2017年 東大国語 第2問(古文)『源氏物語』(真木柱)解答(答案例)と現代語訳

はじめに

主語把握が難しいことで有名な『源氏物語』。

この年の問題は主語把握も記述も難しく、難易度「難」です。

解答例(答案例)とプチアドバイス

(一)傍線部ア・イ・オを現代語訳せよ。【各1行】

ア おろかならぬことなれど

答案例:いい加減ではないものであるけれども、

プチアドバイス宿世は現代人の感覚だと「宿命・運命」くらいに考えると、コロケーション(繋がりの適切さ)がわかりやすいかと思います。

 

イ いかでかは聞こゆべからむ

答案例:どうして申し上げることができるだろうか、いや、できない。

プチアドバイス:ここでの「べし」は「~できる(可能)・~のがよい(適当)・~はず・べき(当然)」の訳が可能でしょう。

 

オ 人をしのばざらめや

答案例:あなたを懐かしく思い出さないだろうか、いや懐かしく思い出す。

プチアドバイス:この設問は、品詞分解した際に存在しない要素を入れてしまっている受験生が多いです。

誤答例)懐かしく思い出さずにいられるでしょうか、いや、思い出す。
※自発の「る・らる」があるかのような訳。
 例「偲ばざらめや」
※漢文の二重否定のような訳は、古文では使わない方が無難です。

誤答例)懐かしく思い出してしまう
※強意の「つ・ぬ」があるかのような訳。
 例「偲ばざりめや」

 

(二)「げにいかでかは対面もあらむとあはれなり」(傍線部ウ)とは誰のどのような気持ちか、説明せよ。【1行】

答案例:玉鬘の、実父ではない光源氏とは本当にもう会う機会はないだろうと悲しむ気持ち。

プチアドバイス:説明問題ではまず傍線部を現代語訳して、「誰が」「誰を」の補足を考えます。その次に、「なぜ?」と理由を加えると良い場合もあります。今回は「実父でない」の部分が、対面できない理由です。リード文を読み込むか、『源氏物語』のあらすじを知っていればわかります。

 

(三)「いかなりけることならむ」(傍線部エ)とは、誰が何についてどのように思っているのか、説明せよ。【1行】

答案例:右近が玉鬘と光源氏の仲について、恋仲だったのではと不審に思っている。

プチアドバイス:主語について、直前に「右近は」と主語が明記されており、「前文と同じだから省略」のパターンです。
また、文末の「思ひける」敬語無しですね。
さらに、「けり」は直接過去ではなく、間接過去であることからも、主語は右近です。

 

(四)「ゐやゐやしく書きなしたまへり」 (傍線部カ) とあるが、誰がどのようにしたのか、説明せよ。【1行】

答案例:玉鬘が光源氏への返事を、恋文に見えないように、ことさら他人行儀に書いた。

プチアドバイス:補助動詞「なす」のもぜひ解答に入れたいです。
補助動詞「なす」は多くは、「ことさら~(する)」「意識して~(する)」。

形容詞・形容動詞+動詞+補助動詞「なす」の場合、副詞的に訳すと良いです。
例)池の心広くしなして、めでたく造りののしる。『源氏物語』
訳:池の中心をことさら広くして、大騒ぎして立派に造営する。

 

(五)「好いたる人」(傍線部キ)とは、ここではどういう人のことか、説明せよ。【1行】

答案例:恋をしてはいけない相手への恋に心を乱す、光源氏のような好色な人。

プチアドバイス:朧月夜と玉鬘の共通点を抽象化しましょう。
たとえば「養女」だけだと、朧月夜を無視した解答になってしまいます。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2017年『源氏物語』現代語訳

現代語訳

 二月にもなった。光源氏は、それにしても(髭黒が玉髪を、光源氏に無断で自分の邸に引き取ったこと)は冷淡な行動であるなぁ。本当にこのように思い切って(玉鬘を奪う)とは思わないで油断させられた悔しさを、体裁が悪いほどに、気にかからない時は全く無く、(玉鬘を)自然と恋しく思い出しなさる。「前世からの因縁などというものはいい加減でないものではあるけれども、私の(玉鬘に対する)過剰な恋心のせいで、このように誰のせいでもない物思いをするよ」と、寝ても覚めても(玉鬘の)面影が見えなさる。(玉鬘が)髭黒のような、風流で陽気な様子もない人に連れ添い続けるような状況なので、(玉鬘への)ちょっとした冗談(の手紙を送るの)も遠慮され、つまらなくお思いになって、我慢していらっしゃるけれども、雨が激しく降って大変のどかなころ、このような所在無さも紛れる(光源氏が立ち寄っていた玉鬘の居所であった)場所にいらっしゃって、語り合いなさっていた様子などが、大変恋しいので、(玉鬘に)お手紙を差し上げなさる。右近の元にこっそりと(手紙を)お送りになるけれども、一方では(右近が不審に)思うのではとお思いになるので、何を書こうとしても続けることが出来なさらないので、ただ思わせぶりの内容が書いてあった。

「雲が低く垂れて辺りが暗くなり穏やかな頃の春雨を眺めて、実家の人(である私)をどのように偲んでいますか
所在なさに加えても、残念に思い出されてしまうことが多くございますが、どうして(あなたにそれをお話し)申し上げることができましょうか。いえ、できません。」などと書いてある。

 (髭黒が)不在の折にこっそりと(右近が玉鬘に)見せ申し上げると、(玉鬘は)泣いて、自分の心にも時間が経つにつれて自然と思い出されなさった(光源氏の)お姿であるが、本当に、「恋しいなぁ、どうにかしてお目にかかろう」などとは仰ることができない(義理の)親なので、「なるほど、どうして対面することもあるだろうか、いや、無い。」としみじみと寂しい。時々、煩わしかった(光源氏の恋心を寄せる)ご様子を、不愉快だと思い申し上げたことなどは、この人(=右近)にも知らせなさらなかったことなので、(玉鬘は自分の)心だけで内緒に悩み続けるけれども、右近はなんとなく様子を察していた。「(玉鬘と光源氏は)どのような(男女の仲)だったのだろう」とは、今でも理解しがたく不審に思っていた。(玉鬘から光源氏への)お返事は「差し上げるのも気がひけるけれども、(お返事をしなかったら光源氏は)気がかりになるかしら」と思って書きなさる。「長雨が降る軒の雫で袖が濡れて、(また、あなたを思っても涙で袖が濡れて、)少しの間もあなたのことを偲ばないことがありましょうか。いや、ありません。時間が経った今頃は、本当に格別な所在なさも強まりました。かしこ」と(見た人に恋文だと思われないように)敢えて他人行儀に書きなさった。

 (光源氏は手紙を)広げて、涙がこぼれ落ちそうに思われるけれども、「人が見たら妙に思うだろう」と平然と振舞っていらっしゃるけれども、胸がいっぱいな気がして、あの昔の、当時の尚侍の君であった朧月夜を、朱雀院の母后である弘徽殿大后が強引に光源氏に逢えないようになさった時のことなどを思い出しなさるけれども、目の前のことだからだろうか、(玉鬘との)これは世間並みでは無いほどしみじみと悲しかった。「好色な人は、自分のせいで安心できそうにないことをするのだなぁ、今は何によって心も乱すだろうか(いや、玉鬘以外のことでは心を乱さない)、相応しくない恋の相手であるなぁ」と、心を冷ましかねなさって、御琴を奏でて、ことさら親しげに弾きなさった(玉鬘の)琴の音を思い出しなさる。

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