2013年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

設問(1)

2000年代前半における都市と農村の年齢階層別の人口比率を示した図3-1のA~Cのいずれにインドネシア、スペイン、中国が当てはまるのか答える問題でした。

人口ピラミッドの形は、発展途上国や出生率の高い国は富士山型、先進国や出生率の低い国は釣り鐘型またはつぼ型になりやすいですね。中国はいびつな形をしているなど、国ごとの例外や特徴を掴むのも大事ですし、都市部と農村部でも形が変わります。

まず、中国は一人っ子政策によって出生率が抑制されていることなどで一般的な人口ピラミッドの形とは異なる形になっています。今回のA~Cのなかでは高齢者比率が低く発展途上国などに多い形をしているのに、20~24歳の人口構成比率あたりから急に人口比率が低くなっているCが中国に該当します。中国は特徴的なのですぐ解答できた人も多かったかもしれません。
なお、今回は都市部と農村部の人口ピラミッドですが、よく見かける男女の人口ピラミッドの場合はさらに特徴的です。儒教的な価値観のある中国では、一人っ子政策下において、出生前の女子を堕胎したり、女子の出生を届け出ないなどの理由から、男子の割合が普通の国より多くなります。現在はこの傾向は抑制されています。
また、過去問を解くうえで共通の注意すべき点ではありますが、この問題は2013年の問題ですから、現在と比べて10年以上前の問題です。
中国は現在は高齢化傾向にあり、人口ピラミッドも釣り鐘型に近くなってきていて統計データが現在とは多少異なる点も注意しましょう。

他の二国は見た目の通り、出生率が低く老年人口比率が高いBが先進国であるスペイン、出生率が高く老年人口比率が低いCが発展途上国であるインドネシアです。

設問(2)

アメリカの都市部で、30~44歳の人口と0~14歳の人口の間に差がない社会的な理由を答える問題です。問題文にあるように、0~14歳は30~44歳の子世代であるため、なぜ都市部でここまで出生率が高いのかを答えれば良いでしょう。

一般的に、一人の女性が一生のうちに産む子供の数の平均値である合計特殊出生率は先進国で低くなりやすく、少子高齢化が進んでいる国が多いです。これに当てはめると、先進国であるアメリカは子供の数が少なくなりそうですが、他の先進国より高い水準を誇っています。

この矛盾を解消するためには、人口増減の計算方法に触れる必要があります。
※統計データを見るためには、そのデータの計算方法に注目するというのが、基本中の基本です。東大の過去問でも頻繁に見られます。

人口増減 = 自然増減(出生数ー死亡数) + 社会増減(入国者数ー出国者数)

中小企業庁HPより

この計算式のうち、自然増減に関しては先進国になるほど低くなります。日本のように移民受け入れが少ない国では、自然増減を中心に考えれば良いでしょう。
一方、アメリカは移民を多く受け入れている国なので、社会増減も考慮に入れなければなりません。

アメリカはヒスパニックを中心とする多くの若年層の移民が出稼ぎにアメリカ合衆国へ流入しています。お爺ちゃんやお婆ちゃんは、移民として出稼ぎには来ません。移民に来るのは若い世代です。すると、移民が多くなれば、出生率も上がります。
都市部であれば賃金水準が高く、雇用機会を求める移民にとっては魅力的でしょうから、都市部中心に出生率が上がっるわけです。
ヒスパニックは多産傾向にあることや若年層の方が結婚して子供を産み育てる割合が多いことなども覚えておくと良いでしょう。
以上のことをまとめれば良いです。

設問(3)

韓国の都市部が日本の都市部と比べて高齢化が進んでいない理由を「人口移動」「高度経済成長」の2つの語句を使って答える問題です。

「日本と比べて」と問題文にあるので、指定語句や図3-1をヒントに日本から考えてみましょう。
日本の「高度経済成長」期は、一般的に1955年から1973年の第1次石油危機あたりまでとされています。
この時期に農村部から都市部へ雇用機会を求めて多くの「人口移動」がありました。約30~50年前に若年層が都市部に大量流入したことを鑑みると、図3-1ではその都市部に流入した世代が都市部の高齢者層を構成していると考えられます。

一方で韓国は1960年代半ばあたりから急速な経済成長を見せ、1997年のアジア通貨危機にいたるまで漢江の奇跡と呼ばれるほどの高い経済成長を続けました。これはベトナム戦争による消費特需や冷戦下の米国や日本を含む西側諸国からの各種融資による社会インフラの構築と、開発独裁や輸出志向型工業化政策などが進められたことが背景にあります。
高度経済成長期が日本に後れて到来した韓国では日本と同様に農村部から都市部への人口移動が顕著に見られました。このことから、若年層の流入が日本より遅かった韓国では流入した若年層の高齢化も日本より遅れているといえます。
以上から、高齢化が遅れている理由を高度経済成長期に農村部から都市部への人口移動が顕著になることや韓国の高度経済成長期が日本より遅くに到来したことをまとめれば良いでしょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
雇用機会の多い都市部に移民として流入して住みついたヒスパニック系の若年層の出生率が高いため。

Bさん
ラテンアメリカ地域から、母国より多い賃金を求めた移民が多く存在し、その移民の出生率が高いため。

Aさんはヒスパニックの説明が「移民として流入して住みついた」となっているのですが、移民はそもそも他国から流入するものなので「流入して」の部分はカットしても良いでしょう。
また、「ヒスパニック系の若年層の出生率」と「の」が2回続くと少し読みづらいので、「ヒスパニック系を中心とした若年層」などと変えた方が読みやすいです。

Bさんは大筋はあってるのですがやはり「ヒスパニック」という名称を使った方が字数節約になるので、覚えていたら使って欲しいところでした。こうした地理用語は使えたら大分字数を節約できるので、事実誤認がない限り積極的に使った方が良いです。
表現の部分で、「母国より多い賃金」という部分は結構雑な書き方になってしまっていて、より丁寧に表すのなら「母国で貰える賃金よりも高い賃金」などとなりそうですが字数を取りすぎてしまうので、単純に「高賃金」と書いてしまってよいでしょう。

設問(3)

Aさん
都市へ大規模に労働力が流入する高度経済成長期が漢江の奇跡以降に到来して若年層の人口移動が起こったため。

Bさん
若年層の人口移動が起こる高度経済成長期が起こった時期が日本より遅く、流入した人々の多くが老年に達していないため。

Aさんは漢江の奇跡というワードが出たのは良かったのですが、これだと高度経済成長が日本より遅れて到来したことが示されていません。

Bさんは大体の流れはあっています。
ただ、前半の部分で「〜が起こる高度経済成長が起こった時期」と「起こる」が2回使われていて少し不自然なので、「〜が起こる高度経済成長期」とまとめるか、「〜が顕著になる高度経済成長が起こった時期」などと工夫した方が良いでしょう。

設問B

設問(1)(2)

リード文と図3-2に示されたA~Eの都市の名前を大牟田、豊田、新居浜、日立、室蘭から選ぶ問題です。それぞれの都市に関する知識がないと難しかったでしょう。

図3-2はE市以外の4市にはあまり差が見られず参考にはならなそうなので、リード文の文脈から考えていく方が良いでしょう。

A市は第二次世界大戦前に石炭を原料とした工業で栄え、エネルギー革命によって衰退したとリード文から読み取れます。これは、三池炭鉱の石炭資源を背景として石炭化学工業で発展し、エネルギー革命の進行とともに衰退した福岡県大牟田市が該当します。また(1)の解答と、リード文に「海外からの石炭や石油が工業原料」となっていたことからアが化学工業であることが分かります。

B市も戦前から国内資源を活用してなにかの工業とともに成長し、第二次世界大戦後に工場の中心が太平洋ベルトの新しい臨海コンビナートなどに移った、大市場から遠い都市であるとリード文にありますね。
これは「鉄のまち室蘭」と称されるほど鉄鋼業が発展した北海道室蘭市が該当します。室蘭港は道内で主要な石炭積出港で、豊富な石炭と、内浦湾の砂鉄や倶知安の鉄鉱石を原料に製鉄業が室蘭市では発展しました。
高度経済成長期には太平洋ベルトに臨海コンビナートが形成され、戦前から栄えていた室蘭市が生産拠点の移転とともに衰退したことからイが製鉄業であることが分かるでしょう。

C市は企業城下町として発展し、非鉄金属工業に加えて戦後には化学工業プラントでの製品の生産が盛んだったものの、オイルショック後には京葉地区に生産拠点が移動するとともに人口も減少した都市です。
これは、非鉄金属・産業機械・化学工業などが住友グループを中心とした企業群によって発展し、住友グループの企業戦略による産業構造の変換や工場移転などによって人口が減少している愛知県新居浜市が該当します。

D市は銅山で栄えた後に、ハイテク化が進むような工業で栄え、高度経済成長期に大幅な人口増加が見られた都市です。
これは日立銅山で栄え、日立製鉄所および日立グループの企業城下町であり、東京大都市圏に含まれて高度経済成長期には大幅な人口増加が見られた茨城県日立市が該当します。
以上のこととオイルショック後も技術革新や製品の多様化が進んだことからウが電気機械工業となります。

残るE市は一貫して人口が増加しており、日本を代表する工業の本社と関連工場が立地してその工業が工業出荷額のほとんどを占めている都市です。
これは、トヨタ自動車が本社を置く企業城下町であり自動車産業の占領状態にある愛知県豊田市が該当します。豊田市であることがわかっていれば自ずと自動車工業だと導けそうですが、日本を代表する工業で、関連産業の集積が見られる工業といえば自動車工業がピッタリでしょう。

設問(3)

日立市の人口が1985~1990年頃から減少している理由を答える問題です。時期や(2)がヒントになりました。

1985年といえばプラザ合意によって急激な円高に切り上げられた年です。超頻出事項なので、必ず覚えましょう。
その後、円高不況による景気対策として金利が下がり、投資が過熱してバブル景気になったことや、金利の急上昇などでバブルが崩壊したことなども併せて理解しましょう。

円高というのは、円で作った製品が高いということです。つまり、日本の製品が外国では高くなり輸出が不利になります。バブルの崩壊が進んだ90年代には、特に電気機械工業は安い労働力や広大な土地を求めて工場の海外移転が顕著になり、産業の空洞化が進みました。

産業の空洞化が進めば工場などに働いていた人たちの働き口が無くなり、雇用機会が減少します。働く場所を失った人々は多かれ少なかれ新たな雇用機会を求めて違う地域へ移転するでしょう。
このように電気機械工業が発展した日立市も人口減少していったと考えられます。
以上を簡潔にまとめれば良いでしょう。

設問(3)

豊田市で産業の多様化が進められている理由について答える問題です。

モノカルチャー経済の問題点を想像できれば答えられたでしょう。この問題は、国全体の規模ではなく、豊田市について答える問題ですが、ヒントになります。

モノカルチャー経済は1国の経済が特定の一次産品の生産や輸出に依存している経済体制を指し、生産量や国際価格の変動によって国全体の経済が左右されやすいという欠点を持ちます。
リード文によると豊田市の工業出荷額の約9割を自動車工業が占めており、豊田市の財政は自動車工業に大きく影響を受けていると言えます。こうした状況は自動車産業の業績に左右されやすく、急激な不振に陥れば豊田市の財政も急速に悪化する可能性があります。そこで産業を多様化することで、自動車産業への依存度を低下させ、リスク分散が図れます。さらに新たな雇用創出にも繋がります。
以上のことをまとめて、産業の多様化が必要であるとすれば十分得点できるでしょう。

答案比較

設問(1)

Aさん
工場が海外に多く移転して産業の空洞化が進んだため。

Bさん
円高の影響で工場の海外移転が進み、雇用機会が減少したから。

Aさんは産業の空洞化というワードが書けていて良いのですが、Bさんと比べて「円高の影響」や「雇用機会の減少」などの情報が抜けているため少し見劣りします。

設問(2)

Aさん
特定の産業への依存は景気変動の影響を受けやすいが、業種の幅を広げることで新たな雇用創出や持続的な発展に繋げられるから。

Bさん
単一業種への依存は、地域経済がその業種の景気変動に左右されるので、影響を小さくして、雇用の場を拡げる必要があるから。

Aさんは「景気変動の影響を受けやすい」のが地域経済や財政であることを明示した方が分かりやすいでしょう。また、内容的に逆接で繋げるのは不自然なので「受けやすく」や「受けやすいため」などと繋げるとより自然です。
後半では業種の幅を拡げる目的を書けているのは素晴らしいのでそのままでも大丈夫なのですが、「業種の幅が広がる」、「〜に繋がる」のように主語が無いような書き方の方がより自然になるでしょう。

Bさんは冒頭の「単一業種への依存」と無理に名詞化するよりも「単一業種へ依存すると」と動詞で書いた方が、後に書かれている地域経済が依存していることが分かりやすかったでしょう。また、「業種の景気変動」は「業種の景気」で十分でした。
後半の「影響を小さくして」というのは何の何に対する影響か分かりにくいので、産業の多様化によって地域経済を安定させるとハッキリと書きましょう。
また、「雇用の場を拡げる」という部分で急に雇用機会の創出の話が出て浮いてしまっているので、カットするか先に雇用が単一業種の景気に左右されることを書いた方が繋がりは良かったでしょう。

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