「基礎が抜けていると思うので、2〜3ヶ月でしっかり固めたいと思います」の危険性

浪人生や現役生がよく口にする「基礎の徹底」「基礎固め」という言葉は、実に心地よく聞こえるものですが、その内実を見誤り分析を怠ると痛い目に遭うことがあります。

基礎とは~数学の例~

たとえば、数学を例に取ります。

小学校の九九や正負の数や四則計算の方法すらまともにわかっていない人であれば、やらねばならない「基礎」の中身は、計算手法や中学数学の典型例題だということ明らかでしょう。
それゆえに、薄手の問題集や解説本で定石を習得することが急務となります。
数学を学び直し始めた方や、極度の苦手意識を持った方の場合、初手としてとるべき教材は幸いにも意外に多くあります。

ですが、「基礎」はこれらに留まるものではありません。
立体切断や対称性に絡む定石といったレベルの基礎もあれば、入試問題を通じて初めて気付ける基礎(特に整数分野と論証)というものもあります。
よく言われるところですが、基礎とは簡単な問題という意味ではなく、すべての思考の礎をなすベースラインを意味し、現時点で欠けている「基礎」の中身も人それぞれなわけですから、画一的に●●を何周すればOKとは言えやしないのです。

それゆえに、「基礎を固めようね」「基礎ができていないね」という言葉は、一見して当を得たもののように見えて、その中身を精査せねば、頑張った割に成長を実感できないことにもなりかねません。

計算力一つをとっても、
百ます計算のようなレベルの足し算引き算で間違えるのか、
2桁以上の足し引きで間違えるのか、
典型パターンをそもそも脳内にストックしていないのか、
因数分解など典型的な計算手法の類題演習量が足りないことにより反射的に計算できない不慣れの問題なのか、
独特な計算方法を取っているがゆえにミスが誘発されているのか、
式の過程をぐちゃぐちゃに書いていることでミスが誘発されているのかなど、
精査してみると、その人に強化が必要な計算力の「中身」にも個性があることに気付かされます。

それゆえに、生徒がこれまで間違えてきた問題や答案用紙を100問分くらいかき集めて、ミスの元凶を分析させることから始めてようやく計算力強化のプランが出来上がっていくのです。

ふわっと・「とりあえず」は危険

わかりやすい例を挙げましょう。
腹が痛いと言って病院に行ったなら、MRIやCTや血液検査や触診などから細かく原因を精査するはずです。
食べ過ぎが原因かもしれないし、腹膜炎を起こしているかもしれない。ガンの可能性もあります。
それぞれにあった治療法があるわけです。
何でも治るような腹痛の万能薬なんてものはありません。

当たり前の話でありますが、なぜか勉強のことになると、「計算力を身につけたいと思います」「基礎固めをしたいと思います」とふわっとしたことを言う人が多くいます。これは教師にも言えることです。

こうしたことから、「基礎固めをしたい」と口にした生徒には、「姿勢はとても素晴らしい!でも、どのように自己分析して、何が足りないと思っているのか教えておくれ」と声がけをするようにしています。

すると、8〜9割の人は「とりあえず、青チャートを何周もしたいと思います。とりあえず英文法の本を最初から読み直したいと思います。とりあえず授業の復習をします」と返答してきます。

この「とりあえず」が恐ろしいものではあるのですが、どれくらいの期間でやるつもりかと問うと、春先だと「2〜3ヶ月かけてじっくりと」という回答が多い。
受験直前期だと「3〜7日くらいで」という回答が多くなります。

ですが、もし2〜3ヶ月もかけて自分に必要なエッセンスを補うことができなかったら、夏模試の結果にショックを受けて志望校を変更することにもなるでしょう。
敬天塾の「合格の呼吸」シリーズでも述べる通り、来週入試があると思って準備する心構えが大事なのです。
夏以降は、残り時間を気にして冷静に勉強できない人が続出します。
だからこそ、最大攻勢をかけるなら春夏だと私は考えます。

(編集部注:「合格の呼吸」は4月以降に毎月10日に公開される記事のシリーズです。)
全集中 「合格の呼吸」壱ノ型 〜 覚悟 〜
※4/10公開予定

また、仮に青チャートやフォーカスゴールドをまわすにしても、ただ、漫然と例題を解いけば良いわけではありません。
弊塾塾長がいうレシピ化という視点、換言すれば数学ができる人が無意識にやっている情報整理を「意識的に」行わねば、初見の問題に対応する力は身に付きません。
(編集部注:「レシピ化」については映像授業【東大文系数学】で説明しております)

見たことのある問題だと解けるけど、少し捻られると解けなくなるという経験を1度でもしたことのある受験生は、レシピ化の視点が欠如している可能性が高いのです。
せっかく、典型分野を網羅した分厚い参考書をやり抜くと決意したならば、その努力に見合う結果が伴うよう工夫と準備をしたいところです。
結果が伴わない努力は、受験のモチベーションを大きく下げることにもなりかねません。
「それはやる気がなかったからだ!」と怒鳴る方がいらっしゃりますが、概して戦略の欠如が元凶となっているものです。

基礎とは~英語の例~

英語で「基礎が抜けているから復習しようと思います」と仰る方も非常に多いですが、数学と同様に注意が必要です。
まず大切なのは、何を以て基礎が抜けていると判断したのかです。
主なところでは

●単語・熟語が抜けている
●英文法が抜けている
●長文がうまく精読OR速読できない

あたりを原因として挙げられる方が多いように思います。

ですが、これでは分析したことにはなりません
たとえば、長文が読めないという場合、

●中学レベルの英文法がよくわかっていないから一文一文を把握することすら困難なのか
●単語や熟語の知識が抜けているから読めないのか(本当にその単語がわからなければ文章に大意を掴めなかったのか)
●初見の長文に対する読解スタミナが付いていないだけなのか(普段、わからない単語を見かけるたびに辞書で意味を調べる人に多い印象です)
●見慣れぬテーマを前に冷静な思考が妨げられたのか(たとえば、原子力発電という言葉を聞いたことが一度もない人が、原発賛成か反対かを問う文章を読んでもよく理解できません)
●制限時間内で解けなかっただけで時間無制限なら読破できたのか
●長文読解以前に、英語に対して極度のアレルギー意識やトラウマ感情を抱いてはいないか(幼児英語教育を受けられた方や、感受性の高い方に見受けられます)

といったように様々な原因が観念されます。
このあたりを精緻に分析せずして、「基礎を復習」するというパワーワードだけで押し切っても、「かけた時間の割に学力が伸びない→自分には英語の才能がない」という短絡的な思い込みの沼にハマることになってしまうのです。

そこで、多くの受験生の指導をしてきた経験を活かし、いくつかの補強パターンを本稿でご案内したいと思います。

① 英文法の知識が抜けていると自己判断している場合

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