2013年 東大国語 第2問(古文)『吾妻鏡』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

読みやすいけれど、記述が難しめな年です。
記述練習をしたい方にオススメ。

解答例(答案例)とプチアドバイス

(一)傍線部ア・エ・オを現代語訳せよ。【各1行】

ア 上下いづれも

答案例:身分の高い者も低い者も誰もが

プチアドバイス身分を表す語は他にも「際(きわ)・程・品(しな)・品品(しなじな)・上中下(かみなかしも)」など。

 

エ くらき夜すがら降る雨

答案例:暗い夜の間中、ずっと降り続く雨

プチアドバイス:「ずっと降っている雨」と書くと存続の助動詞「たり」「り」が入っている訳になるので、「ている」は避けた方が無難です。

 

オ 御命いかがあらんことを

答案例:あなた様の御命が無事なのだろうかということを

プチアドバイス:逐語訳「御命がどうであろうかということを」だとわかりづらいですね。無事に生きているかどうかを心配していた場面なので、言い換えたいです。
※条件無しの現代語訳問題ではありますが、わかりづらいので補足した方が無難です。

 

(二)「御気色かはらせ給へば」(傍線部イ)とあるが、なぜそうなっそうなったのか、説明せよ。【1行】

(直前:「今、八幡の宝前にて我が芸をいたすに、もつとも関東の万歳を祝ふべきに、人の聞きをもはばからず、反逆の義経を慕ひ、別の曲を歌ふ事、はなはだもつて奇怪なり」とて、)

答案例:静が関東の永い繁栄を祈る場で、気にせず謀反人の義経を慕う歌を歌ったから。

プチアドバイス:解答欄は1行なので、適宜省略する必要があります。
よって、「人の聞きをもはばからず、」は省略しても減点無しかもしれません。
解答欄が大きければ、不届き・無礼などの語も入れたいものです。
※「奇怪」は不届き・けしからぬさま・ふらちだ

 

(三)「ひそかにこれを、とどめ給ふ」(傍線部ウ)とあるが、具体的には何をとどめたのか、説明せよ。【1行】

答案例:娘の政子が、当時繁栄していた平家に配流された源頼朝に逢いにいくこと。

プチアドバイス:「慕い深い関係になること・夫婦の契りを結ぶこと」などの訳を入れる人もいますが、「われらと御ちぎりあさからず」とあるので、既に契った後です。
また、傍線部直後の「しかれども」から、会いに行くのを止めているのがわかります。

 

(四)「貞女のこころざし」(傍線部カ)とは、ここではどのような心のさまをいうのか、説明せよ。【1行】

(直前:かれもし多年九郎殿に相なれしよしみをわすれ候ふ程ならば、)

答案例:長年愛し合った男が謀反人とされても、愛情を忘れず慕い続ける心のさま。

プチアドバイス:「よしみ」は〈➊親しい交わり・親交・親しみ・好意 ➋ゆかり・縁故〉。
➋で解釈すると「縁だから忘れてはいけない」という押し付けになるので、違和感があります。

 

(五)「御腹立をやめられける」(傍線部キ)とあるが、政子の話のどのような所二心が動かされたのか、説明せよ。【1行】

答案例:義経を慕う静の心情は、かつて政子が頼朝の身を案じたのと同様だという所。

プチアドバイス:「たましひを消し候ひし。そのなげきにくらべ候へば、」とあるので、「政子が頼朝を慕った」では少しずれます。無事を心配していたということを入れたいです。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2013年『吾妻鏡』現代語訳

現代語訳

 静御前は、まず歌を吟詠して言うには
   吉野山の峰の白雪を踏み分けて(山奥に)入ってしまった愛する人の足跡が恋しい。
また別の歌を謡った後、和歌を吟詠する。その歌に、
   (義経に)「静よ、静」と倭文織(しずおり)を織るように繰り返し呼んでもらえた昔を(手繰り寄せて)今に取り戻す方法があればいいのになあ。
このように歌ったので、社殿も鳴り動きそうなくらいに、身分の高い者も低い者も誰もが面白がったところに、頼朝が仰るには、「今、鶴岡八幡宮の御神前で自分の芸を奉納するにあたり、当然、鎌倉幕府の繁栄を祈らなければならない状況なのに、人が聞いているのも気にせずに、反逆者である義経を慕い、(謡うべき歌とは)違う歌を謡うこと、非常にけしからん。」と言って、御機嫌を損ないなさったところ、北条政子はお聞きになり、「怒りの感情を顔に出し過ぎなさいますな。私自身において、思い当たることがある。あなた様が以前、流人になりなさって、伊豆の国にいらっしゃったころ、『私めとあなた様の前世からの因縁は浅くない』といっても、平家が栄華を誇っていた頃だったので、父北条殿(=北条時政)も、さすがに時流を恐れなさって、内密にこれ(=逢瀬を重ねること)を止めなさる(ことがありました)。そうではあるけれども、やはり、あなた様と心を通わせて、暗い夜の間中、ずっと降り続く雨さえも気にせず、(濡れないように)まくし上げた裳裾も雨露でぐっしょり濡れ、ほんの僅かほどの隙間から、あなた様のいらっしゃる御寝室の中にこっそり入りましたが、そのあと、あなた様が石橋山の戦場に赴きなさ(ってい)る時、(私は)一人で(逢瀬の場だった)伊豆山神社に残っていて、『あなた様の御命が無事なのだろうか』ということを心配して暮らしていたので、昼間にはどれほどの時間か、夜には何度か、(わからないくらい多く)正気を失いました。その(頃の私の)嘆きと比べますと、『今の静御前の気持ちもきっと(私と同じようなつらさが)あるのだろう』と自然と思われ、気の毒です。彼女(=静御前)がもし、長年、義経と仲睦まじく過ごした関係を忘れる程度(の女性)でありますならば、貞淑な女性の愛情としてふさわしくありません。今の静御前の歌の体裁は、外には少しばかりの愛情を乗せて、内には濃霧のような憤りを含む(のを隠している)。本当に同情心を持って、無理を承知で、良さを味わって下さいませ」と、仰ると、頼朝は(政子の意見を)お聞き入れになって、一緒に御涙を(目に)うるませる様子で、御怒りをやめなさった。しばらくして、すだれの中から、卯の花色の襲の御衣を静御前に下さった。

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