2019年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説

世界の国際貿易と国際旅行者に関する出題でした。
見慣れない図色々な指標の説明を書いて受験生の度肝を抜こうとする、東大ではあるあるの珍しい(矛盾してますが笑)出題形式でしたがいかがでしたか?

設問A

1Aは国際貿易に絡めて環境問題や各国の特徴について考えさせる問題でした。窒素の種類が何の生産過程で多く排出されるのかに注意しながら解くことが大事だったと思います。

設問(1)

窒素の過剰な排出がもたらす悪影響、すなわち環境問題について答える問題でした。
これは様々な解答が成り立つと思います。

窒素酸化物によって酸性雨が引き起こされるということは、中学校でも習うと思うので書きやすかったのではないかと思います。
偏西風に乗って西欧から窒素酸化物が流れてきて東欧で酸性雨の深刻な被害が起きているということを覚えていればヒントになったでしょう。

また、窒素酸化物が大気汚染や酸性雨の原因となるだけでなく、水中の溶存窒素は水域の富栄養化や赤潮を引き起こし、飲料水質を劣化させ、一酸化二窒素は地球温暖化効果ガスやオゾン層の破壊物質としてもその影響が懸念されています。

以上のように多くの環境問題が引き起こされる可能性がありますので、しっかり得点したい問題でしたね。

なお、窒素は三大肥料(他にリン、カリウム)の1つです。窒素(を使った化合物)の用途としては、火薬、肥料、染料、医薬品などが挙げられ多岐に渡りますし、日常生活には欠かせないものとなっています。

設問(2)

図2-1に表されてるア~エの国々が、アメリカ合衆国、中国、日本、ロシアのどれに該当するのかを答える問題です。

まずは、図2-1に使われてるそれぞれの窒素が排出される要因を問題文から読み取って整理しましょう。

・水溶性窒素・・・農産物、軽工業製品の生産過程
・亜酸化窒素、アンモニア・・・農産物の生産過程
・窒素酸化物・・・化石燃料の生産過程、火力発電

となり、3/4は農産物に関連する窒素なので、本問では農業に関する視点が大事になりそうです。

つぎに、図2-1を見ると、見慣れない図が登場。「輸入品/輸出品の生産工程での輩出が多い」とややこしい言い方をしていますが、簡単に言いかえて、「窒素を輸入/輸出している量」くらいに理解すればよいでしょう。例えば、上半分は窒素をたくさん輸入している国で、下半分はたくさん輸出している国、といった具合です。

さて、(ア)に注目すると、他の国と比べブッチギリの輸入量です。そして水溶性窒素とアンモニアの割合が非常に高いことがわかります。それならば人口の多い中国か…?と考えてしまいそうですが、中国の農産物輸出量は世界有数ですから違います。正解としては(ア)には食料自給率が低く、食料の輸入大国である日本が入るのですが、これで決めるのが不安な人のために(イ)や(ウ)も見てみましょう。

(イ)(ウ)のグラフでは、一部左側に突き出ている項目があります。調べてみると、(イ)は水溶性窒素(すなわち農産物や軽工業)で、(ウ)は窒素酸化物(すなわち化石燃料や火力発電)です。
つまり、(イ)は農産物を輸出している国で、(ウ)は化石燃料を輸出している国です。

(イ)はアメリカです。農産物の輸出量はそこそこ多いが化石燃料の輸入量もとても多いという特徴を表しています。また、(ウ)は、石油や天然ガスの輸出量がとても多いロシアが(ウ)に該当するでしょう。

残る中国が(エ)となりますが、なるほど、石炭や農産物の生産が盛んな中国は水溶性窒素や窒素酸化物の排出量は多くなりそうです。

設問(3)

簡単に言えば、なぜオーストラリアが他の先進国と比べて輸出量が多く、輸入量が少ないのかということを聞いていますね。

オーストラリアの主要な輸出品は小麦などの農産物や、鉄鉱石や石炭、金などの鉱産物が大部分を占めていることは覚えていて欲しい知識です。
人口もそれほど多くなく、広大な大地が広がるオーストラリアでは国内市場が小さく、都市同士が離れているので、豊富な資源を使って製品を製造しても輸送費がかかります。作っても売れないという、構造的なデメリットがあります。
だから、鉱産資源や農産物を広大な土地を利用して産出し、他国へ輸出するという方式が採用されます。

答案構成としては、人口が多くないため、輸入量は少ないが、小麦などの農産物や化石燃料などの鉱産資源の輸出量が多いと書くとわかりやすいと思います。

設問(4)

これはとてもまとめづらい問題だと思いました。
リード文や問題文からも様々な情報を整理する必要があるため、気合いを入れて考えましょう。

まず、問題文では先進国を中心に窒素排出量の規制が始まっているが、世界全体での窒素排出量を削減するには国際的に、つまり全体で規制するべきだと書かれており、その理由を問われていますね。

では、先進国以外の世界の国々とは何かと考えると、先進国とはもともと発展途上国と対比的に使われるような言葉ですので、残りの国々とは発展途上国であり、その国々でも窒素排出量が規制される必要があるということになります。

つぎに、設問Aのリード文では「各国で排出される窒素には、国内の経済活動で排出される分だけでなく、国際貿易に関係して排出される分もある」とあります。
加えて、図2-1では排出される窒素を輸出品と輸入品のそれぞれの生産過程で排出される窒素の2つに分類していて、
どちらからも輸出国と輸入国の違いを考えるように誘導されているよう。
また、輸出入の関係で見ていくと、輸入品での窒素排出量が多い国々は大抵が先進国であり、輸出品での窒素排出量が多い国々は大抵が発展途上国となっています。

以上のことを踏まえると、先進国は自国内での窒素排出量を規制しても、発展途上国から輸入を続けざるを得ず、自国での窒素排出を発展途上国に肩代わりさせているだけ。結局は世界全体で考えた時に窒素排出の総量が期待通りには減らないということになります。

では、発展途上国も含めて規制をするのかというと、とても難しいことです。
誤解を恐れずいうと、経済発展をするには、環境を破壊すればよいのです。窒素も出し放題、二酸化炭素も出し放題。森林も伐採して、化石燃料を燃やしまくれば、経済発展がしやすくなります。
先進国は高度経済成長を遂げてきた段階で、利益重視(すなわち、環境軽視)の工業活動を行ってきました。しかし、これから発展しようとする途上国には、環境保全を義務付けて、工業活動を規制しながら経済発展をさせるというのは、都合の良い話です。
先進国、途上国双方が納得でき、かつ十分に環境保護できるルール作りとなると、至難の業でしょう。

話が逸れましたが、答案構成としては、途上国から先進国への輸出の過程で窒素が多く排出されることや、先進国で窒素排出量を規制しても全体的には変わらないことなどを述べて、途上国での規制が色々な面で難しいからこそ国際的に協力する必要があると書けると良いでしょう。
字数がカツカツになると思うので、簡潔に分かりやすく書けるように心がけてくださいね。

答案比較

設問(3)

Aさん
小麦、肉類、羊毛などの農産物や石炭、天然ガスなどの化石燃料の生産が国内需要を上回っていて多く輸出されているから。

Bさん
広大な農地で作られる穀物などの農産物を多く輸出する一方で、食料自給率が高く農産物の輸入量が少ないため。

Aさんから見ていきます。
農産物や化石燃料が多く輸出されていることを書けているのは良かったのですが、やはり輸入量が少ないということにも言及して欲しかったです。「国内需要を上回っている」というワードは良いと思います。

つぎに、Bさんは簡潔な論理展開で読みやすいと思いました。
農作物を中心に書かれていて、少し物足りなさは感じますが、図2-1を見ると化石燃料に関連する窒素酸化物の量はそこまで多くないので、農産物だけでも十分だとは思います。

設問(4)

Aさん
国家間で国際分業を行い貿易が行われることで製造や運搬の過程で窒素が排出されるため、物資を売る国買う国どちらも含めた包括的な対策がなされなければ改善されないので、国際的に取り組まれている。

Bさん
先進国を中心に窒素排出量を規制しても、窒素排出量の多い農畜産物や化石燃料の輸出に経済が依存している発展途上国は窒素排出量を削減することに対して積極的でないから。

どちらも貿易に関連付けることに気づけていて良かったと思います。

Aさんは視点は良かったと思いますが冗長な文になってしまって読みにくさがある答案になっています。

たとえば、最初の「国家間で国際分業を行い」は、意味が重複するため「国際分業を行い」で十分でしょう。
また、「国際分業を行い貿易が行われることで」とありますが、能動態と受動態が一文で織り交ざってしまって読みにくくなっているので、「国際分業に基づく貿易 」というように修飾関係を明確にすると良いでしょう。

加えて、運搬の過程での窒素排出についても言及されていますが、今回の問題では農産物や軽工業製品、化石燃料などの生産と、火力発電に関連する窒素排出量を問われているので、運搬については優先順位は低いとみて良いのではないでしょうか。

つぎに、「物資を売る国買う国」はなんとなく可愛くて私は好きですが(笑)、口語表現は控えるべきですので、普通に「輸出入国」くらいで表しましょう。

最後に、本問は理由を問われていますので、「国際的に取り組まれている」と文を締めくくってしまうと問いに答えられていないカタチになってしまうので、「から」または「ため」で終わりたいです。

Bさんの答案は簡潔にまとまっているとても良い答案だと思いましたので、掲載しました。
参考にしていただけたらと思います。

設問B

外国を短期間訪問する国際旅行者に関連して、設問(1)ではヨーロッパの、設問(2)ではアジアに関する旅行者が増えた背景を答えさせる問題でした。

各国の特徴を捉えていれば解きやすかったかと思います。

設問(1)

人口で解く

観光客統計データを知っていれば簡単な問題でしたが、そこまでのデータを知らずとも、実は各国のだいたいの人口を知っていれば解ける問題でもありました。

具体的には、外国人旅行者受け入れ数と、自国人口100人あたり外国人旅行者受け入れ数、つまり国内人口と外国人旅行者数の比率がわかっているため、人口をxとすると、x=(外国人旅行者受け入れ数)×100/(自国人口100人あたり外国人旅行者受け入れ数)として人口を割り出せます。

この方法を使うと、(ア)は6450万人、(イ)は3億2291万人、(ウ)は4597万人となって、それぞれフランス、アメリカ合衆国、スペインの人口とだいたい一致しますよね。

一人当たりGNIで解く

人口以外にも、一人当たりGNIで解くこともできます。
一人当たりGNIとは、文字通りGNIをその国の人口で割った値です。GNIとは国民総所得(Gross National Income)のことで、国内総生産GDP(Gross Domestic Products)とは厳密には違う統計データなのですが、高校生の地理レベルでは区別する必要はないでしょう。そこで、あえてGDP=GNIだとみなします。(強引な近似ですが、ここでは見逃してください)
つまり、一人当たりGNIとは、GDPを人口で割った値としてしまいます。

GDPとは、国内の経済取引の総計のような指標ですから、人口で割ることで「人口一人あたりが一年間に支払う金額」とみなせます。要するに、その国の国民の年収とか、物価、生活水準などを比較するのに便利な指標になります。

さて、これを踏まえて問題に与えられた表を見てみましょう。
ここまで説明しておいてなんですが、今回問題に与えられた表の一番右は「人口1人あたり国民総所得」ですから、一人あたりGDPです。一人当たりGNIを使うことが多いのですが、今回は一人当たりGDPだとのことです。もちろん高校生レベルで区別しなくてよいので、気にせず問題を解きましょう。
なお、一人当たりGNIの実際の数字は、検索窓で「一人当たりGNI」と入力すればすぐ出てきますので、ご覧ください。

さて、数字を確認すると「イ>ア>ウ」の順になっていますね。アメリカ、スペイン、ドイツ、フランス、ロシアを一人当たりGNIの高い順に並べてみると、アメリカ>ドイツ>フランス>スペイン>ロシア となります。

あとは、ロシアへの旅行者は少ないだろうとか、ヨーロッパ内では移動が自由だから旅行者が多いだろうとか、ヨーロッパの中でもフランスやスペインなど比較的暖かいところへ旅行に行く人が多いなどの知識を組み合わせれば当たると思います。

人口やGDP、一人あたりGNIなど、問題によく出る数値は客観式問題では必須と言って良いほど使い勝手がいいのでぜひ覚えるようにしましょう

設問(2)

フランスとスペインの観光客が多い自然的・社会的条件を答える問題です。
解説が前後しますが、(2)をヒントに(1)を解くこともできますね。(フランスやスペインが旅行者受け入れが多いことを知っていれば)

自然的条件はまず地中海性気候(Cs)は外せません。夏は乾燥する、つまり晴天が多くて旅行するにはピッタリの気候ですし、ヨーロッパ南部に位置する両国は冬でも温暖です。

社会的条件としては、地中海沿岸の海岸保養地や、歴史的・文化的遺産が多いことが挙げられると思います。フランスのニースやスペインのコスタ・デル・ソルは有名ですね。
また、EU加盟国間ではシェンゲン協定によって国境通過が容易であることやユーロに通貨統合が行われてることで、ヨーロッパ地域からの旅行者が多いことも挙げられるでしょう。

地理的条件と社会的条件をわかりやすくまとめるようにしましょう。

設問(3)

中国とタイからの訪日旅行者が最近とくに増加している共通の理由について「所得階層」「政策」「航空」「入国管理」の語句を使って説明する問題でした。指定語句が多かったこともあって、わりと書きやすい問題だったのではないでしょうか。

大きくわけて、両国での変化日本での変化で考えるとわかりやすいと思います。

まず、両国の変化としては、近年も経済成長が著しい点が挙げられます。経済成長すれば、海外旅行に行けるほど豊かな所得階層の人口も増えるでしょう。

また、LCC(格安航空会社:Low-cost carrier)が多数就航したことで大手航空会社も運賃引き下げに取り組み始め、全体的に海外渡航費が下がりました。旅費が減ったのに所得は上がった両国の人々は更に海外旅行がしやすくなったと言えるでしょう。

つぎに、日本について考えると、日本では2003年以降「ビジット・ジャパン・キャンペーン」なる観光客誘致政策を行っており、キャンペーン内容としては旅行会社、メディアへのアピール、海外旅行博への出展、外国人向けパンフレットの作成などです。
東京などの都会に行くと何ヶ国語もの看板や標識が見れますので、都会に住んでいる受験生はイメージしやすかったかもしれませんね。

また、2012年からは戦略的なビザ要件の免除と緩和を実施していて、マレーシアやタイなどのアジア諸国を中心に日本を訪れやすい環境にしています。2015年以降は中国からの渡航者に関してもビザ要件を緩和して訪日中国人が急増する一因となりました。

日本の政策に関しては知識が不足する受験生も多かったと思いますが、中国とタイでの海外旅行者が増える要因と日本へ来やすくなった要因をそれぞれ分けて考えられたら推論でも十分答案は書けたと思います。

「所得階層」などのキーワードから旅行者が増えるなら豊かになる人が増えたのだろうと考えて経済成長を、「航空」からLCCなどの格安航空の知識を連想できなかったとしても、旅費が安くなるということを経済的な観点で問題を見れていたら推論出来たかもしれません。
旅行によく行く人は国内線でも格安航空路線は増えているので気づきやすかったでしょう。

また、日本の変化としては「政策」や「入国管理」から日本に来やすくなるような政策や入国管理を緩くするということは来日旅行者が増えたということから推論できて欲しいですね。

答案比較

設問(2)

Aさん
地中海に面した温暖な国土が、冷涼な西欧の国にとっての旅行先となり、EU域内では入国審査が要らないことが旅行者の増加に拍車をかけている。

Bさん
一年中温暖で雨季と乾季が明瞭な地中海性気候が分布し、地中海沿岸のリゾート地に近隣のヨーロッパ諸国から旅行者が多いため。

Aさんは、地理的条件と社会的条件を上手く書けていますね。

「冷涼な西欧の国」と限定する必要はないので、単に「欧州の国」で良いと思います。
海岸保養地や歴史的・文化的建造物が多数存在しているということを書けるとより加点要素が多い答案にはなったと思います。

Bさんは書こうとしていることは良いのですが少し言葉が足りなかったかと思います。

地中海性気候の説明をするのは良いのですが「雨季と乾季が明瞭」だからなぜ旅行者が多いのかが不明確です。「晴天が多い」ということまで書いたほうが良いでしょう。
リゾート地にヨーロッパ諸国から旅行者が多いというのも移動が自由であることなどを盛り込めると加点しやすいと思います。

設問(3)

Aさん
両国の経済発展で旅行に行く余裕のある所得階層の人口が増え、また格安航空の普及で渡航費が安くなったほか、日本が誘致政策を進めて観光ビザの発給を推進するなど入国管理が緩和されたため。

Bさん
経済成長によって高所得階層が増え、またLCCなどの発展によって海外渡航費用が安くなった。日本でも、ビザ発給要件などの入国管理を緩和するなど、観光客誘致政策が推進されたため。

Aさんの答案はとても分かりやすかったですが、細かく指摘すると、「渡航費」を「海外渡航費」として、「誘致政策」を「観光客誘致政策」と、より具体的な指摘にすると良いでしょう。

Bさんの答案は内容が詰まっていて良かったのですが、最初の「高所得階層が増え」が(よく読むと)おかしいです。増えるのは「階層」ではなく「所得」です。「階層が増える」としてしまうと、5段階が6段階になり、7段階になり・・・という意味になってしまいます。Aさんのように「高所得階層の人口が増え」と人口にフォーカスを当てた方が良いかと思います。

また、指定語句である「航空」を使わずにLCCの説明をしていますが、指定語句は必ず使いましょう。

最後に、「ビザ発給要件などの入国管理を緩和する」というのは日本語として少し不自然に感じました。
ビザ発給要件=入国管理ではないので、入国管理の条件などと言うか、「入国管理に関しても、ビザ発給要件が緩和され」などと主語を変えても書きやすかったでしょう。

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