2024年(令和6年)東大国語を当日解いたので、所感を書いてみた。
目次
【科目全体の所感】
総合難易度 標準~やや難
まず衝撃だったのは、4問中3問で女性が書いた文章が出題されたこと。しかも、現代文は両方とも若い著者の方でした。これも時代を象徴しているのでしょうか。
どちらも非常に面白く、できれば問題を解く行為を抜きに読みたかったと思いました。(問題を解こうとすると、文章を味わうことに集中できなくなってしまいますので)
さて、難易度が跳ね上がった2021~2022年に対して、少し落ち着いたかのように見えた2023年。2024年はどうかというと、ちょうど間くらいでしょうか。2021~2022年ほど難しくはないけいど、2023年よりは難しいといったところと評価しました。
第一問 やや難
東大が一般公開している学術講義で、小川さやか先生が発表した資料に関連しています。
以下のp24〜32が本年度の第1問で取り上げられた文章の骨子です。
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/11463/4/notes/ja/ay23gf_0428_04ogawa.pdf
文章は全体的に平易で、非常に具体的な内容です。細かいお金と時間のやり取りの話がずーっと続きますが、しっかり読めば困ることはあまりないでしょう。しかし、「掛け売り」や「ツケ」など高校生には聞きなれない言葉が頻繁に登場するため、読みづらいと感じた人もいるでしょう。
設問の作りとしては、設問(一)が具体例をまとめさせるという、これまでにない傾向の問題が登場しています。
また、2020年ぶりに「なぜ」を問う問題が出題されました。
※その後の分析で、難易度は「標準」としました。詳細な解説や講評、難易度判定は解説記事をご覧ください。
第二問 やや難~難
出典が『讃岐典侍日記』で、珍しく有名な日記作品でした。
昨年2023年の『沙石集』「耳売りたる事」よりもずっと難しい文章でしたね!
2021年『落窪物語』や2022年『浜松中納言物語』よりも難しかった気がします。
第三問 標準
《今どきの文筆家は他人の文章の盗用ばかりでけしからん》といった内容です。
筆者がプラスにとらえていることと、マイナスにとらえていることを確認して読むと良いです。
漢文では基本的に「君子」や「古(いにしへ)」はプラスで、今はマイナスです。
(現状の課題を指摘し、昔の理想的なものと比較して主張することが多いですからね)
読解はプラスとマイナス、そして「対」を意識すれば、ある程度の受験生ができたと思いますが、
設問(二)以降の記述は難しめだと感じました。
第四問 標準
久しぶりに典型的なエッセイ調の文章でここ数年では、最も平易な文章でした。と言っても、それは最近の第4問が難解な文章ばかりだからであって、絶対評価で簡単なわけではありません。ここ数年が「読めなくて難しい」だとしたら、今年は「読めるけど難しい」問題。
特に最後の段落で伏線が回収され、「もう一人の自分」と「クレリエール」がパラレルに類比される部分の読解は、読解が難しいです。(ただし、難しさがバグっていた2021年や2022年と比べてしまうと、おとなしく見えてしまいますが)
出典は、京都大学でフランス文学・哲学分野の研究者でらっしゃる菅原百合絵先生が講談社群像2023年7月号寄稿された随筆『クレリエール』です。
調べてみたところ、著者の菅原先生が私より年下であることを知り、初めての受けたタイプの衝撃を感じました。
第一問(現代文)小川さやか「時間を与え合うー(略)」
難易度 標準~やや難
立命館大学教授の小川さやか先生による文章。種類としては、評論文というよりエッセイとかレポートとかルポのような感じです。
我々、日本人など資本主義経済に生きる人間とは違う価値観の下で経済活動を行っているタンザニアの様子を詳細に記述した文章です。
全体として、非常に具体的な内容が書かれているため、読めなくて困るところは出てきませんが、最後の5行で一気に論が展開され、ただの商売上の関係ではなく、密接な人間関係の話に発展するところは、キレイな「オチ」となっていて、納得感を覚えながら読み終えられます。
もし読解で困るとしたら、最後のオチ部分で躓くか、語彙でしょう。「掛け売り」や「ツケ」など、高校生にはなじみのない単語が登場します。このような言葉は、読むのも難しいかもしれませんが、この言葉を説明しなければならないのでさらに大変です。大人には気づきづらい「ひっかけ」ポイントだったかもしれません。
東大によくある「読めるけど、書けない」という心理に陥る問題で、答案の質を高めようとすればするほど、時間がかかってしまって困るという罠が仕掛けられています。
設問一(難?易?)
これは新しい出題形式とも言えそうな問題でした。
傍線部の直後を短くまとめれば回答になると思われるのですが、ただの要約問題ではありません。
これまでも「単なる要約問題」と評せる問題は出ていましたが、今回の問題は論旨を見抜いて要約するのではなく、並べてある具体例を短くまとめるのがメインの作業です。
英語のⅠAの要約問題で「具体例は省け」というような指導を受けることがあると思いますが、この問題は具体例のみの部分をまとめなければいけないので、作業方法が全く違います。
「初体験の作業」に取り組むという観点から言えば、難しい問題かもしれませんね。
一方で、別に難しい文章ではないですし、ただ単に情報を整理すればよいので「簡単」と認識するかもしれません。人によって、難易度の印象がブレる問題だと思いました。
設問二(標準)
設問(二)は、これまでの東大入試と同様の解法で解ける問題です。難易度としては標準と判断しました。
一応気を付けなければならないのは、現代文の問題では、傍線部より前の内容をまとめることが多いのですが、この設問は傍線部より後ろに詳細な説明がある問題です。
次の段落に登場する「市場交換」と「贈与交換」の内容を読み取って、丁寧に記述するというのが方針ですね。
「市場交換」はまだ書きやすいとして「贈与交換」は恐らく筆者の造語です。何を贈与して、どのような効果が発生するのか、一般的な日本語で表現するのが難しいと思います。
設問三(やや難)
設問(三)も、解法としてはいつもの問題ですが、難易度は(二)より上で、やや難かと思います。
特に「生活全般」と「帳尻があう」をどのように言い換えるかが難しいでしょう。
まず「生活全般」とは何か。直前に「商売の帳尻」ではないことが書かれていますが、では「生活全般」とはどこからどこまで含むことなのか。このような抽象的な言葉に反応して、具体的に何を示すのか考えることは非常に大切です。
次に、「帳尻があう」をどのように具体的に表現するか。商売であれば、利益と損失が釣り合えば帳尻があいますが、「生活全般」においての帳尻とは何か。そしてそれをどのように表現するのか。簡単そうに見えて、難しい問題ではないでしょうか?
内容はわかりやすい(なんとなくで良いなら理解できる)ので、言い換え時の語彙がモノを言うでしょう。
設問四(やや難)
最後の5行で「商売の関係だけじゃなくて、個人の密接な人間関係なんだよ」(意訳)というキレイなオチが決まるのですが、こんな単純には答えられません。
まず傍線部で困るのが「余韻」。設問(三)の「生活全般」や「帳尻があう」と同じで、なんとなくの意味は読み取れるけど、具体的に説明するのが難しいという典型的な問題です。
次に、「贈与交換に回収させるステップ」です。ここで「回収」という言葉を使っていますが、「回収」を言い換えようと思って「取得」とか「取り返す」など類語変換してもダメです。何をどうすることを「回収」と表現しているのかを読み取らなければなりません。
そして、それに絡んで難しいのが骨格です。骨格は「AがBをCに回収させるDになる」です。しかし主語であるAが「この余韻」という、いわゆる「無生物主語」です。英語でも習いますが、無生物主語の場合は、骨格を変更して考えるのが定石です。骨格ごと書き換えてから意味を考えると良いでしょう。
そして、難易度をグッと押し上げているのが、最後の行に書かれた「二者間の基盤的コミュニズムを胚胎させる」という表現。先ほど書いたように、大雑把に(私の卑俗な言葉で)表現するなら「個人の密接な人間関係」なのですが、これでは「基盤的」とか「コミュニズム」とか「胚胎」を表現できていません。では、どうする?と考えていると、無限に時間が経ってしまいます。
最後にダメ押ししますと、問われているのが「どういうことか」ではなく「筆者はどのようなことを言っているのか」であることにも注目。単純な言い換えではなくて、筆者の主張内容をまとめる問題です。
設問五(漢字の書き取り)
漢字は、「曖昧」「憤り」「拘泥」の3つが問われました。
私の主観かもしれませんが、例年より少し書きづらい漢字だったような気がします。「曖昧」という漢字の記憶が曖昧になってしまう受験生や、「憤り」が「噴」出してしまう受験生が続出するでしょう。
第二問(古文)『讃岐典侍日記(さぬきのすけにっき)』
難易度 やや難~難
大変珍しく、日記からの出典でした。
しかも有名作品!
これまでは2000年『成尋阿闍梨母集』、2004年『庚子道の記』と、
マイナーな日記が稀に登場していました。
有名作品はあらすじを知っておくと解きやすい作品もあるのですが、『讃岐典侍日記』は特にそういう作品です。
(知らなくても本文と注記でわかるようにはなっていますが、知っておくと読みやすさが違います)
超カンタンなポイントだけ述べておくと、
①作者は堀河天皇のことが大好きでした(愛人だったようです)。
②白河上皇からの依頼で、次の鳥羽天皇にも仕えます。
③鳥羽天皇に仕えつつも、堀河天皇のことを思い出してばかりです。
(過去の助動詞が出てきたら、堀河天皇との思い出の可能性大)
これらを知っていたら、解きやすかったでしょうね。
ちなみに、共通テストの方で、2022年本試『とはずがたり』、追試『蜻蛉日記』と有名日記が続いていたので、
敬天塾では共通テスト対策として有名作品のあらすじチェックを促しておりました。
東大古文で頻出の「慣用表現」の力もかなり求められた印象でした。
設問(一)オ「心づから」→「自分の心から」
設問(三)「世を思ひ捨て」→「出家」
設問(五)「乾くまもなき~袂」→「涙」
「黒染め」→「喪服」(どちらかというと古文常識ですが)
さて、全体の難易度ですが、
昨年2023年の『沙石集』「耳売りたる事」よりもずっと難しい文章でしたね!
2021年『落窪物語』や2022年『浜松中納言物語』よりも難しかった気がします。
設問(一)ア 標準
(一)傍線部ア・ウ・オを現代語訳せよ。
ア 年ごろ、宮仕えせさせたまふ御心のありがたさ
「せさせ」の識別に困ったと思います。
「せ」はサ変の「す」の未然形なのですが、助動詞だと思った受験生もいるでしょうね。
(サ変の「す」や「なす」「なる」が入った文の品詞分解を間違える人は多いので)
また、「させ」が使役か尊敬か迷ったと思います。
文法的には、「給ふ」という尊敬語が付いている場合、
使役と尊敬の両方の可能性があって、文脈判断ですね!
ここでは文脈から尊敬です。
(詳細は現代語訳を公開するまでお待ちください)
設問(一)ウ やや易
ウ ゆかしく思ひまゐらすれど
東大古文で頻出の「補助動詞」が問われました。
「まゐらす」(謙譲「(お)~申し上げる」)は300語レベルの古文単語帳にも載っているので、そんなに難しくなかったですね。
設問(一)オ やや難
オ かやうにて心づから弱りゆけかし。
東大古文で頻出の「慣用表現」が問われました。
「心づから」(自分の心から)は多くの300語レベルの本には載っていませんね。
やはり東大古文で求められる単語力は300語レベルを超えています。
なお、弊塾の映像授業【東大古文 古文単語編】の特典として付けている「慣用表現まとめプリント」では、「自分から系」の中で「心づから」も紹介していました。
また、2022年『浜松中納言物語』設問(三)で類語の慣用表現「人やりならず」が出たばかりです。
過去問対策をしっかりとやっていれば、そこで学べたはずの語です。
2022年を解いたのに、「人やりならず」の類語を確認していなかったら、過去問の使い方がもったいないです!!
さらに、念押しの終助詞「かし」が昨年2023年に続いて傍線部になっていますね。
これをミスしてしまった方には、過去問との向き合い方を考え直すのを、心からオススメします。
設問(二)難
「いつしかといひ顔に参らんこと、あさましき」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。
出仕を促している弁の三位に対しての「あさまし」だと誤読した受験生が多発したと思われます。
実際には、「参らん」の「ん」が「仮定・婉曲」で「~としたら」「~ようなことは」で、作者が「早く要請を受けて鳥羽天皇のもとに出仕したい」というような待ち受けていた顔をして出仕したとしたら、という風に自分の行動を仮定して「あさまし」と言っています。
この設問は『讃岐典侍日記』のあらすじをよく知っている、
かつ、いかにも『讃岐典侍日記』らしい問題をいくつも解いたことがある受験生じゃないと難しかったのではないでしょうか。
直前の「おはしまましをり」は亡き堀河天皇がご存命だった時。
「聞こえし」は堀河天皇に申し上げた。
「御いらへ」は堀河天皇のお返事。
「おぼしめす」堀河天皇が「お思いになる」。
いずれも過去形や敬語が含まれていますが、「堀河」の「ほ」の字も入っていませんね。。。
つまり、堀河天皇が前向きではなかった作者の鳥羽天皇への出仕に対して、傍線部イなので、「私がそんなことをしたら、自分で自分をドン引き」となります。
つねに頭の中は堀河天皇なんです。
堀河天皇が反対していたことは、死後もやりたくないということでしょう。
(結局、この後にしぶしぶ鳥羽天皇に仕えることになりますが)
設問(三)やや難
「いかなるついでを取り出でん」(傍線部エ)とはどういうことか、言葉を補って説明せよ。
「世を思ひ捨て」から、「出家」の話だとわかるといいですね。
親しい人が亡くなると出家したがるのは古文あるあるです。
設問(四)難
「うち見ん人はよしとやはあらん」(傍線部カ) とあるが、なぜ「うち見ん人」は良いとは思わないのか、説明せよ。
かなり難しい設問なので、これは取れなくても気にしないで良いと思われます。
設問(五)標準
「乾くまもなき墨染めの袂かなあはれ昔のかたみと思ふに」(傍線部キ)の和歌の大意を説明せよ。
「乾くまもなき~袂」→「涙」、「黒染め」→「喪服」であることをしっかりと指摘したいですね。
(編集部注)こちらもご参照ください。
第三問(漢文)方林樹『書林揚觶(しょりんようし)』
難易度 標準
《今どきの文筆家は他人の文章の盗用ばかりでけしからん》といった内容です。
(個人的な憶測ですが、AIの活用が流行している現代に、
自らの頭で考えよ!というメッセージが込められた出題のように感じました。
あるいは、インターネットにある玉石混交の情報から、
信じるべき情報を見極める力を養えというメッセージでしょうか。)
筆者がプラスにとらえていることと、マイナスにとらえていることを確認して読むと良いです。
漢文では基本的に「君子」や「古(いにしへ)」はプラスで、今はマイナスです。
(現状の課題を指摘し、昔の理想的なものと比較して主張することが多いですからね)
「古(いにしへ)ノ文章ノ士」の後の「降(くだリテ)」は時代が下った「今」のことです。
読解はプラスとマイナス、そして「対」を意識すれば、ある程度の受験生ができたと思いますが、
設問(二)以降の記述は難しめだと感じました。
設問(一)易
傍線部b・d・eを平易な現代語に訳せ。
b 取二快一時一
d 丘山之利
e 雖レ偏
設問(一)は難しくないので、確実に得点しておきたいですね。
設問(二)やや難
「著書立論、必本於不得已而有言」(傍線部a)とはどういうことか、簡潔に説明せよ。
本文を最後まで読んで「盗用はダメ」だという主張をつかんでからの方が記述しやすかったと思います。
漢文は「大局的」に読みましょう!
なお、傍線部直後の「而(しか)ル後(のち)ニ」は漢文によく出てくる表現で、「そうやってはじめて〔やっと〕」という意味。
直前が「条件」だと主張する文になっていることが多いです。
設問(三)標準
「寒暑昼夜」(傍線部c)は「君子之言」のどのようなありかたをたとえているか、簡潔に説明せよ。
傍線部が対の片方になっているのは東大漢文あるあるです。
他方の「布帛菽粟」の注記の二文目に「日常の」とありますね!
ぜひ注目しておきたいポイントです。
設問(四)やや難
「有識者恒病書之多也、豈不由此也哉」(傍線部f) とあるが、「此」は何を指しているか、わかりやすく説明せよ。
漢文は「大局的」に読みましょう!
第四問(現代文)菅原百合絵『クレリエール』
難易度 標準
1行目の「フランス文学」という単語を見た瞬間、2013年第1問のランボーの翻訳の文章を思い出しますよね。(同調圧力)
ここ数年、第4問の文章が難しすぎて、過去問演習をやるほどにトラウマになっていたと思いますが、今年の文章は久しぶりに普通の文章の回帰して、平易な文章でした。
というのも、出典がエッセイ。
かつて「第一問は評論文、第四問はエッセイ」などと指導されていましたが、ここ数年はその法則が覆っていましたところ、久しぶりに第四問のエッセイが復活しましたね。(その代わり、第1問もエッセイみたいでしたが。)
難易度としては、設問四以外は簡単です。しかし「東大の難易度調整が入っている」から、難易度が下がっています。(後述)
設問四は、読解、語彙、記述などあらゆる面において全部難しい問題でした。
設問四が難しいので「標準」にしていますが、設問一~三は易しめの問題です。
「第4問は差がつかないから捨てちゃえ」なんて受験生もいますが、設問一~三は解くべく問題だったかもしれません。
設問一、やや易
比喩の問題です。
「ガラス」と「障壁」が何を比喩しているかを特定すれば、答えになります。というか、ほぼ「ガラス=障壁」ですけど。
「ガラス」が比喩なのはわかるでしょうけど、「障壁」も比喩ですよ。そして、その「障壁」を別の言葉で表現しようとすると、少し頭をひねるかもしれませんが、それでも簡単な問題と言えるでしょう。
設問二、やや易
これは、ものすごく難しい問題です!!!設問の条件が無ければ。
傍線部は「世界の見方が変容する経験」ですが、これをそのまま「どういうことか」ときかれたら、かなり難しいです。「世界」とは何か。「見方」とは何か。「どのように変容するのか」(変化前と変化後)などなど、全部難しいです。
しかし、設問を見てみると、「本文に即して具体的に」とあります。あー良かった。要するに「クレリエール」とか「空き地」とかそういう具体例を書けばよいんだとなります。
しいて難しいところを上げるなら、変化後の内容でしょうか。変化前は「空き地」で良いとして、変化後は端的に表現された場所がないので、自分で作ることになります。
設問三、標準
これも、ぱっと見て激ムズの問題。「本当の答え」とか、どうやって言い換えればよいかわかりません。
しかし、救いの手が差し伸べられています。それが傍線部の直後の文。「自分の愚かさ・・・くぐり抜けて言葉になる」の部分ですね。長いのでまとめる必要はありますが、ココをまとめればそのまま答えになります。
しかし、ここで障害となるのが、語彙。答案に使えそうな言葉が少なく、詩的な表現で書かれています。つまり、詩的な表現を一般的な日本語に直して書かなければなりません。本文に書かれていない言葉であっても、自分の語彙空間から適切な言葉を探すのです。
本文の単語をそのまま抜き出して答案を作る訓練をしている受験生は、かなり厳しいでしょう。
設問四、難
今年の問題で、圧倒的に難しかったのがこの問題。
最後の5行で今までの伏線を全部回収して結論に持っていくのは、第1問と似ていますが、レベルが違います。それは、説明が少なく、わざと論理的に書いていないからです。
クレリエールという言葉の持つ多様な意味と、もう一人の自分を浮かび上がらせる行為が類比されて、言葉少な気に表現されています。詳しくは、しばらくしたらアップする解説記事に書きますが、「空き地」や「光降りそそぐ」など、気づきづらい仕掛けがたくさんあります。
それらをすべて見ぬいたうえで、傍線部の後半「静かな慰め」とはどういうことなのか。なぜここでプラスの意味を持たせているのか。
そしてそして、この問題は「どういうことか」ではなく「なぜだと考えられるか」という問い。単純な「なぜか」でもありません。この、設問文の微妙な言葉遣いの意味をどうとらえるかも非常に重要です。
こういった疑問点に全て一定の答えを出し記述するとなると、かなり厳しいでしょう。
他の科目については、こちらのページにリンクがございます。
最後に
上記の記事は、敬天塾の塾長と古典担当講師が執筆しています。
どなたでも受講可能な敬天塾の授業はこちら ↓
初めまして。行木康夫(厚葉山房)と申します。28年間河合塾で主に、東大論述クラスとトプレベル医進クラスを担当してきました。70歳で河合塾を退職し、現在広尾学園高校にて漢文講師をしております。學燈社があったときは『入試問題詳解』の東大問題を担当していました。インターネットで貴塾のことを知りました。24年東大漢文の所感、並びに現代語訳を参考にさせていただきました。
そこで私の解釈と異なることがいくつかありましたので、解釈の違いにつきまして議論していただければ幸いです。
この文は「理想と現実」「君子と非君子」「古と降」の対比となっています。
冒頭の一文は6行目の「著書不本諸身」との対比から意味をとるべきです。非君子は己の身に基づかないのですから、反対に君子は己の体験や思慮に基づき、己の言葉で書作しているわけです。理想のあり方を説いた文だと解釈し、
㈡
「誰も言わないことを自/分の体験や思慮に基づ/いて自分の言葉や論証/で書かれるべきである/ということ。」(46字)
㈠ b の句は5行目の「天下万世信而用之」や、7行目の「見於天下後世」の反対なのですから
「一時的にもてはやされて終わる。」
㈢
この比喩は一見互文のようですが、そうではなく、「寒暑昼夜」は「無可疑」で「布帛菽粟」は「無可厭」です。「疑いがないとは「寒さ暑さ、昼と夜」の区別が疑いなく分かるとの意味です。
さらに君子の書は4行目の「其書不可貴信」の反対です。設問は「寒暑昼夜」にしか傍線が引かれていませんので、「無可厭」を使っては不可です。
「全く疑いようが無く、尊ばれて信用されていること。」(24字)
㈣ 傍線部fの「豈不由此也哉」を貴塾では詠嘆として訳しています。詠嘆の時は(豈〜ずや)と
読む時で、東大の出題者は(豈〜ざらんや)と反語として訓読していますから、明らかな間違いです。(必ずやこれによるのだ)と訳すべきです。
1、時代が降ると
2、他人の書を剽窃しただけ
3、万世に残らない
の3つの要素を盛り込み、
「時代が下り、人の物を/剽窃した、万世に残ら/ないような書物ばかり/であること。」(36字)
としてみました。もう一つ貴塾の現代語訳でまちがいがあります。
「既」を普通は(もはや、そのうちに)と訳しますが。「既」には(紛れもなく、現に)と訳さないと」正しい解釈ができないことが多々あります。
3行目の「既厭且疑」は(明らかに嫌い、疑うと)と訳すべきです。
長々と書きましたが、正しいことを伝えることが学問をした者の勤めだとの信念で講師を続けております。私の間違いを訂正していただければ幸いです。
貴重なコメントを書いてくださいまして、ありがとうございます。
すぐにご返信することが難しい内容なので、取り急ぎ御礼を申し上げます。