2024年東大国語 第3問(漢文)方東樹『書林揚觶(しょりんようし)』解答(答案例)と現代語訳
東京大学2024年漢文も「対」を意識することが重要でした。
筆者がプラスにとらえていることと、マイナスにとらえていることを確認して読みましょう。
漢文では基本的に「君子」や「古(いにしへ)」はプラスで、今はマイナスです。
(現状の課題を指摘し、昔の理想的なものと比較して主張することが多いですからね!)
こちらもご参照ください。
2024年(令和6年)東大国語を当日解いたので、所感を書いてみた。
映像授業【東大漢文 過去問演習編(標準レベル)】(2008年『右台仙館筆記』・2017年『賢奕編』・2022年『呂氏春秋』・2024年『書林揚觶』解説付き)
答案例とプチアドバイス
(一)傍線部b・d・eを平易な現代語に訳せ。【各0.5行】
b 取ルヲ二快(かい)ヲ一時ニ一
答案例:一時的に快楽を得ることを
プチアドバイス:条件付き現代語訳や現代語訳問題では、見直しの際に、自分の解答を傍線部に当てはめましょう!
直後の「為サズ」との繋がりから、「ことを」が不足していると良くないですね。
なお、上記の答案例は「守りの答案」です。
「攻めの答案」として、「快ヲ取ルヲ」を「人々の歓心を集めることを・もてはやされることを・名声〔注目〕を得ることを」という風に言い換えるのも良いでしょう。
d 丘山之利
答案例:丘や山のように大きな利益
プチアドバイス:「丘や山のように」の部分は無くても正答とみなされる可能性はありますが、解答欄は余っているので迷ったら書いておくことをオススメします。
e 雖(いへど)モレ偏(へん)ナリト、
答案例:偏向しているとはいえ
プチアドバイス:「偏」の部分は「偏向・偏重」が良いでしょう。
「偏狭」だと心の狭さ、「偏屈」だと頑固な性格が含まれてしまいます。
(参考)映像授業【東大漢文 語彙力・漢字力編】(オリジナル語彙一覧付き)
(二)「著書立論、必本於不得已而有言」(傍線部a)とはどういうことか、簡潔に説明せよ。【1.5行】
答案例:本を書き、論を展開するには、必ず言わざるをえない自説に依拠すべきだということ。
プチアドバイス:他社の解答例で「精査し尽くした言葉で」「必要最低限の言葉だけ」という方向性を複数見かけました。
「達二事理一而止」を重視した答案ですが、弊塾では傍線部aと同じく「著レ書」「本(もとヅ)」がある「著レ書 不レ本二諸身一」の方が重要だと判断します。
(三)「寒暑昼夜」(傍線部c)は「君子之言」のどのようなありかたをたとえているか、簡潔に説明せよ。【1行】
答案例:日常の事象のように、当たり前に受け入れられ、疑われるはずのないありかた。
プチアドバイス:「無レ可レ疑、無レ可レ厭」の「べきなく」を「できない(can not)」や「すべきでない(must not)」で訳してしまう受験生がいます。
ここでの「べき」は当然の打消し(~はずがない)のニュアンスです。「余地がない」等で表現することも可能です。
(四)「有識者恒病書之多也、豈不由此也哉」(傍線部f) とあるが、「此」は何を指しているか、わかりやすく説明せよ。【1.5行】
答案例:現代の著作者の多くが、独自性を持った文章を書けず、剽窃して後世に伝える価値の無い書物を多く著していること。
プチアドバイス:「後ニ伝フルニ足ラズ」の訳で差がついたでしょう。
「~(スル)ニ足ラズ」は助動詞で〈❶できない ❷値しない〉。
ここでは盗用した本を後世に残す必要はないので❷です。
❶で書いてしまった受験生の解答をちらほら見かけました。
対の分析
漢詩ではなく漢文であっても、「対」に注目することは読解において非常に重要です。
以下、「対」となっている部分に色付けをしています。
(参考)「対」による読解をマスターするなら映像授業【東大漢文 読解法編】
(2024年4月下旬追記)東大「出題の意図」
東京大学の漢文作問担当教授陣が以下のようなメッセージを発表しましたのでご紹介いたします。
第三問は、漢文についての問題です。今回は清の方東樹の『書林揚觶(しょりんようし)』を題材としました。漢文の基礎的な語彙・文法をふまえ、著述のありかたをめぐる筆者の考えと現状批判を文章に沿って理解できたかが問われます。文科ではさらに、対構造による比喩表現を説明する問題も出題しました。
2点ほど、コメントしておきます。
①「基礎的な語彙・文法」だそうです。
設問(一)はまさに、基礎的な問題でした。
意外と、こういう基礎的な設問でも差がついてしまうので、(一)で1つでもミスがある方はそこが大きな「のびしろ」だと自覚しましょう。
②「文科ではさらに、対構造による比喩表現を説明する問題」だそうです。
文科にのみ出された設問は(三)「寒暑昼夜」です。
これまでも東大漢文では比喩表現の問題が出されています。
本文と現代語訳の併記(JPEG)
本文と現代語訳の併記(ダウンロード可能)
2024年『書林揚觶』現代語訳現代語訳
一般的に、本を書き、理論を展開するには、必ず言わざるをえない(自説)に依拠する(べきだ)。
そうやってはじめて、その言葉は妥当となり、その言葉は誠実となり、その言葉は用いる価値がある(ようになる)。
そういうわけで、君子の言葉は物事の真理にまで到達してやめており、節度なく述べ立てたり、無責任に言い放ったり、好き放題に空論を述べたりして、一時的に快楽を得ることをなどしない。
思うに、重要でなければ嫌って避けるべきで、(根拠が)不確かであれば疑うべきだ。
嫌っている上に、さらに疑っていれば、その本は尊重して信じること(など)できない。
君子の言葉は、寒い(日)や暑い(日)、昼や夜(が来ることや)、日常の衣服や食物のように、(当たり前に受け入れられ)(誰も)疑うはずはなく、嫌って避けるはずもない。
天下の万民は信じてこれ(=君子の言葉)を利用し、丘や山のように大きな利益が得られ、ほんのわずかも損害は被らない。
この点で昔と今の文筆家について考えると、(差は)明らかで、白黒のよう(にはっきりと異なる)。
本を書くにあたって、内容が自分(の考え)に依拠しなければ、その著者はたんに(他人の)言葉を(勝手に借用して)売る者にすぎない。
道家や法家の学徒は、学問は偏重しているとはいえ、(その学問の)要点はそれぞれ、自分で世の中の後世にも残せている。
この意味では、昔の文筆家は今でもこれ(=現在の学問)に(自分の文章を)残すことができている。
時代が下って(現在)、それができなくて、なんと(他人の文章を)盗用する(者がいる)。
そもそも、盗用して文章を作ったのでさえ、後世に伝えるには値しない。
まして盗用して書いた本ならなおさら(後世に伝えるに)値しない。
そうして、見識のある者が常に、本が多いことを気に病むのは、これが理由だ。
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