2021年東大英語(第1問A 英文要約)入試問題の解答(答案例)・解説

東大英語の陣頭を飾る1A英文要約は、得意不得意が大きく分かれる大問の一つだと言われています。
その理由には幾つか考えられますが、1Aが「思考力」「日本語表現力(運用能力)」を問うた大問であることは真っ先に挙げられましょう。

近年、英検やTOEICといった資格試験を低学年のうちからチャレンジする傾向が強まってきました。
短期目標を定めて英語学習に邁進する姿勢は実に好ましいところではありますが、東大英語とは頭の使いどころが違います。
私も、英検、国連英検、TOEIC、TOEFLとあらゆる英語資格試験を受験してきましたが、それらの試験で脳みそを使うことはほとんどありませんでした。
単語を覚えて、長文を早く読めれば解ける問題ばかりです。
ですが、東大英語は単語が分かっていても解けない、本文を読めても上手くまとめられないといった具合に、試験科目に「英語」と銘打ちながら、上っ面の英語力ではなく受験生の「思考力」「日本語運用能力」を東大では問うてきています。

これは、東京大学が世界的な研究者養成機関であることとも関係しています。
英語が使えたら世界で通用する一流の研究者になれるわけではありません。
日本語を話せる日本人は、みなが優れた研究者として国内で認知されるわけではないのと同じです。
このように特殊なチカラを問うている試験だからこそ、東大英語に特化した対策が必要なのです。

さて、2022年〜2023年の東大過去問について、敬天塾では詳細な思考プロセスを実況中継という形でご紹介してきました。
(編集部注:こちらの記事の最後にリンクを掲載しています)
日本一詳しく東大英語の極意を解説したつもりです。ぜひエッセンスを貪欲に学ばれてください。
本稿で扱う2021年度につきましては、要点解説ということでライバル達に差をつけられるポイントに絞って解説をいたします。
汎用性の高い解法や、東大英語を絶対的得意科目にするための訓練プログラムをお知りになられたい方は、敬天塾の映像授業と過去問の実況中継解説をぜひご活用ください。

 

それでは、2021年度1A英文要約の要点解説を始めたいと思います。

(所感)

難易度は標準程度と巷では言われていますが、私はかなりの難問だと感じました。
その理由は規定字数にまとめるのがキツイといった低レベルな話ではなく、東大教授が、巷で流布されている要約テクニックなるもの(たとえば、各段落から要素をかき集めれば、はい要約文の出来上がりといったもの)を再考するよう受験生に促しているからに他なりません。
詳細は後述いたします。

また、2021年度の1Aでは、「10代の若者の気質の変化について」要約せよと条件指定をしてきています。
これは、非常に珍しいことです。
普段なら、自分の頭で考えろというスタンスで、「要約せよ」「要旨をまとめよ」といった簡素な設問文しか与えられないにもかかわらず、今年度は要約の方向性を具体的に示しているのです。
正直、ものすごく驚きました。

なぜ、東大英語部会がこのような条件を付したのでしょうか。
それは、注意喚起をしないと、多くの受験生が「とあるミス」を犯すだろうことを作問段階で懸念したものと推察しています。

(要点解説)

まず、ざっくりと各段落の要点をみていくとしましょう。

第1段落の最後で、10代の若者の気質の変化について明確なエッセンスが示されています。一時的に悪化するが、思春期のうちに回復するとありますね。

続く、第2段落では、そうした子供の気質の変化についての評価が親と子で異なることが示されています。

第3段落では、親子間の評価の差が、どうやら親子関係の変化や価値判断の基準が両者で異なることと関係していると言及されています。

そして、締めの第4段落で、改めて第1段落の内容を再掲しているように思えます。

以上より、多くの東大受験生は

(一般的な受験生の解答)

10代の若者の気質は一時的に悪化する。その捉え方については親と子で異なる。これは、親子関係の変化と両者の判断基準が異なることに起因するのだろう。(72字)

といった具合にまとめ上げています。
採点官の手元にも、金太郎飴のようにこうした答案が溢れかえっていたものと思います。
時間制約の厳しい東大英語ですから、これくらいのものを10分程度で仕上げて解答用紙をとりあえず埋めるのは合理的だと思うのですが、その中身については猛烈な違和感を覚えます。

まず、この程度の答案であれば、東大がなぜ「10代の若者の気質の変化について要約せよ」と条件指定したのか、意図が不明瞭になってしまいます。
「変化」にフォーカスを当ててくださいねと言っているわけです。

ですが、多くの受験生が紡ぎ出した解答は、親子関係の比較に終始しています。
東大教授は、親vs子供という二項対立構造をまとめて欲しかったのでしょうか。

英語作成部会の先生方は、入試問題の試案を作成する段階で、受験生が書くであろう想定答案を併せて吟味検討します。
おそらく、第2段落〜第3段落のボリュームに目がいって、親子関係の話をだらだらと書く答案が大量に湧いて出てくることを危惧して、「10代の若者の気質の変化」について、あくまで書いて欲しいんだよと珍しく注意喚起したのではないでしょうか。

この問題を解いていた時に、私は一読して、「え?なんだか支離滅裂に感じるな。各段落の要点をまとめるだけの下手くそな要約で本当にいいのか? なぜ、条件指定をわざわざしているんだ?」と思いペンが止まりました。

そこで、改めて、第1段落を丁寧に読み込み、そして、東大要約で重要ポイントが示されることの多い最終段落たる第4段落を丁寧に読み込んでみました。
すると、第4段落の最後に改めてa temporary personality conflictaccurateであろうと総括していることから、親子関係うんぬんの話はやはりメインではないのではないかと思うに至ったのです。

親子関係の話を持ち出したのは、10代の若者が大人と距離を取るようになってきたこと(第2段落第3文)や、第3段落で言及された思春期における自立の渇望(第3段落で第1文後半)や、同世代の友達と自分を比較検討するようになる(第3段落第2文後半)の話につなげるための伏線でしかないのではないかと感じました。

そのように捉えたならば、第4段落の最後でpersonality conflict、つまり、人格形成における葛藤の話とスムーズに繋げられるように思えたのです。

このことから、

(巷とはかなり異なる敬天塾解答)

10代の若者は一時期情緒が不安定になり、親などの大人と距離を置くようになる。これは自立を渇望し、同世代の友人関係との中で自己形成をなす成長過程の葛藤に起因する。(80字)

10代の若者は一時期、情緒が不安定になり、親などの大人と距離を置くようになる。これは、自立を望み、友人関係を通じて自己を形成するという成長過程での葛藤が原因だ。(80字)

と書いた方が、「10代の気質の変化」にフォーカスを当てられるのではないかと考えました。巷の解答例とかなり違うので驚かれた方も多いと思います。

なお、本問の原文を確認しますと、最終段落のa temporary personality conflictconflictが原文ではdisruptionになっていました。
この点、東大側が受験生の語彙力を危惧して簡単な単語に変えてくれたんではないかという説が濃厚なようですが、私はそうは思いません。
disruptionなんて大して高級な単語ではありませんし、それなら、注釈を付ければ良いだけのことです。
今年度の「10代の若者の気質の変化について要約せよ」という条件に鑑みても、やはりdisruption(混乱)よりconflict(葛藤)の方が本文全体の趣旨に合っているように思えました。
disruption(混乱)だけでは、気質が一時的に悪化したという事実だけで話が終わってしまい、結局、字数を埋めるために仕方なしに親子の評価基準の差などの話を盛り込まなくてはいけなくなるからです。
ですが、conflict(葛藤)であれば、思春期の若者が内面で悩み苦しんでいる様をより鮮明に読者(受験生)に伝えられるように私は思えました。
ですので、東大は意図的にdisruptionconflictに変え、そして、受験生に議論の方向性を見誤らないように注意喚起すべく条件指定をなしたのだと判断いたしました。

いかがでしたでしょうか。
市販されている過去問集とかなり違った切り口に驚かられた方も多いと思います。
2022年〜2023年度の過去問に関しては、より詳細な思考プロセスをご案内しておりますので、ぜひ併せてご参照ください。

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