2006年東大世界史(第1問 大論述)入試問題の解答(答案例)・解説

大論述は、解答がブレる

東大入試の中でも、最も長い論述問題が、世界史第1問。
それだけに、書き手によって差がつきやすい問題でもあります。

予備校などの模範解答を参考に勉強している人も多いと思いますが、事実の羅列に過ぎない答案や、編年体に並べて書くことに留まる解答も多く、どれも似たり寄ったりなことも多いでしょう。

そもそも、論述問題の答案として、主張の排した事実の羅列で点数が来るのか、という疑問もありますので、今回は敬天塾の授業の中で登場した答案をご紹介します。

あくまで例であり、満点を保障するものではありませんが、他の答案と比べてみてください。
なお、東大入試の世界史で満点を獲得した方2名に目を通していただいたところ、高評を頂いたものなので、それなりの答案と言えるかもしれません。

以下に敬天塾の答案を載せておきますが、予備校や塾の答案も市販のものでご覧ください。

2006年 東大世界史 第1問 問題

 近代以降のヨーロッパでは主権国家が誕生し、民主主義が成長した反面、各地で戦争が多発するという一見矛盾した傾向が見られた。それは、国内社会の民主化が国民意識の高揚をもたらし、対外戦争を支える国内的基盤を強化したためであった。他方、国際法を制定したり、国際機関を設立することによって戦争の勃発を防ぐ努力もなされた。
 このように、戦争を助長したり、あるいは戦争を抑制したりする傾向が、三十年戦争、フランス革命戦争、第一次世界大戦という3つの時期にどのように現れたのかについて、解答欄(イ)に17行(510字)以内で説明しなさい。その際に、以下の8つの語句は必ず一度は用い、その語句の部分に下線を付しなさい。

指定語句
ウェストファリア条約 国際連盟 十四カ条 『戦争と平和の法』 総力戦
徴兵制 ナショナリズム 平和に関する布告

敬天塾サンプル答案

欧州では、甚大な被害をもたらした戦争を経験するたびに、その反省から戦争抑止のため国家間の努力と協力が行われてきた。三十年戦争期には、宗教戦争が瞬く間に欧州全土に広がり甚大な被害がもたらされると、その惨禍を見たグロティウスが『戦争と平和の法』を著して国家間のルールに基づく戦争抑止の手段である国際法を提唱し、ウェストファリア条約締結で確立した主権国家体制が国際法を発展させ、戦争抑止が図られた。フランス革命戦争期には主権者となった国民が徴兵制で戦争当事者となり、ナショナリズムの高揚を伴い革命戦争が助長されたが、戦後に成立したウィーン体制ではナショナリズムが抑制され、各国の勢力均衡による戦争抑止が目指された。しかし、そのウィーン体制も崩壊し第一次世界大戦に突入すると、各国が国民や資源などの全てを投入して摩耗し合う総力戦に発展し多大な犠牲者を生んだ。ロシア革命に成功したレーニンは平和に関する布告を、覇権を握りつつあったアメリカのウィルソンは十四カ条を発表し戦争抑止が図られ、その後には初の集団安全保障方式を採った国際連盟が発足するが、制裁機能の不十分によりやはり戦争抑止はならず、戦争のない世界は現在も実現していない。

敬天塾サンプル答案への講評

全体的に、世界史用語の使用が少なく、情報量は少ない。

一方で、用語同士が有機的に(因果関係によって)結びついており、ショートストーリーの結合により、答案全体もストーリーになっている。
特に、1文目で全体の方針を示し、その方針に沿うかたちで以後の文章が続いており、最後まで一貫した主張が通してある。

例えば、三十年戦争期の文章では、
宗教戦争が広がる → 被害が甚大 →グロティウスが『戦争と平和の法』を書き、国際法の提唱 → ウェストファリア条約が発展 → 結果、抑止が試みられる
といった、時系列のストーリとも、因果関係のストーリーとも読み取れる文章になっている。
使っている単語が同じでも、接続や形容の仕方で印象は大きく変わる。

最後の一言「戦争のない世界は現在も実現していない」は、問題で問われている時代を超えているので、必ず解答に必要な部分ではなかろうが、現代の問題を歴史的に考察させようとする、東大の頻繁に見られる態度を鑑みたものであるようだ。

一般に見られる答案とは、一線を画すサンプル答案であると思うので、一見ご覧入れたし。(どのように評価されるかは、明記しない。)

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