2012年 東大国語 第1問 河野哲也『意識は実在しない』

2012年 東大国語 第1問 河野哲也『意識は実在しない』

典型的な科学(批判)論。近代科学が確立されたことで、現代の環境問題が起きている、ということを論じた文章。
現代文では科学はほぼ必ず悪者にされるので、読まずともある程度の内容は予想が付けられると良いでしょう。

ただ、理系の知識も文系の知識も両方が登場するのが特徴的です。理系にとっては物理の話は分かりやすいけど、政治や社会の話は分かりづらいかもしれません。文系なら逆。リベラルアーツを標榜する東京大学の入試問題だなと思います。

さて毎回書いていますが、現代文は回答者によって解釈のブレ、答案の表現のブレなどが激しい科目であるため、賛否両論が発生することは承知していますし、闊達な議論を奨励しています。お気づきの点がありましたら、遠慮なくコメントをお願いします。

※なお、本稿では最低限の読解や私(平井)の答案の紹介を行っています。
より詳細な内容に加え、サンプル答案の添削やアドバイスなど2時間ほどかけて解説した授業動画と合わせて、皆さんの実力を上げられるように組んでおります。オプションで添削サービスもご検討いただけます。どうぞご利用ください。

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敬天塾作成の答案例

敬天塾の答案例だけ見たいという方もいるでしょうから、はじめに掲載しておきます。
受験生の学習はもちろん、先生方の授業にお役に立てるのであれば、どうぞお使いください。
断りなしに授業時にコピペして生徒に配布するなども許可していますが、その際「敬天塾の答案である」ということを必ず明記していただくようお願いします。
ただし、無断で転売することは禁止しております。何卒ご了承ください。

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【平井基之のサンプル答案】

設問(一)
自然のすべてを、価値のない物理法則に従うだけの微粒子の集合と、それらを知覚し意味や価値が与えらる人間の精神の二つに切り離して捉える、近代科学の基盤となる世界観。

設問(二)
近代科学では、自然そのものには価値がなく、価値を与えるのは人間の精神であるとされているため、自然の価値を讃えると、その価値を与えた人間の精神を讃えることになってしまうから。

設問(三)
自然から場所や歴史における個性を剥奪し、分解して取り出したエネルギーを利用する様は、食品を消化して吸収した栄養を生命維持に利用する様と同じ構図であるから。

設問(四)
近代社会では、あらゆる個性を捨象された、規則に従うだけの個人を想定して制度設計されているが、現実には人間は多様な個性を持つため、疎外されるマイノリティが常に発生してしまうこと。

設問(四)別解
近代社会では、あらゆる個性を捨象された、規則に従うだけの個人を想定しているため、その想定の下では生きづらい個性を持つマイノリティは排除され、ニーズが応えられづらいということ。

設問(五)
人間を含む動植物が相互に影響を及ぼし合い循環して築き上げた豊かな個性を持つ自然を、物理法則に従う無個性な微粒子の集合体とみなし、分解して取り出したエネルギーを利用する近代科学の考え方こそが、地球の生態系が破壊されている原因であるということ。

2012年国語第1問 敬天塾 平井答案

※多少、字数が多めの答案になっていますが、短くまとめきれない私の力量不足以外の何物でもありません。あくまで、答案サンプルの一つであり、皆さんの考察の材料となることを願って作成したものですので、寛大な心でご覧いただけると幸いです。

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【別講師Aのサンプル答案】

設問(一)
物理法則に従った原子以下の微粒子の運動体としてしか自然を捉えず。自然の意義や価値は人の心が創出した幻影と考え、自然と人を完全に主客分離すること。

設問(二)
自然を価値なき世界と考える近代科学の自然観に則れば、詩人が表現せんとする自然の美しさや価値が実は自然本来のものではなく、人の心や脳が創り出したものに他ならないから。

設問(三)
自然の個性や特殊性を鑑みず、単なる価値なき資源として人に収奪されていく構図は、作物や畜産物を人に消費される客体としか捉えぬ構図と同等だから。

設問(四)
各々に特有な個性等一切を捨象し、公平かつ平等に個人を扱う近代の政治や社会制度のもとでは、個性や信条に生きるマイノリティの権利や幸福追求が難しいということ。

設問(五)
人間を含む無数の生物と共につくられてきた生態系の個性や歴史性、場所性の一切を捨象し、自然は物理法則に従う単なる粒子の集まりで意志や価値などないとする近代的二元論の下、画一的に収奪したならば、人間も動物も住めなくなるのは当然だということ。

※以下に長々と記述する、私の解説の主義とは違う部分もありますが、語彙の使い方やまとめ方など参考になると思いますので、載せておきます。

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設問(一) 物心二元論

採点は5段階評価で標準を3とし、
難しいポイント1つにつき+1、
簡単なポイント1つにつき-1としています。
「傍線部の構造」は答案骨格の作りにくさです。
「表現力」は自分の言葉に言い換える難しさです。

かなり難問

難問です。
他の塾や予備校の判定では、それほどの難易度ではありませんでしたが、真面目に論評したら難問になりました。

まず骨格そのものがありません。
普通の問題では傍線部がある程度長いのですが、この問題は単語だけ。ということは傍線部の骨格を生かして答案を作成することができません。
傍線が長いとそれだけ要素が多くなって難しいのですが、短いと別の難しさがあります。

後述しますが、要素を拾う範囲が広く、背景知識が絡み、語彙力も必要で、論理構造を的確にとらえることも求められた上に、表現にも工夫しなければなりません。

「二元論」とは

まず語彙からですが、「二元論」を正しく説明できますか?二元論とは「二つの事柄に分割して論ずること」です。

例えば、水戸黄門やアンパンマン、ハリウッド映画などでは勧善懲悪のストーリー、つまり悪いことをした人を正義の味方がやっつけるというストーリーがよく見られます。
このように、全ての人間を、善と悪にわけて捉えることを「善悪二元論」といいます。

実際は誰しも、良いこともするし、悪いことが頭をよぎることもあるでしょう。完全な善人も、完全な悪人もいません。しかし善悪二元論の下では、善と悪に分けて論じます。

「物心二元論」とは

これを踏まえて、物心二元論について説明しましょう。と言っても、設問一の解答ではなく、一般語としての「物心二元論」です。
ご存じでしょうか?物心二元論は一般的に存在する言葉で、現代文の用語集などに説明が載っています。

簡単にまとめると、物心二元論とは、世の中のすべてを「物質」と「精神」に分けて、その二つによって説明する考えのことです。
本文中に書かれているように、世の中に存在するのは物理法則に従う物質のみであり、人間の精神が物質に価値や意味を与えていると考えます。
人間は、この世で唯一精神を持つ存在であって、世界のいわば支配者として君臨します。そして自然はその支配の対象だとみなすのです。だから自然は、人間の都合の良いように利用してよいと考えられるのです。

さて、現代文の先生たちの間で「背景知識は必要か(不要か)」ということが良く話題になっているようです。もしかしたら皆さんの中にも、「背景知識は必要だ」という説明と「不要だ」という説明を別の先生からされて、混乱した人がいるかもしれません。

これに対して、私(平井)がどう考えているかというと、「そもそも、必要か不要か、という論じ方が二元論だ」と捉えています。そして、私は大抵の「二元論」は間違いで、そのように単純に考えてはならないと思います。
今回の例であれば、「必要な問題もあるし、不要な問題もある。」というように、どちらも支持しません。

この東大の問題も、背景知識として「物心二元論」を知っていれば、読解や解答の方針において非常に参考になり解きやすくなりますが、では必ず知っていないといけないかというと、本文中の内容でも解答は作れると思います。
このような場合、必要か不要か、と2択を求められても困ります。強いて言うと、背景知識があると有利くらいでしょう。
だから背景知識を勉強しようという人がいても良いし、勉強しないという人がいても良いと思います。ご自身で選択してほしいと思います。

解答の「射程」

では次に、本文のどの部分をまとめるか、ですが、これは非常に難しいです。

優先すべきは、本文の第7~9段落でしょう。この辺りは背景知識の「物心二元論」と似ている内容が書かれています。しかし、第10段落の冒頭は「これが二元論的な認識論である。そこでは・・・」と続くので、第10段落も含まれると考えられます。
第11段落では「二元論によれば」とあるため、ここも含められます。続く第12段落は、第11段落の延長の内容なので、ここも含まれる。

第13~16段落は、政治や社会の問題の話に移りますが、無関係ではありません。物心二元論と同様の考えが、政治・社会にも適用されている、という指摘です。
第17~19段落も、二元論的な自然観によって引き起こされた環境問題についてなので、ここも関係あります。

では、傍線部アより前はどうかというと、傍線部アの直前に「ここから第三の特徴として」とあるので、第一、第二の特徴は関係があります。この3つの特徴とは何の特徴かというと、第4段落にある「近代科学の自然観には(中略)いくつかの重要な特徴がある」とあります。すくなくとも、ここまでは物心二元論にかかわる部分として説明を含めることができます。

こう考えると、結局は第4段落から最後まで二元論が関わってしまいます。

こんな広い範囲を、たった2行でまとめることはできません。よって、字数との兼ね合いで優先順位を決めてまとめるしかありません。これから先は、答案作成者の考えと論理、好みによるところでしょう。

平井答案の解説

自然のすべてを、価値のない物理法則に従うだけの微粒子の集合と、それらを知覚し意味や価値が与えらる人間の精神の二つに切り離して捉える、近代科学の基盤となる世界観

・骨格を「Aを、BとCの二つに分ける、Dの基盤の世界観」としています。Bが「物」、Cが「心」に対応し、二つに切り離すとすることで二元論を言い換えています。
・「それら」と指示語を使っていますが、その直前に「微粒子の集合」と複数形を匂わせる単語を置くことにより、指示内容が明確になるよう工夫しました。
・最後に、「近代科学の基盤となる世界観」とすることにより、第4段落から説明が続いていることを説明しました。

設問(二) 自然賛美の抒情詩・・・しなければならなくなった

比喩に対する「なぜ」の問題

傍線部全体が比喩表現になっている問題。かつ、傍線部に対し「なぜそのような事態になるといえるのか」と問われており、ちょっと珍しいなと感じます。

まず考えるのは「なぜ」と問われているため、答案の骨格は自分で作成しなければならないことが難点の一つ。
そして、傍線部アの「守備範囲」の中にあるということで、そのように住み分けをするかというのが難しい問題でしょう。

そして最も難しいのが答え方。
「なぜこのように例えられるのか?」と問われて、どう答えますか?主に文末をどうするかが勝負だと思いますが、これもかなり難しいと思います。
このような問題の場合、「言い換えよう」とか「要素はどこなんだろう」などと考えるよりも、「傍線部の理由を友人や後輩から聞かれたとしたら、どう答えるだろう?」と想像してみたほうが良いかもしれません。

「いわば」の処理

大きなヒントになるのが、傍線部イの直前にある「いわば」。
「いわば」「つまり」「すなわち」などは、前後がイコールの関係だと説明されることが多いですが、もちろんこれを基本として押さえたうえで、因果関係も示すことがあることも知っておいてください。

これを踏まえると、傍線部の前が原因、傍線部が結果を表すことになるため、傍線部に対して「なぜか」と問われたら、傍線部の直前を答えることになります。

以上を踏まえ、傍線部の直前である「感性によって捉えられるのは自然の意味や価値は主体によって与えられるとされる。」が答えの骨になると言えましょう。また、さらにさかのぼると「これが二元論的な認識論である。そこでは・・・」と続いているため、この部分も解答にするのに参考になります。

ただし、後述の私の答案では、この傍線部と、傍線部の直前が少し飛躍した論理になっているような印象を受けたため、間を埋める内容を盛り込んでいます。

なお、先ほど「なぜの問なので、回答の骨格を自分で作らなければならない。」と書きましたが、今回は傍線部の原因の部分が見つかってしまったので、その必要はあまりありません。

平井答案の解説

以上を踏まえ、私の答案例です。

近代科学では、自然そのものには価値がなく、価値を与えるのは人間の精神であるとされているため、自然の価値を讃えると、その価値を与えた人間の精神を讃えることになってしまうから

・前半が傍線部の直前を言い換えた内容、後半が傍線部までの論理の飛躍を穴埋めするために自作した内容です。

設問(三) 自然をかみ砕いて栄養として摂取することに比較できる

論理は簡単。でも表現は難しい。

これも「なぜ」の問題。
分かりやすく書かれているので、それほど困ることなく、論理が取れるでしょう。
語彙の「比較できる」は「似ている」くらいに意味を取れば良いと思うので、類似点を整理することになります。

何と何が似ているかを比較して書いてみると、

自然を’、分解して、エネルギーを取り出し、利用する態度
食物を、かみ砕いて、栄養を摂取し、利用する態度

といったところでしょうか。(食品とは明確に書かれていませんので、別の表現でも良いと思います。)

最後に難しいのが、「なぜ比較できるか(似ているか)」の問いに、どう答えるか?です。

文末を「似ているから」で締めてしまうと、「似ているから、似ている」というトートロジー(同義語反復)になってしまい、説明になりません。
「同じだから」で締めると「同じだから、似ている」となって、これも良くないでしょう。このように、答案の文末は非常に気を遣う作業になると思います。

平井答案の解説

以上を踏まえ、私の答案例です。

自然から場所や歴史における個性を剥奪し、分解して取り出したエネルギーを利用する様は、食品を消化して吸収した栄養を生命維持に利用する様と同じ構図であるから。

・「場所や歴史における個性を剥奪し」は傍線部を含む段落の内容の要点を盛り込んだ部分です。
・骨格として「Aの様は、Bの様と同じ構図だから。」としました。
・「比較できる」に対する理由は、「同じ構図だから」と工夫しました。

設問(四) 従来の原子論的な個人概念から生じる政治的・社会的問題

とても典型的な問題

なんか、採点してたら、全部3点になっちゃいました(笑)
基本に即した、典型的な問題だと思います。

まず、射程がかなり明確です。第13~16段落で、自然の話から脱線して社会・政治の話になります。その脱線部を要約しているのが傍線部です。単純化すれば、13~16段落を要約する問題ということになります。

また、傍線部の前半「従来の原子論的な個人概念」はすでに考察している内容ですから、傍線の後半がメイン。
後半は、「政治的・社会的問題」ですから、これを説明して、不足部分を説明して・・・としていけば答えになります。

具体的に説明すると、「政治的・社会的問題」の直接の内容は、傍線部の前の段落、つまり第15段落にかいてあります。ここに「標準的なに人間像」という論理のカギになっている言葉が登場するのですが、こいつの説明をするためには第13~14段落にさかのぼらなければならない、という構造です。

平井答案の解説

以上を踏まえ、私の答案です。

近代社会では、あらゆる個性を捨象された、規則に従うだけの個人を想定して制度設計されているが、現実には人間は多様な個性を持つため、疎外されるマイノリティが常に発生してしまうこと。

別解
近代社会では、あらゆる個性を捨象された、規則に従うだけの個人を想定しているため、その想定の下では生きづらい個性を持つマイノリティは排除され、ニーズが応えられづらいということ。

・前半部は、設問三までの内容と同様のことを、「人間」に修飾して書いたものです。
・近代社会の想定と現実との乖離を表現しようと工夫しました。
・1つ目の解答では、メインで説明するための「政治的・社会的問題」の内容が薄いと感じたので、別解を作成して厚みを持たせました。

設問(五) 自然破壊によって・・・悲劇的帰結である

これも典型的

これも東大の問題としては標準的。
傍線部の構造を単純化すると「AはBがもたらした」ですから、このままにするか「BがAを引き起こした」などとするか、の2択がシンプルでしょう。
ただし、私は傍線部の構造がBを強調しているように読めたので、答案において若干に協調表現を用いています。

第17段落から全体の論旨が進展して自然破壊や環境問題の内容に入っています。そして、環境問題は、これまで説明してきた近代科学の自然観(≒物心二元論)が引き起こしたのだ、という内容です。

まさに本文全体の要約をしているのが傍線部ですから、答案もしたがって本文全体を要約するのが方針となるでしょう。
気を付けたいのは、設問(四)の該当部分である第13~16段落ですが、これはちょっと脱線している部分なので、優先順位は低いと思われます。(だからといって、字数次第では含める可能性はあります。)

平井答案の解説

以上を踏まえ、私の答案です。

人間を含む動植物が相互に影響を及ぼし合い循環して築き上げた豊かな個性を持つ自然を、物理法則に従う無個性な微粒子の集合体とみなし、分解して取り出したエネルギーを利用する近代科学の考え方こそが、地球の生態系が破壊されている原因であるということ。

・自然に対する修飾部分を最終段落を要約して付しています。
・中盤は、設問三までで答えてきた、近代科学における自然観(≒物心二元論)を要約したものです。
・後半は、生態系が破壊されているとまとめました。
・先述した強調表現に関しては、「~こそ、ーである」として表現しました。

まとめ・講評

以上、様々解説してきました。
設問一が難しかったのですが、全体としては標準的なレベルの問題が多く、取り組みやすかったと思います。
答案の骨格の考え方もシンプルで、受験生には練習問題として早期に取り組むと良いのではないかと思います。

※本稿では最低限の読解や私(平井)の答案の紹介を行っています。
より詳細な内容に加え、サンプル答案の添削やアドバイスなど2時間ほどかけて解説した授業動画と合わせて、皆さんの実力を上げられるように組んでおります。オプションで添削サービスもご検討いただけます。どうぞご利用ください。

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