【1行】
答案例:一言主の神の容貌が醜く、見た人は怖くて震え上がるということ。
プチアドバイス:「見る人」は「人が見たら(その場合は)」という仮定が適切です。「見た人」ではなく「見る人」と書いた場合に許容されるかどうかは不明です。「見た人」に変えた方が無難でしょう。
(三)「その夜のうちに少し渡して、昼渡さず」(傍線部オ)とあるが、一言主の神はなぜそのようにしたのか、説明せよ。【1行】
答案例:醜い容貌を人に見られぬように昼は避け、夜も大胆には作業しなかったため。
プチアドバイス:「その夜のうちに少し渡して」の部分にも傍線が引かれています。「昼渡さず」の理由だけでは不足です。
(四)「ひまはざまもなくまつはれて、今におはすなり」(傍線部カ)とあるが、どのような状況を示しているのか、主語を補って簡潔に説明せよ。【1行】
答案例:一言主の神が隙間もなくつる草に縛られて、今も葛城山にいると伝わる状況。
プチアドバイス:「ひまはざもなく」は古語「ひま(隙間)」や現代語「はざま(狭間)」から考えましょう。
(五)冒頭の和歌は、ある女房が詠んだものだが、この和歌は、通ってきた男性に対して、どういうことを告げようとしているか、わかりやすく説明せよ。【1行】
答案例:顔に自信が無いから、見られぬよう夜明け前に帰ってほしいということ。
プチアドバイス:この本文の一言主の心情になぞらえて考えると、この女房も一言主のように容貌が醜いのを気にしていそうですね。
本文と現代語訳の併記(JPEG)
本文と現代語訳の併記(PDF)
2012年『俊頼髄脳』現代語訳現代語訳
岩橋の夜の約束も破れてしまうだろう。夜が明けるのがつらい葛城の神。
この歌(の背景にある話)は、葛城の山(=金剛山)と吉野山の谷あいが、遠い距離を廻り歩くと、行き来において苦労があるので、役の行者といっている修行者が「この山の頂上から、あの吉野山の頂上まで橋を渡したら、交通の不都合無く人はきっと通るだろう。」と思って、その場所にいらっしゃる一言主と(周りが)申し上げる(葛城山に住む女)神に祈願し申し上げたことには、「神の神通力は、仏に劣ることが無い。(私たち)普通の人間ができないことをする力を、神の力と称している。どうか、この葛城山の頂上から、あの吉野山の頂上まで、岩で橋を渡してくだされ。この願いを畏れ多くも受けて下さるならば、(私が)持ち堪えられる限度まで法施を差し上げましょう。」と申し上げたところ、空から声が聞こえて、「私はこのことを引き受けた。必ず渡そう。但し、私の容貌は醜く、見た人は(いつも)怖がり恐れる。夜ごとに渡そう。」と仰った。「どうか、早急に渡しくだされ。」と言って、般若心経を読んで祈り申し上げたところ、その夜のうちに少し渡して、昼は渡さない。役の行者はそれを見て甚だしく怒って、「それならば、護法(=仏法守護のために使役される鬼神)よ、この神を縛ってくだされ」と申し上げる。護法はあっというまに、つる草を使って神を縛った。その神は大きい岩に見えなさったので、つる草がまとわりついて、掛け袋などに物を入れた際のように、隙間もなくまとわりついて、今も(そのような姿で)(葛城山に)いらっしゃるそうだ。岩橋(を掛ける約束をした葛城の神)の(ようにではないが、)夜の逢瀬も途絶えてしまうだろう。夜が明けるのがつらい葛城の神(のように私も顔には自信が無い)。だから夜明け前に帰って下さいね。
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